連載・柳本浩市|第26回 植木明日子さんに「アイデアとプロダクトデザイン」をきく(後編)

連載・柳本浩市|第26回 植木明日子さんに「アイデアとプロダクトデザイン」をきく(後編)

How to see design

第26回 植木明日子さんに 「アイデアとプロダクトデザイン」 をきく (後編)-1

ゲストにプロダクトデザイナーの植木明日子さんを迎えた後編は、建築的な考え方をもってプロダクトをデザインしている彼女のモノづくりへのアプローチや、実際の生産背景、さらに今後の展望まで語っていただいた。

Text by 柳本浩市

いまは自分が手に触れることができる、1分の1のモノをつくっている

柳本 大学時代に「すべてを包括するのが建築」という考え方を周囲の方々から聞かされてきたという植木さんですが、現在、ご自身でモノづくりをしていて、建築の考え方が応用できたところと、できなかったところ、そのふたつについて教えていただけますか?

植木 いまでもモノづくりにおける「考え方の行程」は建築的だと思います。全体像をつくってから順を追ってつくっていく……自分のやり方になっていますね。いまの仕事に応用できなかったというか、あきらかにちがうなと感じるのは「スケール感」です。私が建築学生のとき、もっとも苦手だったのが縮尺の考え方。同級生は200分の1の図面を前にしても、実際の大きさを認識しようとする。私の場合は模型をつくって先生に見せると、「これが200倍になるのが想像できるのか!」と怒られる始末で(笑)。それがいま、自分が手に触れることができる、1分の1のモノをつくっている。このスケール感のちがいは大きいです。もう一点挙げるとすると「スピード感」。建築だとひとつのプロジェクトに完成まで数年というのが当たり前ですから。いまのモノづくりは自分の性格に合っていると思いますね。

柳本 プロダクトデザインの仕事で、建築家やインテリアデザイナー、そしてプロダクトデザイナーと接する機会が多いのですが、建築家とインテリアデザイナーのアプローチはコンセプチャルで空間認識というところで力を発揮します。一方でプロダクトデザイナーは「コンマ何ミリ」までディテールをつめていく。モックアップをつくるとその差は歴然としますね。やはり「モノ」となるとプロダクトデザイナーのほうが強いかと思います。

ところで植木さんは旅がお好きなようですが、旅のインスピレーションはご自身のモノづくりにどのように影響していますか?

植木 旅に出ると自分がなにものでもない、なにも求められていない、と感じることが多いですね。そしてモノづくりをしていることがとてもちっぽけに思えてきます(笑)。モノづくりへの直接の影響ではないんですが……人間の行動のなかから「おもしろいモノ」を見つけようとする臭覚が働いたり、人間の素直な感覚に気づかされることが多いです。“感覚が開く”というか。

柳本 私の場合は海外のおばあちゃんの家がインスピレーションの源だったりします。家族の写真がすごいレイアウトで飾ってあったり、ダサいテーブルクロスが上手くコーディネイトされていたり。すべてが意図していないんですけど、理屈抜きのおもしろさがある。こういうのが日本には少ないんですよね。日本はどこかカテゴリーを決めて「○○スタイル」をつくっちゃうので。

あと旅といえば、かつて某ステーショナリーブランドの代表と旅をしたことがあって、そのひとは感覚の使い方に長けていました。デザイナーではないんですが、土地のもつ湿度、空気、気温、ひとの体温……こういうものをステーショナリーに落とし込もうとするんです。「あそこに行ったときのワクワクした感じ」というのをモノに込めれば、その土地に行ったことのないひとでも気持ちが伝わるだろうと。なんだか精神世界的なことを言っているようですが、こうした感覚を紙質や文字の一行にまで昇華するんですね。あきらかにグラフィックデザイナーとはちがう手法で。 こうした感覚って罫線一本でも伝わることがあるんです。おもしろいエピソードがあるんですが、まったく外装や質感がおなじノートをふたつつくって、ちがいといえばページの罫線。ひとつはパソコンでひいた罫線、もうひとつはひとがボールペンでひいた罫線をスキャニングして使用したもの。よく見ないとそのちがいはわからないんですが、ボールペンで引いた罫線のノートのほうが圧倒的に売れたんです。たしかにボールペンで引いた罫線はあたたかい感じがして。なにもアナウンスしなくてもユーザーは感覚的にくみとろうとするんでしょうね。

植木 とても興味深いお話ですね。

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YANAGIMOTO Kouichi

幼少のころ、植草甚一に影響を受けジャズと古本に目覚め、その後小学校1年生のときに発売された『Made in USA cartalog』でアメリカ文化の虜に。 そのころから古着と家具などを集めはじめる。その後、現在に至るま …