A. LANGE & SÖHNE|A.ランゲ&ゾーネの故郷を訪ねて

A. LANGE & SÖHNE|A.ランゲ&ゾーネの故郷を訪ねて

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A. LANGE & SOHNE|A.ランゲ&ゾーネ

ドイツ・ドレスデンで再興する世界屈指のオート・オルロジュリー

A.ランゲ&ゾーネの故郷を訪ねて

ドイツ東端の都市、ザクセン州ドレスデンからクルマで約1時間。スイスと並ぶ時計の一大生産拠点、グラスヒュッテに「A.ランゲ&ゾーネ」の工房はある。1845年にフェルディナンド・アドルフ・ランゲが創業し、徹底した手仕事と類い希なる開発精神をもって、数少ない真のマニュファクチュールとなった名門の、その時計作りのルーツに迫った。

Text by AKIZUKI Shinichiro(OPENERS)Photographs by courtesy of A. LANGE & SOHNE / IKUO YAMASHITA

時の君主たちの収蔵品

今年5月、「A.ランゲ&ゾーネ」創業の地、ドレスデンを訪ねた。市内中心部は、右岸を旧市街、左岸を新市街と分けるようにエルベ川が走り、その側にはツヴィンガー宮殿やセンパーオペラ座など、ドレスデンを代表するバロック建築の傑作が立ち並ぶ。かつての暗く冷たい旧東ドイツ時代の街並みは影を潜め、目映い日差しが建物を強く照らしている。

第2次大戦中、連合国軍によって空爆された聖母教会(フラウエン教会)は、瓦礫と化した建材を可能な限り元の位置に戻す作業を繰り返し2005年に復建。ふたたびドレスデンのシンボルとして街を見守っている。

2005年に立て直された聖母教会(フラウエン教会)

ドレスデンの夜景。奥が旧市街で手前を流れるのがエルベ川

この町の基礎を築いたのは、かつてこの地で栄華を極めたザクセン王国だが、「A.ランゲ&ゾーネ」の歴史は、1845年、その宮廷御用達の時計師であった、フリードリッヒ・グートケスのもとで修業を重ねたフェルディナンド・アドルフ・ランゲがドレスデン郊外グラスヒュッテに時計工房を開設したところからはじまる。

しかし、そのヒストリーを紐解く前に、ザクセン王国についてもう少し知る必要がある。

遡ること500年前、16世紀に活躍したザクセン選帝侯アウグスト(1526-1586)は、この時代の君主らしく、収集の趣味を持っていた。アウグストは絵画、武器、宝飾品、工芸品、奇品、実用品など、自身で集めた品々を収蔵する蒐集室を設け、アウグストの死後も、将来の君主たちが集めた品物をそこに収蔵するように指示。

注目すべきは、その収蔵品のなかに、地球儀や天球儀、天文や測地の装置、そして測量機器なども含まれていたことだ。1729年にはツヴィンガー宮殿の2階に、この芸術品を集めた「数学計器室」を設置。

収蔵品を集めた「数学計器室」を設置したツヴィンガー宮殿

そしてここは、後に同室長に任命された天文気象学者、ヨハン・ゴットフリート・ケーラーによる高精度時計の重要な開発拠点としてだけでなく、同時に時間計測の分野に決定的な進歩をもたらし、衰退を続ける銀鉱山に代わるドレスデンのあらたな産業の幕開けを予感させる切っ掛けとなった。この基盤こそが、後のA.ランゲ&ゾーネ誕生の礎となったことは言うまでもない。