『シューマンズ バー ブック』チャールズ・シューマン氏インタビュー|INTERVIEW

『シューマンズ バー ブック』チャールズ・シューマン氏インタビュー|INTERVIEW

LOUNGE INTERVIEW

Bar Talks by Schumann|シューマンズ バー ブック

映画『シューマンズ バー ブック』
チャールズ・シューマン氏インタビュー

バーといえば、かっこいい大人のための特別の場所だ。居心地の良いリヴィングルームにもなるし、ゲストをもてなす客間にもなる。一流のバーマンは、客がその時々に求めるものに敏感だ。一定の距離を取り、決して馴れ合いにはならない。連れ立つ相手によっては、素知らぬふりもしてくれるし、話し相手になって欲しい時にはちょっとした愚痴も聞いてくれる。知人以上、友人未満といったところか。チャールズ・シューマンは、そんなバーマンの中でも伝説と呼ばれる男だ。先日、ドキュメンタリー映画『シューマンズ バー ブック』に出演した彼が来日した。日本の伝統的なバーがお気に入りで、何度も東京を訪れているという彼が、映画について、理想のバーについて語ってくれた。

Photographs by SATO Yuki (KiliKiliVilla)Text by MAKIGUCHI June

バーではひとりで好きに時間を過ごすことができる。
でも、たったひとりではないんだ。

チャールズ・シューマンは、ミュンヘンで35年以上もの間、不動の人気を誇る店「シューマンズ」のオーナーであり、世界中のバーで愛読されているカクテルの革新的レシピ本『シューマンズ バー ブック』(1991年)の著者でもある。

500種類を超えるカクテルのレシピとシンプルなイラストのみで構成され、装丁は聖書を思わせる。まさにバーマンのバイブル。

味という本質のみに向き合おうとする精神がにじみ出ていて極めてストイックな作りだが、そのこだわりこそがスタイリッシュだ。

レシピ本と同じタイトルを持つドキュメンタリーでは、76歳の今も現役のシューマンが、ベルリン、ニューヨーク、パリ、ハバナ、東京、ウィーンを旅しながら名店を訪れ、自らの好奇心の原点を探す。

まるで、素晴らしき案内人にバーやカクテルの魅力を伝授されるかのような至福の時間だ。

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『シューマンズ バー ブック』 (1991年)

本人曰く「本当はこの映画を作りたくはなかったんだ」。そう言ってみた後で、ニヤリと笑う。旅先で、同じように酒を、そしてバーを愛する者たちと熱心に言葉を交わす様子からも、それが本心でないことはわかる。ちょっとした憎まれ口は、彼特有のユーモアなのだ。

本心を聞くと、まるで家にいるかのように居心地が良い日本は別として、「撮影旅行の収穫はベルリンだった」と驚きを隠さない。

「同じドイツにいると、近すぎて気づかなかったけれど、実に素敵な街だった。3日いると帰りたくなくなってしまう。小さいバーが数多くあり、そこで働く人々の国籍も多彩だ。日本人バーマンとも出会ったよ。ドイツ人が少ないから、自分が知らなかった多くのことを学ぶことができた」

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シューマンは好奇心旺盛な男だ。

経歴もユニークで、ドイツ国境警備隊、外交官事務所勤務を経て、フランス、イタリアのバルやレストランなどで働いた後、31歳でミュンヘンに拠点を置いた。

当時のヨーロッパには、ホテル以外にはバーがなかったことから、1982年に食事もできるバーをミュンヘンのマキシミリアン広場にオープンしたのだ。

常に新しいものを求め続ける彼は、本の執筆、ファッションモデル、酒類メーカーとのコラボレーションなども積極的に行う。

「私のバーのひとつ『シューマンズ・レ・フルール・デュ・マル』では、2~3週間ごとに、ゲスト・バーデンダーを迎えている。そうすることで、バーは進化していくんだ」

“悪の華”という意味を持つ「シューマンズ・レ・フルール・デュ・マル」は、業界の賞を受賞するなど人気・評価ともに最上級だが、そうあり続けられるのも、オーナーである彼が、日々停滞を許さないからだろう。実はここは、日本のオーセンティックなバーを好む彼が、2013年に自らの理想を詰め込んだ店。

「日本のバーは独特なんだ。その仕事ぶりを見るのは喜びさ。日本のバーマンの丁寧なバーキーピング、ホスピタリティは、独自の文化の中で育まれたものだ。彼らは決して前に出過ぎない。その距離感が好きなんだ。私は基本的にうるさい店には行かない。バーマンの目が行き届いた小さな店が好みだ。仕事ぶりがてきぱきとしていて、整理整頓されていて、清潔。程よい距離感を持った節度のある接客態度。こういった店が理想的だな」

バーへの愛を語り始めると止まらなくなる。その熱き思いは、映画の中で堪能できるので、ここでは控えておこう。

「出来上がった映画を観たとき、主役は私ではないと思ったんだ。何が記憶に残ったかと言えば、美しい都市の映像、音楽だった。

バーでも、バーマンは主役ではない。良い環境で、様々な素材を集めて、美味しいカクテルを作る。そしてそれを“観客”であるゲストに提供するんだ。バーキーピングは、皆が一体となって良い映画を作ることに似ているだろう?」

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そう話すシューマン氏に、良いバーマンの条件を訊ねてみた。

「自分がホストであることを自覚することだ。バーマンは決して主役ではない。映画がそうであるように、最も重要なのは“観客”なんだ。バーというのは、ゲストにとって特別な場所。ひとりで好きに時間を過ごすことができる。でも、たったひとりではない。そして、家と違っていつだって自由に去ることもできる場所なんだ」

そんな特別な場所を整え、一人ひとりにとって快適な時間を提供する。自らが理想とするバーの精神を追求するために、叶えたい夢があるのだという。いつか、自らがこのビジネスを始めたときのような、原点ともいえる小さな店をまた経営したいのだそうだ。

「小さなバーを2人のスタッフとやるのが望みだ。棚には、何万本も酒のボトルを並べるのではなく、選りすぐったお気に入りを何本かだけ置く。そこには、日本のウイスキーは外せない。言うまでもなくね!」

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Charles SCHUMANN|チャールズ・シューマン

1941年9月15日生まれ。世界を放浪したのち31歳の時ミュンヘンに戻り、1982年ミュンヘンに「シューマンズ バー」をオープン。爆発的に人気のバーとなった。1991年に刊行した「シューマンズ バー ブック」(河出書房新社)は世界中のバーでバイブルとして愛読されるベストセラーに。76歳となった今も毎日バーに立つ、伝説のバーマン。


『シューマンズ バー ブック』
監督|マリーケ・シュレーダー 
出演|チャールズ・シューマン、シュテファン・ウェーバー、デイル・デグロフ、ジュリー・ライナー、コリン・フィールド、岸久、上野秀嗣、ほか 
後援|ドイツ連邦共和国大使館
配給|クレストインターナショナル 
http://crest-inter.co.jp/schumanns/
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ABOUT
牧口じゅん

牧口じゅん|MAKIGUCHI June 共同通信社、映画祭事務局、雑誌編集を経て独立。スクリーン中のファッションや食、音楽など、 ライフスタイルにまつわる話題を盛り込んだ映画コラム、インタビュー記事を女性誌、男性誌にて執筆中。