auスマートパス責任者 大野氏が語る、日本と世界の未来予想図 | au
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2020年10月19日

auスマートパス責任者 大野氏が語る、日本と世界の未来予想図 | au

au|渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト 

2030年 人類は仮想空間で新たにつながっていく

携帯電話などの通信事業を中心に、各種ITサービスなど幅広い事業領域を持つau( KDDI)。同社には、革新的で先見性のある才能豊かな人材が数多く存在する。今回は、音楽や映画、スポーツなどのエンターテイメントからショッピングに至るまで、さまざまなサービスを提供する「au スマートパス」の責任者である大野高宏氏が登場。
現在1500万人以上の会員を有し、直近では2Dマルチアングルの映像サービスなど挑戦的なコンテンツを投入。さらには他社キャリアのユーザーにも「au スマートパス」を解放するなど、意欲的な取り組みを多数おこなっている大野氏が考える2030年の未来予想図。その世界はいかに?

Text by TOMIYAMA eizaburo|Photo by TAKASE tatsuya

VR空間にのべ100時間滞在してわかったこと

大野 コロナの騒動がおこるちょっと前、すでに社会が大きく変わろうとしているのを感じました。そこで、日常の仕事とは離れて「2030年はどんな未来になるんだろう?」という率直な疑問をまとめてみたんです。「Tomorrow Land」と名付けていますが、将来的にはKDDIの事業にもつなげていこうという思いがあります。
まず最初に、のべ100時間、VR空間でさまざまなコンテンツを体験してみました。『オキュラス クエスト』のようなVRヘッドセットの世界ってすごいんです。没入感もすごいのですが、Youtubeを見たときも・・・、わかりやすく言うと100インチのテレビが目の前に広がっているようなもの。これからの未来、映画や映像の表現は確実に変わっていきます。とくにSFや大自然ものは親和性が高い。『スターウォーズ』や『ジュラシック・パーク』がVR向けの映画作品を作ったらすごい臨場感になるだろうと思います。
――『ジュラシック・パーク』は想像するだけで凄そうですね。

VRデバイスはより軽量で手軽なものになる

大野 VRデバイスに関しても、サングラスのような軽量で手軽なものが登場してくる。ワンタッチでリアルとVRの視界が切り替わるので、イヤフォンをするように、電車や車(自動運転)でもかけるようになるでしょう。VRモードでも自分が降りるひと駅前に通知が来たりもする。また、周囲の人々の心拍数や体温を計測して、事前に危険を察知したりもできる。あとは手の感覚、触覚の世界もどんどん進化していくでしょうね。

私たちは自分そっくりのバーチャル・ヒューマンを作るようになる

――手の感覚というと、現実世界のロボットを遠隔操作する「テレイグジスタンス(遠隔存在)」の世界ですね。
大野 そうです。それらの技術は、超リアルなCGである「バーチャル・ヒューマン」と共に、VR空間でも活用されていきます。バーチャル・ヒューマンに関してはすでにアパレルの『GU』社など、プロモーションの世界で起用されています。今後は肌の質感や体温の表現がよりリアルに近づき、服装の着せ替えも自由自在になっていく。そうなると、誰もが「自分そっくりのバーチャル・ヒューマン」(アバター)を作ってVR空間を移動し、洋服を買っておしゃれを楽しむようになる。そうなると、リアルとほぼ変わらない交流が生まれてくる。
――アバターを自分そっくりにするかどうかは、匿名か本名かみたいなSNSのような議論も生まれそうです。でも、多様性の考えが浸透していくと、みんな自分という存在にプライドを持つのかもしれない。
大野 それはあるかもしれないですね。実際、大学生とかに聞くと自分そっくりのバーチャル・ヒューマンはすごく評判がいい。つまり、Facebookとtwitterの匿名アカウントのように使い分ける世界になるのだと思っています。
――たしかに、そういう感じにうまく使いこなしそうですね。

Z世代はソーシャルグッドに敏感

大野 では、そんな2030年に消費を担っているのは誰か? 人口減少社会とはいえ、ミレニアムズやZ世代と呼ばれる人たちが生産人口の約60%を占めるようになります。私の娘が12歳ですが、2030年だと社会人一年目くらいになる。そこで、娘のクラスメイトにアンケートをお願いしました。さらに、20~50代の友人知人、計30人ほどにインタビューをしたのです。
娘の世代はデジタルネイティブですから、企業広告よりもインフルエンサーの口コミを信用する。これはすでによく知られていることです。そして、友情のきっかけをネットで作ることに違和感がない。また、「お金よりも信用」を大事にする。信用とは何かというと「フォロワー数」だったりするわけです。さらに、「ソーシャルグッド」(社会貢献活動や支援)に敏感です。彼ら彼女らは旅行に行っても朝にビーチクリーンをしたりするんですよ。「良い行動を思い出にしたい」と考えている。
私のような段階ジュニア世代にとっては「そんなの偽善じゃない?」と思うのですが、本当に素直にやっているんですね。そこは尊敬すべきところです。
もうひとつ大きな違いは、「世界市民」とも言うべきアイデンティティを持っている。日本の中学生にも非常に多くのK-POPファンがおり、それは世界的な現象です。つまり、生まれ育った国の文化みたいな概念がなくて、たまたま日本に住んでいるという感覚がある。また、無駄なものは買わずにシェアする「ミニマリズム」の感覚も強い。さらに、コロナを機に「働き方」が変わってきて、時間に縛られるという概念もなくなってきています。
――かわいい、かっこいい、正しいなどの感覚が、世界共通になっているのは感じます。

技術は進化しても人間の欲求は変わらない

大野 未来予測をするときは、「人間の根源的な欲求は変わらない」という視点を大事にしています。さまざまな方にインタビューをしていても、恋人、友人、メンターなどと「出会いたい」という思いが強い。また、旅行やライブ、スポーツやファッションといった「見たい、遊びたい」、フィットネスやカウンセリングのような「健康を維持したい」という欲求も強い。
さらに、「学びたい」という欲求も人間の本質です。5Gなど通信の進化により、今後は距離の概念がなくなるので、遠くに住むプロフェッショナルから学びを受けるチャンスも広がってくる。ミドル世代の男性は趣味への興味が高いので、そこも発展性があるかなと思っています。
――生身の人間は、哀しいほど何も変わってないですからね。

人類は17世紀以前のような「つながり」に戻る

大野 次にマクロな視点に切り替え、世界はどういう方向に進むのかを考えました。そこでのキーワードは、先ほどの述べた「世界市民」という「アイデンティティ」です。
振り返ってみると、現在のような国家単位の概念は18世紀以降に生まれたものです。人類の歴史から見ると浅い。それ以前はどうだったかと言えば、「多民族・多言語・多宗教」を内包しながらも大きな領域を統治する「ローマ帝国」の時代。
領土はあるけれども、そこに住んでいる人たちは「自分は●●国出身です」という自覚はあまりない。国単位のクローズドな意識はなく、もっとゆるくつながっている。その時代に戻るのではないかと考えています。
「多民族・多人種・多宗教」を内包しつつも大きな領土。それって、GAFA(グーグル/アマゾン/フェイスブック/アップル)や、BAT(バイドゥ/アリババ/テンセント)がすでに実践していたりする。そんな時代にKDDIはどういうことをしていくべきかと考えたわけです。ここでも原点に戻るわけですが、KDDIは「日本の電話を安くする」というスローガンのもと、「人と人のつながり」を研究してきた会社です。この「人を結ぶ」という考えは、2030年になっても有効だろうと思うのです。

面白いことをやれば、ひとりでに世界中に広がる

――民族、人種、宗教を超えて使われるサービスということは、日本が黒船に駆逐される可能性もあるわけですよね?
大野 しかし、世界中でK-POPが人気なように、アジア発でも面白いことをやればひとりでに広がっていく時代でもあるんです。そのためには、ミレニアムズやZ世代のつながりたい思いをしっかり汲み取っていくことが重要です。
――具体的に、どんなつながりを考えていますか?
大野 通信の発達により、ニッチな趣味も含め、マイノリティな人たちがつながりやすくなります。また、「行きたいのに行けない」「行きたくないのに行かざるを得ない」「続けたいのに続けられない」というお客様の課題が解決できる。つまり、エンターテイメント、通勤・通学、フィットネスや学びの世界が変わってくるということ。
さらに、企業として社会課題の解決も率先してやっていくべきだとも考えています。少子化の改善、過疎化の改善、障害者や重病者が活躍できる社会など。通信はそういうこともサポートできると思うんです。

安全な出会い、交流をサポートしていく

――今後はそういった画期的なコンテンツやサービスを作っていきたいというわけですね。では、通信のインフラ提供者としてのKDDIは、今後どのようなことが求められるのでしょう?
大野 人間の本質的な欲求をVR空間で満たしていく際に、バーチャルでの出会いやつながりが、本当に「信用できるのか」「信頼できるのか」という点は問題になってくると思います。弊社はいろいろな個人情報をお預かりしていますので、安全なコミュニケーションをいかに作っていくかが課題になる。いざというときの抑止力にならなければいけない。お客様から「信用できる会社」だと思っていただくことは何より需要になると思います。

■プロフィール/
大野高宏|Takahiro Ono
KDDI株式会社 ライフデザインサービス企画推進部 部長
北海道出身。上智大学経済学部卒。1995年、KDD(現KDDI)入社。
1998年~1999年、KDDI米国子会社勤務(NYオフィス)。2011年よりベンチャー投資ファンド(KDDI Open Innovation Fund)の設立・運営に関わる。
現在は、ライフデザインサービス企画推進部部長として、1500万人の会員基盤を持つauスマートパスサービスの運営や、新規事業開発を担当。加えて、KCJ Group株式会社(キッザニアを運営)の社外取締役のほか、株式会社Loco Partners(宿泊予約サイトReluxを運営)、株式会社mediba(広告事業などを運営)を務める。
経済産業大臣登録 中小企業診断士。

                      
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