BOOK|震災の海で生きる魚たちの姿『ダンゴウオ 海の底から見た震災と再生』
BOOK|震災の海で生きる魚たちの姿を2年にわたり撮影
鍵井靖章による写真集『ダンゴウオ 海の底から見た震災と再生』
写真家の鍵井靖章(かぎい・やすあき)さんが東日本大震災の発生直後から三陸の海に潜り、瓦礫に埋もれた“震災の海”に生きる小さな生物たちを2年間にわたり追った写真集『ダンゴウオ 海の底から見た震災と再生』。灰色だった海が鮮やかな生命の色彩を取り戻すまでをつぶさに記録した写真は、私たちに希望を与えてくれるとともに、自然の力強さをあらためて感じさせてくれる。
Text by YANAKA Tomomi
小さな体で津波の海を生きぬいたダンゴウオ
1971年に兵庫県に生まれた鍵井靖章さんは、大学在学中から水中写真家の伊藤勝敏氏に師事。オーストラリアや伊豆、モルディブでダイビングガイドをおこない、1998年からはフリーランスとして活躍している。
震災発生後まもない2011年4月に、岩手県宮古湾に潜った鍵井さん。生き物の気配が途絶えた海底で奇跡的にたった一匹、じっとうずくまっていたダンゴウオと出合うことからこの物語ははじまる。ダイバーたちに「北の海のアイドル」と呼ばれる、親指の爪ほどのダンゴウオは、小さな体で津波の海を生きぬいたのだ。
そんな姿に感銘を受けた鍵井さんはその後約2年にわたり、10回の撮影を敢行。震災直前までのひとびとの生活がうかがえる家具やクルマ、家などが沈む海の様子などが撮影された。さらに、“残骸”から芽生える海藻や、沈んだクルマを住処にする魚など、再生の息吹きも捉えられてゆく。
そして、2012年6月。小さいながらも“死の海”を生きぬいたダンゴウオの孵化の撮影に成功。天敵の貝に襲われるなど、自然界の厳しさをくぐり抜けた、生まれたばかりの愛らしい幼魚の姿がカメラに収められた。2012年12月には真冬の海で成長したダンゴウオに出会う鍵井さん。微笑んでいるかのようにみえるダンゴウオの表情は、確実に再生していく海中世界を象徴するようだったという。
陸上のみならず、海中でもたくましくおこなわれていた震災の復興と再生。豊かな海は必ず戻り、私たちの世界にも、かならず震災から立ち直る日が来ることを示してくれる1冊だ。