POGGY’S FILTER|vol.11(前編) 南塚真史さん、赤司竜彦さん
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2019年11月8日

POGGY’S FILTER|vol.11(前編) 南塚真史さん、赤司竜彦さん

小木“POGGY”基史氏がホストを務める『POGGY'S FILTER』の第11回目は、11月22日(金)にグランドオープンする新生「渋谷PARCO」2Fに誕生する、スタジオ「2G(ツージー)」にクローズアップ。「2G」は渋谷のギャラリーNANZUKAが運営する「アートギャラリー」、メディコム・トイ運営による限定BE@RBRICKを中心とした「アートトイショップ」、そしてディレクターにPOGGY氏と、DAYTONA INTERNATIONAL(デイトナ・インターナショナル)が手掛ける「セレクトショップ」の3つの要素から構成される、世界でも類をみないまったく新しいスタジオだ。ゲストにギャラリーNANZUKAオーナーの南塚真史氏、株式会社メディコム・トイ代表取締役社長の赤司竜彦氏をお招きして、「2G」のコンセプト、渋谷PARCOが果たしてきた役割、さらに昨今のアート、ファッション、トイを巡るボーダーレスな状況について語っていただきました。

Photographs by ISHII Fumihito | Text by SHINNO Kunihiko | Edit By KAWASE Takuro

急接近する、アート・ファッション・トイ

POGGY 南塚さんとお会いしたのは、2013年に田名網敬一さんとStussy(ステューシー)がコラボしたとき、ステューシーの沖嶋さんに紹介していただいたのが最初でしたね。
南塚 今度何かやりましょうって。それで2015年にうちでダニエル・アーシャムの展覧会をやったとき、POGGYさんにTシャツ作ってもらったんです。
POGGY 赤司さんはNEXUSVII(ネクサスセブン)の今野(智弘)君に紹介していただいたんです。今野君が昔のジェントルマンのおもちゃを作りたいということで。
赤司 そうでしたね。うちのSync.のブランドディレクターもやっている今野さんです。
POGGY それをユナイテッドアローズ&サンズで販売するという話だったんですけど……。
赤司 結局、実現しなかったんですよね。
南塚 そのおもちゃって人形ですか?
赤司 そうです。腹話術の人形みたいな大きいやつでした。ただ、古いものなので権利関係が追いきれず、顔を変えたら作れるけど、それだと今野さんのコンセプトと違うということで流れてしまって。
南塚 じゃあ、今度「2G」でPOGGYさんの顔のジェントルマン人形作ります? いろんな帽子を取り替えられるようにして(笑)。僕と赤司さんは、うちのギャラリーの所属アーティストである空山基、田名網敬一のBE@RBRICKを作ったこともあり、昔からいろいろやりとりさせてもらっています。
赤司 この3人で「2G」のプロジェクトを始めたのが約1年前ですかね。
POGGY そもそも最初はパルコさんから南塚さんにお話があったんですよね。
南塚 そのときはまだ具体的な話ではなくて、新しくなる渋谷パルコにアートのコンテンツがほしいということでお話をいただいたんです。ただ、NANZUKAとしてギャラリーをそのままパルコの中に持っていくという考えは、僕の中にはなかったので、2人の承諾を得ないままPOGGYさんとメディコム・トイさんとでひとつの店をやるんだったらいいよってパルコ側に打診したのです。そうしたら、パルコ社内からも、ぜひやりたいということになって。
赤司 実はほぼ同時期、うちにも違うフロアからお話をいただいていたんです。ただ、そのフロアのコンセプトがキャラクターやアニメーションのゾーニングだったのです。歩いて5分のところに1/6計画という直営店があるから、(コンセプト的に)ぶつかっちゃうなと思っていたところに南塚さんからお話をいただいて、それは面白いからやりましょうって感じでした。
POGGY 僕もめちゃくちゃ面白いと思いました。バイイングをやりながら感じていたのは、ここ数年ファッションウィークではない時期にファッション、アート、トイ、いろんなものをひとくくりにしてお客様に楽しんでもらうフェス的なものが世界中で増えているんです。例えば、アメリカだと「ComplexCon(コンプレックスコン)」、中国だと「YO'HOOD(ヨーフッド)」、Edison Chen(エディソン・チャン)がやっている「innersect(インナーセクト)」。僕も一度コンプレックスコンに行ったんですけど、メディコム・トイさんのBE@RBRICKに長蛇の列ができていたり、会場全体がかなり盛り上がっていましたね。
赤司 ああいうボーダーレスなイベントが各地で同時多発的に起き始めたのはとても面白い動きですよね。

パルコを作った男・増田通二にリスペクトを込めた「2G」

POGGY スタジオの名前を「2G」と名付けてくれたのは南塚さんです。
南塚 うちの所属アーティストの山口はるみを扱っている関係で、プレスリリースを書くときに、はるみさんが広告を手がけていたパルコの歴史について勉強する機会があったのです。創業社長だった増田通二(ますだ・つうじ)さんは、70年代に渋谷パルコを作るにあたって劇場とミュージアムを入れて、女性をクリエイティブディレクターにピックアップすることでブランディングした方なんです。ちょうど女性の社会進出が叫ばれるようになった時期で、のちの男女雇用機会均等法に結びついていくわけですけれども、そういう力に着目した増田さんの先見の明とフィロソフィカルな部分が他のデパートとの圧倒的な違いであり、パルコの個性だということでリスペクトを込めて「2G(ツージー)」という名前を提案したんです。
赤司 増田さんのことはもちろん存じ上げていたんですけれども、南塚さんからお話をいただいたときに、増田さんの著書『開幕ベルは鳴った−−シアター・マスダへようこそ』を読んで、どれだけ大変だったんだろうと思いました。場所も渋谷駅から1kmもある、こんな場所に作っても絶対に流行らないって、みんなに反対されたらしいです。
南塚 そういうネガティブな要素も克服できると思えるくらい、クリエイティブな力を信じていたんでしょうね。駅から近い場所に西武や東急があっても、やっぱり渋谷パルコのブランド力が公園通りエリアを発展させたと思いますし、ユースカルチャーの拠点になっていたのはすごく大きいです。ミュージアムとしてもKAWS(カウズ)の日本最初の個展(2001年3月16日〜4月16日「KAWS TOKYO FIRST」@パルコギャラリー)だったり、一般の美術館ではできないようなアーティストをたくさん招聘していましたから。
赤司 ちなみにパルコという名前は、最初「ビックベア」という名前になる予定だったそうです。
南塚 それはそれで面白いですね。今度10mぐらいのビックベアブリック作って置きましょうよ(笑)。
赤司 ただ、経済関係の教授からビッグベアは株価が荒れたり経済が停滞することを意味する言葉だから、やめたほうがいいと言われたそうです。いきさつを知ると、演劇を愛し、芸術を愛し、本当にものづくりを愛された方だったんだなっていう思いがすごく伝わってきたので、それを良いかたちで継承できたらと思いますね。沢村栄治の遺志を受け継いだアストロ球団のように(笑)。

3人が通過してきた渋谷パルコの思い出

POGGY 自分が札幌にいたときもパルコにはよく行っていましたし、1997年に上京して渋谷パルコのすぐ目の前にあったユナイテッドアローズ渋谷公園通り店で働いていたこともあるので、すごく思い入れがあります。ストリート系のグラフィティの展示会に行ったり、クアトロ(パルコが運営するライブハウスで渋谷クアトロは1988年にオープン)でライブを観たり、ファッション以外でも足を運ぶ機会が多かったので、このプロジェクトと「2G」という名前が一瞬で腑に落ちました。あとはいわゆる4G、5Gのデジタルな時代に、あえて「2G」というのも面白いですよね。
南塚 僕も中学生のとき、寒い中で正月のセールで並んだなぁ。
POGGY 南塚さん、パルコのグランバザールの広告を山口はるみさんが手がけていたじゃないですか。それは覚えていたんですか?
南塚 80年代のCMは、小さい頃に見た記憶がなんとなくあります。はるみさんと最初に会ったのは10年くらい前、空山さんの個展のオープニングなんですけれども、そこからうちで最初の展覧会(2015年2月28日〜4月4日「HARUMI GALS」@NANZUKA)をやるまで7年ぐらいかかりました。なかなか“うん”と言ってくれなくて。エレガントでおしゃれで可愛らしい方です。
赤司 素敵な方ですよね。自分のパルコの思い出としては、中学生のときに服は高くて買えないけど靴下なら買えると思ってお金を出したら、一足500円じゃなく5000円だったことがあって。
南塚 高っ!(笑) 
POGGY 買ったんですか?
赤司 要りませんとは言えなかったです(笑)。いろいろありますが、その記憶が一番残っていますね。当時のDCブランド、結構強気だったんです(笑)。
POGGY その頃からファッションが大好きだったんですね。赤司さん、sulvam(サルバム)とか、新しいブランドも相当チェックしていますよね。以前、着ていた洋服が気になって、“それなんですか”って聞いたら“M A S U (エム エー エス ユーという日本の20代のデザイナーがやってるブランドで、見ておいたほうがいいですよ”って言われて、展示会に行ったらすごく良かったのです。
赤司 この前の展示会は本当に良かったですね。私、ほぼフルライン買いました。売っているところがどこにもなくて、直接連絡したらショールームに来てくださいという話になって、昔のアーカイブを漁っていろいろ買わせてもらったんです。それでPOGGYさんに“絶対見るべきですよ”って言ったら早速バイイングを決めてくれて。
POGGY 来季の春夏から「2G」でM A S U を扱うことになりました。デザイナーが「LAILA VINTAGE(ライラ ヴィンテージ)」にいた人で、seven by seven (セブンバイセブン)の立ち上げにも関わっているのですね。
赤司 彼のデザインは、古着から来ていますよね。
POGGY 「2G」のセレクトショップではデイトナ・インターナショナルさんに協力していただいて、P-ROOM THE WORLD(ピー ルーム ザ ワールド)というレーベルをスタートします。また、扱うもブランドもMp Massimo Piombo(マッシモピオンボ)、ALYX(アリクス)、HYSTERIC GLAMOUR(ヒステリックグラマー)など。いろいろミックスした品揃えになると思います。古着も扱いますし、枠にとらわれずに自分なりにやらせてもらっています。

第一弾は空山基×ダニエル・アーシャムのコラボレーション

赤司 内装デザインはニューヨークを拠点とするSnarkitecture(スナーキテクチャー)というデザインチームが手がけているんですが、アートギャラリー、セレクトショップ、アートトイショップ、それぞれが完全に独立したスペースというわけではないんです。
南塚 ギャラリーは展覧会ができるセッティングになっていますが、そのアーティストとコラボレーションしたアパレルだったり、BE@RBRICKだったりをディスプレイするので、全体としての関連性は必ず出てきますし、特にメディコム・トイさんとPOGGYさんの境界はかなりクロスオーバーしていくと思います。うちで昔から作っている田名網や空山のTシャツを、海外のアーティストが見るとみんな“ウチでもやりたい”って言うんです。特にヨーロッパのアーティストは洋服とコラボレーションする機会がまったくないし、ギャラリーも閉鎖的なのでやらせたがらない。なので、僕は逆にどんどんやっていきたいですね。
赤司 このお話をいただいた時に、自分の頭の中で立ち上げたフラグが2つありました。ひとつは南塚さんがこのギャラリーでキャスティングするアーティストとのコラボレーション。もうひとつはアートに紐付くような若いクリエイターの作品を独自で作って、そこからシナジー効果が発生して、ゆくゆくはPOGGYさんが服を作ってくださるとか、南塚さんがキュレーションしてくださるところまで行ってくれるといいなぁと思っています。
南塚 ギャラリーの第一弾は「2G」のロゴを描いてもらった空山と、ダニエル・アーシャムのコラボレーション展になります。
POGGY 僕は二人の作品を使ったTシャツとパーカー、アルファ・インダストリーズに別注したMA-1、シャツ、ジャケット、iPhoneケース、モバイルバッテリー、retaWのカータグなどを作らせてもらいました。メディコム・トイさんのBE@RBRICKは塗装の仕方が左右で違うんですね。
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南塚 これを作るのは、すごく難しかったんじゃないですか?
赤司 とても難しかったです。構造的にメッキとウォータープリントを掛け合わせているんですけど、私もどうやって作っているのか、正直わかりません。しかもダニエルの要望でフラットではないラインでという指定があって、境目が曲線で分かれているんです。これはぜひ実物を見ていただきたいです。
                      
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