伝統の新しい胎動を感じに、“奥中洲”へ|LOUNGE
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2023年5月26日

伝統の新しい胎動を感じに、“奥中洲”へ|LOUNGE

LOUNGE|奥中洲

伝統の新しい胎動を感じに、“奥中洲”へ

博多と天神を結ぶように広がる中洲。華やかな街と思われがちだが、路地を歩くとその印象は変わるだろう。中洲を象徴する博多祇園山笠が走り抜ける由緒ある道がのび、街が育んできた文化的素養が今も色濃く残っているように感じられるのだ。派手さではなく、落ち着きと奥ゆかしささえ感じさせる色合い。だが、決して停滞しているわけではない。歴史的な背景を尊重しながらも、着実にアップデートしていく感覚がある。
そんな空気感を“奥中洲”と名付け、福岡の新しい魅力を発見しようと本連載はスタートした。第一回目で話を伺った老舗の和菓子店 鈴懸の中岡社長は奥中洲に流れる空気を『上質な日常』と表現した。
第二回目となる本稿では、博多の伝統工芸に携わる人々の視点から、奥中洲の魅力を探っていく。

Text by NAGASAKI Yoshitsugu   Photograph by NOGUCHI Shuji & NAKAMORI Makoto

二代目の挑戦が“博多水引”の新しい世界を開く

中洲にほど近い呉服町はノスタルジーを感じる街並みが魅力だが、その中には現代的要素を垣間見せる佇まいを持ついくつかの店がある。少し奥に入った小路に現れるのは、漆黒のモダンな建物。博多水引の「ながさわ結納店」だ。二代目となる長澤宏美さんが出迎えてくれた。
「博多水引は父の代から始まったものなのですが、もともと父はお茶屋を営んでいました。そこで水引の結納飾りを取り扱っていて、新しい水引の形を模索するために自ら作り始めたのがきっかけだったと聞いています。歴史としては52年ほどになります」
そうして先代の宏昭さんが博多の文化と水引を結び付け、『博多水引』と呼ばれるまでに昇華。博多水引の特徴である立体的な「ねじり」は、力強さだけではなく粋な雰囲気もまとう。宏昭さんが培ってきた技術を受け継ぎ、今の時代と結びつけようと試みているのが二代目の宏美さんだ。元来、水引には人と人を繋ぐ、結ぶと言った意味合いがある。博多水引はまさに、父から娘へと繋がれたものなのだ。
水引を編む長澤さんのその手は力強い。博多水引の「ねじり」を緩ますことなく生み出すには、力が必要なのだ。
「父の時代と比べると、結納の慣習自体が少なくなってきています。従来の『結納の時にだけ需要がある』という状況を変えなければいけません。そこで、水引のクオリティは保ちつつ、デザイン性を加えることで新しい用途を生み出しました。プレゼントにアクセントを加えてくれるボトルリボンやボトルリング。日常でもお使いいただける、箸置き。フォーマルな場でのアクセントとして活用いただけるブートニエール※などですね」
※ジャケットのラペルホール(ボタン穴)につけるアクセサリー
大学卒業後、東京などでグラフィックデザイナーとして活躍し、福岡で家業を継いだ宏美さんが生み出す新しい水引は、艶やかなものから他ではあまり見ない落ち着いたトーンのものまで、幅広い作風だ。中でもシックな色味の水引は現代の部屋のインテリアとしても違和感なく馴染み、博多の社屋移転や新居のお祝いの品としても重宝されている。その他にも、2017年に北九州市で開催されたG7北九州エネルギ―大臣会合参加者への贈答品として、水引のボトルリボンが選ばれた。中でも、キャロライン・ケネディ元駐日大使は強い関心を示したという。50年という月日の中で、その技術を紡ぎ、変化を加えながら、博多水引は現代工芸品としての地位を獲得しつつあるのだ。
「私たちは先代から受け継いだ技術を継承し、あくまで手作業でしかできない色、カタチを追求しています。ですから量産は難しいのですが、水引という技術から生まれた博多の工芸品が次の世代まできちんと繋がって、尚且つ箸置きや、室内飾りとして日常に溶け込んでいってくれたらと思っています」
伝統を保ちつつも、現代との結びつきを生みだすための革新を忘れない。博多水引には、奥中洲を象徴するそんな空気感が込められている。

博多織は日常を彩る気配となる

奥中洲に息づく伝統工芸は、博多水引だけではない。博多人形や博多織など、古くから愛される伝統的工芸品がある。中でも博多織は『博多織DC(デベロップメントカレッジ)』というスクールも立ち上げられ、後進の教育に力を入れている工芸品。博多織DCの卒業生で、博多織の新しい魅力を探求しているのが博多織手機技能修士、深堀由美子さんだ。
「博多織の歴史は古く、その発祥は中国の王朝・宋から、博多の商人が持ち帰った織の技法がルーツとされていますね。江戸時代には当時の藩主・黒田長政公が幕府への献上品として博多織を選び、博多織の原点である独鈷華皿(とっこはなざら)文様は“献上柄”と呼ばれるようになりました。私は、その伝統的な技法、柄を活かしながら、もうちょっと自分の“色”を出せたらいいなと考えています。博多織は主に経糸(たていと)で色と柄を出すのですが、私が緯糸(よこいと)で色を表現することが多いのもそんな想いからです」
まだまだ未熟ですがと深堀さんは謙遜するものの、緯糸で表現される色使いは独特。これまでの博多織とは一線を画しながらも奥深さを持っている。色使いの他に目を惹くのは、インテリアボードやハンドバッグ、ボタンのアクセサリーなど、西洋のテイストを上手く取り入れた作品の数々。博多織への深い知見があるからこそ生まれた工夫のように思えるが、深堀さんは元々、博多織とは関係のない職業についていたという。
「東京での仕事に一段落をつけて、落ち着いたタイミングで学校(博多織DC)のことを知ったんです。そこで先生方から連日細やかにご指導頂きながら、なんとか技術を習得してきました。特別斬新なことをやろうというのではなく、伝統をしっかりと守りながらその中に自分の色を見つけていこうと考えています」
色とりどりのバッグやインテリアボード、帯が並ぶ(日本橋木屋本店izutuki内)※現在は展示終了。
深堀さんが博多織のエッセンスを詰め込んだブートニエール
ラメやシンプルな同色系の柄など深堀さんの織りなす博多織は、もちろん帯や着物でも美しく映える。だが、それ以上にハンドバッグやブローチなど、日常使いを通して博多織を意識させてくれる。さりげない日常に伝統ある博多織の意匠を溶け込ませるその手法は、前回の中岡氏がお話された奥中洲の魅力である『上質な日常』と通ずるものがある。
展示を行っていた東京日本橋コレド室町の前にて
それぞれのアプローチで伝統工芸をアップデートしている博多水引の長澤さんと、博多織の深堀さん。このお二人には実は親交がある。コラボレーションを行い、博多織のボードに博多水引をあしらった素敵なインテリアボードを作ったことも。
博多水引の長澤さんと博多織の深堀さん共作のマグネットボード
お二人に共通しているのは、街をいったん離れてまた戻ることで、新しい息吹を持ち込んでいること。それは、古くからアジアの玄関口として様々な文化を吸収し、新たな形として送り出してきた博多の文化形成の歴史とも重なっている。
ここから感じられるのは、ルーツが異なる文化的要素を吸収しながら、次代を作っていく胎動だ。伝統の中に息づく、変革への熱。それが奥中洲の魅力でもあるのだ。
Sponsor:株式会社ロイヤルパークホテルズアンドリゾーツ
ザ ロイヤルパーク キャンバス 福岡中洲 2023年8月4日開業予定
~九州の自然に包まれ、自然の魅力を感じ、癒されるアーバンリゾート~
https://www.royalparkhotels.co.jp/canvas/fukuokanakasu/
                      
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