POGGY’S FILTER|vol.1 VERBALさん(後編)
FASHION / MEN
2019年3月26日

POGGY’S FILTER|vol.1 VERBALさん(後編)

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UNITED ARROWS & SONS(ユナイテッドアローズ&サンズ)のディレクターとして活躍しながら、昨年(2018年)より自らの会社を立ち上げ、ファッションの世界の中で新たなステップを踏み出した小木“POGGY”基史氏。そのPOGGY氏による対談連載『POGGY'S FILTER』の第2弾は、前回に引き続き、音楽とファッション両方の世界で活躍し、日本を代表するクリエイターであるVERBAL氏との対談の後編をお届けしたい。

Interview by KOGI “Poggy” MotofumiPhotographs & Text by OMAE Kiwamu

カニエ・ウェストにも影響を与えた、VERBALのスタイリング美学

POGGY ちょっと話を昔に戻したいんですけど。ヴァージルがアンブッシュ®をRSVPで扱い出した、2007、8年頃は、まだストリート系のブランドはストリート系のお店、ハイファッションはハイファッションって、はっきりと分かれていた時代でした。でもカニエとかヴァージルとか、VERBALさんもそうだと思うんですけど、その真ん中の存在の人たちが出てきて、新しい流れが生まれ始めていたと思うんですよ。例えば、ヒップホップのファッションでも、今までルーズなサイズ感だったのが、スキニーパンツを履き出すようになったり。VERBALさんはそういう流れを見ていて、どう感じていましたか?

VERBAL 僕は今でも感謝しているんですけど、自分の「もっといろんな格好が出来るはず」っていう欲求を、YOONがスタイリングで満たしてくれていたんです。僕はラッパーなんで、スタイリストを雇うと、いわゆるベタなヒップホップブランドを持ってきて。けど、僕はもうちょっとひねりというか、違うもの同士が合わさった時の相乗効果を求めていました。「RAF SIMONS(ラフ・シモンズ)とか着ちゃダメなの?」とか思っていたら、YOONが「着ればいいじゃん」みたいな感じで言ってくれて。だから、ラフ・シモンズとかHedi Slimane(エディ・スリマン)時代のディオール・オムとかを買い漁って、全部衣装にしていました。

POGGY’S FILTER

POGGY 当時、そういう同じような感覚の人って周りに誰かいましたか?

VERBAL 全然、いなかったです。当時、カニエからも「これはどこで買った?」とかよく聞かれていましたね。カニエのブログに、“フレッシュキッド”みたいなシリーズがあったんですけど、どこかネットから拾ってきた僕の写真を、自分のブログへご丁寧にアップしてくれてて。

POGGY あ〜、確かに、よくカニエのブログに登場していましたね。

VERBAL BURBERRY(バーバリー)が出していたナポレオンジャケットを僕が着てたら、カニエから「それどこで買ったの?」って聞かれて、「バーバリーだよ」って教えたら、その翌週にはもう同じの着ていたり。

POGGY (笑)

VERBAL 当時、そういう変わったものが出ると、それを買って普段使いするのは大体、アーティストで。そういうのばかり刺さるようなコミュニティの一つが、カニエ達でした。そのすぐ近くにいたのがヴァージル。ヴァージルもストリートとかヒップホップとかが好きな上に、ちょっと違うものに目を向けているみたいな感じだったので、話も合いました。そういう意味では、日本では、オオスミ(タケシ)さん(元スワッガー/フェノメノン、現MR.GENTLEMAN(ミスター・ジェントルマン)デザイナー)は近いものがありました。同じ格好っていうよりも、好きなものの感覚が同じでしたね。

Page02. カニエ御一行とのファッションウィーク珍道中〜パリコレのアメリカ化

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カニエ御一行とのファッションウィーク珍道中〜パリコレのアメリカ化

POGGY ラグジュアリーストリートのシーンが始まった時の大きなトピックスとして、カニエ御一行がパリコレに行き始めたというのがあったじゃないですか。彼らみたいなヒップホップのアーティストがパリコレに行くっていうこと自体が、その時ってあまりなかったと思うんですけど、VERBALさんはあの当時、その動きをどのようにご覧になっていましたか?

VERBAL 実は僕もニューヨークのファッションウィークの時に、彼らと一緒に行動したことがありました。そもそもファッションウィークがどういうものなのかも全く知らなかったのですが、たまたまそのタイミングでニューヨークにいたことがあって。カニエに「これから◯◯のショーに行くぞ!」って呼び出されて、入れるの?ってわけもわからずついて行ったら、全然入れてもらえなくて(笑)。

POGGY (爆笑)

VERBAL カニエでも門前払いされるんだなって(笑)。あと、みんなでファッションショーの合間にソウルフードを食べるんですよ。チキンでギトギトになった手で、洋服屋に入って物色して。「大丈夫かな、この人たち?」って、いちいち面白くて(笑)。何が起こるかわからないけど、違う惑星に探索に行くような感覚でした。でも、まだ僕も何も知らなかったんで、心地良かった。やっぱり当時は、そういうところへ行くと、「なんなの、この人たちは?」「あなたたちの来る場所じゃないよ」みたいな空気が強かったですね。でも、カニエにそんなことをしたって、火に油を注ぐようなものでしたよ、「何がなんでも入る。行くぞ!」って。「本当に入れるの? また追い出されるの嫌だよ」みたいな(笑)。

POGGY (笑)そんな感じだったんですね。でも、そこから徐々に受け入れられていったわけですよね。

VERBAL アメリカが良い意味で現金だなと思うのは、結局、エンタメとファッションが全部繋がっているということ。(カニエ・ウェストの妻の)キム・カーダシアンのカーダシアン家も、そもそも“ファッション系”とかではなかったんですけど、世の中にすごく認知されていて、とにかくバズがすごい。そういう人たちを取り入れればすぐに浸透するって、いち早く気付いたブランドが、どんどんと動き始めて。まだインフルエンサーって言葉すらなかったような時代に、ビジネスの展開も含めて、一緒にやろうって。

POGGY’S FILTER

POGGY それがカニエにも結びついていくわけですね。

VERBAL カニエはファッションが好きだから、何か一緒にやろうって。最初にやろうとしていたフェンディではインターンとして、そしてナイキとは一緒に最初のYEEZY(イージー)を作りましたしね。ただ、Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン)でもほぼ同じ時期に、同じようなデザインで出して、それが問題になったりして。でもそういう部分も含めて、やっぱりこの人はぶっ飛んでるなって思いましたね。

POGGY パリに関しては、僕ですら、昔は結構冷たいなって思っていた時もあって。そんな状況の中で、アメリカの人たちが自分たちの居場所を作ろうって、パリコレがどんどんアメリカ化していった気がしていたのを覚えています。パリの変化に関しては、VERBALさんはどう思いますか?

VERBAL 当時、コレットで売っていたイケてるものって、ほとんどが日本かアメリカのものだったじゃないですか。そういう文化交流みたいなのを、サラがコレットを通してやってたと思うんですよね。フランス人ってプライドが高いので、建前では「もう間に合ってます」って言いながら、ちゃっかりと海外のものも流用している。だから、以前から分かっている人達同士はちゃんと繋がっていたのかなと思いますね。

Page03. ヴァージル・アブローから繋がる、ラグジュアリーストリートの未来

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ヴァージル・アブローから繋がる、ラグジュアリーストリートの未来

POGGY 今のお話を聞いて、改めて思ったんですけど、たしかにコレットは重要な存在でしたね。

VERBAL あと、パリでアメリカンカルチャーが自然と受け入れられたっていうのは、次の世代の若者たちが、アメリカのストリートファッションに憧れながら育っていたこともあると思います。その子たちが大人になったことで、状況も大きく変わってきた。特に昨年6月のパリコレとかは、今までのルールが完全にひっくり返ったみたいな感じがあったじゃないですか。それって本当にセンセーショナルだなって思います。ヴァージルもよく言いますけど、結局は「若者が全てを変える」って。本当にそうだと思いますね。

POGGY ヴァージルのことは結構昔から知ってると思うんですけど、彼はどのようにして今の地位を得たと思いますか?

VERBAL もともとは大学で建築学を専攻していて、カニエのアシスタントとして付いて、カニエの思いを形にしていく人みたいなところから始まって。彼がイタリアのNEW GUARDS GROUP(ニューガーズグループ)とのパートナーシップに至ったのも流石だと思います。嗅覚がすごいし、やっていることに無駄がない。何でも吸収して、みんなが欲しいものをどんどんと出していって、やること全部刺さっている。頭が良いですし、度胸もある。それが彼の強みだと思います。

POGGY VERBALさんから見て、今のラグジュアリストリートの流れって今後どうなっていくと思いますか?

VERBAL そもそも、ラグジュアリーがストリートになったのではなくて、ストリートがラグジュアリーをコンシューム(消費)していったと思うんですよ。A BATHING APE(ア・ベイシング・エイプ)が始まった時に、ジョニオさん(高橋盾)とNIGO®さんがNOWHEREを一緒にやって始まったように、もともと、ストリートって、コラボレーションが当たり前で。お互いに切磋琢磨して、相乗効果でやっていく。それから、ストリートって「格好良ければいいじゃん」っていう感覚で、何でも取り入れる。昔はストリート、今はラグジュアリストリートで、今後はアートとか取り入れたして、もうストリートっていう単なる言葉じゃなくて、一つの文化なのかなって。良い意味でしきたりとかも無い。だから強いのかなって。もっと巨大化して、ラグジュアリーとかも超えちゃうのかも?って思いますね。

POGGY ストリートがスタンダードになっていくということでしょうか?

VERBAL 例えば、今、インターネットって若い子にとっては、空気を吸ってるのと同じくらいに当たり前に存在している。それと同じように、「ストリートファッションとは?」っていう、その会話すらくだらない。それぐらい膨大だし、当たり前のものなのかなって。

POGGY’S FILTER

POGGY 最後にそういう流れの中で、今後、アンブッシュ®はどうなっていくのかを聞かせてください。

VERBAL ブランドの世界観を見せていくっていうのが、今はすごく楽しいですね。今、たまたまアマゾンさんとやらせていただいてるんですけど、アマゾンさんって、「好きにやってください」みたいな感じで、ほとんど規制がない。そういう、好き勝手に出来る環境っていうのが、僕たちにはすごく貴重なんです。今後、AIと共存することみたいなのは当たり前に時代になっていくと思うんですけど、今回は「echo dot」とかを取り入れさせていただいて。ショップももっといろんな場所でオープンして、お客さんとのタッチポイント増やしていって、自分たちのワールドを広げていくのが、ここ数年の間のゴールです。それから、アンブッシュ®はジュエリーから自然とブランドが始まったのですが、今では音楽も含めて、多岐に渡っていて。最終的には、一つのカルチャーみたいにしていきたいなと思いますね。なんか、ぼんやりした答えになっちゃいましたけど、大丈夫ですか?(笑)

POGGY とんでもないです(笑)。今日は貴重な話を、どうもありがとうございました。

           
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