BMW M5|M史上最強のプレミアムサルーンに試乗
CAR / IMPRESSION
2015年2月25日

BMW M5|M史上最強のプレミアムサルーンに試乗

BMW M5|ビー・エム・ダブリュー M5

M史上最強のプレミアムサルーンに試乗(1)

ダウンサイジングコンセプトを採用し、環境性能をアップさせつつも、M史上最強と謳われる最高出力412kWを発生する4.4リッターエンジンを積む、新世代の「M5」に、ジャーナリスト 島下泰久が試乗した。

文=島下泰久

パフォーマンス、環境性能ともに向上した新世代のV8ツインターボ

実用セダンである5シリーズのボディにスーパースポーツカー「M1」譲りのエンジンを搭載して1985年にデビューした初代モデルから数えて4世代目に当たる新型BMW M5の最大の特徴は、やはりパワートレインだ。

従来のV型10気筒5リッター自然吸気エンジンに代えて搭載されたのは、V型8気筒4.4リッター直噴ツインターボ。そう、ここにもついにダウンサイジング+直噴+過給という波が訪れたのである。

いまやMモデルといえども走りのよろこびだけ追求していればいい時代ではないというわけだが、しかしこの世界では、同時に動力性能までダウンさせるなんてことは許されない。事実、そのスペックは最高出力が53ps増しの560ps、最大トルクがじつに160Nm増しの680Nmをマークし、実際のパフォーマンスとしても0-100km/h加速は4.7秒から4.4秒へと短縮されている。

BMW M5|ビー・エム・ダブリュー M5 試乗|02

それでいて燃費は、エネルギー回生システムやスタート/ストップ機能の貢献もあって9.9ℓ/100km(約10.1km/ℓ)、CO2排出量は232g/kmと、先代よりざっと30パーセントも低減されているのだから、まさに狙いどおり。BMWの標榜する“Efficient Dynamics”が、新型M5では究極的なかたちで体現されているのだ。

究極的なかたちで“Efficient Dynamics”を体現

BMW M5|ビー・エム・ダブリュー M5 試乗|03

その圧倒的なパワーは、これも新採用のデュアルクラッチを採用した7段M DCTドライブロジック、そして左右輪間のトルクを0~100パーセントのあいだで自在に制御するアクティブMディファレンシャルによって後輪へと伝達される。

すべて電子制御されたエンジンやトランスミッションのレスポンス、パワーステアリングの操舵力、サスペンションの硬さなどをiDriveの設定画面から、もしくはステアリングホイールに設けられたMボタンによって自在に切り換えることができるのも、先代から受け継ぐ特徴である。

BMW M5|ビー・エム・ダブリュー M5

M史上最強のプレミアムサルーンに試乗(2)

フォーマルなスタイリングをキープしつつ、より精悍な仕上がりに

そんな新型M5の国際試乗会が開催されたのはスペイン・セビリア。9月後半だというのに真夏のような陽光が降り注ぐなかで対面したその姿は、これまでどおり5シリーズが本来もつフォーマル感を崩すことなく、しかし大きな開口部が与えられたフロントバンパーやフロントフェンダーに開けられたエアアウトレット、左右2本出しのテールパイプなどなどによって、まさに解るひとには解る精悍な仕立てとされていた。

全面レザー張りとされたインテリアも、けっして獰猛な雰囲気を醸すものではない。しかしスタートボタンを押してエンジンを目覚めさせると、音量こそ控えめながら重低音の効いたエグゾーストノートが響いてきて、只者ではないクルマに乗っているということを強く意識させてくる。

しかし走り出すと、予想に反して乗り心地は拍子抜けするぐらいしなやかだった。電子制御ダンパーの設定を「COMFORT」にしておけば、19インチタイヤを履いているとはにわかに信じられないほどの高い快適性を得られる。

BMW M5|ビー・エム・ダブリュー M5 試乗|05

エンジン特性も同様で、低回転域からトルク感が凄まじく、街中ではアクセルペダルを2割以上踏み込む必要はないほど。前が空いたときにも、もう1割も踏み込めば十分に流れをリードできる。シングルクラッチゆえの変速マナーが気になった先代のSMGとはちがって、デュアルクラッチとなったM DCTは変速もなめらか。これなら普段でも、余計な気づかいはまったく不要だろう。けれど当然、それはM5のほんの一面にしか過ぎない。

BMW M5|ビー・エム・ダブリュー M5 試乗|06

サスペンションを「SPORT」もしくは「SPORT+」に、トランスミッションをマニュアル変速でかつ変速スピードを高める「S2」モードにセットしてやおらペースを上げていくと、M5は徐々に本当の姿を露にしはじめた。

ツインターボ化によってアイドリング直後の1,500rpmから5,750rpmまでの非常に幅広い回転域で最大トルクを発生するV型8気筒エンジンは、追い越しのさいなど、先代なら左側のシフトパドルを2回つづけて弾いてシフトダウンさせたような場面でも、右足にじわりと力を込めるだけで済ませてしまう無類の柔軟性を得ている。

しかし、だからと言ってたんに扱いやすいだけのエンジンになってしまったわけではない。それはスペックを見てもあきらか。なにしろ最高出力を発生するのは、最大トルクバンドのすぐ先の6,000-7,000rpmという高回転域であり、つまり本領を発揮させるには、やはり積極的にまわすしかないのである。

BMW M5|ビー・エム・ダブリュー M5

M史上最強のプレミアムサルーンに試乗(3)

常識を覆されそうなほどの速度感の乏しさ

実際、引っ張れば瞬間的には7,200rpmのリミットを飛び越えてまわすこともできるが、しかし先代の8,000rpmオーバーまで突き抜けるようにまわったV型10気筒エンジンを知る身からすれば、さすがにキレ味は物足りなく感じる。ターボとしては例外的に鋭いレスポンスも、やはり自然吸気ほどダイレクトとは言えないのも事実だ。しかしいっぽうで、どこから踏んでも瞬時に得られるワープするかのような速さはやはり尋常ではなく、スポーツ心臓としての出来映えは出色と評するほかない。

しかも、この速さをシャシーはしっかりと受け止めている。唖然とさせられるのがその速度感の乏しさで、気づくと感覚の1.5倍くらいの速度で走っていることが幾度もあった。180km/hってこんなに平和だったっけ? と自分のなかの常識が覆されそうになるのは、果たして良いのか悪いのか……?

BMW M5|ビー・エム・ダブリュー M5 試乗|08

BMW M5|ビー・エム・ダブリュー M5 試乗|09

そんな安定感の一方で、フットワークにはMモデルに期待する鋭さがしっかりと感じられる。車重がほぼ2トン近いだけに軽快とまでは言えないが、ステアリング操作にノーズの動きが正確に追従して、思いどおりにターンインできる。先代とおなじくこの新型M5も、インテグレーテッドアクティブステアリングやランフラットタイヤは搭載していない。しかし、これだけ気持ち良く曲がるなら4輪操舵なんて不要だ。

新型M5はリラックスしてハイパフォーマンスを引き出せる1台

しいて言えば、フロントに6ポッドキャリパー、そして400mmという大径のローターを採用したブレーキがもう少しガツンとした初期制動をもたらしてくれればなお良いが、サーキット走行までふくんだ試乗で丸1日フェードの兆候すら見せなかったことを考えれば、不満を言うべきではないかもしれない。

そのサーキットでの走りも、やはり鮮烈だった。Mボタンを押して各種電子制御を戦闘モードに切り替え、勇んでコースに出ると、その動力性能の高さにあらためておどろかされる。2トン近い車体が200km/hに達しようという速度域でもまったく勢いを衰えさせることなく加速しつづけるのだから、思わず手に汗を握ってしまう。

BMW M5|ビー・エム・ダブリュー M5 試乗|10

それでいて恐怖心とは無縁でいられるのは、卓越したフットワークのおかげ。車重があるだけに突っ込み過ぎは禁物だが、そこさえ気をつければ良く曲がり、そのうえ安定感も高い。無論、これほどのパワーだけに不用意に踏み込めば挙動は容易に乱れるが、おそらくはアクティブMディファレンシャルのおかげで、すべりながらも車体はしっかり前に進んでくれる。安心感と操る楽しさが同居しているのだ。

先代M5は、乗っているとつねに、もっとアクセルを踏めとけしかけられているようなクルマだったが、新型M5はもう少しリラックスしてハイパフォーマンスを引き出せる1台に仕上がっている。多少丸くなったのは事実であり、そこに寂しさを覚えないわけではないが、しかし代わりに懐深さと図太さを得た。速さを増しながら燃費も向上している。ダウンサイジングはしても牙を抜かれることはなく、新型M5は今の時代にふさわしいハイパフォーマンスセダンに進化したのである。
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BMW M5│ビー・エム・ダブリュー M5
ボディサイズ│全長4,910×全幅1,891×全高1,467mm
ホイールベース│2.946mm
車輌重量│1,945kg
エンジン│4.4リッターV型8気筒 ツインスクロールターボつき
最高出力│412kW(560ps)/5,750-7,000rpm
最大トルク│680Nm/1,500-5,750rpm
燃費│9.9ℓ/100km(約10.1km/ℓ)
CO2排出量│232g/km
価格|1495万円

           
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