ジョージアワインは、寛容、である。|EAT

LOUNGE|ジョージアワインは、寛容、である。

同じく「ヴァジアニ・カンパニー」から、クヴェヴリを置く醸造所「マラニ」の様子。床下の地中に埋められたクヴェヴリは発酵・貯蔵タンクとして機能する。

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EAT|ジョージアワインは、寛容、である。

古代から受け継がれてきた製法と現代テクノロジーの融合

いまや、ジョージアのワインを知らないで通すのはワインの業界に関わるものにとっては、ありえない。発見に満ち溢れているし、日本で飲めるジョージアワインは、日本のワインのプロがちゃんと選んだものだから品質も定かだ。従来あまりワインを合わせなかったような料理との相性の良さも魅力だ。

Text by SUZUKI Fumihiko(WINE-WHAT!?)

ワインのプロを魅了する、最古にしてモダンなワイン

日本のワイン業界でも数年前から注目され、昨今、レストランなどでも見かけるようになったジョージアのワイン。ロンドンやニューヨークといったワインと食の先進国では、もはや定番化しつつある。

ジョージアワインは、イマドキのワインだ。そして最古のワインでもある。まず簡単にジョージアワインのポイントを3つにまとめよう。

1)ジョージアのワイン造りの歴史は、考古学的には8000年前にまでさかのぼる。これより古いワイン造りの証拠がないので、ジョージアは「ワイン発祥の地」とされている。

2)その頃のワインの造り方とされる独特の技術がいまものこっていて、その方法で造られたワインがいまも飲める。ジョージアでは個人が自宅でワインを造って飲むことが禁止されていないので、何千というブドウ栽培家兼ワイン醸造家によってワインが造られ続けている。正確には把握しきれないほど「ワイナリー」がある。

3)さらにジョージアには約500種類にもおよぶ、ジョージア固有のブドウ品種、いわゆる土着品種がある。

ジョージアの伝統的なワインの造り方は、2013年にUNESCOの無形文化遺産になった。そしてこれがわかりやすい契機となって、ジョージアはワインの輸出を本格化した。もちろん、黒海の東、北にロシア、南にトルコがあるジョージアは、ソビエト時代にはよく知られたワイン産地で、いまもロシアが重要なマーケットのワインの輸出国ではあるのだけれど、東側、という政治的な枠組みを越えて、世界を相手取るようになったのだ。そして世界は、ジョージアのワインを発見し、支持している。

歴史的にグローバリズムの影響をあまり受けることなく、古から継承されたワイン造りが動態保存され、しかも、聞いたこともない品種から造られる多様なワインがある。これがワインの専門家たちの知的好奇心をくすぐるのは間違いない。しかも、ジョージアは、単に伝統を保持しつづける「地酒」の宝庫、というだけのワイン産地ではなく、つまり、品質的には不安定なワインばかりの産地ではなく、現代のワイン造りの理論、技術も融合して、高品質なワインを生み出す産地でもあるのだ。

いまや、ジョージアのワインを知らないで通すのはワインの業界に関わるものにとっては、ありえない、といっても過言ではない。ジョージアのワインは、発見に満ち溢れているし、日本で飲めるジョージアワインは、日本のワインのプロがちゃんと選んだものだから品質も定かだ。

とはいえ、ワインのプロを虜にする面白さ、だけでジョージアワインの広がりを説明するのもまた、片手落ちだとおもえてならない。ジョージアのワインを、僕たちが試してみる理由は、ほかにもある。たとえばそれは、食との相性の良さだ。

難しく考えなくていい、寛容なワイン

ここから先は確証を得づらい感覚的な話になるけれど、ジョージアワインの流行の背景には、世界的に食のシーンがボーダレスになってきていること、が挙げられるのではないだろうか。

ジョージアワインを代表する、無形文化遺産になったワイン造りの方法では、クヴェヴリ、というテラコッタの大人一人入れるぐらいの大きな壺を使う(容量1000から2000リットルのものが一般的)。紐状の粘土を回転台のうえで回しながら成形し、40から60日乾燥させたあと、10から12日かけて焼き、焼き上がったら80度に温め、その内側に熱した蜜ろうを塗り、外側に石灰と川砂を混ぜたものを塗る、というのがクヴェヴリの造り方。いわば土器だ。現在、これを造れる職人は、10人程度しかいないそうだ。完成したクヴェヴリは、ワイナリーにて口の部分を地表に露出させて、あとは地中に埋められる。この中に、ブドウの果汁だけではなく、果皮、種、場合によっては梗も入れ、蓋をする。

すると、果皮などについていた自然の酵母の力で発酵がはじまり、やがて、果皮や種、そして酵母は壺の下へと沈んでゆく。数ヶ月(3カ月から6カ月くらい)の後に壺をあけると、そこにワインがある、という仕組みだ。

クヴェヴリによるワイン造りは、地中の温度は安定していること、また、果皮や梗に抗酸化作用があるので、酸化防止剤を加える必要もないことなど、極めて自然な方法でありながら、とても合理的だ。

クヴェヴリで造られたワインは、ジョージアワイン全体のなかでは、ごくわずかな量だけれど、ジョージアワインというと、やはりこれがイメージリーダーになる。現在では、より安定して高品質なワインを造るため、この方法に、現代的なアレンジも加えられている。

さて、問題は、こうして出来上がったワインがどんなワインか、というところで、特に白ワインには、一般的な白ワインとの差が出る。というのは、現在一般的な白ワインというのは、果汁だけで発酵させる。果皮や種、梗を加えて造るのは、むしろ赤ワインだ。

つまりものすごく単純化して言うと、この白ワインは、赤ワインみたいな白ワインなのだ。果皮等に由来するポリフェノール(タンニン)と色がワインについて、オレンジ色っぽくなるので、白ワインと区別して、オレンジワインなどと呼ばれることもある。オレンジワインには、一般的な白ワインでは得難い、渋みや、独特のフレーバー、香りがある。

それが、ぐっとワインと食との組み合わせの幅を広げてくれるようにおもわれるのだ。

たとえば、ジョージアの高品質なオレンジワインは、非常にドライな白ワインでありながら、中国茶のような風味をもっていたりする。そのため、甘味のあるアジア料理とか、ダシのきいた料理、辛い料理、パクチーのような癖のつよい野菜、はたまたカレーなどといった、従来あまりワインを合わせなかったような料理とも、無理なく共存して、時に、その美味しさを増幅してくれる。

もちろん、肉料理や魚料理と合わせてもいい。うまみの強い甲殻類などもいい。なんなら、コース料理をジョージアのオレンジワイン一本で通してみるのもいいだろう。

ワインにはたしかに、化学的にいっても、合わない料理との組み合わせ、というのはある。ただ、ワイン選びは正解を探す旅でもなければ、テストの答え合わせでもない。食のトレンドも、どんどん、変化して、伝統的な料理にはこれまで使われなかったような食材、調味料や調理法が導入されている。そして、より、素材の味を活かした、繊細な味わいが主流になっている。懐深く、自然派なジョージアワインとの相性がよくなる要素が増えているのだ。

Photograph by YAMASHITA Ryoichi

プロを魅了するうんちくは確かにあるけれど、飲むときには、気楽に構えていい。

というわけで、これでジョージアのワインに興味を抱いてくれた方のために、最後に代表的なジョージアのブドウ品種を紹介しよう。500種類以上あるといったけれど、ひとまず生産量の多い3品種を覚えておくといい。複数回に渡って飲む機会があれば、造り手による違いを感じるのも面白い。

まず、ルカツィテリ。これがジョージアのブドウの代表格だ。スッキリした酸味と、若干の苦味があって、ややスモーキーさも感じられるかもしれない。もしも、なにか変わったワインではないか?と、ジョージアワインに警戒心を強くおもちなら、これから試してみるといいだろう。よほどのことがない限り、拍子抜けするほど、フレンドリーなはずだ。ルカツィテリは応用の効く品種でもある。一般的にはドライだけれど、スパークリングや甘口も造られる。このルカツィテリを基準として、やや酸味が抑えめで、より濃厚な、高級感が感じられる白ワインになりやすい品種がムツヴァネ。味わいの強めな料理に向きやすい。最後が、黒ブドウ、つまり赤ワインを造る、サペラヴィ。タンニンの旨味から、タンパク質、とくに肉料理との相性がいい。樽の風味がついた、爽やかめの赤ワインがお好きな方などには、ぜひとも試してもらいたい。

こういった代表的な品種では物足りないというのであれば、日本でも見つけやすい品種をあとふたつ。ヨーロッパ方面の上質な白ワインのような風格すら感じさせることがある、ヒフヴィ、そして、白桃やメロン、アーモンド、クローヴやショウガのようなスパイシーさ、クルミのようなビターさなど、複雑な味わいと癖があるキシという品種も面白いだろう。

もしもそこにソムリエさんやワインショップの店員さんがいたのなら、臆せず質問してみよう。今夜の夕飯に合わせるジョージアワインだったらどれがいい? と。