「スターウォーズ」と「スターデザイナー」|LOS ANGELES AUTO SHOW 2017
CAR / MOTOR SHOW
2017年12月29日

「スターウォーズ」と「スターデザイナー」|LOS ANGELES AUTO SHOW 2017

ロサンゼルス・オートショー2017|LOS ANGELES AUTO SHOW 2017

「スターウォーズ」と「スターデザイナー」

12月に開催されたロサンゼルス モーターショーは、近年の他のモーターショー同様、全世界が注目するような大型のワールドプレミアなど派手な主役が少なかった一方で、2つの「スター」が輝いていたという。現地を訪れた大矢アキオ氏がレポートする。

Text and Photographs by Akio Lorenzo OYA

ニューモデルだけではない

ロサンゼルス・オートショーが2017年12月1日から10日まで一般公開された。

LAショーの始まりは1907年に遡る。1929年には場内の電気系統から火災が発生。幸い犠牲者はなかったが、展示車両の大半が消失するという事故があった。しかし第二次大戦後は全米最大の自動車市場であるカリフォルニアのショーとして、独自の地位を維持してきた。

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昨年からは、同じ主催者によって催されてきた「コネクテッドカー・エクスポ」と統一するかたちで、プレスデイ期間中に「オートモビリティLA」と名づけられたイベントも催されるようになった。

「オートモビリティLA」は主にトークショーで構成され、2年目の今年は一般公開日の4日前から始まった。

テーマは「自動車用AI (人工知能) の謎を解く」「妥協なき安全」といったものから「空飛ぶ自動車の時代」を見据えたものまで、最先端のリサーチが行われているLAらしいものが並んだ。

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Infiniti QX50

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Subaru Ascent

各セッションが終わると、ビジターたちはSNSを通して5段階の内容評価を即座に行える。たとえ登壇者が最先端IT企業のリーダーであっても、率直なジャッジを下せる、いかにもアメリカらしいオープンな企画だ。

ちなみにトヨタは「オーテモビリティLA」のパビリオンで、廃棄物系バイオマスから水素を取り出す発電所をカリフォルニア州内に建設することを発表。すでに10月から実証実験中の燃料電池による大型トラックを展示した。脇に設置されたディスプレイでは、ディーゼルトラックを圧倒的に上回る驚異的な加速力が繰り返し上映されていた。

ロサンゼルス・オートショー2017|LOS ANGELES AUTO SHOW 2017

「スターウォーズ」と「スターデザイナー」 (2)

ダース・ベイダーのテーマとともに

肝心のオートショーに話を移そう。

プロダクションモデルは、地元USブランドではジープ「ラングラー」、欧州ブランドではメルセデス・ベンツ「CLSクラス」、そして日本ブランドからはインフィニティ「QX50」、スバル史上最大のモデル「アシェント」などがワールドプレミアを果たした。

その中からメルセデス・ベンツのプレス ブリーフィングにスポットを当てると、同ブランドは米国で2017年1月から10月までに27万台を販売。ラクシュリーブランド市場におけるナンバーワンを維持したことを誇らしげに謳った。

また既発表のように、EV用ブランド「EQ」のために米国で10億ドルを投資。SUVバージョンをアラバマ工場で生産することを改めてアナウンスした。

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Mercedes-Benz CLS-Class

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新型CLSの披露では、2004年の初代がセダンの快適性・機能性と、クーペの優美さ・スポーティネスを組み合わせたモデルとして、ライバルたちの先鞭をつけたことを強調した。

同時にCLSにとって米国市場は、これまでに35万台以上を販売した、世界でも重要なマーケットであることを示唆した。

新型はCLS初の5人乗りで、搭載される直列6気筒エンジンはスターターと発電機を統合した、いわゆるISAによるマイルドハイブリッド方式を採用。加速時はモーターがアシストし、いっぽうで減速時はエネルギーの回生を行う。

インテリアでは、吹き出す空気の温度上昇と連動して照明の色がブルーからレッドへと変化するエアーベントといった、演出も施されている。

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Nissan × STAR WARS The Last Jedi

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いっぽうで、もっとも華やかといってよいブリーフィングを展開したのは日産であった。

同ブランドは2016年も、LAショーにおいて、ルーカス・フィルムとのコラボレーションにより、SUV車ローグ (エクストレイルの北米版) の『スターウォーズ』仕様をリリース。それはノーマルをベースにした北米市場向けスペシャルエディションだった。

そして今回は、スターウォーズの最新作『最後のジェダイ』とのコラボレーションによるショーカーでブースを飾った。いずれも「タイタン」「マキシマ」など北米の日産市販車ベースだが、ルーカス・フィルム監修によるものだけに、ドレスアップの完成度は低くない。

プレゼンテーションの最後には、シリーズでおなじみの機動歩兵「ストームトルーパー」が、「ダース・ベイダーのテーマ」とともに次々と登場し会場を沸かせた。

ロサンゼルス・オートショー2017|LOS ANGELES AUTO SHOW 2017

「スターウォーズ」と「スターデザイナー」 (3)

C.バングルの新提案

いっぽう主要メーカーによる世界初公開のコンセプトカーは、事実上トヨタの「FT-AC」にとどまった。コンセプトカーが主要ショーにおいても“マストアイテム”ではなくなりつつあることを匂わせる。

そのようなことを考えながら、プレスデイのスケジュールを再確認すると、すべての主要メーカーのプレゼンテーションが終了した第2日目の午後、見慣れぬブランド名を見つけた。

その名は「レッドスペース」。

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Redspace REDS

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なんと登壇したのはクリス・バングルだった。1992年から2009年にわたってBMWグループでデザインダイレクターを務め、今日に続くBMWスタイルを確立した米国人デザイナーである。

レッドスペースは北京に本社を置き、主に紡績機や電動商用車を手がける「中国恒天集団(CHTC)」の新ブランドである。

同社がバングルにデザインを依頼した中国の大都市用EVがレッドスペース「レッズ」だ。

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「レッズ」はフル4シーターであるが、全長は「スマート フォーフォー」や「フィアット500」よりもはるかに短い2,977mmに抑えられている。また停車時には、5人乗車を可能にしている。

バングルらが構想の最初に着目したのは、「中国においてクルマは、1日のうち稼働していない、つまり停まっている時間が90パーセントに及ぶ」という事実であった。

そこで駐車時に、リビングまたワーキングスペースとして活用できるモビリティを模索した。そうした用途のために、ダッシュボードにはビデオゲームやビジネスに使えるポップアップ式17インチスクリーンも内蔵されている。

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「スペース優先」のプロジェクトであったことは、開発カレンダーからも窺える。インテリアのデサイン開発がスタートしたのは2016年だったが、バングルによるとエクステリアに着手したのは公開から僅か数カ月前の2017年夏であったという。プロジェクトには日本人デザイナー山田敦彦氏も参画した。

公開された車両はイタリアのトリノで製作されたもので、すでに走行可能な機構をもつ。現在、生産化に向けてサプライヤーをはじめとする調整がCHTCによって進められている。

未来を予感させるディスカッション、エンターテインメントばりのプレス ブリーフィング、そしてスター的デザイナーによる知的な提案 ―― 世界のモーターショーが新たなスタイルを模索するなか、誕生から110年目のLAショーは、その舞台となる街にふさわしいダイバーシティ (多様性) 溢れるショーとなった。

           
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