第3回 ブランドの変遷とブームの到来
Design
2015年5月15日

第3回 ブランドの変遷とブームの到来

text by KANAZAWA Ariadnaphoto by Jamandfixedit by TAKEISHI Yasuhiro

マッキー社からジャネット社へ

マッキー社は1930年代、量産体制を整えて数々のシリーズやアイテムをリリースしていきます。その頃のアイテムは今でこそデザインにとてもトリッキーなイメージを感じますが、当時はヨーロッパのトラディショナルデザインに影響されていたようです。ミルクグラス以前のマッキー社製品にもそれらの影響が見てとれます。ただ残念ながら、マッキー社の繁栄もさほど長くは続きませんでした。

1930年代後半には世界大戦の暗雲が立ちこめ、参戦した国々では兵器製造のために金属類が不足し、アメリカでも同様に各企業への接収が始まります。マッキー社を含む多くのグラスカンパニーは金型モールドを政府によって接収され、現実的に操業が不可能な時代に入っていったのです。

いったいどのくらいの素晴らしいデザインモールドが、人を傷つけるための兵器となって生まれ変わったのかと考えると、とても心が痛みます。接収されたモールドの原形がどういった運命を辿ったのかは不明ですが、80年もの時間はこうした歴史も消し去ってしまったようです。ひょっとしたらアメリカのどこかの屋根裏や地下室に、いまも曾お祖父さんの遺品として現存しているのかもしれません。

その後マッキー社はある企業に買収され、さらにジャネット社へと売却されていきます。ジャネット社は1898年に創業したグラスカンパニーですが、マッキー社の技術の多くを吸収し、非常に類似したシリーズやアイテムを製造していました。それはとくにシェーカーやキャニスターなどに色濃く反映されています。マッキー社とジャネット社におけるジェイドカラーの違いは歴然ですが、それは差別化からの意図ではなく、根本的な技術力だったようです。マッキー社は色の個体差が少なかったのですが、ジャネット社に移行して個体差が大きくなったことは、きっと当時のカラーディレクターの力量や考え方が大きく影響したのではないかと思っています。

日本に暮らす私たちは同一規格、同一色が当たり前と考えがちですが、現在もアメリカではこのあたりのことを細かく考えない風習もあり、ジェイドカラーの色ぶれも、それはそれで楽しい味わいです。ジャネット社はその後1980年代初頭まで存続していきます。とくに同社が1970年代に製造・発表したグラスベイクのシリーズは近年有名になりました。

ファイヤーキングの登場とミルクグラスブーム

そして1940年代に入り、ミルクグラスにおけるマスプロダクツの代表になった「ファイヤーキング」がアンカーホッキング社より登場します。1940年代のファイヤーキング製品はマッキー社の製品に類似しており、かなりマーケティングに長けたレーベルであったことがよく分ります。初期のマグである「フィルビー」には色濃くマッキー社のマグの形状が見てとれるのです。

ともあれ、私がミルクグラスを知るうえでは、マッキー社は重要な役割を担ってくれました。1990年代後半に差し掛かるまで、マッキー社やジャネット社のアイテムは、一部のコレクターやヴィンテージクロージングのマーチャンダイザーなどのみが知る存在でしかなかったのです。

一方で1996年頃、すでに全米で人気だった“カリスマ主婦”マーサ・スチュワートさんが彼女自身の雑誌やTV番組でジェイドカラーのミルクグラスにスポットライトを当て始めます。彼女のTV番組の背景シェルフには、マッキー社やファイヤーキングのジェイドアイテムがズラリと並べられ、紹介する料理のサーブにも使用されていました。こうして全米の主婦や彼女のファンがジェイドに注目することになったのです。ところがまだ当時は、全米の田舎の家庭ならひとつやふたつぐらいは、ファイヤーキングが残っていたというのも面白い事実といえるでしょう。

こうしたアメリカの動向に牽引される形で、1990年代後半には日本にもミルクグラスのブームが飛び火します。そして一大ファイヤーキングブームが起ったのは、21世紀に突入した頃でした。もちろん1990年代後半には、目黒通りの家具屋さんの片隅や古着屋さんのカウンターに、こっそりと置かれてはいたのですが‥‥。やがてアメリカではコレクターズガイドなどの関連本が一気に発売され、ヴィンテージアメリカングラスウェアが全米規模で認知されます。そして各地のグラスショーで取引されるメインアイテムが、コーラボトルからマッキー社やジャネット社、とくにファイヤーキングへと変わっていったのです。

次回はファイヤーキングの誕生と、21世紀に日本で始まったファイヤーキングブーム、さらに私の写真集“BREATH TAKING”についてお話したいと思います。

           
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