いくつになっても新しいことに挑戦し続ける服ショーグン、和田健二郎とは? | BEAMS
FASHION / FEATURES
2024年1月26日

いくつになっても新しいことに挑戦し続ける服ショーグン、和田健二郎とは? | BEAMS

Presented by BEAMS

BEAMS|ビームス

スタッフ3000人以上のスタイリング投稿の頂点に立つ男

3000人ものスタッフが日々投稿するBEAMSスタイリングスナップで、10シーズン連続売上No.1という記録を打ち立てたのが、御年54歳の和田健二郎氏だ。昨年10月に自著『ビームスの服ショーグンが敬愛するモノ・コト・ヒト』を上梓したばかりの氏に、SNS時代における洋服の売り方やこれからのファッションについて、ご自宅にお伺いして話を伺った。

Photo by NAGAO Masashi  Text by KAWASE Takuro

進むデジタル化の中でこそ“個のチカラ”が試される

1990年にビームスに入社し、販売スタッフとして7年、バイヤーとして15年勤務してきた和田氏だが、42歳となる2012年に大きな転機を迎えた。バイヤー職を辞し、後進に道を譲ることになり、次なるキャリアとして託されたのが若手の社員教育係だった。

和田 当時、創業から35年以上が経ち、会社の規模も大きくなっていく中で、スタッフの“個のチカラ”が弱くなっていたことを懸念していました。社内外から「最近のビームスのスタッフってあんまりかっこよくないね」という声が聞こえてくるほどでした。そこで、若手スタッフに向けて服育をやって欲しいという依頼が社長からあり、2012年からウィメンズの元バイヤーとともにスタイリングディレクターという役職に就き、全国のショップへ足を運び社員教育にあたっていました。
和田氏がショーグンと呼ばれるようになったのは、ロサンゼルス出張の際、取引先のアメリカ人に「アイツはSHOGUNか?」と言われたことにちなんでいる。その着こなしと風貌から、只者ではない雰囲気を漂わせていることは国が違っても伝わっているのだ。
ファッションの情報源として、ネットやSNSが注目されるようになって久しいが、和田氏の転機となった2012年は、日本におけるSNS元年ともされている。こうした変化に対し、ビームスでは自社サイトからの情報発信を強化してきた。特に力を入れたのが“店舗スタッフのメディア化”だった。

和田 「すべてはお客様のために」という言葉のもと、実店舗とECを同等につなぎ、リアルな情報を提供しながら、お客様との関係性を深めていくことが以前にも増して重要になりました。オンライン接客やスタイリング投稿によって、改めてブランドの背景や洋服にまつわる見識が深まり、実店舗での接客にも活かされています。“店舗スタッフのメディア化”とは、個のチカラを活かすビームスが他社と差別化していく上で、重要なキーワードとなっています。

量よりも質を高めたリアルな投稿が人を惹きつける

店舗スタッフのメディア化の第一歩として、BEAMS公式サイトでは2016年9月からスタッフによるスタイリング投稿が始まった。和田氏は半年間スタッフたちの動向を静観する中で気が付いたことがあるという。

和田 ひとつの投稿にたくさんの自社商品を紐付けすれば、そのぶん売れる可能性は高まりますが、あまりに商業的に見えてしまうし、それでは共感は得られないだろうなと。そこで、自分が得意とするスタイリング力を活かすチャンスだと捉え、自前の服やアクセサリーを取り入れたリアルなスタイリングを投稿することにしました。紐付けする商品は少ないのですが、パーソナルな部分を打ち出しながら、年齢や季節、アイテム選びなどさまざまな視点から洞察して投稿を続けてきました。
『ビームスの服ショーグンが敬愛するモノ・コト・ヒト』のために撮り下ろしたポートレートの中からの1カット。ネパールの女性ニッターたちが編み立てたクロシェニットが主役のスタイリングを披露。マルチカラーの花柄は難易度が高いが、インナーとボトムスをモノトーンにすることで違和感なくまとめ上げる手腕はさすが服ショーグン!
エスニックな雰囲気の刺繍柄が目を惹くベストは、ルーマニア南部オルテニア地方で1900年初頭に作られた伝統的な民族衣装なのだそう。チャイナボタンのアレンジが効いたスポーティなトラックスーツと合わせ、まさに無国籍なスタイリングに。丁寧な仕事ぶりがうかがえる民族衣装を取り入れたスタイリングは和田氏の得意とするところ。
和田氏がしばらく投稿を続けると次第にフォロワーが増え、個人でのECの売上も順調に推移し、遂には億単位へと到達。そして、2017年春夏から2021年秋冬の10シーズン、投稿したスタッフ3000人の中で、売上ナンバーワンを獲得することに。

和田 “人から発信する”ことが大前提であり、量より質を優先した渾身の1投稿を大切にしていこうと呼びかけました。コロナ禍における自粛要請期間も、プレスルームまで出向いて地道に投稿を続けたことで、他のスタッフ投稿よりも目立ったことも影響していると思います。店頭に立つこともあるのですが、投稿を見たお客様から声をかけられることが増え、デジタルの取り組みが実店舗にも良い影響を与えていることを実感できました。改めて振り返ってみると、洋服は見て触って袖を通して買うのが当たり前だと信じていた自分が、ネットで洋服を売るようになるなんて思いもしなかったです。でも、そこにはちゃんと戦略があって、“モノだけでなくヒト”も立ったビームスらしい施策があるのです。
九州出⾝の和⽥⽒は⼤の芋焼酎ファン。故郷の酒蔵を訪ねて、念願のオリジナル焼酎をプロデュース。バイイングで世界中を⾶び回っていた⼗数年前に、取引先のアメリカ⼈に付けられた あだ名である“ショーグン”を冠し、“芋ショーグン”と命名。ビームス公式サイト内のB印MARKETの「和⽥商店」で第⼆弾が購⼊可能だ。

オンラインからスタースタッフを次々と輩出

こうした和田氏の取り組みが社内スタッフへと伝播し、投稿を通じて顧客との新しいつながりが増え、デジタルと実店舗の好循環が生まれるように。メンズドレス部門でNo.1インフルエンサーと目されているビームスFの西口修平氏をはじめ、スタイリング投稿から数々のスタースタッフが生まれるようになった。

和田 西口は本当にスターなんです。先日の岡山店でのトークショーも満席で、彼が登壇するまでの間、まだかまだかというお客様の熱気が伝わるほどで、その場にいた私も驚きました。彼以外にも講演依頼や撮影依頼を受けているスタースタッフが次々と現れ、SNSを通じたオンライン販売はコロナ禍を経てさらに加速しています。昨年に始まった『スタッフ・オブ・ザ・イヤー』という、令和のカリスマスタッフを決めるコンテストで初の1位を獲得したのが、弊社のHeg.という女性スタッフで、今年2位を獲得したのもSUDOという男性スタッフでした。日本全国の販売スタッフ8万人が参加する大規模なコンテストで、2年連続入賞するという快挙を成し遂げてくれました。
都内にあるマンションをフルリノベーションした和田氏のご自宅には、多国籍なインテリアをはじめ、東南アジアやアフリカなど世界中から選りすぐったアンティークが揃えられている。年代も地域も異なるさまざまな調度品が並べられているが、不思議と統一感が生まれ、温かみのあるリラックスした空間を演出している。
ビームス公式サイトへの投稿にとどまらず、多くのスタッフがInstagram LIVEやLINEを駆使してオンラインでの売上を堅調に伸ばしているのだ。一方で実店舗での接客はさらなる技術と能力が求められているという。

和田 オンラインを見慣れた今のお客様は洋服に関する知識や情報をたくさん持った上で、来店してくださっています。一から十まで説明する必要がないお客様に対して、的確なタイミングでお声がけし、何を求めているのかを察知して、どのような提案ができるのかがこれまで以上に大切になってきます。ネットでも実店舗でも、やっぱり“モノだけでなくヒト”の力は大きいんですね。「この人に会いたい」「この人から買いたい」と言われたら、販売員としてこれ以上嬉しいことはありません。
元シュートボクシング世界チャンピオンの緒形健一氏の試合に感銘を受け、自身もトレーニングを開始。43歳のとき、両国国技館で行われたアマチュア全日本王座決定戦にシニアクラス65kg級の東日本代表として出場し、見事に優勝。以後も数々のワンマッチでの勝利者賞を獲得し、格闘技雑誌からの取材を受けたこともある。

心を整えるための格闘技と毎月通う美容室

異なるテイストを独自にミックスしたスタイリングで注目を集める和田氏だが、世界各国の骨董品や調度品にも通じ、好きが高じて自ら監修した芋焼酎を販売するほど、衣食住の隅々にまで心を尽くしている。年齢を重ねてもなお旺盛な好奇心と探究心、その源泉となっているのが格闘技だと和田氏は語る。

和田 40歳を過ぎてからシュートボクシングを始め、最近は柔術も始めました。私にとっての格闘技は、身体を鍛えるという目的よりもメンタル面の強化、心を整える目的の方が大きいです。これまでも様々な困難が訪れる度に格闘技に助けられ、勇気と力を得ました。格闘技に感謝する気持ちを忘れずにいることが、新たな挑戦をする気持ちにつながっています。私の場合は身体を動かしているときこそ、色々なアイディアや企画が浮かんできて、仕事に対するワクワク感が生まれるのです。
BEAMS台湾で勤務している同僚が買ってきてくれる、ドイツ製のニベアも和田氏のお気に入り。日本製のものとは成分が違っていて、高価な保湿クリームとほぼ同じ成分が入っているのだとか。最近和田氏がハマっている柔術の練習前に欠かせないのが「コンクール」のマウスウォッシュ。殺菌力が高く、口臭対策として効果的なのだそう。
欠かせない仕事道具として和田氏が挙げたのは、オリンパスのミラーレス一眼レフカメラ。尊敬するフォトグラファーの伊藤徹也氏に撮影の手ほどきを受けたことも、和田氏の新しい挑戦のひとつ。1台目はあまりにたくさん撮影して寿命を迎え、2台目は突然の風に倒されて故障してしまい、現在は3台目を検討中とのこと。
どんなにアクの強い服でも着こなしてしまう秘訣は、格闘技を通じて得た引き締まった身体と新しい挑戦を忘れない心にある。その服装術とトレーニングは容易に真似できるものではないが、加齢とともに意識すべき身だしなみについて、参考となるルーティーンについて話をうかがった。

和田 月に1度必ず足を運ぶのが美容室のABBEYです。人生で初となるパーマもABBEY代表の松永さんに提案してもらい、とても気に入っています。彼と話をしていると色々なことがリセットされ、心の底からリラックスできるのです。ヘアケアやスキンケアに特段のこだわりがあるわけではありませんが、ABBEYがプロデュースしているヘアオイル“IT ALL NATURAL”を愛用しています。頭皮だけではなく顔に塗ってもいいタイプで、保湿効果も高く気に入っています。

日本のファッション業界にはまだやるべきことがある

世代交代によって、バイヤーという花形から新人教育係という裏方へ転じても、自分にしかできないことをつぶさに見つめ直し、新たな取り組みに挑む。老いとは好奇心を失うことだと言われるが、和田氏の活躍ぶりを目にしていると本当にそう思い知らされるのだった。最後に、変化が激しい現代におけるファッション業界のこれからを訊いた。

和田 ヨーロッパと比べると日本におけるファッションの歴史はまだ浅いと思うのです。ようやく最近になって定年退職者が出てきたくらいですから、まだ未熟な業界でもあるのです。ファッションは40代になったら終わりではなく、50代でも60代でもファッションが求められていることを実感していますし、やるべきことはまだたくさんあると考えています。(コム・デ・ギャルソンの)川久保さんや(ヨウジヤマモトの)耀司さんが、いまだ現役で素晴らしいコレクションを作っていますし、その下の世代ではアンダーカバーのジョニオ君(高橋盾)やソロイストの宮下(貴裕)君も存在感を発揮していますよね。現在20代や30代で彼らに続くカリスマ的デザイナーがまだ出てきていないことに多少の不安がありますが、今後また新しい才能が出てファッション業界を盛り返してくれるはずだと期待しています。自身においては、これからも謙虚さを忘れず、新しいことに挑戦し続けたいですね。
BEAMSのスタッフによるパーソナルブック・シリーズの第5弾となる本作では、ジェネラルスタイルクリエイターの和田健二郎氏をフィーチャー。世界中から選りすぐったモノ・コト・ヒトをエピソードとともに紹介。SNSで話題のコーディネート術はもちろん、衣・食・住にまつわる和田流の審美眼の高さがうかがえる。
『ビームスの服ショーグンが敬愛するモノ・コト・ヒト RESPECTS (I AM BEAMS) 』
出版|世界文化社
価格|1760円

購入リンク|Amazonページ
問い合わせ先

BEAMS
https://www.beams.co.jp/

                      
Photo Gallery