3代目へと進化した新型スマート フォーツーに試乗|smart
CAR / IMPRESSION
2015年12月11日

3代目へと進化した新型スマート フォーツーに試乗|smart

smart fortwo|スマート フォーツー

3代目へと進化した新型スマート フォーツーに試乗

都市内の交通環境の改善策として開発された「スマート」。その3代目においても、ミニマルな外寸や、トリディオン・セーフティセルと呼ばれるボディ構造など、従来モデルを踏襲している。とはいえ、先代に比して全幅が100mm拡大し、エクステリアデザインも大きく変更されたのが印象的だ。4人乗りの「フォーフォー」に先んじて日本に導入された「フォーツー」に、モータージャーナリストの小川フミオ氏が試乗した。

Text by OGAWA FumioPhotographs by ARAKAWA Masayuki

50mm短縮された全長と、100mm拡大された全幅

もっとも小さい輸入車、スマートがフルモデルチェンジを受けた。日本発売は、2015年10月28日より。でも変更内容は小さくない。2人乗りの「fortwo(フォーツー)」と、4人乗りの「forfour(フォーフォー)」という陣容。前車はすでに路上を走りだしている。後者は2016年1月以降、日本市場に導入される予定だ。プラットフォームがあたらしくなるいっぽう、ミニマムな外寸というコンセプトとエンジンを後輪より後ろに搭載するレイアウトは引きつづき採用された。

forfourは、ルノーにシャシーを提供して、欧州では新型トゥインゴ(2015年の東京モーターショーで展示された)として販売されている。かつて三菱自動車と提携し、三菱「コルト」のシャシーをベースに製造されていたのと、立場が逆になったということができる。日本市場では、しばらく販売の空白期間があったが、「“万一のために”と、こちらのほうが販売台数増が見込める」と、輸入元のメルでセデス・ベンツ日本ではしている。

smart fortwo|スマート フォーツー

smart fortwo|スマート フォーツー

今回試乗に供されたfortwo。外観がぐっとあたらしくなった。スマートの親会社であるメルセデス・ベンツが「1.5ボックス」と呼ぶように、従来と較べてボンネットの存在感が強調されている。これは歩行者安全性を考慮した法規に従った結果だろう。全長2,755mm、全幅1,665ミリ、全高1,545mm(タワーパーキングも使える)。全長は従来より50mm抑えられたのに対して全幅は100mmも拡大している。印象としては、マッシブだ。

従来と同様、トリディオン・セーフティセルと呼ばれるシャシー構造が採用されている。通常のクルマのように構造材を外板で完全に覆っていない。構造の一部がリアクォーターピラーとして外部に出てくるというデザインが継承されている。この“セル”の部分と、構造材にならない部分とを塗り分けるカラースキームも、新型fortwoで採用されている。

形式はともかく、構成部材の見直しなどで、強度を高めると同時に、軽量化と衝突安全性の高さをバランスさせたトリディオン・セーフティセル。恩恵として、操縦性向上と、同時に軽量化による好燃費があげられている。

果たして操縦すると、意外な驚きが待っていた。

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3代目へと進化した新型スマート フォーツーに試乗 (2)

ドライバーとの一体感がフォーツーの身上

従来のスマートは、渋滞する都市内交通への解決策という、時代をかなり先んじた内容だった。それゆえ、知的で、クール。対して新型は、外観からしてホットだ。従来型が草食動物だとすると、あたらしいfortwoは肉食的なイメージがある。小さいくせに、ボディ面の作りや、そこにはめこまれた“吊り目”タイプの変型ヘッドランプのせいだろう。

エンジンは新開発の993cc直列3気筒。最高出力52kW(72ps)/5500rpm、最大トルク91Nm/2850rpmだ。数値的には“こんなもんかな”というかんじだが、実際はよく走る。スタートの加速はいいし、加速時の伸びも悪くない。燃費重視のおとなしいモデルでない。かといって、カリカリのスポーティさに振ってもいない。総じての印象として、街中で気持ちよい、きびきびと動くクルマ、というかんじだ。その印象は、ステアリングが大きく貢献している。操舵感は軽いのだが、ボディの反応速度はけっこう速い。1,873mmという短いホイールベースのせいもあるだろう。切り込むと間髪いれずに車体が向きを変える。ドライバーとの一体感は、軽自動車よりコンパクトな車体をもつfortwoの身上だ。

smart fortwo|スマート フォーツー

smart fortwo|スマート フォーツー

新型fortwoにおけるメカニズム的な眼目は、トランスミッションだ。従来はシングルクラッチの、ロボタイズドと英語では書かれる2ペダル式MTだった。それで変速時のぎくしゃく感があり、僕は個人的に最後までなじめなかった。それに対して新型は、ツインクラッチ式の6段が搭載された。エンジンとのチューニングもよく、ひんぱんに変速がおこなわれる街中での快適性がかなり上がった。

ギアの連繋もよく、変速時のショックを感じさせることなく、通常のモードではなるべく高いギアへと上げていき燃費をかせごうとする(JC08モードでリッター21.9km)。それでいて、加速が鈍ることはない。ただし、強めに加速しようとした時のみ、ギアの落ち方が遅くて、あれ、と思うことがある。

smart fortwo|スマート フォーツー

smart fortwo|スマート フォーツー

高速道路でも、安定性が増している。エンジンという重量物を後車軸より後ろに搭載しているが、速度が上がっても、操舵感が失われることはいっさいない。試乗のとき、恩恵を受けたかさだかでないが、「クロスウィンドアシスト」という装備も標準で搭載されている。横風によって進路が乱されそうなときは、コンピューターがブレーキなどに介入。直進性を保つ。しなやかな動きのサスペンションとともに、シティコミューターという小さな枠から、とびだしたのは快挙だ。

従来型とおなじだなあと思うのは、軽いドアの開閉の時ぐらいだ。とくにドアを閉めるとき、力を入れないときれいにロックがかまないのは相変わらずで、ちょっと苦笑してしまった。ハンドルがやや寝ているせいか、少し見下ろすような気分になるドライビングポジションもおなじみのものだ。でも、軽快感はぐっと上がっている。

上質感は、少なくとも日本のユーザーがかなり期待するものではないだろうか。それについて、期待はずれはないと思う。ひとつは室内騒音が低い。エンジンとギアボックスのノイズは、かなり抑えられている。これらの音源がリアにあるのも奏功しているだろうが、遮音は丁寧だ。ウィンドノイズや、タイヤと路面が擦れるノイズも目立って気になることはない。

fortwoには走りとともに、感心したことがある。

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3代目へと進化した新型スマート フォーツーに試乗 (3)

新型fortwoは、限定モデルとして販売

新型スマートfortwoは、やや室内の幅も広くなったし、荷室容量260リッターと日常的な使い勝手もいい。シート背後にちょっとしたものを置けるスペースが設けられているのも、たいへんうれしい気配りだ。回転半径が小さいのもスマートのセリングポイントである。ドライブシャフトに高価なジョイントを使わず、切れ角を大きくできるというリアエンジン車のメリットを活かしているのだ。全長2,755mmの車体とともに、楽にUターンができるし、細い道でも楽。試乗のとき、ありがたいと思う場面に何回か遭遇した。

スペースはなるべく切り詰めるべく設計したからだろう。ビルトインタイプのモニターは装備されない。そのため、オーディオコントローラーがある位置に、外付けのカーナビゲーションをつける必要がある。もうひとつは、スマートフォンの活用だ。

smart fortwo|スマート フォーツー

smart fortwo|スマート フォーツー

スマートでは、「スマートクロスコネクト」というアプリが用意される。ユーザーの携帯端末をナビゲーションとして使えるのだ。「まだベータ版の段階」と“ただし書き付き”の状態で試乗車を試してみたが、しっかり動いてくれた。スマート端末の活用については、サードパーティによる製品もいろいろ出ているので、なにを選ぶかは楽しみと考えるといいかもしれない。スマートクロスコネクトを使うと、オーディオのコントローラーは隠されてしまうことは付記しておきます。

感心したのは、マーケティングのやりかただ。新型スマートは、2人乗りのfortwoと、4ドアで4人乗りのforfourが、ほぼ同時に発売された。欧州ではシティコミューターとしてfortwo のニーズが高いようだが、日本では、先に触れたように、後者のほうが引き合いが多いとか。そこでメルセデス・ベンツ日本では、おもしろいマーケティングを導入した。

smart fortwo|スマート フォーツー

smart fortwo|スマート フォーツー

新型fortwoは、限定モデルとして販売される。今回は(親会社のメルセデス・ベンツで好評の)「エディション1」。内外装の異なる2モデルによるラインナップ構成だ。「ラバオレンジ」(199万円)はオレンジとブラックの2トーンの外板色。内装は元気を与えてくれそうなオレンジが基調である。もうひとつは「ミッドナイトブルー」(204万円)。深夜というより南欧の海を思わせる独特なあざやかさをもつブルーと、シルバーで塗られたセル部分との組み合わせになる。内装はホワイトが中心だ。

エディション1のラバオレンジとミッドナイトブルーは、各220台のみの販売。そのあとはというと、「特別仕様を途切れることなく投入していく予定」(輸入元のメルセデス・ベンツ日本)という。forfourより年齢を若く設定したターゲットの需要喚起の手段だ。このマーケティングがはたして成功するか。興味ぶかい。それとともに、どんな仕様が今後導入されるか。それも楽しみだ。僕個人としては、欧州にある、マットブラック(ホイールも黒い)は、40歳をすぎた大人の男に似合うと思っている。

smart fortwo edition 1|スマート フォーツー エディション 1
ボディサイズ|全長 2,755× 全幅 1,665 × 全高 1,545 mm
ホイールベース|1,875 mm
トレッド 前/後|1,470 / 1,430 mm
重量|940 kg
エンジン|999 cc 直列3気筒
ボア×ストローク|72.2 × 81.3 mm
圧縮比|10.5 : 1
最高出力| 52 kW(71 ps)/ 6,000 rpm
最大トルク|91 Nm / 2,850 rpm
トランスミッション|電子制御6段ダブルクラッチ
駆動方式|RR
サスペンション 前|マクファーソンストラット
サスペンション 後|ドディオン
ブレーキ 前|ディスク
ブレーキ 後|ドラム
タイヤ 前/後|165/65R15 / 185/60R15
燃費(JC08モード走行)|21.9km/ ℓ
トランク容量|260-350 ℓ
価格|204万円(ミッドナイトブルー) 199万円(ラバオレンジ)
販売台数|全国限定各220台

問い合わせ先

smart

http://www.smart-j.com/

           
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