INTERVIEW|『正しい恨みの晴らし方』発売記念、著者が語る“建設的”ライフのすすめ
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2015年3月4日

INTERVIEW|『正しい恨みの晴らし方』発売記念、著者が語る“建設的”ライフのすすめ

INTERVIEW|特別対談 中野信子 × 澤田匡人

『正しい恨みの晴らし方』発売記念
著者が語る“建設的”ライフのすすめ(1)

大人になっても「妬み」「嫉妬」は存在する。「どうして、あの人だけいつも優遇されるんだろう」「なぜ親友の結婚を心から祝福できないのだろう」。こうしたネガティブな感情はどこからやってくるものなのか? OPENERSでは、2月3日に共著『正しい恨みの晴らし方』を刊行した中野信子氏、澤田匡人氏を招き、ネガティブな感情の正体と、それらをうまくコントロールして建設的に生きるための秘訣をうかがった。

Photographs by KAMIYAMA YosukeInterview & Text by TSUCHIDA Takashi

「妬み」「嫉妬」を上手く使って自分を成長させる

――「妬み」「嫉妬」を把握して、むしろ上手に利用してしまおう。それがこの本の主旨だと思いますが、そもそも、なぜこのような新書を出そうと思ったのですか?

澤田匡人(以下、澤田) この本は、私が運営しているウェブサイトのタイトルそのまま。私の研究テーマが「妬み」「恨み」についてなんです。

中野信子(以下、中野) 澤田さんは、ご存知のとおり、ネガティブ感情の研究者なんですね。

ところで昨今のビジネス書を眺めてみると、「こうすると成功する」「こうすると人生が上手くいく」といった類の本が多いように思いませんか? すごく息が詰まる書棚になっていると、私は感じているんです。

――どの本からもガンバレ、ガンバレというメッセージが聴こえてきそうです。

中野 そういう風潮が、ちょっとツラいと思っていて。本当はもっと、ちゃんと自分と向き合いたいんじゃないかなって。

ただ、それを脳科学だけで解いてしまうと、神経細胞や脳の仕組みの話になり、冷たい印象となりかねません。そこで、心理学の研究者である澤田さんと一緒に共同執筆することで、より日常に寄り添った話が展開できると思ったんです。

INTERVIEW|特別対談 中野信子 × 澤田匡人「“建設的”ライフのすすめ」

――本のなかで、おふたりの立場も記されています。なぜ心理学者になったのか。なぜ脳科学者になったのか。それはご自身のネガティブな感情と、どう付き合っていくかを真摯に考えてきた結果だったと。

中野 学者といっても、悩みを持って生きているひとりの人間です。そうしたことも包み隠さず書きました。

澤田 妬んじゃダメとか、いじめちゃダメとか、そういうことを言われたって、実際にネガティブ感情は存在するんです。それを無視して、頭ごなしに人生の応援歌ばかりを聴かされても息苦しいですよね。

――この本には、「メタ認知」という実践手法が紹介されています。

中野 はい。コントロールできることといったら、それしかないんですね。

「妬み」「嫉妬」といった感情は、だれもが持ちたくないと思う。でも“持ちたくないと思う”ということは“自然に持ってしまう”ということですよね。それはつまり、持つ意味があったからなんです。生き延びるために必要だったから、ネガティブ感情が生まれたんですね。ですから本来、この感情はコントロールできるものではない。

ところが人間には前頭前皮質という脳の特異領域があります。この前頭前皮質で、「妬み」「嫉妬」を上手く使って、自分を成長させることもできる。つまりネガティブ感情と上手く付き合うには、この場所を鍛えるしかないんです。そういうスタンスから「メタ認知」という手法を紹介いたしました。

ネガティブ感情の存在を認めることが、はじめの一歩

INTERVIEW|特別対談 中野信子 × 澤田匡人

『正しい恨みの晴らし方』発売記念
著者が語る“建設的”ライフのすすめ(2)

ネガティブ感情の存在を認めることが、はじめの一歩

――衝撃的ですよね、「メタ認知」の考え方って。なるほど、そういうやり方ってあるんだって。しかも教えてもらわなければ、わからないですしね。

INTERVIEW|特別対談 中野信子 × 澤田匡人「“建設的”ライフのすすめ」

中野 そうですよね。悔しさを晴らすためには、相手にも痛い目に合わしてやれって思いがち。それも、また自然なことです。

ただ、その感情が人間にとって有利だった時代は、おそらくすでに終わっています。現代社会では、ネガティブ感情を活用して「自分の利ざやを増やす」「自分が成長する」「自分の稼ぎを増やす」、そうした結果を導くことが得になる恨みの晴らし方なんですね。

――「メタ認知」ができると、人生のなかで大きなハードルがやってきても、越えられそうな気がします。

中野 そういう風に思っていただけたら、とても嬉しいです。

――ネガティブ感情そのものは、この先、進化していくものですか?

澤田 たとえば、自分がほしいものを相手が持っていること、あるいは自分の取り分が減ってしまうのではないかという思い込みが、妬みの根源にあるわけですが、中野さんはどう思われますか?

中野 社会が豊かになってきていることから考えると、ネガティブ感情は減っていくものと思います。なぜなら、妬みというのは相手の持っているリソースを奪う方向に働くのですが、相手が持っているリソースを奪っても消化しきれないほど豊かであれば、もう妬む必要はありません。

澤田 とはいえ、なくなるものでもない?

中野 なくなるまでには、世代を経ないといけないので、まだかなりの時間がかかりそうです。

――ズバリ、うかがいますが、この本で書かれているノウハウを得て、私たちはどのように生きていけばいいのでしょう?

澤田 「妬み」「恨み」「嫉妬」「義憤」、そうしたネガティブな感情というのはすべて苦痛です。だから私たちは見て見ぬ振りをしますが、まずは、そういう感情を持っていることに気づくことが第一歩。

逆に、持っているのに、それに気づけないのはもったいないことなんですね。

INTERVIEW|特別対談 中野信子 × 澤田匡人「“建設的”ライフのすすめ」

かつて『ドラえもん』の話のなかに、痛みがなくなる道具が登場しました。「僕、電車に轢かれたけど、ぜんぜん痛くなかった」と、登場人物が語ります。しかし、電車に轢かれたら確実に死にますよね。

要するに、苦痛が私たちに教えてくれるのはなんらかのシグナルです。そのシグナルにいつまでも気づかないと、身を滅ぼしてしまう。

この本では、皆、さまざまな問題を抱えているなかで、自分の苦痛に気づき、その苦痛をどう利用していくかのヒントを盛り込んだつもりです。苦痛をなくすのではなく、最大限に利用してしまおうというのが、この本の主張なんですね。

中野 “なくす”という考え方は、西洋医学で言うところの抗生物質ですべての菌を死滅させる発想です。私たちは、ついそういう結論に持っていきがちですが、感情だって生き物であり、もともと必要があって生じたものですから。その感情を使って、より良い結果を導く方が得策ですね。

つまり、“恨むのも才能のうち”。

――なるほど。

「メタ認知」は、現代を生きるサバイバルツール

INTERVIEW|特別対談 中野信子 × 澤田匡人

『正しい恨みの晴らし方』発売記念
著者が語る“建設的”ライフのすすめ(3)

「メタ認知」は、現代を生きるサバイバルツール

中野 “恨みを持つ”ということは“恨みを持つ力がある”ことです。

澤田 そのエネルギーは、自分が傷ついたことの証左。傷ついていることを自覚することが大切です。

中野 そうですね。そして自分にも“恨む力”があることを受け止めてほしい。一旦、自分の状態をありのまま引き取るんです。「いま、わたしは恨んでいるんだな」って。

次に、どうしたらそれを晴らせるのか、どうしたら心地良くなるのかを丁寧に考えてください。

自分が持っている価値をもっとも高めるための方法を熟考し、その方向へと状況を持っていく。それが正しい恨みの晴らし方ではないでしょうか?

――それが「ネガティブ感情をコントロールして、建設的に生きる」ということなんですね。

澤田 ちなみに「相手を見返す」とよく言いますが、これほど無意味な行為はありません。自分のことを馬鹿にしてきた人を見返してやる、というのは、相手に自分の人生をコントロールされているようなもの。自分のことを馬鹿にしてきた人に、私は褒められたいんです、と言っていることと一緒ですね。

中野 澤田さんは、いますごく重要なポイントをおっしゃっていて。恨むときに陥りがちなのは、恨んでいるその人の基準で自分の人生を見てしまうことなんです。けれども、そのスタンスを変えない限り、恨みは決して消えません。たとえ、どんなにその人のことをやっつけたとしても。

自分の評価は、自分の基準で決める。そのことに気づいたときに、恨みは自分自身を輝かせる宝に変わるんです。その経験は自分の力となり、自分をさらに高める原動力になります。

つまり価値基準を自分に引き寄せるためのトレーニング手法のひとつが「メタ認知」なんですね。

――「メタ認知」は、現代を生きるサバイバルツールですね。宗教などに頼らず、自分らしく生きていく砦となりそうです。本日は、興味深いお話をありがとうございました。


『正しい恨みの晴らし方』に記されている「メタ認知」を会得すれば、「妬み」「嫉妬」といったネガティブ感情を肥やしとして、自分が有利になる未来を創造できる。それは廃棄ゴミを再利用してエネルギーを作り出すエコ発電事業となんら変わらない考え方だ。

スマート社会における、スマートな感情制御。その指針として「メタ認知」は不可欠なスキルとなりそうだ。そんなことができる人間に私はなりたい。いや、あと数年後には、すでに“常識”となっているのかもしれない。

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中野信子|NAKANO Nobuko
脳科学者、医学博士。東京大学工学部卒業、同大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。2008年から2010年までフランス国立研究所で研究員として勤務。2013年から東日本国際大学客員教授、横浜市立大学客員准教授。研究のかたわら、さまざまなテレビ番組のコメンテーターとしても活躍する。http://ameblo.jp/nobukonakano/

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澤田匡人|SAWADA Masato
心理学者。心理学博士、臨床心理士、臨床発達心理士。筑波大学人間学類卒業、同大学院心理学研究科心理学専攻博士課程修了。2007年より宇都宮大学教育学部准教授。日本感情心理学会常任理事、栃木県いじめ問題対策連絡協議会副会長。いじめと感情の研究に取り組みながら、わかりやすい授業実践にかんする研究や講演もおこなう。http://schadenfreude.jp/

『正しい恨みの晴らし方』
著者|中野信子+澤田匡人
発行|ポプラ社
価格|780円
発売中

           
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