Jeff Mills 、日本科学未来館にて最新アルバム『Planets』について語る|INTERVIEW
LOUNGE / MUSIC
2016年12月27日

Jeff Mills 、日本科学未来館にて最新アルバム『Planets』について語る|INTERVIEW

MUSIC|2017年初頭発売予定アルバム『Planets』インタビュー

ジェフ・ミルズ約35年のキャリア集大成の中身とは(1)

ヨーロッパを中心に、世界の音楽・アートシーンを股にかけて活躍するエレクトロニックミュージック・アーティスト、ジェフ・ミルズ。今年3月に行われた東京フィルハーモニー交響楽団との共演や、テレビ朝日「題名のない音楽会」への出演で、日本でも従来のクラブファンのみならず、クラシック界やよりアカデミックなシーンでも話題となっている。そんな彼が来年、初めてオーケストラのために書き下ろしたという新作『Planets』をリリースする。CDフォーマットと5,1chサラウンド音源を収録したBlu-rayの2フォーマットでリリース予定のアルバム先行試聴会が、日本科学未来館の5.1chサラウンドシステム環境で行われた。同日、一試聴者として自身の作品を聴いていたミルズ氏に、『Planets』ついて語ってもらった。

Text by ASAKURA Nao

5.1chサラウンドシステムで宇宙旅行体験を

――『Planets』の制作はほぼ完了しているとのことですが、今の心境を教えてください。

今回のアルバムは私が2005年からクラシックを始めて、今まで蓄積してきたものの集大成といえますし、エレクトロニックミュージック界にとって大切なターニングポイントになるのではと考えています。そういった意味で全ての要素が入り交じっているものなので、マスタリングやミキシングなど、制作のプロセスで非常に気を使い、自分にとってベストなものができるように様々なことをリサーチしました。

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――日本科学未来館でミルズさんの新作アルバムを5.1chサラウンドで聴く、という大変貴重な体験をさせていただきました。ミルズさんも今日ここ日本科学未来館で聴くのは初めてとのことでしたが、いかがでしたか?

“惑星”の物理的な特徴をサラウンドで細かく表現しようとしましたが、予想通り、それがきちんと再現されていると思いました。部屋が大きければ大きいほどサラウンドの効果が大きいのですが、特に土星のところでそのサラウンド効果がうまく出ていたと思います。

――私も実際聴いてみた感想なのですが、とてもリラックスできると思いきや、途中でちょっと不安というか、緊張感みたいなものに襲われました。

不安感を得るのは当然ですね。というのは、この日本科学未来館の館長であり、スペースシャトルに日本人宇宙飛行士として初めて搭乗した毛利衛氏と話をしたときに、彼から聞いた体験談の中で、宇宙飛行士でさえも宇宙飛行に出ているとき、いかに不安な気持ちになっているか、死と隣合わせの旅をしているという話が印象に残っていて、美しい惑星も実際には人間には危険なところである、ということを表現しているからです。

例えば、ループトランジット(惑星間の移動空間を表現した楽曲)は、現時点では“空間”が“何もない暗闇”と思われているけど、もしかしたらそこに何かあるかもしれない。また、一番最後の曲が終わった後、サイレンス部分の音量を、そこに音があったらスピーカーが壊れてしまうくらい大きくしているのですが、それは私たち人間には聞こえないけれど、もしかしたら犬だったら何か聞こえているかもしれない。太陽系を越えたところに、人間には見えないし聞こえないけれど、何かあるかもしれない、というようなことを表現しているのです。

――まさに宇宙旅行の疑似体験をしたのですね。先ほどのトークセッションで、ご自身の集大成であるという『Planets』の着想は約10年前の2005年頃からだとのことですが、「宇宙」への興味は幼少期の頃からでしょうか?

小学校のころかな。60年代から70年代にかけて実施されたアポロ計画のころ、そういう宇宙飛行計画の話題が盛んで、例えば学校でも先生が生徒にテレビでNASAのニュースを見せたり、みんなの生活の中に溶け込んでいた。私の周りの友達もみんな興味があって、よくそういう話をしていました。宇宙飛行士がセレブリティでしたね。

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――そのまさに“宇宙旅行“をテーマにしたアルバムをリリースされるわけですが、制作の課程で苦労したことはありますか。

特にないですね。長年とても細かく各惑星のこと、そこからそこへどう旅するか、など全部書き出していたし、録音に関してもミュージシャンは皆プロだし、アレンジャーとも話をして何を表現したいかを分かり合っていたから、そこからはスムーズにできました。簡単ということではないけれど、前もって準備がきちんとできていたので、大変だったということはないです。

Page02. 惑星の科学的根拠に基づいた音作り

MUSIC|2017年初頭発売予定アルバム『Planets』インタビュー

ジェフ・ミルズ約35年のキャリア集大成の中身とは(2)

惑星の科学的根拠に基づいた音作り

――Planets』は100年前にリリースされたホルストの「惑星」を参考に、それらがギリシャ神話を基に制作されているのと反して、科学的・物質的根拠に基づいて制作したと伺いました。個々の曲は、どんなことをイメージされて創作したのですか?

各惑星の物理的な特徴に基づいて、想像力を働かせました。例えば大きく分けて、惑星は岩石でできているものとガスでできているものがあります。岩石でできているものは表面を歩いたりできるので、その感覚を音にしたり。また、地球から遠い惑星である冥王星や海王星はミステリアスな雰囲気の音にしたり、土星の回転は一番早いのでそれを音で表現したり、土星の輪がアナログレコードに似ているので、その溝のループを聞いているみたいな感じにしたりとか。

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――惑星の中でも思い入れのあるというか、お気に入りの惑星はありますか?

火星かな。特に意味はないんだけど…。あと90年代に土星に興味を持って、「Discovers The Rings Of Saturn」という作品を作りました。そこからずっと土星には興味があるので、科学的な情報を常にキャッチしていて、新しい情報がだいぶ集まったのでそのプロジェクトを2000年代にやり直したりしましたね。

――科学者が惑星で新しい発見をしたら曲を追加していくということですが、例えば既存の惑星に新たな発見があったら、曲を作り変えるのでしょうか。

そうですね。例えば火星に生物が見つかったらそれは大発見なので、生物がいる地球に似たような曲に作り変えるかもしれない。希望としては、その作業を誰かに引き継いでもらって、私の死後もずっと続けて欲しいです。

次回作のテーマ「ブラックホール」について

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――『Planets』の次のプロジェクトは「ブラックホール」がテーマだとお伺いしたのですが、構想はありますか?

ブラックホールを抜けた先がどうなっているのかというテーマで5つくらいのシナリオを考えています。もしかしたらまるっきり別の次元に行くかもしれないし、パラレルユニバースのような平行した別の宇宙があるかもしれないし、あるいは全くの“無”かもしれない。そういう5種類のシナリオを表現しようと思っていますが、具体的にどういう音作りをするかはまだ考えついていません。94年位からブラックホールに興味があって、先ほどの土星の話のときに出た「Xシリーズ」の「X104」として制作しようと思っていたのですが、それが途中でなくなってしまっていた。それから年月を経てブラックホールの情報がかなり貯まったので、そろそろよい時期にきているのではと思っています。

――楽しみですね。やはりダークな感じのアルバムになるのでしょうか。最後に、プライベートにおいての10年後の目標などあったら教えてください。

おそらくDJなどで世界を回るのは減っていると思いますが、その分時間ができていると思います。10年後にはもっと新しい発見があるだろうから、その分それらをテーマにレコーディングをしたい。たぶん、今よりももっと曲作りをしていると思います。

――プライベートも“アーティスト”なのですね。ありがとうございました!

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Jeff Mills | ジェフ・ミルズ
1963年アメリカ、デトロイト市生まれ。現在のエレクトロニック・ミュージックの原点ともいえるジャンル“デトロイト・テクノ”のパイオニア的存在。Axis Records主宰。DJとして年間100回近く世界中のイベントに出演する。音楽のみならず近代アートとのコラボレーションも積極的に行い、2007年、フランス政府より日本の文化勲章にあたる芸術文化勲章Chevalier des Arts et des Lettresを授与される。2013年、日本科学未来館館のシンボル、地球ディスプレイ「Geo-Cosmos(ジオ・コスモス)」を取り囲む空間オーバルブリッジの音楽「インナーコスモス・サウンドトラック」を作曲。現在もその音楽が使用されている。2005年、モンペリエ交響楽団との共演をきかっけに開始したミルズとオーケストラの公演はこれまで全世界ですべてソールドアウト。エレクトロニック・ミュージック・シーンのパイオニアでありながら、クラシック音楽界に革新を起こす存在として世界中の注目を浴びている。
http://www.axisrecords.com/jp/
http://www.umaa.net/who/Jeff_Mills.html

ジェフ・ミルズ&ポルト・カサダムジカ交響楽団『Planets』
発売日 2017年2月22日
初回生産限定盤[CD+ Blu-ray] ¥3,800(税抜) UMA-9090-9091
通常盤[CD2枚組] ¥2,800(税抜) UMA-1090-1091
*初回生産限定盤、通常盤共にJeff Millsによるセルフライナーノーツ/ライナー・ノーツ三田格(ele-king)封入。

[限定盤]
Blu-ray
ファイナル・オーケストラ・ヴァージョン
<5.1ch、ステレオ音源を切替可能。特典インタビュー映像:Jeff Mills 、Sylvain Griotto (アレンジャー)、Christophe Mangou (指揮者)>
CD
オリジナル・エレクトロニック・ヴァージョン<ステレオ>

[通常盤]
CD1
ファイナル・オーケストラ・ヴァージョン<ステレオ>
CD2
オリジナル・エレクトロニック・ヴァージョン <ステレオ>

Tracklist
1. Introduction
2. Mercury
3. Loop Transit 1
4. Venus
5. Loop Transit 2
6. Earth
7. Loop Transit 3
8. Mars
9. Loop Transit 4
10. Jupiter
11. Loop Transit 5
12. Saturn
13. Loop Transit 6
14. Uranus
15. Loop Transit 7
16. Neptune
17. Loop Transit 8
18. Pluto

詳細:http://www.umaa.net/what/planets.html

【来日コンサート情報】

爆クラ!presents
ジェフ・ミルズ×東京フィルハーモ二交響楽団×バッティストーニ クラシック体感系Ⅱ -宇宙と時間編

[大阪公演]
日時:2017年2月22日(水) 18:00開場/19:00開演
会場:フェスティバルホール

[東京公演]
日時:2017年2月25日(土) 17:30開場/18:00開演
会場:Bunkamura オーチャードホール

チケット価格(税込/大阪・東京共通):SS席8,800円/S席 7,800円 /A席 6,800円
チケット発売日:2017年1月14日(土) 10:00 〜(オフィシャルサイト先行受付あり)
出演(大阪・東京共通):
DJ:ジェフ・ミルズ
指揮:アンドレア・バッティストーニ/オーケストラ:東京フィルハーモニー交響楽団/ナビゲーター:湯山玲子

<イベント/オフィシャルサイト>
http://www.promax.co.jp/bakucla/

           
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