戸田恵子|ベストシーズン到来! 秋のニューヨークへ
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2015年5月27日

戸田恵子|ベストシーズン到来! 秋のニューヨークへ

戸田恵子|観劇日和、ときどきグルメ?

ベストシーズン到来! 秋のニューヨークへ(1)

過酷な夏の連ドラ撮影が終わった9月22日から、毎年恒例のニューヨークに出かけました。本当にこの季節のニューヨークは美しい。そしてとても過ごしやすく、一年で一番のベストシーズンです。秋に訪れるのはもしかして久しぶりなのかな? 空港に着いた途端「ああ、もう帰りたくない!」と思ったのでした(笑)。

Text by TODA KEIKO

旅のはじまりはキャロル・キングの自伝的舞台から

今年も行ってきました。毎年恒例、ブロードウェイでお芝居を観まくるツアー。基本的にはオフで行っているのです。だから休みます。ひたすら休みます……。身体を休めるといった方が正解かな。

旅のはじまりは『Beautiful~ビューティフル~』から。キャロル・キングのお話です。20代で早くもスターダムへと駆け上がったご存知キャロル・キング。10代から作曲家として活動していたなんて知りませんでした。人生の紆余曲折がヒット曲の数々に乗せて綴られています。旦那が彼女の元を去り、失意のどん底で友人たちに囲まれ、唄い上げる名曲「君の友だち(原題:You’ve Got A Friend)」。この一曲にヤラれました。みんな泣いてたね。あぁ友達っていいなって思える。やっぱ男なんかより友達だよねって(笑)。

キャロル・キングが1971年に発表した「君の友だち」。グラミー賞で最優秀楽曲賞を獲得したほか、ジェームス・テイラーやロバータ・フラック&ダニー・ハサウェイなど、多数のアーティストにカバーされている。映像は2013年2月10日、オーストラリアで開かれた彼女のコンサートでのひとコマ

登場するのはわずか20人なのに、とても目まぐるしく場面転換されて、キャストもものすごくスピーディに変化するから、飽きることがないし、なによりもすみずみまで皆うまい! こんな少人数だったんだと、カーテンコールで改めて人数を確認して感動! ヒロインに抜擢されたジェシー・ミューラーの歌もさることながら、弾き語りのピアノ(フェイク)がこれまた素晴らしい。客席の年齢層はかなり高かったです。微笑ましい限り。

戸田恵子|秋のニューヨーク 02

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甘いものには目もくれず、とにかくよくビールとワインを飲むわけです。ニューヨークは乾燥してるんですかね。甘いものと言えば、街角で見かけたケーキ屋さんで思わずシャッターを。ケーキにマーブルチョコみたいなのが乗っかってる。これスゴくないですか!?

次に訪れたのは『Aladdin~アラジン~』。こちらはうんと客席の年齢層が低く、子ども連れのファミリーが多く見られました。シートを高くしてくれるクッションもちゃんと配られています。あれ、実は私もほしかったりして(笑)。

幕が開いて、ランプの精のジーニーが登場した瞬間、私は故・内海賢二さんを思い出していました。アンパンマンに登場するランプの巨人。それからは、ずっと内海さんと一緒にこのミュージカルを観劇している気分でした。

主人公とともに冒険を繰り広げるのは、トニー賞の助演男優賞を受賞した巨人のジーニー。超LLサイズだけど、めちゃくちゃキュートだ。大きいのにキレがいい! 愛嬌たっぷりで客席からも拍手喝采である。子どもたちは大喜び。もちろん大人も。ああいう人、日本にいないんだよね~。

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3つ目の舞台は『A Gentleman’s Guide to Love and Murder~紳士のための愛と殺人の手引き~』。エドワード朝時代のイギリスを舞台にしたコメディ。オペレッタですね、これは。セリフがあるから、正直、私には少々難解だったのですが、難解でもいいんです! コメディであればなおいいです! 芸達者なジェファーソン・メイズという役者さんが、ひとりで何役も演じるのが呼び物で、それを観られただけで大満足。変化ぶりもスゴイがチェンジの早さにも舌を巻く。圧巻でした。

例のごとく、ブロードウェイ三昧に明け暮れたニューヨーク。今年は8本の舞台を制覇した

旅もそろそろ中盤に差し掛かってきたところで向かったのは『Lady Day at Emerson’s Bar & Grill~レディ・デイ~』。劇場に入った瞬間、『今の私をカバンにつめて』が思い出されました。私が演じたクラブ・シンガー、ヘザー・ジョーンズを……。

これは天才ジャズシンガー、ビリー・ホリデイのライブショーを演じる一人芝居。芝居といってもライブショーを演じるわけですから、当然歌もあります。この役を演じてトニー賞を受賞したオードラ・マクドナルドさんは、どれだけの時間ビリー・ホリデイを聴きつづけたのでしょう? 資料を見つづけたのでしょうか? あれほどまでにそっくりに唄い演じるなんて。鳥肌ものです。

客席がクラブのように設えてあり、私はラッキーなことにテーブル席の一番前で彼女の一挙手一投足を見ることができました。息づかい、涙。それは芝居ではなく本当のライブを見ているようでした。実際ビリー・ホリデイは、このライブショーの数日後に亡くなったと聞いています。その最後となったライブを丸々演じるわけですから、1時間40分。ひとり。一人。独り。疲れますね、ありゃ(笑)。一秒たりとも気が抜けないから。

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一度、芝居の流れで楽屋に戻ってしまうのですが、そこではドラッグを注射していたようで、ステージに戻ってきたときには、腕までの手袋が片方下がっていました。そこでは『なにわバタフライ』を思い出したのでした。いずこも、どの国でも切ないことが起こっているわけです……。その際、楽屋から愛犬(本物)を連れてくるのだけど、ワンちゃんが大人しくて、かわいくて、ライトを浴びると目をショボショボさせてとても可愛かったです。唯一の癒しだったのではないでしょうか。

日本でもちあきなおみさんをはじめ、沢山の方が演じてらっしゃるこの作品。残念ながら日本では観たことがないのですが、黒人であったがゆえの苦労や人種問題を扱っているこの作品を、日本人がどう演じられたのでしょうか? 観てみたかったです。迫真の演技とはこういったものなのでしょう。素晴らしかったです。

戸田恵子|観劇日和、ときどきグルメ?

ベストシーズン到来! 秋のニューヨークへ(2)

最終日は大尊敬するネイサン・レインとご対面

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5つ目の舞台は『If/Then~イフ/ゼン~』。日本でも人気の『ウィキッド』の初演でトニー賞に輝いた、イディナ・メンゼル主演の新作ミュージカル。これも私にはかなり難解でした。ストーリーはどうやら「もしも~だったら」とふたつの人格が用意されていて、そのあいだを行ったり来たりみたいな。英語力の無さを思い知らされる感じだけが残りました。笑っちゃうほどちんぷんかんぷんで、ラストにきてようやく少しわかったのでした。しかしイディナ・メンゼルの歌唱力は相変わらずすごい。歌詞がまったく理解できずとも、生歌が聴けただけで満足したのでした。

つづく『On the Town~オン・ザ・タウン~』は、ひと言で表現するなら「きたー!!」って感じの盛り上がり。これぞ王道のミュージカルです。序曲からワクワクするし、実際、音もすごくよかったので、全体に厚みを感じる音の演出でした。いつも感心するけど、あの狭いオケピ(オーケストラ・ピット)にミュージシャンがひしめき合っています。今回は前から3列目だったので、オケピの様子もよくわかりました。ほんとに肩と肩がくっついてますよ、あれは!(笑)

1944年、ブロードウェイで初演されたこの作品はご存知、束の間のニューヨーク滞在中にアバンチュールを繰り広げる水平さんたちの話(1949年には映画『踊る大紐育』にもなった)。歌って、踊って、恋をして。とにかく華やかでハッピーだ。皆、うまい!

美術装置も衣装も素敵でした。女子のスカートなど裏地にも凝っていて、ピルレットをするとその裏地が見えることも計算されています。ビューティフル! 色も奇麗で2倍楽しい。そして肝心要の「音」。これがまた素晴らしい。音響さんのテクニックか、劇場構造なのか、とにかく音、音楽、台詞がどれも自然に聴こえてくる。客席に降りて大勢で歌うウィスパーソングもきっちり聴こえてくる。さすがです。そんな環境、羨ましいですね。日本でも今年はジャニーズV6のトニセンチームが上演しましたね。帰国して観劇。日本版もとても真摯に演っていて、心地よい舞台でした。トニセンにぴったり。

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7つ目の舞台は『Hedwig & the Angry Inch~ヘドウィグ・アンド・アングリー・インチ~』。トニー賞に輝いた主演のニール・パトリック・ハリスに代わって、この日はアンドリュー・ラネルズが主演でした。正直ニールの演技も観たかったのですが残念。代わったアンドリューは『ブック・オブ・モルモン』(2011年にトニー賞9部門に輝いたミュージカル)でのまじめ(?)な印象が強く、今回はびっくりです。この役は性転換手術に失敗し、股間に残った“怒りの1インチ”とともに生きるロック歌手なので(何年か前、山本耕史さんと中村中ちゃんの出演の日本版を観ました)。アンドリューは好演、熱演で素晴らしかったのだけど、ちょっとこの役にはポッチャリかなぁ……(笑)。

最終日はあえてストレートプレイをチョイスしました。その名も『It’s Only a Play~イッツ・オンリー・ア・プレイ~』(日本語にするなら、ただの舞台だよって感じかな)。正直、私の英語力ではストレートプレイなんて無理な話なんですが、大尊敬するネイサン・レインが出演しているので、ここはやはりマストでしょう。

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今回あたらしく見つけたショップ「ザイヤ」。もうずいぶん前からあったらしい。デリなんだけど日本人が食べてもうなずけるおにぎりとお味噌汁。ホッとしますね。場所は45th street フィフスアベニューとマジソンアベニューの間にあって、イートインもできます。パンもいろいろあって日本のパンと変わらぬテイスト。食パンがものすごく売れるそうで、たくさんの人が次から次へと買いに来てました。ニューヨークにお出かけの際はぜひどうぞ!

お陰様で舞台の方はというと、ブロードウェイの舞台を作る人たちのお話だったので、なんとかついていくことができました。なによりコメディですから、台詞の音の変化が心地いい。いずこの国もうまい役者は緩急がすばらしい。だから言葉がわからずとも見ていて飽きない。『プロデューサーズ』(2001年に初演され、トニー賞12部門を受賞するなど大ヒットした舞台)でコンビだったマシュー・ブロデリックも健在だ。忘れずに板に立ってくれるのは嬉しい限りです。

年々、時差ボケとか、特に日本に帰ってからがひどくて、行ってる間は楽しいけど、帰国後がなんともやるせない。いつまで行けるでしょうかね……。今年もブロードウェイ三昧できたことに感謝します。

           
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