祐真朋樹・編集大魔王対談|vol.9 磯自慢酒造 八代目蔵元 寺岡洋司さん、九代目 智之さん

祐真朋樹・編集大魔王対談|vol.9 磯自慢酒造 八代目蔵元 寺岡洋司さん、九代目 智之さん

祐真朋樹対談

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日本各地で徹底したこだわりを持ち酒造りをする醸造家(マスター)を招き、世界でも名高いホテルを舞台に素晴らしい料理と空間で特別な一夜を楽しむ「The Master of Craft Sake」シリーズ。その第3回目が9月21日(水)にアマン東京で開催された。日本を代表する人気銘酒のひとつである「磯自慢」のセレクションと、ザ・レストラン by アマンの極上のイタリア料理のマリアージュを楽しむこのイベントは、世界に誇る国酒である日本酒を海外に広めていこうという思いのもと、中田英寿氏により設立されたジャパン クラフト サケ カンパニーが主催する一日限定のディナーイベントだ。その会場で、磯自慢の八代目蔵元で社長の寺岡洋司さんとその息子・智之さんに話を聞いた。

Interview by SUKEZANE TomokiPhotographs by NAGATOMO YoshiyukiText by ANDO Sara (OPENERS)

全国の吟醸蔵のパイオニアとなった磯自慢酒造

駿河湾に面し、伊豆半島や富士山にもほど近い静岡県焼津市に拠点を置く磯自慢酒造。天保元年(1830年)に創業した老舗酒造のひとつで、早くから吟醸造りに取り組んだ静岡県内吟醸蔵の先駆けだ。今回の「The Master of Craft Sake」ではその日本酒7種類が用意された。自然な香りと奥深い味わい、そしてクセのない口当たりは、イタリア料理との相性も抜群だ。

祐真朋樹・編集大魔王(以下、祐真) 本日はどんな磯自慢のお酒が提供されるんですか?

八代目蔵元兼社長・寺岡洋司さん(以下、寺岡) これは大吟醸Nobilmente※1というお酒です。ノビルメンテとはイタリアの音楽用語なのですが、イタリア語で高貴という意味があります。今から30数年前、まだ吟醸※2という言葉が一般に知られていなかった頃、大吟醸※3を商品化したんです。今では純米大吟醸※4が主流になっていますが、歴史としては大吟醸のほうが先。当時のその思いを込めて、ノビルメンテもあえて純米にせず、大吟醸にしました。

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中取り純米大吟醸35、そしてAdagio中取り純米大吟醸に続くプレミアムなお酒をとヴィジョンをたてた時、 まず米の精白歩合を高めました。通常磯自慢では大吟醸は45%精米ですが、ノビルメンテは更に高精白な28%にしました。72%を糠として取り除いて、中心の28%だけのそういう高精白で最高の特A地区東条秋津・特上米山田錦を使っています。そして、ごくごく少量のアルコールを最適に使用しています。

祐真 アルコール添加とは何ですか?

寺岡 醸造アルコール※5のことです。これを最終的(お酒を搾る直前)に入れるのがいわゆる本醸造、吟醸、大吟醸です。そして入れないのが純米、純米吟醸、純米大吟醸です。添加するアルコールの量ももちろん関係あります。うんとたくさん入れてしまうのが、いわゆる安い酒ですね。吟醸とか大吟醸とかは、白米1トンに対してこれだけしか入れられませんよという国税庁の決まりがあります。その中で更に少ない添加をするのが大吟醸。ノビルメンテはさらに少なくて、ほんの微量しか入っていないんです。

祐真 微量でもアルコール添加したことで純米という名前がつけられないわけですね?

寺岡 そういうことです。

祐真 醸造アルコールはなるべく入れない方がいいんでしょうか?

寺岡 微量のアルコール添加なら私は悪いとは思いません。安価なお酒で、たくさんお酒を作ってしまおうと添加量を多くすると、身体にも悪いので良くないと思いますが。微量でしたら香味のバランスを整えてくれるという、ひとつ大きな役目もあるんです。あとは専門的になりますが、もろみの液体の発酵の中で、苦労して作り上げた麹の力で掛米のでんぷん質を糖化しグルコースとなり、そのグルコースをおかずにするのが酵母菌です。その動作を液中で同時に行ないアルコールを産出します。専門用語で「並行複醗酵」と言います。不思議なんです、自然界は。だから大変でもありますし、楽しみでもあるんです。そして上槽直前に微量の醸造用アルコールを添加することによって、香りが華やぎ、味も丸くなるんです。すなわちバランスのとれた美酒となります。

祐真 そこに蔵元さんなりのセンスやテイストが出てくるわけですね。

寺岡 そうかもしれません。

祐真 創業1830年。磯自慢、すごく歴史が長いんですね。代々同じ家で継がれてきてるんですよね。

寺岡 そうです。おかげさまで僕が8代目で、息子が9代目です。

祐真 今日のイベントもそうですが、僕も日本酒を飲む機会あちこちで増えてきています。昨今の日本酒ブームについてどう思いますか?

寺岡 今だから吟醸酒はあたりまえなんですが、私たちは世の中に吟醸酒が販売されてない30数年前から大吟醸を販売し伝えてきております。そして吟醸造りの歴史は昭和31年から始め精白60%精米→50%精米の造りを行っておりました。そんな時代から、大吟醸を造って販売していくということに最初は非常に苦労しました。吟醸とは何だろうというところからのスタートでしたので。ですから現在は少しオーバーかもしれませんが、夢のようでもあります。それと酒の会だけではなく、これからはもっともっと日本酒を勉強する場を作らないといけないと思います。特に提供する立場の方々ですが。国酒たる日本酒の説明を最低セミプロの知識で、できる事こそこれから必要ではないかと思います。

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祐真 吟醸という言葉はどこから来たんですか?

寺岡 酒造業界でもともとあった言葉です。国産米を60%まで精米すれば吟醸酒。普通は蔵でしか飲めないような酒だったんですよ。蔵が造っていればですが。昔は造っていない蔵のほうが多かったです。では吟醸酒を製造していた蔵は搾った吟醸酒をどうしたか、と言えばブレンドしていたケースもあるんです。平成元年まで特級、四年まで一級、二級というのがあったことを覚えてますか?精米歩合、使用米も関係しますが、私の蔵では造った50%精白の吟醸酒を普通酒にブレンドして一級酒にしておりました。それをある時から吟醸酒を商品化しようということになったのが、30数年前。ですから弊社は全国でも早いタイミングで大吟醸を商品化したわけです。商品の化粧箱の中に、「吟醸酒とは」の説明文も入れてました。それだけ苦労もありました。

祐真 吟醸ってなんなの?となりますよね。それは特級より上なのか?と。

寺岡 当時は特級と一級にはせず、あえて二級で出したんです。というのも税金が絡んでくるんですよね。二級酒を基準に一級酒の酒税はだいたい2.5倍、特級は5倍以上なんです。高額商品ゆえ、それならあえて特級にすることはない、酒税の少ない二級で吟醸酒を売り出した方が購入されるお客様にとってベストだ、という事になりました。あえて「無鑑査二級」ってラベルに書いた蔵もありました。それから全国各地の先駆者的蔵元が吟醸を売り出し始めたところ、各地から美味しい吟醸酒が出始め、日本酒の良し悪しと○級は対応していないなどの理由等で税率も変わり、1992年級別廃止となりました。同時に現在の特定名称酒(純米大吟醸・大吟醸・純米吟醸・純米・本醸造などの特定の名が付けられる)を導入しました。

祐真 それは、二級の吟醸がうまいっていうことが広まったからですか?

寺岡 その通りです。二級酒でも美味しい日本酒が意外に沢山あるんだ!!という新たな発見です。特級や一級などの制度を廃止して、今度はいわゆるアルコール度数によって酒税を変えるというやり方に変わりました。今はまたそれも廃止されて別の制度になっています。

祐真 30年以上前にそういう動きをされて、国が気がついたのはどれぐらいだったんですか?

寺岡 平成になった頃でしょうか。一般に大吟醸や純米吟醸の歴史は早い蔵で35年前くらいで一般的には25年前くらいでしょう。

Page02. 実はまだ浅い吟醸酒の歴史

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SUKEZANE Tomoki

1965年京都市生まれ。(株)マガジンハウスのPOPEYE編集部でファッションエディターとしてのキャリアをスタート。現在は『UOMO』『GQ JAPAN』『Casa BRUTUS』『MEN’S NON-NO』 …