ART FILE 35|一新したヴァン・ゴッホ美術館を訪れる|連載「世界のアート展から」
LOUNGE / ART
2015年4月14日

ART FILE 35|一新したヴァン・ゴッホ美術館を訪れる|連載「世界のアート展から」

ART FILE 35|オランダ・アムステルダム|ヴァン・ゴッホ美術館

一新したヴァン・ゴッホ美術館を訪れる(1)

昨年、大規模なリニューアルをおこなったオランダ・アムステルダムに位置する「ヴァン・ゴッホ美術館」。その全貌を探るべく、OPENERSは今年の2月に美術館を訪れ、20世紀の芸術界にもっとも影響力を及ぼした巨匠画家ヴィンセント・ヴァン・ゴッホの名作と、彼の生涯をあらたな形で再発見した。

Text by Winsome Li(OPENERS)

自画像の背後に隠されたストーリー

ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ(以下、ゴッホ)は、芸術家として歴史に名を残したと同時に、その壮絶な人生も広く知られている。世界で一番ゴッホの作品を収蔵するヴァン・ゴッホ美術館は1973年に設立され、200点もの作品とゴッホの肉筆手紙を多数展示している。このたび一新したヴァン・ゴッホ美術館は数かずの名作のほか、彼の人生に起こったさまざまな事件や心の葛藤、そして自ら命を絶つまでの彼の生涯の出来事を、展示の一部として論じているのが特徴だ。

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美術館の入口を進むと、12点の自画像がずらりと並んでいる。色彩や人物の表情描写を練習するために、自ら被写体となって多くの自画像を生み出した。スペースのセンターに立つ3点の自画像はそれぞれグラススタンドに配置され、絵の表と裏両方から鑑賞できる形になっている。多くの観客はそこで知ることになるのだが、実はこれらの自画像の裏には、それぞれ違う絵が描かれている。当時、生活が厳しかったゴッホは、画材代を節約するため、初期に描いた完成に満足できない絵のキャンバスを無駄せずに、両面とも使用したという。また、自画像を描くことはゴッホにとって、深い意味がある。「イーゼルの前で自画像を描いているとき、ようやく自分は生きていると感じられる」とゴッホは書き残している。

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このスペースで特に注目すべき作品といえば、ゴッホが1988年に描いた自画像である。絵の右下には“Vincent 88”とゴッホ自ら記載したサインと年号が。ゴッホが作品に署名するのは珍しく、そのことからも、彼がこの自画像をかなり気に入っていることが見てとれる。

また、ゴッホはとくに農家生活と自然に関心が高く、『馬鈴薯を食べる人々(1885)』や『寝室(1888)』『向日葵(1888)』など、彼の初期作品(1883-1889)には農夫をはじめ、自然風景や植物を題材にした作品が多く見られる。


ART FILE 34|オランダ・アムステルダム|ヴァン・ゴッホ美術館

一新したヴァン・ゴッホ美術館を訪れる(2)

肉筆手紙から読み取るゴッホの人生

ゴッホは文才にも長けていた。彼は生涯を通じて実に820通もの手紙を書き残し、ほとんどの手紙は兄、そして、腹心の友でもあるテオ宛てに送られたものだ。美術館の2階には、実物の手紙とともに、手紙の内容を音声として聞けるオーディオガイドも設置されている。画家の苦悩、生死、愛……ゴッホは自分のさまざまな心情を字句に流露した。膨大な数の手紙は芸術家として、個人としての心境を深く洞察できる貴重な源でもある。そのほか、ゴッホが製作したおよそ1100点の設計図やスケッチのうち、半数ほどが美術館にディスプレイされている。

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最上階はゴッホが晩年(1889-1890)に制作した作品を中心に展開されている。1888年、ゴッホはパリ・サン=レミの精神療養院に入院した。精神病と闘うゴッホは、入院中にもかかわらず絵の制作に没頭し、より独特な作風に進化していった。その時期に描いた『アイリス(1889)』や『花咲くアーモンド(1890)』など、数かずの代表作をこの階で見ることができる。

ゴッホの作品は後世のアーティストに広く影響を及ぼしている。そのひとりはイギリス出身の芸術家、フランシス・ベーコンである。彼が手がけた大作『ヴァン・ゴッホ像のための習作VI』は、昨年の11月よりゴッホ美術館に展示されている。フランシス・ベーコンは第2次世界大戦で焼失したゴッホの作品『The Painter on the Road to Tarascon』を再解釈し、本作品を制作したという。また、以前は白で統一されていた館内の壁はリニューアル後、それぞれの階に展示する作品のテーマを反映し、各階ごとに壁が異なる色に塗りわけられている。

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ヴァン・ゴッホ美術館の館長を務めるアクセル・ルーヒャー氏は、リニューアルした美術館について「我われは彼の過去を回顧しながら、彼の作品をどう未来につなぎ、そして、なぜ彼は125年も後世にインスピレーションを与えつづけているのかということを考えてみました。ゴッホのアートと人生をあたらしいアプローチで解釈し、彼の精神世界を伝えていきたい」と語った。

ゴッホ没後125年となる今年、生まれ変わったヴァン・ゴッホ美術館で彼の人生を振り返ってみてはいかがだろうか。

ヴァン・ゴッホ美術館
開館時間|9:00~18:00(土曜~木曜)、~22:00(金曜)※季節により変動あり
定休日|なし
入場料|17ユーロ、18歳未満は無料
住所|Paulus Potterstraat 7 1071 CX Amsterdam
http://www.vangoghmuseum.nl/en

           
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