“紫”のシグネチャーコーヒーができるまで|SARUTAHIKO COFFEE
SARUTAHIKO COFFEE|猿田彦珈琲
トヨタ ハリアーと猿田彦珈琲が挑む、五感を刺激するコーヒー
“紫”のシグネチャーコーヒーができるまで(1)
コーヒー好きの間で「サードウェーブ」という言葉が飛び交うようになって久しいが、「シグネチャーコーヒー」というジャンルをご存知だろうか。今回「TOYOTA HARRIER CAFE(トヨタ ハリアー カフェ)」が挑むのが、ハリアー特別仕様車「PREMIUM“Style MAUVE” (モーヴ)」のこだわりのカラー“紫”とその世界観をシグネチャーコーヒーで表現するというもの。そして、そのメニュー開発のコラボレーターとして白羽の矢を立てられたのが、いまや日本における「サードウェーブ」の第一人者として知られる「猿田彦珈琲」の店主・大塚朝之氏だ。
Text by MATSUURA AkariPhotographs by KOMIYA Koki
まずはおいしさを追求すること
シグネチャーコーヒー。簡単に言えば「コーヒー以外の素材を加えたオリジナルビバレッジ(創作コーヒー)」のことを指すこのジャンルは、正式にはシグネチャービバレッジと呼ばれ、コーヒー業界ではバリスタチャンピオンなど世界的な大会で出題されるテーマとなっている。
今回、大塚氏はトヨタ ハリアー カフェのためにふたつのオリジナルメニューを考案。いずれも意外な素材との組み合わせで見事な“紫”(モーヴカラー)をまとわせ、驚きに満ちたフレーバーを完成させた。プロジェクトの発端からのプロセス、そしてシグネチャーコーヒーが完成するまでには、どんなこだわりと試行錯誤が重ねられたのだろう。
―― 最初に「シグネチャーコーヒーをつくる」と聞かされたとき、どのように思われましたか?
「Style MAUVE」の世界観をコーヒーで表現するという企画そのものが斬新でおもしろいと感じた一方で、正直、とても身が引き締まる思いでした。シグネチャーコーヒーは僕らにとってある種“聖域”のようなものなので、生半可なやり方は通用しないだろうと。やり方次第では諸先輩方に「あいつなにやってるんだ」と言われてしまいますから。
とはいえ、声をかけていただいたこと自体がとても嬉しかったですし、思っていた方向に着地すれば、どれだけ僕らが真剣に頭を使って味覚を追求しているかを、あらためて表現できる場になってくれるかもしれないという思いもありました。
―― 開発にあたって第一にこだわった点は?
当たり前のことかもしれませんが「おいしいこと」を最優先課題にしました。もちろんイメージのベースにあるのはStyle MAUVEの世界観で、“紫”がテーマであることも大前提なんですが、飲む側にとっておいしくなければもう二度とリピートしませんよね。もっとシビアに考えれば、来場される方全員が必ずしもコーヒー好きとは限らない。なかにはサードウェーブやスペシャルティコーヒー、ましてや猿田彦珈琲なんて店の名前すら聞いたことがない方もいらっしゃることを想定しておかなければならないですし。なので、いったん頭をできるだけフラットな状態にして、なによりもまずは「おいしさを追求すること」「目の前のお客様によろこんでもらうこと」にフォーカスしました。
―― “紫”と聞いたときにはどんなことをイメージされましたか?
実際にStyle MAUVEにも試乗させていただいたんですが、直感した色は「紫に1番近い黒」でした。コーヒーは“黒”でたとえられることが多いと思うのですが、そのなかには紫のニュアンスも感じることができる。豆の中にはブルーベリーのような酸味を特徴とするものもあるので、漠然とではありましたがひとつはブルーベリーを使って表現できるかもしれないというアイデアが浮かびました。今回はどちらかといえば直球ではなくて、捻りのある味わい。ニュアンス的な高級感が求められているのだなということを感じました。
―― シグネチャーコーヒー「Style MAUVE」が完成するまでの開発プロセスを教えてください。
このシグネチャーコーヒーのベースになっているのは、ハリアーのもつゴージャスかつシックな世界観を表現するために、ケニアを中心としたコロンビアとのオリジナルブレンドを夏らしくコールドブリュー(水出し)でご用意しました。ベリーのようなフルーティな甘みとコーヒーとは思えないような華やかな風味を、コーヒー好きな方にはぜひそのままを楽しんでもらいたいと思い、今回特別にメニューのひとつに加えさせていただきました。
Style MAUVEの最初の1杯は、濃縮水出しコーヒーをブルーベリージュースと炭酸で割った爽やかな味わいのシグネチャーコーヒーです。品質の良いコーヒーの酸がブルーベリーの爽やかな酸と繋がることでさらに上質な甘みへと進化するのですが、きび糖を少量加えると、やや立ち過ぎる酸をやわらかく包み込んで甘みに奥行きが生まれます。
ハリアーのもつ嫌味のない清涼感をミントの爽やかさで表現したのですが、その爽やかさを泡で際立たせるため、硬水の炭酸水で仕上げました。最後に絞るライムは、甘みや清涼感に複雑味を与えるためのもの。タテに広がる甘みをライムやミントでヨコに広げることで奥行きのある余韻が生まれるのですが、これらすべての要素が交わることで、ハリアーの艶麗なエレガントさやSUVとしての強さ、ミステリアスな二面性を感じていただけると思います。
もうひとつは、ハリアーの助手席が似合う理想の女性をイメージして「助手席のエキゾチックな甘み」をテーマにつくりました。濃縮したハリアーブレンドにアサイージュースとミルクを加えると、アサイーのとろみのあるエキゾチックな甘みがスパイスチョコやカフェモカのようなニュアンスを生みます。最後にライムを絞ることでほどよいアクセントになり、全体的にマイルドに仕上げられたフレーバーにメリハリが生まれます。コーヒーが苦手な方や小さなお子さんにもぜひ飲んでいただきたい1杯です。
―― アイスコーヒーにこだわった理由はなんでしょうか?
単純に、暑い季節に飲みたいドリンクはなんだろう? と考えたときに頭に浮かんだのが、店で出している水出しコーヒーでした。僕らは水出しコーヒーを「コールドブリュー」と呼んでいるのですが、猿田彦珈琲には自信をもって出せる品質の良いコールドブリューコーヒーがあるので、それをベースに味を構築すれば、多少冒険をしてもきっと巧く着地できるだろうという直感もありました。
SARUTAHIKO COFFEE|猿田彦珈琲
トヨタ ハリアーと猿田彦珈琲が挑む、五感を刺激するコーヒー
“紫”のシグネチャーコーヒーができるまで(2)
コーヒーのあたらしい魅力を引き出す
―― 今回のような企業とのコラボレーションから得られるものはなんでしょうか?
4年前の創業当時は、当然ですが、僕も含めてほとんど全員が知識・経験値のどちらも浅かったんです。いま思えばどうしてあんなことで苦労したんだろうとか、数えきれないほどの失敗談があったりします。でもこうしたコラボレーションを重ねるごとに店のスタッフひとりひとりがとても鍛えられるんですよね。着実にスタッフの経験値として蓄積されていくことで、僕らはまた成長することができる。そして、店としても次のフェイズに進むことができるんだと思います。
―― クルマとコーヒー、ふたつの間にはどんな共通点があると思われますか?
五感を刺激したり、優雅な気持ちにさせてくれたり、感動体験を共有したり、特にハリアーのようなクルマは乗り手にそういう特別なひとときを与えてくれるものだと思うのです。僕らがお客さまに提供しているコーヒーも本質的な部分ではおなじ。ちょっと生意気に聞こえるかもしれませんが、職人や技術者が「真摯な姿勢でつくり上げるもの」という点には、とても近いスピリットを感じています。
―― 「シグネチャーコーヒー」を手がけてみて、今後猿田彦珈琲として取り組んでみたいことはなんでしょうか?
今回のプロジェクトを通じて、コーヒーのあたらしい魅力を引き出して伝えていくことの大切さをあらためて感じました。もっとより多くのお客さんの目線に立って、なにが求められているのかを常にキャッチアップしていくこともそうですし、もっとストレートに、コーヒーを飲むってこんなに心地よい、気持ちよい、楽しくてわくわくする、そんな感動体験をより多くの方たちと共有していきたい。いま猿田彦珈琲として僕らがもっと力を入れて取り組んでいきたいことは、やはりその「感動体験の共有」なのだ思います。
<トヨタ ハリアー カフェが提供する2つのオリジナルメニュー>
Sparkling “Style MAUVE”
「ブルーベリーと炭酸割りコーヒー」
ハリアーブレンドに融合させるのは、きび糖を入れてブレンダーにかけたブルーベリージュース。ケニアの豆の酸味にヒントを得たもので、甘爽やかなベリーとコーヒーの上質な酸が軸になっている。そこにきび糖の甘み、ライムのゼスト(皮)を加えることでより立体的で奥行きのあるボディーを構成。最後に注ぎ入れる硬水の炭酸水が、コーヒーのきれいな酸を際立たせると同時に、炭酸がスパークするたびに口中に清涼感が広がっていく。
ベリー特有の甘爽やかな酸味と上質な豆のエレガントな酸味、華やかな甘みや香りが心地よい余韻を広げ、思いもよらぬコーヒーの新境地が展開する1杯だ。品があるのに上品過ぎない。マイルドなのにマイルド過ぎない。インパクトがありつつもさりげなくエレガント。ハリアーのもつ2面性をユニークなアプローチで体感できる。
Au Lait “Style MAUVE”
「アサイーカフェオレ」
ハリアーの助手席が似合う理想の女性をイメージしながら考案した1杯。濃縮したハリアーブレンドに融合させるのは、アサイージュースとミルク、そして、ちょっと意外な組み合わせにも思えるライムのゼスト(皮)だ。第一印象で感じるカフェモカのような印象は、アサイーフルーツのとろんとしたエキゾチックな甘みでスパイスチョコのようなニュアンスへと展開する。
仕上げに加えるライムのゼストは、全体的にマイルドに仕上げられたフレーバーにさりげなく複雑な余韻を生み出しながら、最後は爽やかに口をしめる。やさしい口当たりは、コーヒーが苦手な人や小さなこどもにも飲んでもらいたいという大塚氏の想いから。コーヒーベースのアイスドリンクにあらたなフェイズをもたらすような、猿田彦珈琲ならではのシグネチャーコーヒーが完成した。
Original “Style MAUVE”
「水出しコーヒー」
今回トヨタ ハリアー カフェに登場するシグネチャーコーヒーのベースになっているのは、コールドブリュー(水出し)で抽出したオリジナルのハリアーブレンド。コロンビアとケニアの豆をハリアーのイメージに合わせてブレンドしたオリジナルコーヒーだ。
コーヒー好きな人には、まずこのコールドブリューをそのまま味わえるこちらを味わってもらいたい。ケニア産の豆がもつ上品な酸を、コロンビアの豆の苦みでほどよく中和しながら奥行きをもたせたブレンドは、フルーティな甘みと口中に広がる華やかな風味を楽しめる。
※下記イベントは終了いたしました。
TOYOTA HARRIER CAFE
<六本木ヒルズ大屋根プラザ会場>
場所|東京都港区六本木6-10-1
開催期間|6月24日(水)〜28日(日)
営業時間|11:00〜21:00 ※24日(水)は18:00〜
公式HP|http://toyota.jp/harrier/cp/harriercafe2015/
大塚朝之|OTSUKA Tomoyuki
1981年東京都生まれ。15歳から演劇学校に通い、俳優業をしながらアルバイト。25歳のときに「炭火焙煎珈琲工房『南蛮屋』」下高井戸店で働きはじめる。半年後、コーヒーマイスターの資格を取得。2011年6月、東京・恵比寿に「猿田彦珈琲」を開業。昨年はコカ・コーラ社の缶コーヒー「ジョージア ヨーロピアン」の新シリーズを監修。今年2月、2号店となる「猿田彦珈琲アトリエ仙川」を生まれ故郷の調布市・仙川にオープンした。http://sarutahiko.co