スイス時計2.0時代を予感させる新生アールジェイ、そして就任した新CEOの意気込み|RJ
WATCH & JEWELRY / SIHH&BASEL
2018年7月30日

スイス時計2.0時代を予感させる新生アールジェイ、そして就任した新CEOの意気込み|RJ

RJ|アールジェイ

スイス時計製造のパフォーマンスをもう一度高めるべく、
旧ロマン・ジェロームから新生RJへ(1)

私が見たところ、バーゼルワールド2018で最もドラスティックに変革を遂げたのがRJです(正確に申しますと、RJはバーゼルワールド脇のホテルでの自主発表ですが)。ブランド名を旧ロマン・ジェロームからRJへと変更、昨年12月に新CEOを迎えました。この新CEOがとても若く、30代前半にして世界的ブランドの主となったわけですが彼は単なる幸運な“ヤンエグ”ではありません。彼はわずか2カ月余りでブランドコンセプトを練り直し、新作のプロトタイプまで作ってみせました。この記事はバーゼルワールド後に来日した新CEOにインタビューした際の内容をまとめたものです。新生RJの将来性を占うには、きっとこの記事が役立つと思います。感触はベリーグッド! このブランド、これからますます伸びそうです。

Photographs by SUZUKI Takuya(Portrait)Text by TSUCHIDA Takashi(OPENERS)

新スローガンは、#JUSTRAW(自然のまま)

――はじめに。CEOとなる以前、マルコ氏にとって、ロマン・ジェロームという時計ブランドはどう映っていましたか?

Marco すごくユニークなブランドですよね。これまでフォーカスしてきたキャラクターやDNAも好き。他ブランドと比べることができないぐらいの強烈な個性は、私自身、個人的にも好感を持っていました。

――このブランドはMarcoさんの指揮下で、どう変わっていくのでしょうか?

Marco ブランディングは変えていきます。そのひとつとして、名前が変わりました。「ロマン・ジェローム」から「RJ」というブランド名に変更したんです。

でもこれは新たなブランドとしての船出ではなく、元々の名前を使いつつも、ブランドの現状を分かりやすくしただけと捉えています。

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RJの新CEOマルコ・テデスキー氏。

――とはいえ、名称を変える意味合いはブランドにとって小さくはないと思うのですが、具体的に「RJ」という新名称に込めた思いを聞かせてください。

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アロー クロノグラフ 45MM

ムーブメント|自動巻き
ケース素材|ブラックセラミック
ケース径、厚|45mm、14.8mm
ケースバック|サファイアクリスタル
ストラップ素材|ラバー(インターチェンジャブル)
防水|10気圧
価格|164万円(税別)

Marco RJとは、ブランド創設者にちなんだ名前ロマンとジェロームのイニシャルですが、その創設者がすでに組織から退いている以上、名前自体に特別な意味はありません。

実を申しますと過去8年前ぐらいから、すでにロマン・ジェロームというブランド表記は用いず、RJというイニシャルを文字盤にも使ってきました。それを今回、前面に押し出したまでです。ただしこの名称変更とともに、これまでのマーケティング主体のニッチブランドから、もっとリアルで本格的な高級機械式時計ブランドに変えていきたいという願いがあります。

――具体的にはどう変わるのでしょう?

Marco まず3本の柱を掲げていきたいと思います。ひとつはバーゼルワールドで提示した「アロー・コレクション」。このモデルが、新生RJのベースになっていくものと考えています。次にブランド創立当初からのDNA、タイタニックをはじめとするコレクションですね。それからさまざまなキャラクターとのコラボレーションモデル。

まとめると、アロー・コレクション、DNA、コラボレーションをそれぞれ柱として、ブランドを成長させたいと考えています。

――たしかにアロー・コレクションの外装のアップデート感は明快なもので、誰の目から見てもその上質さが滲み出ていました。これは、過去、ロマン・ジェロームというブランドがストーリー性で個性を打ち出してきたコンセプトとは異なるものですが、その意図を教えてください。

Marco 今までのロマン・ジェロームには個々のモデルでストーリー性に満ちていても、高級時計としてのクオリティを提示する要素がなかったんですね。そこで新しく立ち上げたアロー・コレクションにより、新生RJの時計製造におけるハイパフォーマンスをアピールしていきたいと考えました。

例えば、

1 スタンダードモデルのケース素材をSSからチタンに変えました。
2 ブラックPVDよりも上質なブラックセラミックに変えました。
3 ゴールドモデルについては、合金部分の内容をアップグレードして、質感をさらに高めました。
4 インターチェンジャブルストラップを採用してストラップの付け替えをスムーズにしました。

加えて、来年のSIHHでは自社ムーブメントを発表します。これは遠くない将来、RJブランドの全モデルをインハウスムーブメントにしていくための第一歩です。

――マニュファクチュール化ということですね。

Marco そうです。それと同時に、ブランドが得意とするストーリー性やDNAも生かしていきます。

――MarcoさんがCEOとなったことで見る見るうちに改善が進んでいきますが、どうして実現できるのでしょうか? 業界のコネクションですか? それとも、生産規模が変わったのですか?

Marco 実は私、2017年12月23日にCEOに就任しまして。スイスではウィンターバケーション時期でしたが、休んでいる最中もずっと「新しいRJをどうしていこうかな」と考えながら、自分でデザインを描いたりもしていました。

それからバーゼルワールドまでの2カ月余り、過去10年間さまざまなサプライヤーさんらと、個人的に良い関係を築いてきたことが、試作品に結実したと考えています。

Page02. ブランドは挑戦し続けていかないと……

RJ|アールジェイ

スイス時計製造のパフォーマンスをもう一度高めるべく、
旧ロマン・ジェロームから新生RJへ(2)

ブランドは挑戦し続けていかないと……

――Marcoさんは、直近までウブロにいらっしゃったんですよね。

Marco はい。ウブロには11年間所属していました。プロダクト開発部門において、最後の6年間は責任者を務めました。

――だから高級時計作りに必要なノウハウを熟知しているのですね。

Marco ええ。それから、これはRJの今後の生産体制にとって非常に重要なことなのですが、じつは今年のバーゼルワールド開催時期に、ムーブメント製造とケース製造に特化した時計製作会社ブレイングモーメンツを傘下に収めることになりました。

アロー・コレクションの試作ケースも、このブレイングモーメンツ社と手掛けたものです。つまり最初から協業してきたわけですが、ついに思いをひとつにできました。やっぱりコネクションです(笑)。

――ブレイングモーメンツ社はどれぐらいの規模なのですか?

Marco 従業員は4名。CNCマシーンなどの大型専用機を3台持つ会社です。規模自体は大きくありませんが、RJがマニュファクチュールとなるうえでは、絶対に必要な組織です。

――今後、RJはどれくらいの生産本数を予定しているのですか?

Marco 昨年は年産800本でしたが、今年は1500本を想定しています。

――ほぼ倍増ですか! 2019年に発表を予定しているマニュファクチュールムーブメントも、このプレイングモーメンツのノウハウを生かす予定ですか?

Marco ええ。でも、吸収合併しましたので、100%インハウス扱いです。

――年産1500本規模という小さな会社がマニュファクチュールムーブメントを手掛けるというのは、非常に高付加価値だと思います。しかし、その付加価値がなぜ必要なのでしょう? 生産規模に照らしたときに果たしてフィットするのでしょうか?

Marco ほかのブランドがやりたくてもできていないことって、それ自体、すごく魅力的です。なかでもインハウスムーブメントを正式にアナウンスできるというのは、ハイクオリティを自負するブランドにとっては強みです。

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アロー クロノグラフ 45MM

ムーブメント|自動巻き
ケース素材|チタン
ケース径、厚|45mm、14.8mm
ケースバック|サファイアクリスタル
ストラップ素材|ラバー(インターチェンジャブル)
防水|10気圧
価格|136万円(税別)

まず2019年に最初に披露するインハウスムーブメントは、フェイスをオープンワークにしたコンプリケーションモデルを予定しています。そして翌年の2020年までには、全モデルのムーブメントをインハウスに変えていきます。

――目標設定が非常に高いですね。

Marco ブランドは挑戦し続けていかないと、面白くありません(笑)。

それからお伝えすべきことが、もうひとつ。新生RJには、セルジオ・シルバ氏がチーム入りしてくれました。彼はロジェ・デュブイで12年間活躍し、カルロス氏とともにさまざまなムーブメント製造を手掛けてきました。つまり、あのブランドが毎年さまざまな超絶ムーブメントを作ってきた時代の張本人。

その後、セルジオ氏はHYSEKで手腕を発揮し、9年間で32個のムーブメントを発表しました。そんなムーブメント設計の有能な人物がRJ入りしたことは誇りです。

――インタビュー冒頭で、新生RJの3本柱を説明していただきましたが、この時点ですでに1番目の柱がずいぶんと太いものになりそうですね。

Marco そうなんです。これは、ブランドの基礎工事の部分です。

――高級時計ブランドにとって、外装品質は非常に大切だと思います。なかでも着用時の満足感は重要だと思いますが、アロー・コレクションでのこだわりのポイントを説明してください。

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Marco アロー・コレクションの新型ケースは、経験上から人間工学的なこともかなり取り入れました。ラグ形状もこれまでのものと大きく異なりフィット感が明らか向上したと思います。

――私も試してみたのですが、とてもいいです。でも、なぜこれほど大きく差が出るのでしょうか?

Marco ディテールの積み重ねでしかないのですが、以前のものを見ていただくとケース、ラグ、ストラップの設計が個別だったことが挙げられます。ですから、隙間も空いていました。対して新形状は、一体感があって、ケース、ラグ、ストラップが見事に調和して一つの流れるような形状としています。

――たしかにラグとストラップの隙間がなく、ケースの底面との段差もありません。腕に載せたときに一体感が出ています。

Marco バックルに関しても、時計ケースとの重量におけるバランス感があります。ですから時計がズレにくいと思います。

Page03. ブランドのルーツを忘れてはいけない

RJ|アールジェイ

スイス時計製造のパフォーマンスをもう一度高めるべく、
旧ロマン・ジェロームから新生RJへ(3)

ブランドのルーツを忘れてはいけない

――ではMarcoさんがライバル視しているブランドはありますか?

Marco それはタフな質問ですね(笑)。ただ、ブランドの個性が非常にユニークなので、この面で競合ブランドは見当たらないと思っています。時計のデザインという意味でも、アロー・コレクションと競合するブランドはないでしょう。ただプライスレンジのところで言えばパネライなどと似てくると思います。あくまで価格設定の面での話ですが。

――Marcoさんは、以前にウブロにいらっしゃったと伺いましたが、ウブロの成功原因は何だと分析していますか? その成功例をRJでどう生かすつもりですか?

Marco ブランドにとって最も大切なものは製品であり、製品が本当に良いものでないと、いくらマーケティングしても、どうにかなるものではありません。ですから、新生RJは製品そのものをアップグレードしたのです。

――スイス高級時計界において、Marcoさんは何が問題だと思っていますか? その問題に対し、ご自身はどういうアプローチをしていきますか?

Marco ブランドのルーツを忘れてはいけない。そのことがすごく重要だと思います。アウトプットが変化していくことも大切ですが、ルーツは忘れてはいけない。

それから、クリエイティブであることが大切です。

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アロー クロノグラフ 45MM

ムーブメント|自動巻き
ケース素材|18KPG&チタンのコンビ
ケース径、厚|45mm、14.8mm
ケースバック|サファイアクリスタル
ストラップ素材|ラバー(インターチェンジャブル)
防水|10気圧
価格|191万円(税別)

01_RJ_OPENERS

PAC-MAN LEVEL Ⅲ

ムーブメント|自動巻き
ケース素材|ブラックPVD加工のチタン
ケース径、厚|46mm、15.5mm
ストラップ素材|ラバー
防水|3気圧
価格|205万円(税別)
限定|世界限定80本

ブランドがクリエイティビティをなくしてしまったら、すぐさま他ブランドのコピーに走り、アイデンティティを見失ってしまう。

――ウブロという大成功中のブランドに在籍していたのに、RJに来た理由は何ですか?

Marco 私が2007年にウブロに入社したときは、まだ従業員40人程度の小さな会社でした。それが時代を経て、今日では500人を超える大会社へと成長。その成長過程において、自分ではもう“やり切った”感がすごくあって。

僕は、まだ32歳ですし、チャレンジャーでいたくて、この役職を引き受けました。

――志の高い若手がこれからもスイスのビッグブランドから飛び出して、Marcoさんのような動きをしてくるような気がするのですが、どうでしょう?

Marco (笑)。飛び出ないまでも、いま多くのブランドでCEOの代替わりが進んでいます。

ただ若手と言っても、私よりは10歳くらい歳上なのですが、それでも業界では若手と言われている方々です。

そうした動きが、スイス時計業界を変えていくんじゃないか、という気はします。もちろん私も、彼ら以上に変えて行きたいと思っています。

問い合わせ先

オールージュ

Tel.03-6452-8802

http://eaurouge.tokyo

           
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