藤原美智子 × 永富千晴| 「藤原美智子流、この秋のトレンドメイク」(後編)
メイクアップ・アーティストの藤原美智子さんを迎えて
藤原美智子×永富千晴 対談(後編)
「藤原美智子流、この秋のトレンドメイク」 (1)
連載 第2回目を迎えた「永富千晴のビューティ・クローズアップ」では、メイクアップ・アーティストの藤原美智子さんをお迎えしました。ご存知のとおり、藤原さんは「美しくなりたい」という女性の理想をスタイリッシュに実践して、私たちに伝授してくれる美のカリスマです。そしてその生き方に憧れている女性も多いのではないでしょうか。そこで、前編では、人生&美の哲学をたっぷりおうかがいしました。後編では、この秋のトレンドメイクとそのポイントについて、プロの視点から語っていただきます。
文=オウプナーズ
写真=原恵美子
ポイントは、アイシャドウの質感
永富 秋冬のイメージルックと新色をいくつか持ってきたのですが。
藤原 こうして見てみると「スモーキーでニュアンスのある女性」というイメージが多くでているような気がしますね。パキッとした色というよりもフワーっと肌に自然にとけ込むような洗練された中間色。いまの時代感や女性像がニュアンス重視の傾向にあるから、全体的にヴィヴィッドな色ではなくて薄いトーンがきてる、といえると思います。
永富 たとえば、秋冬のニュアンスを取り入れたかったらまずはなにに着眼すべきですか?
藤原 アイシャドウの質感。色というよりも、しっとりとつくような粒子とか、洗練されたパール感、そういった「質感」があたらしいものをチョイスするといいんじゃないかしら。そうするだけで今年っぽい秋の顔になると思う。たとえば、クレ・ド・ポー ボーテのアイシャドウは透明感があって、しとーっとつく粒子がすばらしいですよね。粉っぽくなくなめらかに伸びる感じ。マキアージュの2色入りのクリームシャドウも、軽く指先を左右に動かすだけで、繊細なつやっぽさがでて、じつに優秀。
永富 資生堂さんって、そういう半歩先の進化を捉えることがすごく上手ですよね。
藤原 そうそう。ほかのブランドのものも、今年は粒子がやわらかくてなめらかなものがすごく多く出ている気がします。ジバンシイの4色シャドウのグレー系も透明感があっていいわよね。
永富 個人的に大好きです。中間色がすごく綺麗で……。今までの目もとって、すごく強いイメージだったと思うんです。存在的には、目もと8、唇2みたいな。
藤原 だからこういったものを使うとすごく透明感があって、抜ける感じがでるの。いまの軽やかな傾向とすごくマッチする。
永富 冬に抜く、ってすごく新鮮ですね。
藤原 そうね、お肌の作り方も、以前のビシッと作りこんだスキのない肌というよりも「透明感」とか「軽やかさ」っていうのがポイントになってきているし……。だからそんな肌感に合うようなアイシャドウになっているのだと思う。
永富 それはすごく大きな傾向ですよね。目もとでいうと、まつ毛や眉毛はどうでしょうか? 最近の眉毛の傾向ってだいぶ薄くなっていますが。
藤原 目もとを強調したいから眉毛は薄くってことなのだと思うけど、今は行き過ぎていて洗練されてない気がします。まつ毛のエクステンションとかも当たり前になっていますけど、ときどきギョッとするようなひともいますし。そのひとのマインドや個性に合ったまつ毛や眉毛の濃さや太さってものが絶対にあると思うの。とくに眉毛って、モードっぽくもなるし、また、清潔感にもつながる重要なポイント。自分に似合う眉毛にそろそろ気づいてくれるといいなって思いますね。
永富 う~、耳が痛いです~(涙)。でも、なにが似合うかって、やっぱり試さないとわからないですよね。
藤原 うん、わからない。私も20年くらい前の第一期細眉ブームが来たときに、自分の眉毛を細くしてみたのね。自分ではいいと思っていたんだけど、あるとき顔写真を撮られて見たら、ものすごい老けてたの! それ以来、私には細い眉は似合わないし、自分らしくないなって思って、太い眉にしているんですけど。
永富 藤原さんでもそういう経験あるんですね! ちょっとほっとしました(笑)。では、口もとはどうですか?
藤原 少し前まではグロスが主流だったけど、グロスは口紅寄りになってきて、口紅はグロス寄りになってきている気がしますね。つまり、グロスに色が出てくるようになってきたということです。一時期、見た目はすごく赤いのに全然つかないグロスとか多かったじゃないですか。でも、また色が復活している気がします。
メイクアップ・アーティストの藤原美智子さんを迎えて
藤原美智子×永富千晴 対談(後編)
「藤原美智子流、この秋のトレンドメイク」 (2)
細かくパーツを区切って、質感で骨格をつくる
永富 なるほど。それと最近フェイスカラーみたいなものがすごく多いじゃないですか。チークなのかフェイスカラーなのか、どっちだ? 的な。
藤原 たとえば昔だったらシェーディングなんてあったじゃない。でも今は、そういうためのフェイスカラーじゃないんですよね。ニュアンスによって自然な凹凸感をつくる。たとえば高い部分にハイライトカラーのせるとポンと前に出るでしょう。そしてアウトラインに暗めのチークを入れると引き締まる、さらにチークのアウトラインの上にパール入りのハイライトいれるとまた骨格がはっきりしてくるわけですよね。そういった感じで自然な骨格を作る。そう、質感で骨格は作れるの。
永富 なるほど……質感で骨格をつくる。コツはありますか?
藤原 ポイントは細かく区切って作っていくこと。一色をバーッと塗るとすごく厚ぼったいし、平面だし、それじゃだめなのね。細かくパーツを区切れば区切るほど、それは逆に“軽やか”につながるの。そして全体像でとらえること。人間の顔なんて黙っていたって凹凸があるんだから、それをそのまま強調すればいいの。それをマイナス思考で削るとすごく厚ぼったいメイクになってしまうし、逆に欠点を強調してしまうわけ。
永富 なるほど。でも、これだけアイテムがありすぎると、迷ったときにちぐはくになりがちだと思うんです。
藤原 それは、自分は何が好きか、何をキレイだと思うかの基準がはっきりしないと選べないと思います。物を選ぶということは、そのひとのなかにひとつの「哲学」といったら大げさなのだけれど、私はこういう「美」がいいと思うとか、私はこういう物が好きっていう基準がないと選べないでしょう。
永富 でも、その基準が分からないひともいますよね。
藤原 そうね。でもそれを見つけるのは簡単で、たとえば自分はどんな女性像が好きなのかなって考える。そうすると、たとえば自分はマニッシュだけどかわいらしさもあるような感じが好きだったとする。そうすると、フェミニンなロングヘアではないじゃない。ショートヘアなんだけど前髪がギザギザしてるとか、具体的なものが出てくるのね。スカートもひざ下のふわっとしたスカートではないし、ブラウスじゃなくてシャツとか、ファッションの傾向も決まってくる。ファッションが決まってくると、つぎに自然と必要な化粧品も決まってくる。たとえば、ローズの口紅じゃなくて、オレンジや薄めのピンクかもしれない。そういう感じでまずはイメージをもつことが大事。
永富 そこから具体的なものを肉づけしていくわけですね。
藤原 そう! それって私がこの仕事で長年やってきていることなんです。まずは、イメージが湧く。私の場合は絵で浮かぶんですけど、そのイメージにあわせて化粧品を選んだり、洋服を選んだり、テクニックを選んだりするのね。でも、イメージが湧かないとすごく時間がかかってしまう。
永富 迷いが生じますよね。その場合ってどうするんですか?
藤原 たとえば、化粧品や洋服を見たり触ったりしてみる。そうすると、こういう質感のイメージ、とか湧いてくるのね。あとはモデルの子に触発されたりもしますし。
永富 なるほど。でも、これだけたくさんの雑誌でメイクの提案をしているのに、ネタが尽きないってすごいと思います。
藤原 それは、物や流行がどんどん変わっていくから、私もどんどんあたらしいイメージが湧いてくるのだと思いますね。メイクって、頭と心を働かせないとできないものだから。いまのファッションもそうでしょう。自分らしさを表現するために、ハイブランドからファストブランドまで、みんな好きなようにコーディネートしている。それって創意工夫なわけじゃない。メイクだっておなじ。
永富 街を歩いていると、創意工夫しているお洒落な女性が多くて、人間ウォッチングしているだけでセンスの勉強になることが多いです。それに、女性であることを心から楽しんでいる方もすごく増えているし。だから、メイクパターンもワンパターンだけではつまらないな、って、最近すごく思うんです。
藤原 洋服にインスパイアされてのメイクは切ってもきれない関係。リンクしているのが当たり前なんです。それに皆さんが気づきはじめているんじゃないのかな。
メイクアップ・アーティストの藤原美智子さんを迎えて
藤原美智子×永富千晴 対談(後編)
「藤原美智子流、この秋のトレンドメイク」 (3)
自分のなかで200パーセントのメイクをつくり、そこから引いていく
永富 いま、みんなすごくファッションを楽しんでるじゃないですか。だからこそ、メイクの可能性ももっと広がっていく気がします。でもメイクって難しいイメージがありますよね。
藤原 メイクがファッションと何がちがうかというと、テクニックが必要ってことかな。テクニックは練習しなきゃいつまでたっても身につかないし、いつまでたっても下手なまま。答えは簡単で、練習すればいいの。
永富 すてきになりたかったら練習しなきゃだめですよね。
藤原 それは絶対そうよ。私ね、よく講演とかで質疑応答のときに「自分に似合うメイクがわからない」って質問を受けるのだけど、そのときにひとつの提案として「休みの日でもいいから、自分のなかでは200パーセントのメイクをしてみましょう」と答えるんです。とにかく盛る、盛る、盛る、これでもかくらいに(笑)。それで、出来上がった顔はギョッとするかもしれないけれど、そこから引いていけば「あっ!」って瞬間がきっとあると思うの。
永富 なるほどー!
藤原 少なめから盛っていくと、いつも薄めなひとは勇気がなくてそこそこ止まりになってしまうわけ。でも減らしていくと、ここが一番自分らしいっていうポイントがつかめるのよ。だから私は濃いところから減らしていくほうが、パーツパーツで自分らしいメイクに出会う確率が高いんじゃないかなって思うのね。
永富 ちなみに、髪をひとつに束ねている “藤原さんスタイル”が出来上がったのっていつごろなんですか?
藤原 20代の前半は今みたいにポニーテールにしていたんだけど、テクノブームがあって、私も刈上げにしたり、左右の長さがアシンメトリーな髪形にしたり、ドレットかけたりとかして(笑)。それでそのあと、センターパーツのボブが結構長い期間あったんです。それを一気にショートにしたのだけどすぐに飽きてしまって、長くなるまでエクステつけたりして、5・6年前にやっともどった。結局、長い髪をまとめているのが一番落ち着くのよね。
永富 先ほどの眉のお話もそうですけど、やっぱりそうやっていろいろトライしてみるのって大事なんですね。
藤原 そう。それって、やってみないとわからないことだからね。それはいろいろなことに共通して言えると思いますけど。
永富 唐突ですが、藤原さんにとってメイクってなんですか?
藤原 一番は自分らしさの表現よね。でも、いつもいつもメイクしてるわけじゃなですよ。今日みたいに撮影があるときはメイクするけど、たとえば下田にいるときはすっぴん。
永富 え~!? そうなんですか?
藤原 だって自然なところにいるのにフルメイクは似合わないし、おかしいじゃない。私、家に帰るとすぐに顔を洗っちゃうし、家だとメイクはしないから。
永富 でも、藤原さん美人だし、あんまり印象が変わらなさそうにも思いますが……。
藤原 私は、いつも女性は綺麗にしてなきゃいけないって思っていないんです。それはいつも言っていることなんですけど、何かを一生懸命やっているひとって美しいじゃない。でもそのときにメイクが邪魔なときもある。それならしなくていい。たとえばヨガをやっているときとか、走っているときにフルメイクしたらおかしいでしょう。やっぱりTPOに合わせるのが一番美しいと思います。日本の女性って、ひとつの顔でどこでも行くじゃない、あれっておかしいと思うの。私は自分のなかで何段階もメイクパターンがあるんです。いつもおなじにみえるかもしれないけど(笑)。メイク時間も3分から45分まである。それをその日のスケジュールや場所にあわせて変えるのね。
永富 3分から45分!? すごいですね。
藤原 でも大人であればあるほど、いろんな顔をもつべきだし、TPOに合わせるのは礼儀だし、それがオシャレというものじゃないかな。たとえば「わたしにTOPなんてないわ。いつもおなじことしかしてないし」ってひとがいるんだったら、いつもは安売りのスーパーマーケットだけど今日は紀伊国屋行ってみようとか工夫すればいいのよ。そのときはマダム風にしていこうとか楽しんで。
永富 たった、それだけで、いつもの生活がもっと楽しくなりますね! そのほうが女としてもメイクもファッションも上達するし!! 秋のメイクアップから、といわず、早速とりいれて、秋のメイクアイテムが発売されるのを待ちたいと思います。藤原さん、本当にありがとうございました。