青木定治さん(1)「日本」を武器に
Fashion
2015年5月14日

青木定治さん(1)「日本」を武器に

青木定治さんのお菓子をいただきながら……(1)

「日本」を武器に――

洋菓子の激戦区といわれるパリ・サンジェルマン・デプレを拠点に活動する青木定治さんは、本国フランスでも一流パティシエとの呼び声が高い洋菓子界のトップランナー。2005年3月には東京・丸の内へブティックをオープンし、現在はフランスと日本を股にかけて活躍されています。
今回、青木さんの来日のタイミングで実現した対談はなんと、青木さんを追ったドキュメンタリー番組、BS特集 シリーズ『ファースト・ジャパニーズ 若き開拓者たち』(※下段参照)との同時取材でした。
対談第1回は『パティスリー サダハル アオキ パリ』丸の内店より、青木さんの代表作をはじめ、おいしいお菓子をいただきながらお届けいたします。

構成と文=秦 大輔(City Writes)写真=Jamandfix

パリと変わらぬ味を東京で

松田智沖 お忙しいなかありがとうございます。お菓子までご用意いただき恐縮です。

青木定治 とんでもございません。

松田 お菓子をひとつひとつご説明いただいてもよろしいですか。

青木定治さんのお菓子をいただきながら……(1)「日本」を武器に――

青木 手前のエクレア(エクレール オ 抹茶)は僕の代表作のひとつですね。フランス産の小麦とバター、それに抹茶を使い、パリの本店とまったくおなじ味を再現しています。もうひとつの抹茶を使った代表作(バンブー)は、2002年の世界陸上のとき、日本人を応援するためにつくったお菓子です。
フランス人は自分たちの文化に敬意をもっている人間しか認めません。そして、+αの魅力がないと振り向いてくれない。これら抹茶のお菓子はその点では、僕がパリで勝負するための“武器”といえます。

松田 パリのお店でも何度かいただきましたが、本当にまったくおなじ味ですね。何度食べてもおいしい。パリでの思い出が蘇るようです。

マカロンも青木さんの定番ですよね。素人考えながら、こちらもアレンジのしようのない完成された味だと思います。それでも改良を加えているのでしょうか。

青木 ええ。フォームは決まっていますが、食感を変えていますね。古い書籍を見ながら
「じつはこんな舌どけだったんじゃないか」などと考えながら、よりおいしいに近づける努力をしています。新しくしているというよりは、技術が追いついているという感じかもしれませんが。
追求するほどに、こうしたシンプルなお菓子こそ技術が必要なのだということに気づかされます。これが200年以上前にすでに完成していたのですから、先人は本当にすごい。

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サンドされたクレーム・オ・ブールは、仏・シャラント産の発酵バターを使用

『パティスリー サダハル アオキ パリ』丸の内店にて

「あんこ」がパリっ子にウケた!

青木 小豆とショコラを入れたクロワッサン(クロワッサン・オ・アズキ・ショコラ)もぜひお食べになってください。こちらは朝食として食べていただくようなオーソドックスなパンですが、日常的なものだからと原価を抑えようとするのではなく、僕はシャラント産のバターにこだわってつくっています。食べ物のためには時間も手間もさく、生粋のパリっ子たちに勝負できるものだけをお出ししているつもりです。

松田 お世辞ぬきにおいしいです。表現が稚拙で恐縮ですが、ひとことでいうなら「豊かな味」です。

青木 ありがとうございます。シャラント産のバターと小豆がすごく合うんですよ。これをつくるために僕は、茗荷谷にある小豆菓子の名店『一幸庵』さんで小豆の炊き方を学びました。小豆をパリっ子へ向けてどう紹介しようかと悩んでいたとき、一幸庵さんの、バターと小豆をたっぷり挟んだトーストを食べて、「これだ!」と思ったんです。日本の僕のお店で使う小豆は、一幸庵さんに炊いてもらっています。

ただ、バターとおなじように小麦粉もフランス産のものにこだわっています。日本に出店するにあたって、できるだけ日本産の素材を活かしたいと思っていたのですが、国産の小麦粉は水分を吸いやすい。これだと口に入れたときにサクッと散る食感が出せないんですよ。日本だと食パンのようなもちもちっとした食感が好まれますが、フランスではまさにフランスパンのようなザクザクッとした食感が好まれますね。

松田 日本だからといって変にすり寄らない姿勢が素晴らしいですね。ところで、われわれでこそ“あんこ”に馴染みがありますが、パリのお客さまもすんなり受け入れてくれたのでしょうか。

青木 フランスのいいホテルに泊まると、必ずといっていいほど朝食にフランスパンと、シャラント産バターとジャムが出てくるんですね。そういう文化がありますからジャムが小豆であっても、自然と受け入れてくれました。「どうして豆に砂糖を入れるんだ?」という人もいらっしゃいますが、食べると納得してくださいます。

松田 そうでしょう、本当においしいですから。……と、私はこのまま食べ続けてもいいのでしょうか(笑)。

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※青木定治さんのお菓子づくりの日々を追ったドキュメンタリー番組 BS特集シリーズ
『ファースト・ジャパニーズ』(NHK衛星放送第一テレビ)は8月11日(土)22:10~23:00分放送予定。

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profile
『パティスリー サダハル アオキ パリ』
シェフ・パティシエ 青木定治さん

1968年生まれ。東京都出身。パリ在住。89年まで青山「シャンドン」に勤務後、渡仏。パリ『ジャン・ミエ』、スイス『レストラン ジラルデ』を経て、パリ『クーデル』ではアントルメ(ホールケーキ)のシェフを務める。98年にはパリ7区に、現在はパリ5区にアトリエを構える。
2001年には強豪ひしめくパリ6区に、03年にはパリ5区へブティックをオープン。フルーツをふんだんに贅沢に用いたパウンドケーキや抹茶を用いたお菓子などが、本場パリの食通たちの舌を虜にする。
05年に東京・丸の内へ、06年には伊勢丹新宿店内へ、そして今年3月には東京ミッドタウンへブティックをオープン。
日本洋菓子連合会国際部のパリ支部を担当。
http://www.sadaharuaoki.com/

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Patisserie Sadaharu AOKI Paris boutique Marunouchi
パティスリー サダハル アオキ パリ 丸の内店

東京都千代田区丸の内3-4-1 新国際ビル1F
Tel. 03-5293-2800
営業時間 11:00~21:00 不定休

           
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