ピクサー・アニメーション・スタジオのアニメーター、原島朋幸氏に聞くピクサーの仕事術

ピクサー・アニメーション・スタジオのアニメーター、原島朋幸氏に聞くピクサーの仕事術

LOUNGE MOVIE

ピクサー・アニメーション・スタジオの日本人アニメーター、原島朋幸氏に聞く

「ピクサーの仕事術」

20年以上にわたり、世界を驚かせ、人々の心を動かす名作を次々に放っているピクサー・アニメーション・スタジオ。その成功の秘密はどこにあるのか。最新作『インクレディブル・ファミリー』のアニメーション制作にも携わった同スタジオの日本人アニメーター、原島朋幸氏が来日し、その内側について語った。

Text by MAKIGUCHI June

ピクサーの秘密

豊かなクリエイティビティと、優れた芸術性、それを表現する高い技術力で、今や世界屈指のヒットメーカーとなったピクサー・アニメーション・スタジオ。『トイ・ストーリー』『モンスターズ・インク』『ファインディング・ニモ』『カーズ』『Mr.インクレディブル』など名作を生み出し続け、子供のみならず、大人たちの心も鷲づかみにしている。笑いと涙を届けるピクサーは、まさに夢工場と呼べる場所。そこには、いったいどんな魔法が隠されているのだろう。

今回、その“魔法”について教えてれたのが、2015年からピクサーのアニメーターとして働く原島朋幸氏だ。

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スタジオは、働く環境にこだわり、クリエイターたちの才能を最大限に引き出すために、様々な取り組みを行っていると話す。

「ピクサーとはどういう会社かというと、①よく遊び、よく働く②素晴らしい映画を創るという共通の目標を全員が持っている③クリエイティブ第一④働きやすい環境を提供⑤ワークライフバランスを大切に⑥社内教育にも力を入れる、この6項目に尽きるんです」

これがいわば、ピクサーの秘密。特別珍しいことではないと意外に思う方も多いだろう。だが、“当たり前”をいかに社内で浸透させるかが理想的な組織運営の鍵。才能ある人々が集まる場所だからこそ、実力を発揮しやすい環境を作り、居心地の良い職場を実現する。ひいてはそれが、人材確保に繫がり、企業の業績へと結びついていく。
 
つまり、当たり前を実行できることがピクサーの強み。継続的な好循環のためには、“社員第一”であることこそが、最も守られるべき理念なのだ。

「その一例が、クリエイターの姿勢を定期的にチェックする専門家がいるということ。大きな仕事が終わるごとに、社内を回り、デスク、イス、パソコンの位置などを確認。腰や首を痛めたり、腱鞘炎になったりしないよう個人に合ったセッティングを提案してくれます。標準的なイスはアーロンチェアですが、それが合わない人もいる。身体や、仕事する際の姿勢、好みに合わせて、6種類ほどから椅子を選べます。もちろん、マッサージ師も常駐していますよ」

ピクサーは、良い環境づくりのための努力を惜しまない。社員が家族ぐるみで楽しめる音楽やカーショーなどのイベントを開催したり、“体を休めることも仕事の一部”だという共通認識を浸透させたり。面白いところでは、自分で好みの環境を整えられるよう、デスクまわり(個室やブース内など)のデコレーションが奨励されていて、その費用として社から200ドルまで支給されるという。ジャングルのようにしたり、ビーチのように床に砂を敷き詰めたり。足りない費用は自費で賄うツワモノたちも少なくないという。

また、仕事が一部のアーティストに偏ることがないよう、またアーティストたちが仕事に専念できるよう、マネジメントチームはプロダクションチームとコミュニケーションを取りながら責任を持って仕事の進行管理を行う。部署間の理解が深まるよう、社内教育の一環として他部署の仕事を学ぶトレーニングの機会も設けているという。
 
そのような環境であればこそ、社員たちには自覚が芽生える。やるべきことができないとしたら、それはもはや自分の責任だ。それぞれの分野のプロフェッショナルとして、雇用者と被雇用者の対等な関係がここにあるのだろう。

環境を生かすのは社員のクリエイティビティ

原島氏がピクサーでアーティストとして働いて3年半になる。大学で理系の学科を卒業し、エンジニアとして2年間企業で働いた後、退職。プログラミングを通してCGアニメーションの世界に魅了され、独学で学んだ後、渡米。すでにショートフィルムでは評価を得ていたものの、アメリカの大学で3Dアニメーションについてしっかりと学んだ。

「もともとエンジニアだったので、技術的なスキルには何も問題がなかったんです。でも、芸術の分野でもある“画”に関わるとなると、自分にはアートの部分、特にドローイングのスキルが足りないと感じるようになったんです」

CGアニメーションの世界では、キャラクターのデザインを3Dに落とす“モデラー”、キャラクター以外の背景、物などを担当する“セット”や、キャラクターに骨組みを加え動かせるようにする“キャラクター”、カメラ位置やキャラクターのラフな動きを決める“レイアウト”を経て、いよいよ“アニメーション”で監督とのブリーフィングを基にキャラクターに感情的な動きをつけることになる(担当の呼び名は、ピクサー・スタジオが使用しているもの)。

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アニメーターの原島氏の仕事はキャラクターに息を吹き込むこと。つまり、一から絵を描くというドローイングのスキルは、それほど求められないのだ。それでも、原島氏は、学生時代に自分に足りないものを見極め、そのスキルを習得したことで、得たものは大きかったと語る。

「技術的なスキルはもう大丈夫だと思っていたので、大学ではアート系のクラスばかり選択していました。特にドローイングのクラスでは、目からうろこが落ちる経験をしましたね。画を描くということは、対象物を緻密に描写することだと思っていたんですが、そうではなくて、モデルが持つ雰囲気や、最も必要となる部分を表現するということであり、伝えること。本質を捉える力こそ、大事なんだということだったんです」

今、実際にドローイングのスキルを使うことは無くても、そこで学んだ力は存分に生かされている。自ら足りないものを見極め、自分らしく習得し、得たものをきちんと咀嚼することで分野に関係なく生かす。習得したものを自分の血肉にすることで、単なる情報や専門的なテクニック以上の意味を持つ。どんな仕事においても応用できるようになるのだ。それも、原島氏が持つクリエイティビティのなせるワザなのだろう。だからこそ、「今まで紆余曲折ありましたが、決して無駄な時間はなかった」と言い切る。

そんな原島氏とピクサーとの繋がりは、大学時代に始まった。ピクサーの現役アーティストが教鞭を執るクラスを取ったことがきっかけだ。恩師とは、今では同僚として同じ作品に携わることもあるという。

「アニメーターとしての今の自分があるのは、ピクサークラスのおかげ。だから自分も、若い人々に仕事について伝えることで、少しでも役に立てたらと思うんです」と、毎年帰国して、若者向けに講演を行っている。

「学生たちには、今は時間をかけないとできないことをして、と伝えています。何事もインプットが大事。インプットしなければ、アウトプットは少なくなるし、同じものしか出てこなくなる。ツールの使い方、つまり技術的なことは教えることはできるけれど、自分で感じ取ったことは教えることはできないですから。そして、引き出しを増やすこと。ピアノを弾いたことがないのにピアニストになりたいという人はいない。知らないものは選べないんです。だから、何でもやってみたほうがいいと」

それは、年齢や職種に関係なく、誰にでも言えること。自分の可能性を広げられるのは、自分しかいない。環境がどれほど整っていても、すべては自分次第なのだ。

ピクサーの強みとは

ピクサーが実現している理想的な環境づくりは、人の心を動かすモノ作りに欠かせない要素なのかもしれない。名作を作るには、まず人の心に寄り添ってこそということなのだろう。

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そして、その人とは、まず最も近くにいる社員やその家族。それは、社員同士の関係性においても言えることだ。

ピクサーの映画は、1作で約80〜90分。平均して45人ほどのアニメーターが携わる。準備から公開までの数カ月で、一人のアニメーターが描けるのは、せいぜい2分ほどの1シーンだという。それは、複数のアニメーターが、キャラクターが行うひとつの動作に関わることをも意味している。前後のシーンを担当する同僚との意思疎通なしには、“素晴らしい映画を創るという共通の目標”など達成できないのだ。ひとつのシーンを手から手へ。その引き渡しには“hand shake”という呼び名があるのだという。才能があるからといって、皆が自己主張していては共通の目標は達成できない。多くの個性豊かなアーティストたちが共に手を取り合えるのも、ピクサーの一員だという誇りがあればこそなのだろう。

その誇りを生むもの何か。それこそ、“クリエイティブ第一”という信念だろう。他のスタジオで働いた経験も持つ原島氏はこう話す。

「ピクサーが“クリエイティブ第一”を貫くことができるのも、トップがクリエイターだから。経験から、何が問題か、何が必要か、何が大切かを知っていて、それを現場に反映させている。他社のトップはビジネスマンが多いですから、どうしても制作現場とのせめぎ合いが生まれてしまうんです」

実のところ、必ずしもトップがクリエイティブ出身である必要はないのかもしれない。ただ、現場を知り、徹底して現場を護ることができさえすれば。現場はそれに応えるように精一杯の結果を出す。その当たり前を実現させられることがピクサーの最大の強みであり、ヒットの秘訣と言えるのだろう。業界が変わろうとも、組織の基本は同じ。きっとここが、働き方改革を進める日本が、目指すべき場所に違いない。

原島 朋幸|HARASHIMA Tomoyuki
ピクサー・アニメーション・スタジオ(アニメーター)
神奈川県出身。電気通信大学を卒業後エンジニアとして勤務している時にデジタルハリウッドを知る。デジタルハリウッド在籍中に作成したショートフィルムが1999年にロスアンゼルスで開催されたシーグラフのエレクトロニックシアターで上映される。2001年に渡米しサンフランシスコの美大、アカデミー・オブ・アートでピクサーのアニメーターが教える通称ピクサークラスを履修する。アカデミー・オブ・アート在籍時にロスアンゼルスの老舗VFX Studioのリズム・アンド・ヒューズでアニメーション・インターンとして『ガーフィールド2』の制作に携わる。その後DreamWorks AnimationとPDI/DreamWorksにてアニメーターとして『ヒックとドラゴン1、2』や『マダガスカル2、3』などの制作に携わる。ピクサーでは『アーロと少年』『ファインディング・ドリー』『カーズ/クロスロード』『リメンバー・ミー』、最新作『インクレディブル・ファミリー』の制作に携わる。
https://www.pixar.com/#pixar-home

『インクレディブル・ファミリー』

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悪と戦い、世界を守ってきたヒーローたちの驚異的なパワーに非難が集まり、英雄たちの活動が禁じられている。ある日、ヒーロー界の伝説であるかつてのスター、ボブとその家族に、復活をかけたミッションが舞い込む。だが、指名されたのは妻のヘレン。主夫を任されたボブだったが―。

脚本&監督:ブラッド・バード
製作:ジョン・ウォーカー、ニコル・パラディス・グリンドル
製作総指揮:ジョン・ラセター
<キャスト>
クレイグ・T・ネルソン/三浦友和(ボブ)
ホリー・ハンター/黒木瞳(ヘレン)
サラ・ヴォーウェル/綾瀬はるか(ヴァイオレット)
ハック・ミルナー(ダッシュ)
サミュエル・L・ジャクソン(フロゾン)
ブラッド・バード(エドナ・モード)
ソフィア・ブッシュ(ヴォイド)
http://disney-studio.jp/

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『インクレディブル・ファミリー』
11/7 先行デジタル配信、11/21 MovieNEX発売
発売元:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2018 Disney/Pixar

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牧口じゅん

牧口じゅん|MAKIGUCHI June 共同通信社、映画祭事務局、雑誌編集を経て独立。スクリーン中のファッシ […]