上野樹里×リリー・フランキー×藤竜也『お父さんと伊藤さん』を語る|INTERVIEW
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2016年10月11日

上野樹里×リリー・フランキー×藤竜也『お父さんと伊藤さん』を語る|INTERVIEW

上野樹里 × リリー・フランキー × 藤竜也

映画『お父さんと伊藤さん』について語る(1)

20歳年上の彼氏「伊藤さん」(リリー・フランキー)と同棲中の彩(上野樹里)のアパートに、ある日突然「お父さん」(藤竜也)が転がりこんできた。気難しく、口うるさい「お父さん」にヤキモキしながらも、絶妙なバランスで二人の間を仲介する伊藤さんに支えられながら、3人での新たな生活に向き合っていく彩。ギスギスした空気を日々の食事で緩和しながら、現代の家族の在り方が描かれていく。タナダユキ監督作品『お父さんと伊藤さん』は、10/8(土)より新宿バルト9、渋谷シネパレスにてロードショー。

Photographs by TANAKA TsutomuText by ASAKURA Nao

現代と昔、家族の在り方について

――現代の家族の物語”として演じられてみて、新たに家族関係として感じられたことと、今までの家族関係と変わっていないと感じられたところはありますか?

上野樹里(以下、上野) 昔から変わらないものは、たぶん“釜の飯を一緒に食べる”という家族風景。会話が全くなくて間が持たなくても、同じ炊飯ジャーからご飯をついでお味噌汁をお玉で入れて、洗い物は彩が全部してっていう。伊藤さんとは籍を入れているわけでもなく、まだ「お父さん」って呼べる間柄でないけど、そうやってなんとなく家族みたいになっていく。
リリー:彩は、家事を結構やっている方だよね。今の同棲しているカップルは、もっとやっていなそう。

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揚げ物とか、ああいうことを抵抗なくやっているところが、やっぱり彩は「お父さん」の子なんだなって感じますね。

――逆に、新たな家族関係の部分はどうですか?

上野 お父さんを世話をする余裕がない。働いているし、結婚もままならないくらい、自分のことでいっぱいいっぱいで。家族がもっとたくさんいれば誰かが常に家にいられるんだけど、ペットすら飼えないゆとりのなさというか、お父さんが追いやられている感とかですかね。
リリー:僕は歳の離れた人と付き合うこともありますけど、この映画に出演させてもらって、自分が今までその方たちのお父さんにこう思われてたんだなって(笑)。昔だったら歳が離れてるカップルはたくさんいただろうけど、男がそんな歳でちゃんとしていないってあり得なかっただろうしね。

藤竜也(以下、藤) 彩を中心にして考えると、年老いたお父さんが突然転がりこんできて、一緒に暮らすことになる。そういう時間帯っていうのは、彩の人間力が問われる。戸惑いと迷惑感とでいっぱいなんだけど、それが「伊藤さん」という第3者の“迷ガイド”によって揺れながらきちんと対応できたから、お父さんはきっと数ヶ月間年老いた自分を見つめてくれた彩に感謝できたと思う。これは一種のハードボイルドだよね。そのハードボイルド要素がこのドラマを上質なエンターテイメントにしているんじゃないかな。

リリー・フランキー(以下、リリー) まぁ彩くらいの歳になると、自活できるようになったと思った瞬間、親の面倒をみなくちゃいけなくなったりする。現代的には、こういう状況でも起きるっていうね。

“時代”っていものをこの映画は表している。お父さんの世代でいうと、家族にも様々なテンプレートがあったけど、今はそれが崩れて、変わってきている。だからそういうことから、お父さんの孤独というか、居場所のなさが話としてはうまく描けていると思うんだよね。僕も日々老いと向き合ってるから、共感できた部分があって演りやすかったね。リリーさんと樹里さんともなんというか非常に演りやすく、楽しかった。

“圧力鍋”のように、じわじわと美味しくなる演出

――上野さんは今まで明るいイメージの役が多かった印象がありますが、今回少し落ち着いた性格の彩を演じられてみて、いかがでしたか?

上野 あまり意識していないです。コミカルに演ろうとも、シリアスに演ろうとも思ってないですし…そのさじ加減が絶妙な作業でした。やはり映画って長いですし、大きなスクリーンで観てもらうので、観ることで人の気持ちを重くしたくない。かといって滑稽にしすぎてコントみたいになるのも違う。クスっと笑って心がほぐれて、でも気づかされたり、それぞれの立場でグッとくるポイントが変わったりとか、不思議な魅力のある映画に結果なったのですが、演っている最中は演り甲斐がないわけではないんだけど、演り応えがないまま終わる(笑)。ストーリーとしての起伏で安心できる部分がないんですよね。ビッグイベントが少なくて、お客さんをどこで落としてどう運んでいくのか、観るまでわからなかったのでとても不安でした。でも、今までの自分の映画の中で一番試写会で楽しめた映画でした。

――それは、観る側になって意外な発見があったからですか?

上野 それぞれが自分のリアルな家族を投影しやすい映画だったのかなって。それぞれ内側から観る家族の目っていうのがあると思う。そういう意味で、こういう作品を撮り込むのが楽しかったし、観るのも怖かったけど、すごく人間性がむき出しになっていて、役がすごくいい味が出ていて。例えると、タナダさんの演出って細かく味付けをする料理でなくて、圧力鍋にボーンって材料を入れて、そのまま蓋をして美味しくなるのを待つ、みたいな感じなんですよ。こっちは不安になるんですよね。壁が、限界がないのでどういうふうに作ったらいいかわからない。でもきっともう脚本がある時点で大それたことはできなくて、どれだけやっても彩に収まるんですよ。そういった演出のおかげで、豊かに撮影できたのかなって思います。

――リリーさんはどうですか?伊藤さんのキャラは、ご自分と重なる部分はありますか?

リリー 重なりますよね。“よくわからない年下と付き合ってるおじさん”っていうのが俺の常なんでしょうね(笑)。で、そういう人と付き合う彩みたいな人は、結婚なんてどうでもいいみたいなことをいう。普通、彩くらいの歳の人だったら「結婚とかどうするの」とか言ったり、社会的なルールの中で生きている人が多いでしょう。そういう姿勢でいるお父さんが言ってることが一般的には真っ当なんだろだけど、果たしてそれが子どもの幸せっていえるのかなぁとか。

――そういう「お父さん」にわざとらしくなく歩み寄っていき、それとなく仲良くなるのが伊藤さんのキャラの味ですよね。

リリー それは藤さんだからやりやすく、自然にできましたね。お父さんは几帳面でとっつきにくい性格だけど、どこかかわいげがある人とうか。「伊藤さん」が入りやすい間口を作ってくれた。あとは、監督のタナダさんがそういう空気感を作ってくれたかな。

――藤さんはいかがですか? ご自身の「お父さん」としての姿と比べられてみて。

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全然違いますね。僕は順応する方だから。子どもに口うるさくもいわないし。全く正反対です。

リリー でも、藤さんとお父さん性格的に似ているところありますよね。かわいがるところとか(笑)。

上野 (笑)。

話飛ぶけど、台詞の中で一番応えたのは、長野の実家に彩と息子と、伊藤さんとお父さんで行って、リリーさんが「駄目な人たちだなぁ、あなたたちは」って言われたとき。あれは本当にそうだと思って、ものすごーくしょげたね(笑)。

リリー あれ、言うの抵抗あったんですよね。伊藤さん、唐突に言うじゃないですか、はっきりと。

あれは素晴らしい台詞だったね。

Page02. 食卓を囲む姿が、変わらず家族の幸せの象徴

上野樹里 × リリー・フランキー × 藤竜也

映画『お父さんと伊藤さん』について語る(2)

食卓を囲む姿が、変わらず家族の幸せの象徴

――映画の中では3世代という感じで描かれていたと思うのですが、共演されてみて、ジェネレーションギャップなどは感じられませんでしたか?

上野 ないですね。人それぞれ同じ歳でも全然違う人っていると思いますし。違わないと映画が成立しない。あんなに狭いダイニングルームでシーンが小宇宙のように見えるのも、みんなそれぞれ違うからだろうし。でも違うってことを意識しているわけでもない。

リリー でも、食卓でギクシャクしているんだけど3人でご飯食べて、って映画観たあと、ちょっと幸福感があった。

上野 高級なレストランでご飯食べるよりも、一人よりもふたり以上で、家で食べるご飯が一番美味しいと思うので、ああいうシーンは私もいいなと思いますね。

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――藤さんはどうですか?リリーさんや樹里さんと世代のギャップは感じませんでしたか?

ないですね。そんな深い話もしないし(笑)。季節的にも良い時期で、ロケ地で3人で椅子を並べて待っている間、周りが畑で、青い空なんか見ながらときどき誰かが話たりして。そういう時間の幸せ感っていうのがありましたね。

――それぞれのキャラクターが居場所なり行き先を探していくようなお話だったと思いますが、みなさん居心地のよい場所はどこでしょうか。

上野 自分の家。ダイニングの椅子。外食よりも、家が一番。

僕も家ですね。家族の中。そこは絶対的な場所ですね。うちはたまに外食に行かないと家内がきつそうな顔するから、たまに外食してニッコリした顔を見ないと(笑)。

リリー 俺は…特にないですね。家にひとりでいても別に落ち着いてることないし。家にいるよりは、今回みたいに現場で椅子に座って待っている間タバコ吸ってるときは、安らかな気分かなぁ(笑)。

お父さんが大事にしていた箱の中身とは?

――最後に、謎のままで終わった「お父さん」の抱えていた箱の中身についてはいかがですか?

あれはイマジネーションにお任せですね。飛躍してるから素敵なんじゃないかな。理屈つけずに、秘密のまま、クエスチョンのままの方が僕はいいと思う。

上野 考えるより感じていただきたいです。

『お父さんと伊藤さん』
出演|上野樹里、リリー・フランキー、藤竜也ほか
監督|タナダユキ 原作|中澤日菜子 脚本|黒沢久子
製作|「お父さんと伊藤さん」製作委員会
スタイリスト|岡本純子 ヘアメイク|HAMA
©中澤日菜子・講談社/2016映画「お父さんと伊藤さん」製作委員会
新宿バルト9他全国上映中!

           
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