米山庸二×三原康裕 特別対談「モノを創るということ」|M・A・R・S
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2017年2月28日

米山庸二×三原康裕 特別対談「モノを創るということ」|M・A・R・S

M・A・R・S|マーズ

米山庸二×三原康裕 特別対談

モノを創るということ(1)

2016年に25周年を迎えた「M.A.R.S.(マーズ)」。それを記念して送るデザイナー米山庸二氏の対談連載。今回のゲストは、シューズデザイナーであり、現在はファッションデザイナーとしても活躍されている三原康裕氏。2016-1017秋冬の東京コレクションでは、コーディネートにM.A.R.Sを使用するなど互いに認め合う仲。そして、ともにデザイナーということもあり、話の方向はものづくりの困難さや面白さが中心となりました。他ではあまり聞けない、興味深い話が盛りだくさんです。

Photographs by TANAKA TsutomuText by TOMIYAMA Eizaburo

90年代は、突然変異のデザイナーが数多く生まれた時代(三原)

――米山さんと三原さんはいつからお知り合いなのですか?

三原康裕さん(以下、三原) もう10年以上になりますね。最初はファッションデザイナーの荒川眞一郎さんからの紹介で。まだ恵比寿にティーハウスというギャラリー兼カフェがあって。眞ちゃんから「ティーハウスによく行くならヨネちゃん知ってる?」って聞かれたんですよ。当時、彼のブランドのアクセサリーを米山さんが作っていて、アイロニックなミニチュアみたいなジュエリーとか、アクリル樹脂の中に蟻が入っているものとか変わったモチーフが多かったから。「ヘンな人がいるな~」って思ったんですよね(笑)。

米山庸二さん(以下、米山) 僕も「やっちんという靴を作っている人がいて、すごくカッコ良くて面白いのを作るんだよ」と話は聞いていました。

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三原 90年代って荒川さんも米山さんもそうだけど、突然変異のように出てきたデザイナーが多くて。それまではどこかのメゾンでアシスタントをしていたとか、日本の御三家ブランドから独立したとかが多かったけど、そうではなくて、好きだからっていう理由だけで突然ブランドを始める人が生まれてきた。荒川さんも、もともとはパリでアーティストをやっていたから哲学的で、ビジネスの枠ではなく作家性の強い人。米山さんも、当時は誰かの系譜で語られることを嫌がっていたし。それは僕もそうだし、アンダーカバー(の高橋盾さん)も、ジェネラルリサーチの小林(節正)さんも、ケイタマルヤマさんもそう。ファッションのトレンドとは関係なく、作りたいことに執着する。そういう時代だったのかもしれないね。その中でも僕は末端系だったから。

米山 アハハハ、僕もそうだよ。

三原 靴は足の先だし、ジュエリーも洋服ではない端っこのものだから末端系。でも、末端系ならではの楽しみがあると同時に、ある種のジレンマ、パラドックスがあるんですよ。自分が作った靴以外は、ジャケットもパンツも靴下も他ブランドでコーディネートされる運命。ジュエリーなんてそれが大前提だもんね。だから、「着る人がどうコーディネートするかまでは考えていられない」っていうある種の無責任さがあって。今はいろいろ体系化されているけど、当時は洋服も無茶苦茶だったしね。

米山 末端系は、末端系としてどう主張するのかっていうのが重要で。洋服とコーディネートするといっても、その人の個性でいくらでも合わせられるから。だからこそ、ブランドの世界観とか個性とか、やりたいことが詰まってないとカッコ良い人たちに選んでもらえない。

三原 そうそう。

米山 まずそこのスタートラインに立つこと。いかに自分のやりたいことを出せているかなんですよね。

三原くんはいつも楽しそうに職人さんと話している(米山)

三原 僕からすると、M.A.R.Sは大胆な発想を繊細にやるブランド。当時も世間ではスカルが人気だったのにやらなかったよね。

米山 いやいや、スカルは今も定番としてあるよ。でも、そこを主張したことはない。

三原 そうだ、スカルあるね(笑)。でも、そのイメージがない。かといって、コンテンポラリーでもないし、なんだろう。ふざけたことをすごく真面目にやっている。最近は「職人」という言葉が乱用されているからあまり使いたくないけど、米山さんは「職人肌」だよね。でも、いわゆる寡黙に打ち込むみたいなイメージではなくて。製品を見ていても、仕事相手を見極めて、それぞれの良さを最大限に引き出そうしているのがわかる。それでいて、すごく馬鹿げたことを表現していて。

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米山 「こんなのできちゃった」っていうのを、いかに実現させるかっていう。

――できあった製品を見るだけで、そこまでわかるものなんですね。

三原 正直わからないものもありますよ。でも、今は誰でもオリジナルのジュエリーやアクセサリーを作れる時代。その場合、本人と職人の間に2~3社入っていたりして、手を動かしている人は誰のものを作っているかわからないことが多い。そういうものづくりではなくて、ちゃんと職人さんと名前を呼びあって、阿吽の呼吸になっているモノは見ればわかりますよ。ヨネちゃんは口数が少ない人だけど、製品をまじまじと見れば小説一冊くらい語っている。それが常に進化していて、さらに崇高なレベルを目指しているのがわかる。

米山 三原くんのコレクションやレセプションにお邪魔すると、必ずそれを作った職人さんがいらっしゃっていて。三原くんはいつも楽しそうに職人さんと話しているんです。その光景を見ていると、三原くんがどこを向いて仕事をしているのかがわかる。きっと制作過程ではお互いピンピンに張り詰めた状態でやっていると思うんですけど。でも、いざカタチになって、ふたりが楽しそうに話しているのを見るとジーンとくるんですよね。

三原 戦友でもあるし。あと、僕は太鼓持ちの役割りもあるから。ものを作って売るっていうのは一連の作業かもしれないけど、それだけなら自分の存在はいらないんじゃないかって。デザインを渡して終わるなら、これほど無責任なことはない。それよりもっと大事なことがあると思う。単純な話かもしれないけど、触れ合いとか、気持ちの問題。よく、皆さんが「魂のこもったものづくり」とか言うけど、魂のこもったものづくりってなんだろう? ってよく考えるんだよね。一切の油断があってはならないのか? とか。でもそうじゃないなって。

米山 うん。

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Page02. 現在地を知るたったひとつの方法は、自分が壁にぶつかること(三原)

M・A・R・S|マーズ

米山庸二×三原康裕 特別対談

モノを創るということ(2)

現在地を知るたったひとつの方法は、自分が壁にぶつかること(三原)

三原 このリングは、BAD TASTEっていうバンドのものだけど。パッと見は悪さ満載で重さもしっかりあって、そしてよく見るとリングの内側にスカルが入ってるんだよね。このウィットが効いている感じ。こういうものを見ると、作り手の譲れない気持ちを感じるんだよ。だから、僕の中ではキャストでバンバン大量に作るのがアクセサリー。一方で、ものに気持ちが入っているのがジュエリー。ジュエリーって石が付いているとか、高い金属を使っているとかじゃない。そういう意味で、僕にとってM.A.R.Sはジュエリーなんです。

米山 三原くんの靴も、木型さえあればコンピューターである程度はできる。でも、その後はどうしても手を入れるわけで。きれいな曲線が出ていてもどこか気持ち悪い。そこを自分の見た目と触感で納得できるところまで突き詰める。つまり、最終的には人の感覚だなと思っていて。三原くんがやった、靴をさらに革で包んだシューズを初めて見たときに「すげぇな」、「どうやっているんだろう?」って思った。

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知り合いの革屋さんに聞いたら、「こんなの無理です」って。「これは職人さんと三原さんの完璧なコンビネーションで、普通にやってくれって言っても絶対にやってくれるところはない」って。

三原 ない。それはそうかもしれない。

米山 僕らがどれだけお金を出すと言っても、職人さんは動いてくれないですよ。そういう問題じゃない。そこには、それまでの歴史があって。三原くんも段階を踏んでいるんだと思う。いきなり「これやって」と言っても無理。まずはこれをやって、2年目はこれやって、3年目にようやく「これができたからこんなのどうかな?」っていう。

三原 あるある!

米山 関係性、順番、時間。すぐにカタチにならなくても、いまやっておかないといけないこと。それが自分のなかで組み立てとしてあるんだと思う。だからこそ、常に進化しているわけで。毎回「すごいな」と思うのは、そういうのが感じられるから。

三原 先に見えてることに対して、段階を踏むっていうことは確かにありますね。もちろん、その段階を越せない場合もあるし、その間に違うやり方を見つける場合もある。でも、例えるなら地図をどうやって使うかっていう話で。地図を開いて、目的地を決めて、どういうルートで行くかを考えるわけでしょ? でも、現在地が明確でないと、そもそも地図を使うことができない。

米山 はい。

三原 ものを作るうえで現在地を知るたったひとつの方法は、自分が壁にぶつかることしかない。限界にチャレンジしてできなかった。そこで初めて何丁目何番地にいるのかがわかるわけで。自分の限界以下のことばかりやっていると、どこにいるのかわからなくなってしまう。すると良い悪いの分別もつかなくなる。ただこれが売れるからでやっているだけでは地図が見えてこない。そう考えると、目的地までタクシーで行くか、電車で行くかとか、ルートなんてどうでもよくて。技術や作りたいことへの願望、気持ちの入れ方が大事になってくる。

米山 そうだね。

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感覚っていうのはきっかけで変わるから。その感覚をどうわかってもらうか(米山)

三原 でも、残酷な話、職人さんが減ってきているから。以前はできていたこと、ここなら越せるだろうことが、越せなくなっていることもある。それは日本のものづくりが置かれている現状のシリアスな話。技術力の低下や後継者の減少だったりね。今うちの会社にいる早川さんも76歳。彼が引退するって言ったときも「ダメ!」って引き止めて。彼が型紙をひいてくれないと僕は靴が作れないかもっていうくらい、阿吽の呼吸だから。僕にとって任せて安心。

――阿吽の呼吸が生まれる人と出会えるか、育めるかは重要なんですね。

三原 そういう人と出会えたのは、僕にとっては喜びでもあるんですよ。もちろん、米山さんにもそういう人は確実にいるわけだし。たぶん、頑張ってギリギリの線でいいものを作ろうとしている人は必ずいると思う。デザイナーでも作家さんでも、どんな人にも後ろ盾になっている人がいる。僕はそういう人のファンなんだと思う。野球とかサッカーの熱心なファンみたいに。

米山 出会うためには、こっちもそのテンションでいないといけない。そうでないと、たとえ出会っていてもたぶん気づかない。だから、いかに真剣に向き合うかだと思う。逆に、相手がそのポテンシャルをもっているのに、本人が気づいていないパターンもあって。本当はもっとできるはずなのに、ただこなしている。そういう場合は、こっちがリクエストしていって、感覚としてわかってもらう必要がある。テクニックは積み重ねだけど、感覚っていうのはきっかけで変わるから。その感覚をどうわかってもらうか。

三原 うん、これは深い話なんですよ。ずっと安物を作っていたり、コピーものばかりやらされていると彼らも心が荒むわけです。プライドがズタズタになっていたり、そもそもプライドなんて持ったことがない人もいる。そういう中で、「あなたじゃなきゃダメ!」っていうのを僕らが見つけるんですよ。そうするとキラキラし始める。でも、自信とプライドを失っている人に、それを気づかせるのはすごく体力がいる仕事で。「素晴らしい」と信じて言い続けるのも体力がいるし、さらに「任せる」と言えるかどうか。そうすることで、僕自身も勉強になるんですよね。

米山 自分ができる最大限のことをやりたいですよね。

三原 僕は、たまにふと自分で自分をコピーしているときがあって。例えばそのときの職人はすでに亡くなってしまっている。でも、その人の型紙や匂いはモノにあって。それと同じようには無理だけど、いまの自分がもう一回やること。それをやらなければいけないと感じることがある。

米山 わかる。一番やりたいことがそのときに売れなくて。2番目、3番目にやったことが売れたりする。そうすると、僕らとしては一番やりたかったことがどこかで残っちゃったりするんだよね。そういうジレンマと時間のズレがあって。

三原 ある。パラドックスって僕はよく言うんだけど。

米山 でも、僕の場合は素材が銀や金など限られているから、ある意味でわかりやすい。三原くんがやっていることよりもまだ理解されやすいんですよ。

M.A.R.Sのコンポジットシリーズは、外国人には発想できない(三原)

三原 米山さんの世界は、実はすごい時代になっていて。ここから、3Dプリンターというのが出てくる。

米山 そうそう。

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三原 テクノロジーの進歩としては革命的で、誰でも「ぽい」ものが作れるようになるかもしれない。ただ、それでも越せない壁は確実にある。そこにちゃんと礎と気持ちを置いておかないと、ただの量産品で終わってしまう。僕はM.A.R.Sみたいなものを「知的生産物」と言っているんだけど。つまり作っている人たちの知性が集約されている。それ以外は、ただのレディメイド。工業製品に知性がないと言ってるわけではなくてね。その部分の差ははっきり出てくるだろうなって。スピードも速くなったし、すごい時代になってきましたよ。

米山 でも、音楽の世界では再びレコードが注目されているじゃないですか。僕はそういうことだと思うんですよ。技術が進んで豊かになるほど、人はモノやコトに対して不便利を求めるんじゃないかなって。簡単にできないことを「欲」として求めていくんじゃないかなと思っているんです。

三原 そうかもしれないね。

――最後に、先日の東京コレクションでM.A.R.Sを使われた理由を教えてください。

三原 「涅槃」という白と黒だけのコレクションを発表したんですけど。そこで使った素材は、日本では神に捧げる神聖な布にも使われる大麻草だったんです。最初はただの麻だと思っていたんですけど、実は麻と大麻には違いがあって。肌触りやぬめり感とかが全然違う。一方で、このコレクションは本当に白と黒だけのシンプルなものだったので、ジュエリーが絶対に必要だなと思っていたんです。そんなとき、M.A.R.Sの洋風でも和風でもない感じがいいなって。僕は、メッシュというか竹細工のようなコンポジットシリーズが大好きで。無骨でもあり、上品でもあり、和でもなく洋でもなく、着物にも似合い、スーツにも似合うという温度感。これは合うだろうなと思って使わせてもらったんです。M.A.R.Sのコンポジットシリーズは外国人には発想できない、そう思いますね。

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三原康裕|MIHARA Yasuhiro
1972年長崎県生まれ。93年多摩美術大学テキスタイル学部に入学、独学で靴づくりを開始。在学中にシューズブランドを立ち上げ、98年初の直営店「SOSU MIHARA YASUHIRO」を東京・青山にオープンする。2000年「PUMA by MIHARA YASUHIRO」を発表。04年「MIHARA YASUHIRO」を海外デビューさせ、ミラノコレクションに参加。07年からはパリコレクション、16年からはロンドンコレクションで発表している。

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米山庸二|YONEYAMA Yoji
1990年 ブランド設立
1999年 M・A・R・S Flag Shop OPEN
2003年 M・A・R・S PLANET として海外展開開始
2007年 M・A・R・S伊勢丹新宿メンズ館店 OPEN

M・A・R・S フラッグショップ
〒150-0021
東京都渋谷区恵比寿西1-17-11-1F
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営業時間|12:00〜20:00
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