祐真朋樹・編集大魔王対談|vol.9 磯自慢酒造 八代目蔵元 寺岡洋司さん、九代目 智之さん

祐真朋樹・編集大魔王対談|vol.9 磯自慢酒造 八代目蔵元 寺岡洋司さん、九代目 智之さん

祐真朋樹対談

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実はまだ浅い吟醸酒の歴史

祐真 吟醸って正直あまり聞いたことがなかったので何なんだろうって思っていたんです。

寺岡 歴史はまだ浅いのでね。

祐真 純米大吟醸っていうのはさらに高くなるんですよね?

寺岡 Nobilmenteで1万8000円ですからね。精白は少し低く35%ですが、中取り純米大吟醸35が1万6000円くらい、Adagio純米大吟醸が2万2200円です。

祐真 調べたら、15万とかすごい値段がついているものもありましたが。

寺岡 インターネットでしょうか。海外でもとんでもない値段がついたり、オークションで販売されていることもあるみたいですね。インターネットが普及してからじゃないでしょうか。便利さが意外と悪さもしちゃっているところもあるんですよね。お買い求めていただくのは、本当に心苦しいし、知らずに買われたお客様に申し訳ないです。転売を重ねて値段が高くなっているケースもあり、品質面でも不安ですね。

祐真 日本酒の価値が上がっているというか、見直されているということですよね。外国人からしたらワインのようなものになっていく気配を感じますけど、どうですか?

寺岡 東京の有名な飲食店さんにも、外国人のお客さん増えているみたいですよね。スマホが普及したことで容易に情報を得て、たとえば日本酒の画像を見せてきて、これ置いてある?という時代ですよ。ありがたい反面ちょっと怖いですけど。

祐真 怖いのはなぜですか?

寺岡 日本では、日本酒のことを知っている上で提供してくれる方が多いのですが、海外の場合は日本酒の知識がないことのほうが多いんです。冷蔵庫に入れずに普通に棚にあったり、ネーミングだけで飛び込んでくるところがまだまだたくさんあるんですよね。だから、ワインの場合、田崎真也さん※6が世界ソムリエのコンテストでトップをとられて、いろんなメディアで提供の仕方、飲むスタイル・サーブ温度、どういった料理に合うのか、等々、発信され素晴らしいことです。日本のワインの世界は、田崎さんの功績がすごく大きいと私は思います。次は日本酒のプロのような方たちが海外でも出てきてくれるとありがたいんですよね。

祐真 日本酒でワインでいうソムリエのような人たちはいますか?

寺岡 いるにはいますが、プロと言えるのかどうか……。基準もワインほど厳しくないのでね。マスター・オブ・ワイン※7で日本酒の講座が2年ほど前から開かれているんですよね。日本人では昨年初めて一人目のマスター・オブ・ワインが出て、世界にも350人いないぐらいの称号ですよね。非常に厳しくて、5段階の試験をパスしないととれないという。そこで日本酒の講座も開き始めてくれたので大変有り難いし、ゆくゆくは日本でIWC等日本酒の称号などが確立できれば、と願っています。

祐真 実際そうやって本当に味わいたいと思っている外国人はいるはずですからね。今日のイベントもそうですが、料理と日本酒。ヒデ(中田英寿)さん一生懸命やられてますけど、食べ物とはどう合いますか?今日は和食ですか?

寺岡 インバウンドが増す時代にありまして、海外のお客様は高級和食屋さんに足を運ぶ方も非常に増えていますね。でも吟醸酒は和食だけでなく、いろいろな食材に合いますよ。弊社の蔵にはミシュラン星付のお店の方々始め、造りの時期に勉強に来られています。そして今晩のディナーはイタリアンです。すごく合いますよ。

祐真 お酒を作る段階でマリアージュというか、洋食とも合うな、など料理との組み合わせのことまで考えていたりするんですか?

九代目蔵元・寺岡智之さん(以下、智之) 少しでも自然な華やかなものを造りたいとは思っていますが、フレンチに合うとかイタリアンに合うとか、そのようなことは、とりわけ意識していません。ただ、日によってお米や使う酵母が変わってくるので、作品として違ってくるというのはありますね。完成形のヴィジョンは常に見ていますが、この食事に合わせるためにこうするというような意識は持っていません。

祐真 テイストはそれぞれ違うんですよね。何を基準に味を変えていくんですか?これは辛いほうがいいとか、そういうのがあったりするんですか?

寺岡 弊社のお酒はだいたい全部辛口です。焼津はご存知のように日本有数の漁港ですので、魚に合う日本酒を提供することを心掛けて30数年前に吟醸酒を市販し始めました。当時、甘い酒が多かったんですよ。酒の甘さ辛さというのは、プラスマイナスゼロが基準で、あとは比重です。マイナスになると甘くて、プラスになると辛い。それに酸度が増せば当然辛く感じます。当時はマイナス7ぐらいの甘ったるい酒が主流だったんです。

祐真 甘い酒と生魚は合わなそうですよね。

寺岡 そうなんです。焼津の産物に合った酒を造ろうということで辛口の酒を造り始めて、それがそのまま続いているんです。ただ、精白が高くなるほど甘く綺麗に上品に感じますので、たとえばプラス5でも甘口に感じてしまうことも。お飲みになった時にピリピリ辛いっていうのはないはず。それと、特徴として弊社のお酒は酸が少なく、日本酒度でいえば辛いんだけど、ちゃんとした味わいもあって、いわゆる香りと味のバランスがとれていると思います。この酸が少ないにも関わらず透明感のある深い味わい、そして自然なフルーィーな香りを持たせる、この香味のバランス作りが大変なんです。これを弊社では、ISOJIMAN Sublime Transparency としております。

祐真 なるほど。

寺岡 だからたとえばイタリアで売りたいからイタリアンに合うような、またはフランスで売るのでフレンチに合うようなお酒にしようかとかそういう風には考えていません。日本で実際に飲まれている酒が、海外で飲まれて評価してもらえたら一番良いと思っていますので、これが磯自慢です、本物の日本酒です!これが今年の作品です!どうぞお飲みください。そのように感じております。

祐真 いいですね(笑)。生魚にはこれだ、とか、俺はこれと飲むのが一番好きなんだ、というような好きな組み合わせはありますか?

寺岡 魚ですか?焼津で水揚げされるものだったらなんでもいいですよ。マグロ、カツオ、アジ、イワシ、サバ、太刀魚、などなど。駿河湾は日本で一番深い湾ですから、ムツ系の深海の魚も美味しいですよ。伊豆の反対行けばキンメダイが獲れますし。

祐真 それを熱燗ですか?そのまま?

寺岡 冷やしてもいいですし、全部いけるんじゃないですか?

祐真 個人的に好きっていうのは?

智之 父は下戸なので(笑)。僕はカツオのたたきが好きなのですが、それと水響華※8っていう大吟醸の組み合わせが好きですね。さっぱりしているのですが、ほかのものと比べてベリー系の味わいが、カツオの旨味とマッチングして美味しいかなと。

祐真 いいですね。シャンパンだと大きいボトルが美味しいっていわれますが、日本酒はどうですか?やっぱり樽ですか?

智之 そうですね、特に違いはないかもしれません。まぁ、樽はあくまでほぼ祝いとしての形ですが(笑)。普通は1800mlの一升瓶と720mlの4合瓶ですが、売り手の意思と買い手の意思がありますからね。居酒屋さんですと4合瓶より一升瓶のほうが扱いやすいので、売りやすいんでしょうけど、一般消費者の方だと一升瓶だと重いし冷蔵庫に入らないので(笑)。お酒のための冷蔵庫とか日本酒セラーをお持ちの方じゃないと。中田英寿さんの日本酒セラー※9とか……。

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祐真 あれ、すごいですよね。サイズは大きいんですか?

智之 この前発表されていたのは大きいですね。170cmぐらいあるんじゃないですかね。

寺岡 日本酒はワインよりも温度管理に敏感ですからね、高級酒であれば特に。だから冷蔵管理は大事ですよ。だからマイナス5度から15度まで管理できる日本酒セラーを作ったんですね。

祐真 どれぐらいの温度でキープすればいいんですか?

寺岡 飲むタイミングもありますが、一年以内に飲むなら5度~0度で良いと思います。2年3年ぐらい寝かせるっていうと、マイナス3度~マイナス5度ぐらい。あとはワインと違って湿度がない方がいいですね。

祐真 日本酒にもワインのようにヴィンテージはあるんですか?

寺岡 古酒といわれるものを意図的に造っている蔵もあります。私のところはそういうのはやっていません。常に新酒でその年に売り切ってしまうものばかりですね。でも冷蔵庫で10年間寝かせているという方もいますし、お好きなようにお楽しみいただきたいですね。お酒は生きていますから。

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SUKEZANE Tomoki

1965年京都市生まれ。(株)マガジンハウスのPOPEYE編集部でファッションエディターとしてのキャリアをスタート。現在は『UOMO』『GQ JAPAN』『Casa BRUTUS』『MEN’S NON-NO』 …