フェラーリプロサングエに北イタリアで試乗──快適性と多用途性を兼ね備えたオールラウンドスーパーカー|Ferrari
CAR / IMPRESSION
2023年4月5日

フェラーリプロサングエに北イタリアで試乗──快適性と多用途性を兼ね備えたオールラウンドスーパーカー|Ferrari

背の高さを意識させられることがまったくない

一方、街中からカントリーロードを経て、急峻なワインディンゴロードへと試乗のステージが変わると、プロサングエはもう一つの顔をのぞかせる。
あいにく積雪は道路サイドにかろうじて残っている程度で、路面はドライ、もしくは雪解け水によるウェット。低ミュー路での走りを試せないのは残念だが、スポーツカーとしてのプロサングエのポテンシャルを確かめるにはお誂え向きの状況といえるだろう。
「SPORT」「COMFORT」「WET」「ICE」という4つのモードで構成されるマネッティーノを「COMFORT」から「SPORT」に切り替え、ペースを上げる。
ヘアピンのようなタイトなコーナーと短いストレートが延々と続くドロミーティのワインディングロードでは、プロサングエはまさに水を得た魚だ。全長5メートル弱、ホイールベース3メートル超のボディが嘘のように、俊敏にコーナーを駆け抜けていく。
コーナーの頂点からストレートに向けてアクセルペダルを深く踏み込むと、タウンスピードではジェントルな振る舞いを崩さないV12ユニットが本領を発揮。レブリミットの8,250回転を目がけて一気にタコメーターの針を上昇させながら、2トンのボディをワープのごとく加速させる。
エンジン回転数が上昇するにつれ加速Gが直線的に強まり、それらとシンクロするかのように甲高い刺激的なサウンドが高まっていく様は、まさにフェラーリ製V12ユニットならではだ。
印象的なのは、エンジンサウンドのボリューム感だ。チーフテストドライバーのラファエル・デ・シモーネ氏によると、プロサングエのエンジンサウンドは音量ではなく音質を重視したそうだ。結果として、紛れもない官能的なV12サウンドを、ドライバー以外の乗員にも配慮したかのごとき、絶妙な音量で堪能できるのだ。
プロサングエには、ヴィークル・ダイナミクス・プロジェクト・リーダーのヤコポ・カネストリ氏が、「ダイナミクスの柱」と語る新開発のアクティブ・サスペンション・システムが採用される。
この世界初となるシステムは、4つの油圧式ダンパーそれぞれに48V電源で駆動するモーターとアクチュエーターを組み合わせ、減衰力をコントロールするというもの。ロール、ピッチ、伸縮だけでなく、サスペンションの弾性に関わるあらゆる要素も制御することで、どんなコンディションでも最大のグリップを確保するという。
コーナーでは、氏の言葉とおりロールやピッチが抑えられ、背の高さを意識させられることがまったくない。最低地上高が高い分、ドライバーの視点も高いが、フロアとシート座面の位置関係などドライビングポジションが他のフェラーリと等しいこともあり、まさにスポーツカーを操っている感覚なのだ。
カネストリ氏によると、このアクティブ・サスペンション・システムは反応が速いため、最大20Hzまでの車両のすべての挙動(ヨー・ピッチ・ロール)を制御でき、さらには路面状況にかかわらず、比類無い快適性を実現するとのことだが、強いコーナリングGがかかっている際も路面の凹凸を感じさせないフラットライドで、ボディはピタリと安定しているから、ドライバーは安心してハイペースで峠道を走り抜けていける。
ちなみに、マネッティーノが「COMFORT」の際はアクティブサスペンションのセッティングは「ミディアム」(ソフトも選択可能)、「SPORT」では「ハード」(ミディアム、ソフトも選択可能)となるが、いずれセッティングでも乗り心地はすばらしい。

完全に黒子に徹する最新の電子制御デバイス

ハンドリングも296GTBと同様、従来のフェラーリのようなシビアさが影を潜め、極めて自然な印象だ。ステアリングには適度な重みがあり、路面の接地感も十分に伝えてくれるから、安心してコーナーに入っていける。ブレーキシステムも296GTB譲りのバイ・ワイヤ式となるが、フィール、制動力ともにすばらしい。
ボディサイズを一切感じさせない、スポーツカーそのものの俊敏なスタンスには、812コンペティツィオーネ由来の、左右後輪の切れ角を独立して制御する4WSも大きな役割を果たしているのだろう。
一方、GTC4ルッソのために開発された4WDシステム「4RM-S」は、プロサングエに搭載するにあたり、SF90 ストラダーレの4WDシステムで制御ロジックに採用された技術を新たに採用。
コーナリング中にアクセルペダルを踏んでいくと、フロントアクスルのトルクベクタリングと、E-Diffによるリアタイヤへのトルク配分、4WSによって生み出される横力とを組み合わせて、最適なヨーマネージメントを行う。
かように最新の電子制御デバイスがてんこ盛りのプロサングエだが、特筆すべきはそれらが完全に黒子に徹し、主役たるドライバーに存在を意識させないことだ。
それゆえ走り出した瞬間から、ボディの隅々まで身体が延長したかのような一体感を得られる。少々背の高いボディに4ドア・4シーターというパッケージングながら、走り味は“跳ね馬”そのものだった。
試乗を終えてホテルに戻ると、ピカピカに磨き上げられていたプロサングエのボディは、雪解け水をはね上げた跡で泥にまみれていたが、その様がなんとも素敵なのが印象的だった。
雪道でも泥道でも路面を選ばず、高級サルーンのごとく家族4人が快適に移動でき、いざアクセルペダルを踏みこめば、いつでもV12がもたらす官能的なサウンドとフェラーリならではのパフォーマンスを堪能できる。
プロサングエは、悦楽に満ちた走りや息をのむ美しい内外装といったフェラーリならではの美点に、多用途性という新たなる特長を見事に融合させた、まさにオールランドスーパーカーだった。
ところで、EUが2035年以降はエンジン車を認めない方針を転換し、水素とCO2でつくる合成燃料の利用に限り、内燃機関が存続できる決定を下したのはご存じの通り。
かつてエンツォ・フェラーリは、「すべてのクルマの心臓はエンジンである」と語った。プロサングエのような、いまや希少種となった魅力的な“心臓”を持つクルマが、今後も“跳ね馬”の一員として我々を魅了し続けてくれることを願うばかりだ。
Ferrari Purosangue|フェラーリプロサングエ
ボディサイズ|全長 4,973 × 全幅 2,028 ×全高1,589 mm
ホイールベース|3,018mm
トレッド前/後|1,665 / 1,632mm
車両乾燥重量|2,033kg
重量配分 前/後|49% / 51%
エンジン|6,496 cc 65°V型12気筒DOHC
最高出力|725cv/7,750最大トルク|740Nm / 6,250rpm
最大トルク|716Nm/6,250rpm
最高許容回転数|8,250rpm
圧縮比|13.6:1
トランスミッション|8段F1デュアルクラッチ
駆動方式|4WD
タイヤ 前/後|255/35R22 / 315/30R23
乾燥パワーウェイトレシオ|2.80kg/cv
0-100km/h加速|3.3秒
0-200km/h加速|10.6秒
200km/h-0km/h|129m
最高速度|310km/h
価格|4760万円〜
問い合わせ先

フェラーリ
https://auto.ferrari.com/
https://www.ferrari.com/ja-JP/

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