INTERVIEW|『ブリングリング』ソフィア・コッポラ監督、来日記念インタビュー
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2015年4月3日

INTERVIEW|『ブリングリング』ソフィア・コッポラ監督、来日記念インタビュー

INTERVIEW|ハリウッドのクローゼットを荒らしまくったティーン窃盗団

『ブリングリング』

ソフィア・コッポラ来日記念インタビュー(1)

ソフィア・コッポラ3年ぶりの新作『ブリングリング』が公開される。映画化のきっかけとなったのは、インターネットを武器に、ハリウッドセレブの豪邸を次々と狙ったティーン窃盗団についてのルポタージュ『The Suspects Wore Louboutins(容疑者はルブタンを履いていた)』を、ソフィアが偶然にも目にしたこと。事件のどんな側面が彼女の心をとらえたのか。そして、映画に込めた想いとは──。グリーンカーペットでの、父親フランシス・F・コッポラとの“共演”も話題となった、東京国際映画祭参加のために来日した本人に、話を聞いた。

Interview & Text by OKADA Yuka

映画ではセレブに重きを置きすぎた社会を検証

「実際の事件を描いた映画を作ったことがないので、ありがちな成り行きや描き方にならないように、自分のスタイルをキープしながら描くのに苦労しました。そこはひとつのチャレンジだったと言えます」

この日、ソフィア自身がそう切り出したように、メランコリーでナイーブ、孤独を抱えたキャラクターにフォーカスしてきたこれまでのオリジナル作品と、今作は少なからず趣が異なる。

題材となったのは、実際に2008年~2009年にかけてロサンザルス郊外の高級住宅地カサバラスで連続的に発生した事件で、パリス・ヒルトン、リンジー・ローハン、オーランド・ブルーム……といった憧れのハリウッドスターの自宅を決め打ちして、総額300万ドル(約3億円)相当の洋服や宝飾品を盗み出したティーン窃盗団“ブリング・リング”(キラキラしたやつらの意)の話。まずもって、このエピソードを映画化したいと決意した理由とはなんだったのだろう?

『ブリングリング』ソフィア・コッポラ監督インタビュー 02

『ブリングリング』ソフィア・コッポラ監督インタビュー 03

「今回の映画はわたし自身ですら観ていてイラっとするところがあって、どのキャラクターもとにかくやり過ぎで制御不能なんですよね。映画に出てくるシーンでもありますが、捕まったあとに法廷に出廷するときもサングラスをかけていたり、加害者なのにリアリティ番組に登場したりしてセレブ気取り。仕草や喋り方、洋服もルックスもまったくわたしの趣味ではないし、ほとんど感情移入できません。彼らがこれ以上有名になるのがイヤだったので、名前もあえて実名を使いませんでした。

でも、だからこそ映画化しようと思ったところもあります。いまの時代は社会全体がセレブリティというものに重きを置きすぎている。“セレブリティのようでなければいけない”という価値観を若者に押し付けてさえいます。このアンバランスさを、映画を通じて検証してみたいと思いました」

「10年前には描けなかった作品」

言われてみれば、確かにセレブリティの私服ファッションやプライバシーを浸食したメディアは、ネットからSNSの時代に入り、加速度的に増加。気がつけば彼らのスタイルを真似することも、セレブカルチャーそのものを疑うこともなくなった。映画のなかでも、セレブの服を着ているだけでクラブや街でセレブ扱いされるようになっていく彼らを取り巻く状況の変化や、証拠を残す危険にすら気づけない窃盗団が、盗み出したブランドモノの戦利品を自慢げにフェイスブックにアップするようなシーンが印象的。

『ブリングリング』ソフィア・コッポラ監督インタビュー 05

だが、今作でのソフィアは無意識にセレブの真似をすること、フェイスブックを繰り返しアップしては、自分をブランド化することに執着する時代の違和感や、盲点を果敢に描き出している。そのうえ、自らもフランシス・フォード・コッポラの娘であり、「昔からスターになりたい人が集まる街」と称した、ロサンゼルスとも縁が深いソフィアが取り上げているというのも余裕の皮肉だ。

「よく『自分の若いころと比較してどうですか?』と聞かれますが、わたしがティーンネイジャーだったころは、インターネットもソーシャルメディアもリアリティ番組もありませんでしたし、いまだにネット以外は興味がないので関わりはありません。要するに『ブリングリング』は10年前には描けなかった作品。

しかもティーンというだけでも混乱しているというのに、いまはそこにものすごい量の情報が入ってくるわけですよね。しかもまだアイデンティティも確立されていないから、窃盗団の子たちは、近所に住んでいるセレブリティたちの洋服を盗んで着ることで、“彼ら”になれると勘違いしてしまったんだと思います」

INTERVIEW|ハリウッドのクローゼットを荒らしまくったティーン窃盗団

『ブリングリング』

ソフィア・コッポラ来日記念インタビュー(2)

無名の新人を抜擢した理由

ところで“アイデンティティ”といえば、「強いていえば、人生の過渡期の段階でいかに自分のアイデンティティを見つけるか、そのことを模索している姿を描いている傾向があります」と彼女自身が語ってくれたように、ソフィア作品の大いなるテーマだ。

そして毎回、まさにアイデンティティを模索する最中の、若かりしキルスティン・ダンスト(『ヴァージン・スーサイズ』)やスカーレット・ヨハンソン(『ロスト・イン・トランスレーション』)といった女優のキャスティングも注目を集めてきた。今作でも『ハリー・ポッター』シリーズを経て、大人の演技派女優へと脱皮したエマ・ワトソンを主役に、そのほかのキャストは実際の加害者と同世代の無名の新人を抜擢している。

「年上の女優をティーンネイジャーにするようなことはしたくないし、好きではありません。

『ブリングリング』ソフィア・コッポラ監督インタビュー 07

16歳の役であれば同じ世代の子が演じるからこそ表現できるぎこちなさや、自然な姿を出してほしい。あとは実際に会って話をしてみて、自分がコネクトできる相手、話をしていて『この人なら任せてもいいな』と思う人を選んでいます。今回のキャストもみんな、物事を真剣に考えている真面目な子たちだったと思います」

リアルな被害者、パリスの豪邸もロケ地に

ソフィアがキャストひとつをとっても大切にしているリアリティ。その姿勢は、今作は特に実際の事件が題材ということも踏まえ、より意識的に映画のなかに見つけてほしいところでもある。なかでもリアルな被害者である、パリス・ヒルトンのゴージャスな邸宅をロケ場所に使用することになった経緯は、映画『SOMEWHERE(サムウェア)』で主役を演じたソフィアの友人スティーヴン・ドーフがつなげた縁だとか。

「思っていたよりパリスのことが好きになった自分に驚いています。いわゆる人工的な外見とは裏腹に、すごく優しいし、誠実だし、本物だった。心の温かい人でした」

『ブリングリング』ソフィア・コッポラ監督インタビュー 08

『ブリングリング』ソフィア・コッポラ監督インタビュー 09

最後にソフィア作品では欠かせないサントラに関しても、あるインタビューで「個人的にはヒップホップにあまり詳しくなかったので、いつも聴かない音楽を知るようになったのは楽しかったし、クラブで流れていた曲のなかにエマが気に入った曲があって、それを映画に使った。子ども達の世界、エネルギーを体感できる音楽を求めていた」とも語っていたソフィア。

すなわちキャストと音楽にも引きつづきリアリティを持たせ、さらに実際の事件という、まさに時代のリアリティからも目を背けずに描き出したという意味において、『ブリングリング』はソフィアらしいアイデンティティの追求をテーマにしながらも、これまで以上の意欲作。とりわけ、セレブカルチャーやSNSとの距離感が近い側の観客には、容赦なく多くを突きつけられる作品である。

『ブリングリング』ソフィア・コッポラ監督インタビュー 13

Sofia Coppola|ソフィア・コッポラ
1971年、アメリカ・ニューヨーク州出身。父親は映画監督のフランシス・フォード・コッポラ。1998年に『Lick the Star(原題)』で映画監督デビューを果『ロスト・イン・トランスレーション』(2003)で第76回アカデミー賞脚本賞、『SOMEWHERE』(2010)で第67回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞。その他の監督作に『ヴァージン・スーサイズ』(1999)、『マリー・アントワネット』(2006)。従兄弟に俳優のニコラス・ケイジやジェイソン・シュワルツマンなどがいる。ファッションアイコンでもあり、ルイ・ヴィトンのコラボレーションデザイナーとしても活躍。

photo: YUSUKE HASHIMOTO / make: YOSHIYUKI WADA / hair: TAKESHI

『ブリングリング』
12月14日(土)より、渋谷シネクイントほか全国順次ロードショー
監督・脚本|ソフィア・コッポラ
出演|エマ・ワトソン、タイッサ・ファーミガ、イズラエル・ブルサール、クレア・ジュリアン、ケイティ・チャン
配給|アークエンタテイメント/東北新社
2013年/アメリカ・フランス・イギリス・日本・ドイツ/90分/R15+
http://blingring.jp/

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