祐真朋樹・編集大魔王対談|vol.14 森田恭通さん
Page. 1
世界中で多くのプロジェクトを手掛けるGLAMOROUS co.,ltd.の森田恭通さんには実はフォトグラファーとしての顔もあり、昨年パリで初の写真展を開催したばかり。さらに先月11月18日から20日までは東京・茅場町共同ビルディングで開催されていた、世界を舞台に活躍する写真家や映像クリエイターの作品が集結するフォトフェア「ART PHOTO TOKYO -edition zero-」にも出展。写真を撮るようになったいきさつからデザインに対する想いまで、ART PHOTO TOKYOの会場で話を聞いた。
Interview by SUKEZANE TomokiPhotographs by HATA JunjiText by ANDO Sara (OPENERS)
平面で陶器のような質感を追求して辿り着いた女性の身体
祐真朋樹・編集大魔王(以下、祐真) 出展おめでとうございます。どれも素敵な作品ばかりですね。森田さんはいつから写真を始められたんですか?
森田恭通さん(以下、森田)ありがとうございます。写真を撮り始めたのは、プライベートでは20歳ごろだったと思います。ファッション世代なので、20代の頃は美容院に置いてあった『ELLE』や『VOGUE』なんかが僕の参考書でした。その頃はインテリアやデザインに関する参考書ってあまりなかったんですよ。
祐真 まさにスーパーモデル全盛期の頃ですね。
森田 そうです。リンダ(・エヴァンジェリスタ)やシンディ(・クロフォード)、ヘレナ(・クリステンセン)たちが活躍していた時代です。モード写真、特にモノクロームが好きだったので、見よう見まねで撮ったりして。カメラはどこへ行くにも持ち歩いていましたね。
祐真 去年の11月にパリで初の個展を開催したそうですが、きっかけはなんだったんですか?
森田 以前からモノクロームの抽象的な写真が欲しいと思って探していたんです。ただ、自分のデザインしたインテリアに合うもので探してみるとなかなか見つからなくて。写真はずっと撮っていたので「では自分で撮ろうか」と思い立ったのがきっかけですね。今回展示している作品は去年パリで展示したものです。
祐真 「Porcelain Nude」とありますが、詳しく教えてください。
森田 いわゆる女性のヌードなんですが、見た人がなんだかわからないような抽象的なものに落とし込んでみました。すべて40センチの距離で撮っているので、かなりの接写ですよ。
祐真 パッと見た時、女性の身体だとわかりませんでした。確かに見る側としてはこれを身体と思うのかどうなのか、それぞれの解釈がありそうで面白いですね。
森田 「砂丘ですか?」と聞かれたこともあります。アートは受け取り側の自由ですからね。女性の身体に見える人、砂丘に見える人、はたまた月明かりの波紋に見える人がいたっていいわけで。
祐真 素晴らしいですね。ないですよね、こういう写真。空間における平面の彫刻ですね。
森田 結構いろんなところでこういう写真を探したのですが、彫刻はあっても写真はないんですね。
祐真 モード写真だと、ヌードであったとしても全身入っていたりしてね。
森田 そうなんです。そうなると人間像が出てしまうので、できるだけわからないようにしたかったんです。
祐真 いいですよね。邪魔にならないというか、嫌らしさがないのでリビングにも飾れそうですね。
森田 子どもがいる家庭ではヌード写真をなかなか飾れませんが、これなら大丈夫といって、ご夫婦で買ってくださる方もいますよ。
祐真 森田さんは写真だけでなく、建物全体を考えて撮影するから普通のカメラマンとアプローチが違うのでしょうね。
森田 どこかにしまっておくのではなく、空間に飾ることを前提に撮っていることは間違いないですね。生活にアートがあるとハッピーになりますし。
祐真 今回のテーマはどのようにして行き着いたのですか?
森田 単純に、平面で陶器のような質感が欲しかったんですよね。モノクロで人の身体ならそう見えるかも、と思ったのがスタート地点です。僕は世の中には直線か曲線しかないと思っていて、常にその二つを意識しているんです。そしてこの世で一番美しい曲線はやはり女性の身体だと思うんですね。コカ・コーラのボトルは女性のボディラインを参考にしたというし、車のデザインをしている人たちも絶対に意識しているはず。10人の女性がいたら10通りの曲線がありますが、どれも世の中で一番きれいなアールを描いているんです。
祐真 面白いですね。建築家のオスカー・ニーマイヤーも女性のボディラインをインスピレーション源にしていると言っていました。そしてその美しい曲線に寄って抽象的にすることで「何の写真だろう?」って考えさせる。飾られているフレームもカッコいいですね。
森田 フレームも世の中にいっぱいあるわりに、ミニマムでシャープなものって案外なかったりするんですよ。だからこれも作ったんです。ここまで細いと金属に見えるかもしれませんが、木なんですよ。
祐真 ミニマムでシャープな額縁に、曲線の写真が真ん中にあるわけですね。ずらりと並べてあるのもカッコいいです。
森田 ありがとうございます。スクエアの中にアールを入れると強さが出て、メッセージがより伝わりやすくなるかなと思います。
祐真 今回は焼き物も展示しているんですね。
森田 フランスのベルナルドという190年続いているテーブルウェアメーカーに制作してもらいました。タイトル通り、陶器でできているんです。
Page02. 目では見られないモノクロの世界を撮り続ける理由
Page. 2
目では見られないモノクロの世界を撮り続ける理由
祐真 20歳から趣味で写真を撮り続けているとおっしゃっていましたが、ずっとモノクロで撮っていたんですか?
森田 ほぼ全てモノクロフィルムですね。撮り続けると言っても、自分で撮ってただ眺めるぐらいのものでしたが。
祐真 森田さんにとってモノクロの魅力はなんですか?
森田 インテリアとつながるかもしれません。インテリアを考える時、最も重要なのが照明。それも美しい光を作るのではなく、いかに美しい影を作るか、これが一番大切なんです。カッコよくて奥行きのある影をどう作るか、というのはお化粧も同じですよね。シャドーを作って奥行きを出すので。私たち人間の視界はカラーですが、モノクロに落とすと光と影の世界が生まれます。そこがモノクロの一番の魅力ですね。
祐真 なるほど。素敵な話ですね。影といえば以前、伊丹十三さんが話していたことを思い出しました。ホラー映画をプロデュースする時に、影で恐怖心を煽るんだと……。関係ないか?
森田 影って面白いですよ。今回の写真もそうですが、ライトを正面から当てているんですが、本当にきれいな影が出るんです。人間って、様々なアールの結び付きで出来ているのがよくわかると思います。人間の身体、骨にはありますが、肉体には直線ってないんですよ。
祐真 興味深いですね。カメラは何を使っているんですか?
森田 ライカのモノクローム、手持ちです。目が悪いので、必死で撮っています(笑)。ライカは見るのが大変なんですよね。
祐真 僕もライカを使っていますが、ピントを合わせるのが大変なんですよね。でもそれも面白さかなと。森田さんの世界観、好きです。これはどれぐらいで撮影したんですか?
森田 3時間ぐらいで撮りましたね。
祐真 早い!
森田 息が続かないですから(笑)。
祐真 ヌード以外に最近面白いものは撮影しましたか?
森田 先日パリフォトで発表したのですが、10億円を撮りました。
祐真 えっ!キャッシュですか?
森田 はい、10億円分の一万円札の札束を。ヌードと同じように寄りで撮ったので、まさかお札には見えなくて。「実は10億円なんですよ」って言うと、ものすごい反応をいただけるという。お金の価値ってなんだろう、と考えさせられました。
祐真 まぁ、紙の積層でしかないわけですからね。それにしても、すごいですね。よく見ると「え! これ10億円なの?」となるわけですね。アイデアがいいですね。
森田 顔は見えませんが、福沢諭吉が10万人います(笑)。お札の塊が、建造物にも木の断面にも見えて不思議な美しさが出たのではないかと思います。
祐真 本当に、お金の価値ってなんなんでしょうね。
森田 昔は石を削り出してお金の代わりにしていたわけじゃないですか。そこから金、銀、銅と変化していって紙幣になって。戦前なら数100円で立派なお店が作れたかもしれませんが、時代とともにお金の価値がこれだけ変わってきている中で、ではお金をいくら手にしたら何ができるの?という問いかけなんです。あなたの価値はどこにあるんですか?という。
祐真 僕は洋服を通してですが、これだけファストファッションでどこへでも出掛けられる時代になると、高い服の価値ってなんなんだろうなって思いますね。
森田 そうですよね。僕の写真もそう。iPhoneで撮ってもわざわざシルバーゼラチンで焼きますから。
祐真 それってどういうことなんでしょうね。ずっとタイムレスに、長い時間とっておきたい、ということでしょうか。
森田 時代とは逆行するかもしれないけれど、残しておきたいんですよね。
祐真 レガシーですか?
森田 レガシーですね。
祐真 だってファストファッション、来年着ますか?
森田 着ないですね。
祐真 僕はレガシーの服が鬼のようにあるんです。そうだ、レガシークローゼットと名付けることにしよう。
森田 捨てられないんでしょう?
祐真 困ったもんです。こういう時代だからこそ、時間とともに風化しないものが大切になっていくんじゃないかなと思いますけどね。
森田 プラチナプリントは一応200年持ちますからね。僕は200年後にはいませんけど(笑)、あったら嬉しいですね。
祐真 確かに。飾られていたら嬉しいですよね。見てる人に影響を与えますからね。
森田 僕は写真はなくならないと思います。
祐真 なぜそう思いますか?
森田 デジタルの世界やインターネットの文明が存在し続けるかぎり、アナログ的なものも開花し続けるから。新しいレコードショップだって出来ているし、レーザー機能やデジタル機能を搭載したレコードプレイヤーだってあります。アナログの美しさに感動する世代がいるので、温故知新じゃないですけど、伝統を守りながら現代風に革新していくんじゃないかなと思っています。
祐真 そこに本物を感じるのかもしれませんね。
森田 ここにある写真もデジタルからフィルムに起こしていますからね。ネガを作ってシルバーで焼くというまったく時代と逆行したやり方です。
祐真 貴重なお話、ありがとうございました。
森田 恭通|MORITA Yasumichi
デザイナー / GLAMOROUS co.,ltd. 代表。1967年大阪生まれ。2001年の香港プロジェクトを皮切りに、ニューヨーク、ロンドン、カタール、パリなど海外へも活躍の場を広げ、インテリアに限らず、グラフィックやプロダクトといった幅広い創作活動を行っている。2013年婦人服・婦人雑貨フロアに引き続き2015年にはリビング、ベビー子供フロアの 「伊勢丹新宿本店本館 再開発プロジェクト」 が完成した。2013年自身初の物件集「GLAMOROUS PHILOSOPHY NO.1」 がパルコ出版より発売。2015年に引き続き、2016年にも写真展 「Porcelain Nude」 をパリで開催。