最新のポルシェ911GT3に試乗|Porsche
CAR / IMPRESSION
2017年11月7日

最新のポルシェ911GT3に試乗|Porsche

Porsche 911 GT3|ポルシェ 911 GT3

最新のポルシェ911GT3に試乗

今年3月のジュネーブショーで登場した、最新のポルシェ「911GT3」に、河村康彦氏が試乗した。ほかの911ファミリー同様、991型の後期モデルとして各所にマイナーチェンジを受けながらも、ターボ化の波には乗らず最新の自然吸気ユニットを心臓に持つポルシェ屈指のスポーツモデルは、どのように進化したのか。

Text by KAWAMURA Yasuhiko

GT3という記号

ポルシェ911フリークを自任する人の中でも、特にサーキット走行を無上の喜びとするような生粋のスポーツ派ドライバーにとっては、もはや「神格化された存在」と言っても差し支えないはずなのが“GT3”という記号の持ち主。

このグレードが、「911」の中にあっても特別な存在として扱われる最大の理由は、例の独特な“猫背型”ボディ後端の低い位置に搭載される心臓部が、他の911シリーズのそれとは明確に一線を画した、特別な内容の持ち主であるからに違いない。

s_007

s_015

水平対向6気筒という現代では唯一と言っていいデザインのエンジンが、いずれの仕様でも一級スポーツカー用の心臓としてすこぶるパワフルで、乗る人々の心に染み渡る何とも味わい深いフィーリングを提供してくれる911には不可欠な存在であることは、今さら繰り返すまでもない。

そうした中にあっても、歴代GT3用の心臓には、例外なく際立ってスポーティなスペックが採用されてきた。

1999年に限定モデルとしてデビューした初代モデル以来、最新型で6代目となるGT3。そこに積まれた心臓部はいずれもが、このブランドの“ライフワーク”でもあるコンペティションの世界から得られたノウハウをぎっしりと詰め込んだ、レーシングエンジン由来と言ってもいい内容の持ち主だったからだ。

Porsche 911 GT3|ポルシェ 911 GT3

最新のポルシェ911GT3に試乗 (2)

その心臓は、もはやレーシングエンジンそのもの

そんな歴代GT3の心臓部が、いずれも自然吸気式であったことも特筆すべき部分だ。

パワーやトルクを向上させるためには、排気量を増したり過給機を加えたりするのがてっとり早い方法。しかし、そうした“安易”には走らず、あくまでも自然吸気式をベースとしながら高回転・高出力化を突き詰めていくという手法にこだわったことも、GT3というグレードがひとつのブランドとして認知をされるにいたる、重要なポイントであったわけだ。

これまで、モデルチェンジが行われるたびにリファインの手が加えられてきたGT3のエンジンだが、今年春のジュネーブモーターショーで発表をされた991後期型となる最新バージョンにも、もちろん新たなる心臓が搭載されている。

s_020

s_024

それは、4リッターという排気量と500psという最高出力から、「従来のGT3RSや、911Rに搭載実績があるユニットを譲り受けたもの」と、一瞬そのように判断しそうにもなる。

が、実は新しいGT3には、バルブ駆動系から油圧式ラッシュアジャスターを廃したりコンロッドやクランクシャフトのベアリングを強化するなどのリファインが加えられ、「最新の911GT3カレラカップカーや911RSRなど、純レーシングモデル用とほとんど同一」と説明される新たなユニットが搭載をされているのだ。

すなわち、最新GT3の心臓は、もはや「レーシングエンジンそのもの」と言っても差し支えない。同時に、そこに組み合わされるトランスミッションに、従来型からは姿を消していたMTとの組み合わせが“復活”したことも、見逃せないニュースとなっている。

Porsche 911 GT3|ポルシェ 911 GT3

最新のポルシェ911GT3に試乗 (3)

MTが復活

GT3のグレード名が与えられた911には、こうして他の911シリーズとは一線を画した“特別な心臓”が搭載されることが、まずは大きな特徴。同時に、優れた運動性能実現のため、やはり他のシリーズとは異なる徹底したレベルで軽量化を行うのが通例ともなっている。

リアシートが省略されるのはその象徴。997型が後期型へと移行するタイミングで911カレラシリーズにはDCTが設定された際にも、「約30kgの重量増がコンセプトに合わない」という理由からGT3には敢えてMTが選択されたのも記憶に新しい。

s_012

s_014

一方で、従来の991初期型GT3では「加速タイムの向上に絶大な効果があるため」というコメントとともに、逆にMTが廃されてDCTのみという設定に。加えれば、911の長い歴史の中で初となるリア アクティブス テアリング システムが採用されたのも、従来型GT3での大きなニュースだった。

そして、そんなDCTやリアのアクティブ ステアリング システムは継続採用をしながら、「どうしてMTはないのか!?」というユーザーの声に押されるカタチでそんなアイテムを復活設定したのが最新のGT3。

ちなみに、最新GT3での0-100km/h加速の発表データは、MT仕様車の3.8秒に対してDCT仕様車が3.2秒と、変速時にタイムロスが生じない後者が“圧勝”という状態。

絶対的なスピード性能ではもはや“勝ち目”はないのを承知の上で、ユーザーの声に寄り添うカタチでMTが再設定されたというのは、過去のGT3開発の流れからするとちょっとばかり異なるスタンスを感じさせられるところでもある。

s_028

Porsche 911 GT3|ポルシェ 911 GT3

最新のポルシェ911GT3に試乗 (4)

サーキット走行で精彩を放つGT3

そんな最新GT3の持てるポテンシャルを、サーキットコースで解放するのは、何とも至福のひとときだった。

4リッターの排気量の持ち主ゆえ、アイドリング付近でもすでに太いトルクを発揮。街乗りシーンでも負担にならない重さのクラッチを操作してのMT仕様でスタートも、イージーそのものだ。

s_031

s_036

一方で、アクセルペダルを深く踏み込んだ際の、回転数が高まるほどに活気を増していくエンジンのフィーリングには、「これこそがGT3!」と誰もが快哉を叫ぶに違いない。背後から届く迫力のフラット6サウンドとともに、爆発的な加速Gを感じるこの刹那は、確かに“普通の911”で味える印象とはまた別世界なのだ。

そんな溢れんばかりのパワーを、2輪駆動でありつつも無駄なく路面に伝えることができるのが、RRレイアウトの持つ大きなメリットであることは言うまでもなし。

同時に、身のこなしは機敏でありつつもすこぶる高い安定感が確保される中で、むしろ「速度が高まるほどに路面をきっちり掴んでいく」という感覚が得られるのは、抵抗値は増さずにより大きなダウンフォースを稼ぐというポリシーに基づいてリファインの手が加えられた空力パーツ類や、リアのアクティブ ステアリング システム、可変減衰力ダンパー、ダイナミック エンジン マウント等々といった電子制御システムがもたらす、相乗効果であるに違いない。

Porsche 911 GT3|ポルシェ 911 GT3

ちなみに、こうしてサーキットでこそ精彩を放つモデルでありつつも、街乗りシーンでの乗り味が歴代GT3の中で最も上質であったことにも触れておきたい。

軽量化のため防音・遮音材が削減されたことで、スローペースな走りでもロードノイズがキャビンに盛大に侵入。それゆえ、街乗りシーンではなかなかフラット6サウンドを愉しむことができないのは残念。けれども、サスペンションは小さい入力でも思いのほか素直にストロークし、多少の路面凹凸では飛び跳ねるような挙動を示すことはなく、望外の快適性までを提供してくれるのだ。

燃費の向上に電動化──と、GT3の行く先には暗雲が垂れ込めていると言わざるを得ない今の時代。

しかし、だからこそ頭脳集団であるポルシェが、こうしたモデルの未来をどのように舵取りしていくかが、楽しみにも思えてくる。

080507_eac_spec
Porsche 911 GT3|ポルシェ 911 GT3
ボディサイズ|全長 4,562 × 全幅 1,852 ×全高 1,271 mm
ホイールベース|2,457 mm
トレッド 前/後|1,551 / 1,555 mm
車両重量(DIN)|(AT)1,430 kg  (MT)1,413 kg
エンジン|3,996cc 水平対向6気筒
ボア × ストローク|102.0 × 81.5 mm
最高出力|368 kW(500 ps)/8,250 rpm
最大トルク|460 Nm/6,000 rpm
圧縮比|13.3
トランスミッション|7段AT(PDK) / 6段MT
駆動方式|RR
ブレーキ前|φ380×34mm 対向6ピストン式アルミ製モノブロックキャリパー、ベンチレーテッドディスク
ブレーキ後|φ380×30mm 対向4ピストン式アルミ製モノブロックキャリパー、ベンチレーテッドディスク
サスペンション前|マクファーソン式
サスペンション後|5リンク式
タイヤ 前/後|245/35R20 / 305/30R20
最高速度|(AT)318 km/h  (MT)320 km/h
0-100km/h加速|(AT)3.4 秒  (MT)3.9 秒
0-200km/h加速|(AT)11.0 秒  (MT)11.4 秒
燃費(EU)|(AT)12.7 ℓ/100km(7.87 km/ℓ)  (MT)12.9 ℓ/100km(7.75 km/ℓ)
トランク容量|フロント 125 リッター/リア 260 リッター
最小回転半径|5.55 メートル
価格|(AT)2,115万円  (MT)2,115万円

           
Photo Gallery