新作「ラナ」にみるジャーマンプロダクトの魅力|STOWA

STOWA|新作「ラナ」にみるジャーマンプロダクトの魅力

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STOWA|ストーヴァ

デザインプロダクツ対談|建築家 谷尻 誠 × ライター 柴田 充

新作「ラナ」にみるジャーマンプロダクトの魅力(1)

ジャーマンウォッチを代表する名門ブランド「STOWA(ストーヴァ)」は、ドイツらしい質実剛健さで多くのファンに支持されている。旧ドイツ空軍のパイロットウォッチを手がけるなど定評のある機能美に、新作ではデザインというあらたな魅力がくわわった。それがフロッグデザインの創始者ハルトムット・エスリンガー氏が手がけた「ラナ(rana)」ウォッチである。今回はそのデザインとモノづくりについて、建築家、谷尻誠氏と時計ジャーナリスト、柴田充氏が語り合う。

Photographs by KISHIDA KatsunoriText by SHIBATA Mitsuru

シンプルの定義を変えたエスリンガー氏のフロッグデザインの功績

1969年ドイツで創業し、世界的なデザインコンサルティング会社となったフロッグデザインは、1980年代半ばから90年代初頭にかけて初期アップル製品のプロダクトデザインを担当したことで知られる。アップル製品のほとんどはデザイナー名が公表されないが、フロッグデザインは別格であり、そこに高いリスペクトがうかがえる。それを指揮したのがエスリンガー氏だ。

エスリンガー氏がデザインした「ラナ」ウォッチは、時計好きばかりでなく、アップルはじめプロダクトデザインに興味関心のあるマニアからも注目を集めている。そこでジャーマンデザインの特徴と革新性を通して、さらに広がるウォッチデザインの可能性について探る。

柴田 充(以下、柴田) ジャーマンデザインというとまず思い浮かぶのがバウハウスであり、とくにプロダクトデザインではブラウンに代表されるディーター・ラムズの作品ではないでしょうか。まさにモダンデザインの金字塔であり、すべてはあそこからはじまったような気がします。

谷尻 誠(以下、谷尻) そうですね。僕もディーター・ラムズは大好きです。機能美の一番根っ
こにある部分だと思います。それにしてもドイツデザインって安定感がありますよね。それがドイツらしさとなっているのがすごい。

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柴田 その系譜にあるのがフロッグデザインであり、初期のアップルは本当に衝撃的でした。「形態は機能に従う」というテーゼは揺らぐことなく、感性にも響いてくる。谷尻さんはフロッグデザインについてどのような印象?

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谷尻 ある種の空間要素だと思っているんですよ。たとえば建築でもお店を設計するとなると、店内だけを考えがちですが、お店というのは風景の一部であり、その要素でもある。つまりお店をつくることは街の一部を作ることだろうし、それは都市の一部をつくることでもある。おなじように家具をつくることは置かれる空間を作ることでしょうし、フロッグデザインの作品にもおなじ印象を感じます。アップルのコンピュータがあるだけでオフィス空間が変わるような。

僕もその関係性を大切にしていて、単体として考えるのではなく、存在することでそこにどのような空気が生まれて、どんな関係性が形成されるかに興味があるんです。

柴田 デザインという定義が単なる“機能とフォルム”だけではなくなってきたということなんでしょうね。それこそ現代のプロダクトデザインでは、新素材や加工製作の技術から、生産管理、流通、リサイクルまで広範な分野にまで目を配らなくてはいけません。それだけに使う人により身近になり、ライフスタイルに寄り添ってくる。

谷尻 時計をつけるという行為だって人格そのものをつくるじゃないですか。スポーツウォッチをつけていれば、その人がいくらスーツを着てネクタイをしていても、週末はアウトドア派なんだなとか。話をしなくても人格が浮かんでくる。そう考えると時計選びも製品としてだけでなく、背景やストーリーも含め、それを知るほど愛着が湧く。それもデザインの一部なのでしょう。

柴田 ところでコンピュータのデザインといえばIBMが一世を風靡し、とくにリチャード・サッパーがデザインしたThink Padはブラックボディに赤いトラックポイントが斬新でした。対してアップルはブラックとは対照的なスノーホワイトを採用したのが強く印象に残っています。

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谷尻 色に関していうと黒って一般的には無機質なんですが、有機的な黒とか、白っぽいとか緑っぽいとか、じつは奥深い。さらに黒と白の間のグレーゾーンというのは限りなく黒に見える白でもあるかもしれない。その領域について考えつつ、横軸だけでなくもう少し多層な、ほかの色の存在を考えるようにしています。黒の中の異なる色を意識した時にはじめてそこに違う空間が現れてくるのです。

柴田 黒にはすべての色が入っているといいますしね。それに黒と白はフォルムがもっとも際立つコントラストでしょう。ポルシェデザインのF.A.ポルシェ氏に生前、話を聞いたさい、モノトーンしか使わない理由を尋ねたら、ラインをより明確かつシンプルに表現したいからといっていました。

谷尻 たとえばいろいろな要素を紙に書き連ねていくと、最後にはその紙自体が黒一色になってしまいます。複雑で多様であるほど最終的にたどり着くシンプル性がある。それらが濃縮されているからこそ、シンプルなのに奥行きを感じるのでしょう。白にしてもなにもない概念なんですが、じつは複雑で多様なものを含んでいるのです。

柴田 画家がデッサンするなかで何本も線を書いて重ねていっても、最終的に残るのは一本の線なのですからね。そのほか大勢の線がそこに生きている。それはシンプルなデザインの難しさであり、おもしろさにも通じますね。「ラナ」ウォッチにしても、シンプルなデザインにもかかわらず、細部の面やラインはとても凝っています。金属なのにどこかあたたかみが伝わってくるような。

谷尻 そんな矛盾しているものって僕はすごく好きなんです。世の中ってものごとを両極で判断しがちですが、なにかそのあいだにある、なんともいえない領域が一番魅力的だと思います。建築でいうなら、じつは外で飲むビールがおいしかったり、露天風呂が気持ちよかったり。それなら“外みたいな中”ってどうやったらできるのかなって思います。

つまり中間にある領域性を見つめることであり、矛盾しているものをいつも考えたい。たとえば“懐かしいあたらしさ”を作ろうとか。あたらしいという判断基準もあたらし過ぎると判断できなくなります。だとしたら人びとの思考のなかにある、誰もが懐かしいと思ってしまう要素が何なのかを突き止めて、それを要素としてくわえながらあたらしさを提示するというデザインもあると思います。

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