BMW i3を国内試乗|BMW
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2015年1月9日

BMW i3を国内試乗|BMW

BMW i3|ビー・エム・ダブリュー i3
エポックメイキングな電気自動車

BMW i3を国内試乗

BMWが電気自動車「i3」を発売した。「BMW i」というサブブランドを冠するこのクルマは、たんにEVというだけでなく、素材や製造技術、その生産工場にいたるまで、持続可能なクルマ社会を構築するというまったくあたらしい視点からつくられている。そのフィロソフィーを以前「BMW iという事件」にまとめていただいた大谷達也氏が、ついに日本でi3のハンドルを握った。

Text by OTANI TatsuyaPhotographs by ABE Masaya

ついに乗る機会を得たi3

初めてBMW iの担当者たちにインタビューしたのが2011年だから、あれからもう3年ちかくになる。にもかかわらず、いまでも道でその姿を目にすると「あ、i3だ!」と思わず声を上げてしまうくらい、私の目には新鮮に映る。それもそのはず、散々エンジニアやデザイナーたちにインタビューしたせいですっかり乗った気になっていたが、よくよく考えてみれば私はまだ「i3」に試乗したことがない。

そのチャンスがようやく訪れたのは、2014年4月5日の発売直後のこと。というわけで、ここ数年なかったくらい興味津々で試乗会場を訪れた。

外観は見慣れたi3そのもの(当たり前だ)。「BMW iという事件」という記事でも書いたけれど、オーガニックなデザインはこのクルマがただの鉄板ではなくプラスティックとカーボンコンポジットでできていることを明瞭に物語っていて、じつに見事だと思う。しかも未来的なイメージも醸し出しているので、知らない人が見ても「このクルマは何かがちがう」と直感するはず。この辺がEVやPHVにも普通の量産車と基本的におなじ外観を与えたフォルクスワーゲン・アウディ グループと大きくことなっている点だ(どちらが「いい」「悪い」の話ではなく)。

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そしてインテリアのデザインも素晴らしい。ケナフと呼ばれる植物の繊維で編まれたダッシュボードもいいし、ひとつひとつの部品の“精密感”も申し分ない。各機能要素をダッシュボードから浮き上がらせたような造形はなかなかユニークだし、広々としたキャビンを印象づけるうえでも効果的だ。

そしてなにより、室内が明るいのがいい。いくらフロントウィンドウへの映り込みの問題があるとはいえ、黒一色の内装はいささか退屈である。その点、i3のインテリアは全体的に明るい色合いでコーディネートされて(もちろんそうじゃないカラーも選べる)いて、個人的には大変気にいっている。

BMW i3|ビー・エム・ダブリュー i3
エポックメイキングな電気自動車

BMW i3を国内試乗 (2)

アクセル操作に大きな特徴

操作系もiオリジナルのデザインとなっている。“走らせる”機能はステアリングコラムから向かって右方向に突き出している太いレバーに集約されていて、ここにスタート/ストップ ボタン、ロータリー式のドライブ セレクター(D、N、Rレンジへの切り替え)、パーキング ボタンが並んでいる。始動させるにはまずスタート ボタンを押してレディ状態にし、ドライブ セレクターをひねってDレンジを選ぶだけでいい。なお、電気式パーキングブレーキのスイッチはセンターコンソール上に設けられている。

スロットルを踏み込むと、i3は軽々と走り始める。ノイズレベルは、もちろん低い。インバーターやモーターの騒音レベルも比較的小さい。「eゴルフ」にはちょっと負けるかもしれないが、このくらい小さければまず気にならないだろう。

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それよりも特徴的なのがスロットルペダルというか、アクセラレーターのセッティングだ。いや、加速方向にかんしては特に違和感を覚えない。ところが、アクセラレーターを戻したとき、意外なほど大きな減速Gが発生するのである。

EVだから減速時のエネルギーを積極的に回生するのは当然といえば当然。その結果として大きな減速Gが発生するのもよくわかる。ただし、i3は、フットブレーキを軽く使ったときとおなじくらい大きな減速Gが発生するのだ。

これを便利と思うか、「感覚にあわない」と感じるかは個人差があるだろう。じつは、BMWがi3の開発をおこなう過程で試験的に制作された「MINI E」は、アクセラレーターを離すと0.3Gの減速Gを発生した。通常のクルマのフルブレーキングが1Gと言われているからその1/3ほどだが、おそらく普通のひとには「急ブレーキ」と感じられるレベルだろう。

それでも、私はMINI Eの運転操作に意外なほど短時間で慣れることができた。そしてひとたび慣れてしまえば、ブレーキペダルへの踏み替えが必要ない分、むしろ便利とさえ思った。

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それがi3では、MINI Eの半分程度まで減速Gが減少したように感じられる。それでも初めて乗ったひとは違和感を覚えるだろうが、この程度だったら許容範囲内かもしれない。そのいっぽうで、たとえば少し先の信号が赤に変わって徐々に減速していこうと思うようなときには、相変わらずフットブレーキを使わずにアクセラレーターの操作だけで停止できるのだから、まあ、いい妥協点といえるかもしれない。

BMW i3|ビー・エム・ダブリュー i3
エポックメイキングな電気自動車

BMW i3を国内試乗 (3)

大径タイヤサイズのもたらす功罪

i3のサイドビューを見ると、異様に大きな径のタイヤを履いていることがわかる。試乗車が装着していたのも、フロント155/70R19、リア175/60R19というサイズ。実質的にCセグメントのi3に19インチを履かせるのも驚きだが、ここに60パーセント扁平、70パーセント扁平という“肉厚”なサイズを組み合わせているからタイヤの外径はかなり大きい。ちょっとしたバイク用タイヤくらいの大きさはある。いっぽうで155、175というタイヤ幅は、いまどき軽自動車用のサイズといっていいだろう。

なぜ、BMWはこんな不思議なサイズのタイヤを選んだのか? その最大の理由は空気抵抗の減少にある。幅の広いタイヤは、前から見たときの面積が大きく、これが空気抵抗の増大に直結する。いっぽう、幅を狭くすれば面積が減って空気抵抗も小さくなるが、ご想像のとおりタイヤの接地面積も減って必要なグリップレベルが得られない恐れがでてくる。

これを防ぐために考えられたのが、大径タイヤの採用である。外径の大きなタイヤは、道路との接地パターンが前後方向に大きく伸びた形になる。これによって幅が狭くなった分を補い、有効なグリップを手に入れようとしているのだ。

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試乗した印象からいうと、横方向のグリップが不足しているとは感じなかった。いやいや、i3のコーナリングスピードはなかなか速い。これで不十分だと思う人は、もっと本格的なスポーツカーに乗る以外にないだろう。そのくらいi3のコーナリング性能は高いのである。

いっぽうで大径タイヤのデメリットが出ていると思われたのが、その乗り心地だ。ハーシュネスといって、路面がデコボコしているとそのショックがキャビンにそのまま伝わってきてしまう。その傾向が、i3はやや強めなのだ。

これをもって「i3はダメだ」と主張するジャーナリストもいるようだが、筆者はそうは思わない。ハーシュネスは軽ければ軽いほうが好ましいのは事実。ただし、ハーシュネスの感じ方は人ぞれぞれで、われわれのような職業をしているとどうしても評価が厳しいほうに振れやすい。したがって、筆者の判断としてハーシュネスがきつめだったことはお伝えしておくが、最終的な判断は読者に委ねたいと思う。

BMW i3|ビー・エム・ダブリュー i3
エポックメイキングな電気自動車

BMW i3を国内試乗 (4)

過激なステアリング

もうひとつ、i3で戸惑ったのはそのコーナリングフォームだ。ステアリングをほんの少し切っただけでも、ほとんどロールせずに素早くターンインを開始する。その、ちょっと過激なまでのステアリング ゲインの高さが少し気になったのだ。

「BMWはスポーティモデルを作るのが得意なメーカー。ましてi3ではスポーティなハンドリングを売り物にしているのだから、そんな味付けは当然でしょう」 ひょっとすると、アナタはそう思われるかもしれない。

しかし、BMWの最新作は、ごく一部のスポーティモデルをのぞき、ステアリングの反応はもっと穏やかだし、ロールもきっちりする。例外は「ミニ」だが、あれはヤンチャ感を出すために敢えてゴーカートフィーリングを前面に押し出しているのであって、ある意味、戦略に基づいた味付けといえる。

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ちなみに、BMWのコンパクトモデルとプラットフォームの一部が共通化されることになった3代目ミニはこのゴーカート フィーリングがぐっと抑えられていたから、BMWとしては必ずしもゴーカート フィーリングが必須なものとは考えていないようだ。個人的に、ミニのキャラクターとゴーカート フィーリングはよくマッチすると思う。ただし、私はそれ以上に現行BMWの穏やかなハンドリング、そして自然なロール感覚を愛して止まない。それゆえ、i3のクィックな操縦感覚には軽い違和感を覚えてしまうのである。

いっぽう、動力性能はなかなか活発だ。たとえば10-90km/hの範囲でいえばピックアップは良好で、常にレスポンスのいい加速感を味わえる。ただし、電気自動車の常で高速域にはいるとその勢いはやや鈍り始める。i3の場合も100km/hくらいまでが気持ちよく走れるひとつの上限。もっとも、日本の制限速度、そしてシティコミューターとしてのi3の役割を考えれば、これ以上の性能は必要ないともいえる。

BMW i3|ビー・エム・ダブリュー i3
エポックメイキングな電気自動車

BMW i3を国内試乗 (5)

BMW iの意義

i3の記事はこれまでにもOPENERSに何度も掲載されてきた。ただし、試乗した際のインプレッションはあまり掲載されたことがなかったので、今回はそこに集中して執筆してみたところ、ハーシュネスとハンドリングの件で私が違和感を覚えていることが強調される内容となってしまった。

ただし、これをもってして私が「i3はダメ」と評価しているように思われたなら心外である。

i3は、カーボンモノコックのクルマを500万円以下の価格(レンジエクステンダー付きは546万円)で実現したという意味で、歴史に残るエポックメイキングなクルマだ。きっと、これから20年ほどが過ぎて、カーボンモノコックのクルマがより一般化したとき、「このトレンドを作ったのは実はBMWのi3だったんだよね」というように思い出されることになるだろう。そしてまた、BMWのカーボンモノコック量産技術にライバルメーカーたちが追いつくまでには、あと10年ほどを要するのではないかとも思う。

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もうひとつ、クルマの生産過程におけるCO2排出量を徹底的に減らすという意味でも、BMW iは大きな役割を果たした。このトレンドはまちがいなく自動車産業界全体に波及していくはずだ。
i3のコンセプト、デザインにも共鳴するところが多い。もしも私にもっと経済的余裕があって、シティコミューターを1台手元に置いておきたいと思ったら、i3はその有力な候補になるだろう。

それでも、前述したハーシュネスとハンドリングは今後の改善点として指摘しておきたい。ただし、あれほどハーシュネスが厳しかったランフラットタイヤをわずか数年で履きこなし、いまやこの分野でライバルメーカーを圧倒的に引き離しているBMWであれば、大径タイヤにまつわる困難もきっと克服できるだろう。

いまから2、3年が過ぎて、シャシーがより洗練されたi3と出会う日のことが待ち遠しくて仕方がない。

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BMW i3|ビー・エム・ダブリュー i3
ボディサイズ|全長 4,010 × 全幅 1,775 × 全高 1,550 mm
ホイールベース|2,570 mm
トレッド(前/後)|1,575mm / 1,560 mm
最低地上高|110 mm
重量|1,260 kg
駆動用バッテリー|リチウムイオン電池1個(96セル)
最高出力| 125 kW(170 ps)/5,200 rpm
最大トルク|250 Nm(25,5 kg)/100-4,800 rpm
駆動方式|RR
サスペンション(前/後)|ストラット / マルチリンク
ブレーキ(前/後)|ベンチレーテッドディスク
タイヤ(前/後)|155/70R19
0-100km/h加速|7.2 秒
最小回転半径|4.6 メートル
トランク容量|260-1,100リットル
最高速度|150 km/h
一充電走行距離(JC08)|229 km
価格|499万円

BMW i3|ビー・エム・ダブリュー i3(レンジエクステンダー装着車)
ボディサイズ|全長 4,010 × 全幅 1,775 × 全高 1,550 mm
ホイールベース|2,570 mm
トレッド(前/後)|1,575mm / 1,540 mm
最低地上高|110 mm
重量|1,390 kg
駆動用バッテリー|リチウムイオン電池1個(96セル)
最高出力(電気モーター)| 125 kW(170 ps)/5,200 rpm
最大トルク(電気モーター)|250 Nm(25,5 kg)/100-4,800 rpm
発電用エンジン|直列2気筒DOHC4バルブ
最高出力(発電用エンジン)| 28 kW(38 ps)/5,000 rpm
最大トルク(発電用エンジン)|56 Nm(5,7 kg)/4,500 rpm
駆動方式|RR
サスペンション(前/後)|ストラット / マルチリンク
ブレーキ(前/後)|ベンチレーテッドディスク
タイヤ(前/後)|155/70R19 / 175/60R19
0-100km/h加速|7.9 秒
最小回転半径|4.6 メートル
トランク容量|260-1,100リットル
最高速度|150 km/h
ハイブリッド燃費(JC08)|27.4 km/ℓ
充電電力使用時走行距離|196.1 km
価格|546万円

           
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