INTERVIEW|舞台『シレンシオ』原田知世さんインタビュー
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2015年4月9日

INTERVIEW|舞台『シレンシオ』原田知世さんインタビュー

INTERVIEW|女優・原田知世さんインタビュー

『シレンシオ』で30年ぶりの舞台に挑戦

「きっとだれかの心を動かせる作品になる」(1)

2008年、いまや伝説ともなっている舞台が開かれた。『空白に落ちた男』がそれだ。主演は東京バレエ団出身で世界にその名を知られるダンサー、首藤康之。作・演出を手がけたのは、セルフユニット、カンパニーデラシネラなどの活動でパフォーマンスの新境地を開拓し続ける小野寺修二。それは、肉体を駆使することで生み出された、まったく新しい舞台だった。あれから5年。改めてふたりがタッグを組んで創られる新作が『シレンシオ』だ。スペイン語で沈黙・静寂といった意味のタイトルは、両者ともに今回が初共演となる女優・原田知世のイメージに触発されたものだという。意外にも舞台出演は30年ぶりで、「稽古中は筋肉痛で大変でした」と柔らかく笑う彼女に、『シレンシオ』について聞いた。

Text by TASHIRO ItaruHair & Make by KOGURE MoePhotographs by JAMANDFIX

6人の男女が身体を使って表現する舞台

セリフはないと言っていいだろう。演じるのも原田、首藤をはじめとする6人の男女のみ。“フィジカル(身体)シアター”を謳っている。この造語は前作『空白に落ちた男』同様、ほかでは決して観ることのできない世界を披露するとの決意表明のように映る。

「身体が以前とはちがってきていて、緊張感ある身体になったというか、神経が研ぎ澄まされてきた気がしています。宣伝ポスターでは私たちの回りに寛ぐ動物がコラージュされているのですが、野生動物ってリラックスした状態でもパッとスイッチが入ると、すぐ臨戦態勢に身体が移るじゃないですか? それは人間にない部分。そうしたことをイメージして小野寺さんもこのポスターを作られたとおもうんです。わたし自身も、この舞台を通じて動物のような、そういう身体を少しでも習得できたらいいなとおもっています」

原田知世|シレンシオ 02

6人は原田以外、すべてダンサーだが、バレエやコンテンポラリーなど、辿ってきた道がちがう。そんな6人がときには彫像のような透徹した美を醸し出して独特の臨場感を作り、またあるときには、各々の感情を身体で表現して場の空気を変え、笑いも誘う。

「単純に肉体、動きそのもので美しさや面白さを伝える場面と、いわゆるお芝居になる部分と、それが、もう本当に瞬間で変わっていきます。ダンサーの方たちは普通、お芝居はされませんが、今回はお芝居をする。わたしも普段は踊らないけど、踊る。苦労したところはそれぞれでちがうのですが、一緒に苦労して悩みながら、みんなで向かった先が同じだったという感覚です。気持ちがひとつになったというか、本当に良いチームワーク。それぞれの良い部分も小野寺さんがきちんと引き出してくれていて。『空白に落ちた男』もそうでしたが、いままで観たことがないタイプのお芝居に仕上がっています」

原田知世|シレンシオ 04

『シレンシオ』での原田の役どころを尋ねる。

「ある女性……(笑)。男と女の物語なのですが、単純に、わたしと首藤さんの物語というわけでもなく……強いて言えば、だれでもそうだとおもうのですが、ひとりの人間にもいろいろな面があって、その多面性が物語を紡いでいくという感じでしょうか」

INTERVIEW|女優・原田知世さんインタビュー

『シレンシオ』で30年ぶりの舞台に挑戦

「きっとだれかの心を動かせる作品になる」(2)

アイデアを出し合い、“動く”ことで創られた物語

前作『空白に落ちた男』は原田も観客として鑑賞していた。そのときに受けた感銘が『シレンシオ』の出演に繋がっているという。

原田知世|シレンシオ 04
原田知世|シレンシオ 04
原田知世|シレンシオ 04

2008年上演『空白に落ちた男』(撮影: 青木司)
作・演出|小野寺修二 出演|首藤康之 ほか

「あまりにも衝撃的で、『なんだろう、これ!?』って(笑)。こういう表現があるんだということが驚きで、おもわずもう1回観に行ってしまいました。これまで、舞台の仕事はあまりやってこなかったのですが、そのとき、気持ちだけは単純に参加してみたいとおもったんですよね。まさか本当に実現するとは、まったく想像していませんでしたけど」

首藤と原田の夫は旧知の仲とのこと。その縁を伝って原田の方からそれとなく新作に関して問い合わせたところ、出演依頼に発展し、原田も快諾したという。それを受けて、小野寺は作品の構想を一から練りはじめた。

「けれど、この作品には台本がないんです。ですから、セリフを覚えて稽古して、ではなく、動きながら、みんなで一緒に作っていく共同作業のように感じました。小野寺さんのアイデアに対して、みんなで意見を出し合って、それを小野寺さんが拾い上げて。それぞれのシーンをひとつずつ丁寧に作り、出来上がった、たくさんのシーンをパズルのピースのように組み合わせて、作品に仕立てています。

どのシーンも、身体で多くを表現しなければいけませんから、すごく練習しなければもちろんできないのですが、ただ身体が覚えているだけでもダメで、頭も使う。細かい部分にまで気を配らないと表現できないことが多いんです。ですから、自分で動かすことのできるすべてを使って演じている感じ(笑)。6人全員ができることのすべてをやらないと足りなくて、ずっとみんな、手がいっぱいいっぱい(笑)。だけど、それぞれが責任を持って最善を尽くしている、その一員であることが本当に楽しい」

肉体を酷使した稽古の日々。しかし、悲壮感はなく、嬉々として語る原田が印象的だ。

原田知世|シレンシオ 06

原田知世|シレンシオ 07

「この感じを自分なりに考えてみたのですが、バンドが一番近いかなぁと。わたし、pupa(※高橋幸宏、高野寛らが参加するバンド)をやっているのですが、あのバンドも、異なる音楽的キャリアやバックボーンを持ったメンバーが集まって、それぞれがいろんなアイデアを出し合って一枚のアルバムを作っていく。そうやって作品が生み出されていく楽しさがありました。小野寺さんの演出は、それに一番似ている気がします。

ただ、練習量はバンドと比べ物にならないぐらい、すごいですよ(笑)……だって、2分ぐらいのシーンを創るのに、8時間かけるんです。その間、みんな、ほんのちょっとの休憩時間しか取らずに、ものすごい集中して繰り返して。それで出来上がったものを翌日、また変えていったりする。小野寺さんから発せられる言葉を、よく聞いて、その言葉にどれだけ反応できるか、みんな、そこに全神経を使っているんですね。そんな現場って、いままでわたしは経験がありませんでしたから、新鮮でしたし、ここで得たものって今後、女優の仕事にも歌を歌ったりする仕事にも、必ずいい影響を与えるとおもっています」

INTERVIEW|女優・原田知世さんインタビュー

『シレンシオ』で30年ぶりの舞台に挑戦

「きっとだれかの心を動かせる作品になる」(3)

様々な活動を通じて深まる表現者としての存在感

昨年、原田はデビュー30周年を迎えた。女優や歌い手としてだけでなく、例えば全国津々浦々を巡り、物語の朗読や歌を披露する『on-doc.(オンドク)』にも挑戦。表現者としての幅を広げている。

「いいタイミングでいい出逢いをしてきた結果がいま、なんですよね。自分の中に自然と生まれてきたものが、だれかと出逢うことで、形になってきた。『on-doc.(オンドク)』は、30周年までの5年間で、女優や音楽の仕事を通じて自分の中でわりといろんなことをやったという手応えがありましたので、少し歩む速度を緩めて、ゆったり行こうとおもったときに、はじめたことのひとつでした。

なにかを介してではなく、これまで応援してきて下さった方々のできるだけ近くに行って、歌ったり、表現する。そうした活動を経ていたからこそ、気持ちに余裕が生まれていたのかもしれません。そのタイミングで来たお話が『シレンシオ』。たぶん、数年前なら、やりたくてもできなかったとおもうのですが、いまのわたしは、舞台という、ほとんど未知の世界に足を踏み込む勇気が持てた。やっぱりいいタイミングだったんだろうなぁとおもいます。小野寺さんはいろんな提案をして下さって、自分の中にある新しいものをどんどん引き出してくれる方。わたしにとって『シレンシオ』は挑戦でもあるし、学びの時間でもあるとおもって、筋肉痛も苦になりません(笑)」

これまでに見せたことのない、原田の新しい一面が『シレンシオ』で開花する。

原田知世|シレンシオ 09

「内容に関してはストーリーとしてなかなか説明できませんが、純粋に視覚で捉えて面白いと感じていただけるんじゃないかとおもっています。言葉がない分、いろんな想像ができる。なにかを言葉で説明されると、どうしてもそれを聞くという作業だけになってしまいますけど、なにも言わないでいろんな動きを見せられると、あれこれ考えますよね。『あれ、これはこういうこと?』とか、『なんだっけ?』って。どう捉えるかは観た方それぞれの自由でいいとおもうのですが、『シレンシオ』は本当にいろんなことが考えられる舞台。その結果、きっとだれかの心を動かせる作品になる。わたしはそう信じているんです」

原田知世|HARADA Tomoyo
1983年『時をかける少女』で映画初主演。近作はNHK連続テレビ小説『おひさま』(2011年)、映画『しあわせのパン』(2012年)、『ペコロスの母に会いに行く』(2013年11月全国公開予定)など。歌手としても、デビュー当時からコンスタントにアルバムを発表。昨年のデビュー30周年を機に、歌と朗読の会「on-doc.(オンドク)」を全国で開催中。無垢な存在感と透明感で、世代を問わず支持を得ている。

『シレンシオ』
作・演出|小野寺修二
出演|原田知世、梶原暁子、川合ロン、藤田桃子、小野寺修二、首藤康之

<東京公演>
日程|7月2日(火)~7日(日)
時間|7月2日(火)、3日(水)、5日(金) 19:00開演
7月4日(木)、6日(土) 14:00開演/19:00開演
(全2回公演)
7月7日(日) 14:00開演
会場|東京芸術劇場プレイハウス
東京都豊島区西池袋1-8-1
Tel. 0570-010-296
http://www.geigeki.jp/
チケット|S席(1階)=6800円、A席(2階)=6300円
問い合わせ|
ナッポスユナイテッド
support@napposunited.com

<大阪公演>
日程|7月13日(土)
時間|15:00開演/19:00開演(全2回公演)
会場|サンケイホールブリーゼ
大阪府大阪市北区梅田2-4-9 ブリーゼタワー7F
http://www.sankeihallbreeze.com/
チケット|全席指定6800円
問い合わせ|
ブリーゼチケットセンター
Tel. 06-6341-8888

公式サイト
http://www.nevula.co.jp/silenzio/

           
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