Chapter 1 リシャール・ミルとは何者か

Chapter 1 リシャール・ミルとは何者か

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Chapter 1 リシャール・ミルとは何者か
「腕時計のF1」に秘められた深い情熱

コンセプター、リシャール・ミルの世界は、彼が時計へと向ける強い情熱と非凡な造詣から生まれる。時計師やデザイナーと究極の時計を練りあう力量を備えたリシャール・ミル。斬新な発想力と独自のパーソナリティに根ざした時計づくりを紐解く。

文=廣田雅将

腕時計への強い情熱と非凡な造詣

リシャール・ミルの趣味は「クルマ」。
彼のクルマに対する造詣が、時計にも投じられている。

腕時計への強い情熱と非凡な造詣

2001年創業のリシャール・ミル。「腕時計のF1」というコンセプトと、一目でわかる明快な意匠はこのブランドに大きな成功をもたらした。

しかしリシャール・ミルの躍進を支えてきたのは、そういった「わかりやすさ」ではなく、むしろ創業者リシャール・ミルの時計づくりへの強い情熱と、非凡な造詣であった。

リシャール・ミルは「私の時計にコストは関係ない」と語る。
事実、もっともシンプルな自動巻きを例にとると、地板や受け板(ブリッジ)は加工が難しいチタン製だ。完成までには、地板の6割が廃棄される。

個性的なケースも名サプライヤー、ドンツェ・ボームが製作する。技術力に定評のある同社をして「これ以上のケースは決してつくれない」と言わしめるほど、リシャール・ミルの要求は厳しい。

名コンセプターへの長い道のり

特徴的なリシャール・ミルのケース。
高級時計らしい精緻なつくり込みをもつ。

名コンセプターへの長い道のり

リシャール・ミルは1951年フランス生まれ。大学を卒業後、数社のマネジメントに携わった後、93年から、モーブッサンウォッチグループとジュエリーグループのCEOを務めた。
当時を振り返って、彼はこう語る。「おなじ分野でほかのブランドが忙しくしているのを見て、私もやってみたくなったのです」。
98年、彼はモーブッサンを辞して、自身の名を冠したブランド「リシャール・ミル」を創業。2001年には、第一作の「RM001」を発表した。

しかし、リシャール・ミルはフランク・ミュラーのような時計師でも、ジェラルド・ジェンタのようなデザイナーでもない。彼がいうように、あくまで「コンセプター」だ。つまり、時計のコンセプトを練り、素材を検討し、サプライヤーに依頼する。プロダクト・マネージャーと言ってしまえばそれまでだが、彼が「コンセプター」たる理由は時計づくりへの強い情熱と、非凡な造詣にあった。
だからこそ、リシャール・ミルRM001はたちまち愛好家の賞賛を集めたのである。

専門化にはない斬新な発想の誕生

フレームだけでムーブメントを支える時計「RM012」。
時計史上初の技術が投じられた。

専門化にはない斬新な発想の誕生

時計師でもない、デザイナーでもないリシャール・ミル。だからこそ、彼の目には「専門家」に見えないものが映る。

例えば、「RM002」。これは文字盤にトルクインジケーターを設けて、ゼンマイのトルクを可視化したものだ。「時計にパワーリザーブ表示は不必要。むしろ精度に関わる(ゼンマイの)トルクを表示すべき」(ミル氏)とは、「専門家」でない彼ならではの視点だろう。

また、「RM009」は、ケースに新素材アルシックを採用。世界でもっとも軽いトゥールビヨンを実現した。彼のこだわりはさらに進化する。

最新作の「RM012」ではムーブメントの地板と受け板を廃し、チューブ状のフレームだけでムーブメントを支えている。「専門家」にはない数々の斬新な発想は、リシャール・ミルの面目躍如といったところだろう。

本当の愛好家に向けた正統派の時計づくり

ミル氏がスポンサードする、F1レーサーのフェリペ・マッサ。
彼は時計の実地テストも行う。

本当の愛好家に向けた正統派の時計づくり

とはいえ、リシャール・ミルは決してエキセントリックな時計ではない。「腕時計のF1」というコンセプトと個性的な意匠を支えるのは、驚くほど生真面目なづくりである。

例えばエッジの立ったケース。仔細に見ると角が丁寧に落とされ、シャツの袖を傷めないようになっている。また、ムーブメントも、より立体的に見せるため数種類の仕上げが使いわけられる。リシャール・ミルが強調するように、その時計づくりは極めてまっとうであり、正統派の高級時計そのものなのだ。

「腕時計のF1」というコンセプトをもち、明快な意匠をもつリシャール・ミル。しかし、彼が実現したかったことは何にもまして、「本当の愛好家向け」の時計をつくることだった。

もしあなたがありきたりの時計に満足できなくなったら、リシャール・ミルを手にする価値はきっとある。「わかりやすい」コンセプトや意匠を超えた入念なつくり込みからは、きっと彼の時計づくりに対する情熱や、非凡な造詣を感じるに違いない。