祐真朋樹・編集大魔王対談|vol.18 佐田真由美さん
FASHION / WOMEN
2017年3月15日

祐真朋樹・編集大魔王対談|vol.18 佐田真由美さん

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今回の編集大魔王対談のゲストは、昨年ブランド設立10周年を迎えた「Enasoluna(エナソルーナ)」ディレクターの佐田真由美さん。モノ作りへのあくなき追求と熱い想いを秘めた佐田さんと、11年目を歩み始めたブランドの魅力に迫った。

Interview by SUKEZANE TomokiPhotographs by TANAKA TsutomuText by ANDO Sara (OPENERS)

ブランド10周年の節目に感謝の気持ちを伝えたかった

祐真朋樹・編集大魔王(以下、祐真) 10周年おめでとうございます。女性が多いパーティに行く機会があまりないので、乗り込むのは勇気がいりましたが、大盛況でしたね。

佐田真由美さん(以下、佐田) ありがとうございます。確かにゲストは女性ばかりでしたね。でも、会場に男性がいるとこちらも安心するんですよ。

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祐真 和やかなパーティでしたね。とても居心地が良かったです。

佐田 今まで本当にたくさんの方にお世話になり、応援していただいたので、10周年という節目の年に、まずはその方達に感謝を伝える場を作りたくて。関係者の方だけでなく、エナソルーナのジュエリーを着けてくださっている全ての方をお呼びしたかったくらいです(笑)。記念ジュエリーの制作や、ブランドビジュアル、イメージムービーやそれに使う音楽の作曲など、トータルで1年くらい準備に費やしたのですが、終えてみると会場での出来事が何も思い出せないんです。当日は脳内アドレナリンが出て、心理的パニックというか。人生で初めての体験でした。

祐真 エナソルーナの10年間の経過がわかる展示がとても素敵でした。ジュエリーデザインの学校に通っていたということも知って、佐田さんのモノ作りに対する情熱を間近で感じることができて素晴らしかったです。

佐田 すごく嬉しいです。たまに「本当に全部作ってるの?」なんて聞かれることもあるのですが、かなり真剣に作っています(笑)。出来上がったジュエリーをただチェックするというだけでなく、デザインから石選び、素材の選定などなど、モノ作りとして最初から最後まで手掛けています。そのジュエリーを身につけた女性を想像をして試行錯誤の連続ですが楽しい作業です。

祐真 こういった節目にそれを伝えられたことはとても重要だと思います。ジュエリーへの関心はいつからあったんですか?

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佐田 モデルの仕事をしていることもあって、もともと洋服はもちろん、ジュエリーも大好きでした。10年以上前になりますが、モデルたちの間でパワーストーンのブレスレットが流行ったことがあったんです。ミサンガのようなお守りのようなものなのですが、どうも数珠っぽくて可愛くないなと思っていて。

祐真 みんなこぞって数珠をつけていた時期がありましたね。エレガントさに欠けるなと思って見ていました。

佐田 オシャレな天然石のお守りがあればいいなと作ってみたのが始まりです。それがちょうど11年前ですね。

祐真 それでブランドを立ち上げることになったというわけですね?

佐田 はい。ジュエリーについて何も知らない素人が、数珠はダサいから可愛いのを作ろう!と軽い気持ちで始めたら、その魅力にまんまとハマりまして。その1年後にはお店を構えるまでになりました。

祐真 でもここまで来るのに大変だったでしょう?実際の職人さんたちとのコミュニケーションは円滑に進んでいるんですか?

佐田 もちろん最初は、言葉で伝えてもニュアンスをわかってもらえなかったり、理想とは違うものがあがってきたり、壁にぶつかるようなことは何度もありました。意思の疎通がうまくいかないことでフラストレーションになることもありましたし。ですが、私が目指すものや、私の気持ちをわかってくれて、ひとつの目標に向かって一致団結して歩んで行ける仲間たちに出会うことができました。それには本当に感謝しています。

祐真 ニュアンスを共有するというのは一番重要であり、一番難しいところですよね。何をどうすれば率直に伝わるのでしょうか?

佐田 それは常に課題ですよね。一緒にモノ作りをしてくれる人たちとの共有力ですから。私が思い描いている完成形は誰にも見えないので、私自身の伝え方の力量にかかっているとはいえ、捉え方の焦点もあるので、とにかくたくさんの絵や写真などを用意してイメージをはっきりと具現化するための努力をしています。

祐真 ジュエリーって、飾ってあったり置いてあったりする時と、実際に身につけている時とで表情がまったく変わりますよね。最終的に手にする人たちが着用することを踏まえて、どのようなことを考えてデザインしているんですか?

佐田 身につけてもらうことの意味を大切にしています。たとえば、フェイスラインやデコルテが美しく見えるということ。これは女性にとって一番大切なことですよね。大きさや寸法となると、骨格や体型などそれぞれ違ってくるので難しいところではあります。私だけの視点だと、私だけが似合うものになってしまうので、そこは何度もサンプリングしていろいろなフィルターを通して微調整をしています。

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Page02. 女性が持つしなやかさをセクシーにしっとりと格上げしてくれるジュエリー

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女性が持つしなやかさをセクシーにしっとりと格上げしてくれるジュエリー

祐真 今年10周年ということで、新しく作った特別なピースがあるとのことですが。

佐田 10周年なので10種類作りました。女子のマストアイテムを天然石で表現したペンダントは自信作です。お手持ちのネックレスに通してもいいですし、何より見ているだけでも可愛いので気に入っています。

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祐真 どういう時にデザインが浮かぶんですか?

佐田 そうですね、今回に関して言えば、とにかく10個作らなきゃいけないというhave to的なことがあったので絞り出したという感じでもあり……(笑)。でもこれがこの10年の集大成になればいいなと思っています。ブランドを始めた初期の頃は純粋にやりたいことや面白いことだけをやっていたので、普通には着けられないようなジュエリーが多くありました。でもブランドが成長するとともに、独りよがりなデザインだけでなく、実際に着けてもらう人のことを考えるようになっていきましたね。

祐真 今回作ったピースの中で一番難しかったのはどれですか?

佐田 この組子細工ですね。21回作り直しました。インスピレーション源は襖なんです。京都の東山にあるハイアット リージェンシー 京都にあるものを見て、きれいだなと思ったのがきっかけです。柄もいろいろあって可愛いんですよ。実はまだこれも納得ができていないのですが……。やはり手作りなので難しいんですよね。カーブをしているところに石を留めると歪みが出てしまうので、ものすごい技術を必要とするんです。

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祐真 和モチーフ、素敵ですね。

佐田 組子細工シリーズで一緒につけてもいいと思いますよ。デコルテがあいているドレスならネックレスを重ねてつけても可愛いはずです。

祐真 撮影映えしそうですね。カッコいいと思います。

佐田 ありがとうございます。何気なくシンプルに着けられて、かつ、顔周りや首元を上品に女性らしく見せてくれることをモットーにしています。

祐真 佐田さんが思う女性らしさとは何ですか?

佐田 しなやかさでしょうか。女性ならではの空気感ですよね。もともと女性が持っているしなやかさを、ジュエリーでセクシーにしっとりと格上げできたらいいなと思っています。赤ちゃんでも、男の子はがっちりしているけど、女の子はしなやかでしっとりしているんですよね。

祐真 それがフェミニンということなんでしょうね。これはなんですか?

佐田 天然石でできたペンダントヘッドです。ベルベットのリボンをつけて販売する予定です。本当はひとつのネックレスにチャームを全部つけようと思ったんですが、その日の気分に合わせて自由につけてもらえたら。葉っぱやヘビ、王冠など10個のモチーフがあります。

祐真 きれいですね。エナソルーナのジュエリーはどこで作られているんですか?

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佐田 全て日本です。日本人の職人さんはやっぱり繊細ですね。

祐真 このリング、素敵ですね。

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佐田 技能五輪国際大会という、2年に一度世界各国の職人が各国内の予選を経て、その国の代表として技を競い合う大会があるんです。美容や料理など、あらゆる分野で職人たちが技術を競い合う、まさに職人のオリンピックなのですが、1999年にカナダのモントリオールで開催された大会の貴金属加工部門において、日本人初の金メダルを受賞した廣海貴晴さんという方と出会うチャンスがあったんです。このダイヤモンドのリングは廣海さんに依頼して作ってもらったものです。

祐真 パーティにもいらしていたのでしょうか?

佐田 職人さんらしい、パーティが苦手という方なので残念ながら出席していただけなかったのですが、彼の仕事が素晴らしいんです。マニアックとも言える世界観ですが、とにかく繊細で美しくて。

祐真 是非お会いしてみたいですね。このリングの細やかさ、驚きますね。ものすごく手が込んでいるのがわかります。

佐田 私もとても気に入っています。世界的に有名なジュエリーメーカーで同じものを作ったら、同じ価格では提供できないはずです。でも、私自身このリングに見合う女性になれている自信がまだないですね。

祐真 ジュエリーには年相応というものがありますよね。

佐田 そうなんですよね。エルメスのケリーバッグなどが、10代や20代の女の子が持っていてもあまり似合わないというか、偽物に見えてしまうというように。

Page02. エナソルーナのジュエリーを一人立ちさせたい

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エナソルーナのジュエリーを一人立ちさせたい

祐真 同感です。ジュエリーを作っている時やアイデアが浮かぶ時は楽しんでいますか?

佐田 とっても楽しいです。制作してくれているスタッフたちと話し合いながらイメージを膨らませるのも楽しいし、さらに出来上がったものを見る瞬間も楽しいです。ワクワクしますね。

祐真 インスピレーションはどんなところから沸いてくるんですか?

佐田 映画や写真、家具だったり、日常のあらゆるところからヒントを得ています。それから、私自身がそれを店頭で見かけたとしたら買うか、実際に欲しいと思うかという点を一番大切にしていますね。ジュエリーのプライスも一緒に決めているのですが、手の届きやすい価格設定をしながら、それ以上の価値を提供することを心掛けています。

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祐真 この10年で変わったことはありますか?

佐田 初期の頃はとにかく自由な発想と自由な組み合わせのものが多かったかもしれません。ジュエリー業界では無謀すぎて「え?」と驚かれたり、職人さんにも無理だと言われたりすることもよくありました。それでもめげずに、樹脂の中にダイヤモンドを入れたいと言い張ったりして。ダイヤモンドは単体じゃ輝かないので爪に置かないとダメだ、樹脂で閉じ込めてしまったらせっかくのダイヤモンドが濁ってしまうからもったいない、と言われても、とにかく単純に樹脂の中にダイヤモンドが入っているストーリーがやりたかった、という。10年経ってそういう発想はなくなってきましたね。

祐真 知らなかったからこそできたことなのかもしれませんね。

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佐田 二度と戻れない世界観ですよね。いろんな色の石をたくさん組み合わせて重さもあるのになぜか紐仕様のチョーカーとか。切れちゃうかも、とかは考えずにデザイン重視で作ったのですが、今なら考えられないですね。

祐真 グラデーションになっていてきれいですね。ちょっとゴローズっぽさもあって。セクシーなインディアンジュエリーという感じですね。

佐田 女性らしさというのは当初からずっと変わらずにテーマにしていました。

祐真 佐田さんが好きな石はありますか?

佐田 やっぱりダイヤモンドには魅せられてしまいますね。でも扱い方に気をつけないといけない石でもありますね。魂が吸い取られるというか、ダイヤモンドを触ったり見たりしていると抜け殻のようになってしまうんですよ。どよーんとして誰とも喋りたくなくなってしまうような。

祐真 それ、聞いた事あります。石にはそういうバックグラウンドがあるそうですが、ダイヤモンドは特に強力みたいですね。

佐田 リングなどを普通に着けている分には平気なのですが、たとえば大量のダイヤモンドを見ると意味もなくどっと疲れてしまうことがあるんですよ。体調が良い時は良いものを寄せ付けて、逆に悪い時は悪いものを寄せ付ける石のようですね。ちょっと調子が悪いな、という日は着用するのをやめることもあります。

祐真 呪われたダイヤモンドの話もありますよね。

佐田 ダイヤモンドには怖いけど、癒やされもする不思議な魅力があると思います。ダイヤモンドだけでなく、石にはいろいろな効果や効能があるんですよね。そういえば以前、願い事に合わせて様々なモチーフのチャームと天然石を自由に処方して自分の願い事にあったジュエリーをコーディネートする「ドクターエナソルーナ」というラインを展開していました。

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祐真 それ、面白いアイデアですね。プレゼントにも良さそうですね。

佐田 残念ながらもう終了してしまったのですが、その日の自分の体調に合わせて石やジュエリーを変えるというのも楽しいですよね。

祐真 今後の目標について聞かせてください。

佐田 10周年を一つの節目として、エナソルーナ=佐田真由美というイメージをなくし、ジュエリーを一人立ちさせたいんです。オシャレだなとか可愛いなとか、まず商品に目を向けてもらえるようなアプローチに変えて新しいイメージを打ち出していければと思っています。そこから調べて「あ、佐田真由美が作っているんだ」と知ってもらえるような、先にモノが出てくるという風に徹底して変えていきたいです。今シーズンのカタログも自分でディレクションしましたし、今回は監督兼作曲をして2分間のムービーも作ったんです。初期のビートルズにあった短い楽曲など、もうちょっと聴いていたくなるような感じで絶妙な長さのムービーだと思うので気に入っています。

祐真 素敵ですね。実際こうして佐田さんとお話するのは初めてで緊張しましたが、今日はとてもいい時間でした。

佐田 こちらこそ楽しかったです。今日はありがとうございました。

祐真 これからのエナソルーナも楽しみにしています。ありがとうございました。

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佐田真由美|SADA Mayumi
「エナソルーナ」ディレクター。モデル業で養ったアンテナでいち早くトレンドをキャッチし、独自のファッション性を活かしたモノ作りと、ショップでの接客イベントなどにより、お客様と近い距離で触れあうことで、お客様が今どんなものを求めているのかを察知し、モノ作りに反映。商品のみならず、店舗の内装やディスプレイ、カタログなどブランドに関わる全てを手がける。

           
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