GIORGIO ARMANI|ファッション史研究家、鈴木文彦が語るジョルジオ アルマーニのダンディズム

GIORGIO ARMANI|ファッション史研究家、鈴木文彦が語るジョルジオ アルマーニのダンディズム

Style Mode Attitude―ARMANI Experience

GIORGIO ARMANI|ジョルジオ アルマーニ

スーツスタイルに一石を投じた、個性と着心地へのこだわり

ファッション史研究家、鈴木文彦が語るジョルジオ アルマーニのダンディズム(1)

現代におけるダンディたちが選ぶ服とは――そこにはデザイン、素材、カット、すべての要素の融合から生み出される、確固としたスタイルがなくてはならない。スーツの伝統と歴史を再構築し、創造をもたらした、ジョルジオ アルマーニ流のダンディズムとは。ファッション史研究家、鈴木文彦が語る。

Photographs by YOSHIZAWA Kenta(photo1-8), JAMANDFIX(photo9-15)Text by SUZUKI Fumihiko(OPENERS)

個性的で自分らしい装いをするために、必要不可欠なもの

「アルマーニはしだいに柔らかな生地やクールな色合いを選ぶようになり、スーツのいかつい内部構造を取り払った。わざと位置をずらしたボタン、薄めの肩パッド。それまではフォーマルで堅苦しかったメンズのジャケットに、年齢に関係なくソフトで着心地のよい、若々しいイメージを与えることに成功したのだ」

これはレナータ・モルホによるジョルジオ・アルマーニの評伝『ジョルジオ・アルマーニ 帝王の美学』(日本経済新聞出版社)に引かれるファッションジャーナリスト ルチア・マーリによる発言だ。この評価が、1970年、テイラー仕立ての紳士服プレタポルテをコンセプトに生まれた「ヒットマン」というブランドで、8年間、スタイリスト、あるいはデザイナーとしてメンズウェアに携わった、まだ若いジョルジオ・アルマーニにたいしてなされたものだというのは注目されてしかるべきだろう。

1934年に生まれたアルマーニのキャリアは、1954年から1963年まで、「リナシェンテ」というミラノの大手百貨店に勤務していたところからはじまる。当初、アルマーニはこの百貨店のショーウインドウのデコレーションであるとか、イメージづくりを担当する部門に所属していた。その彼が、やがてリナシェンテのバイヤーとなったところから、プロフェッショナルなファッションデザインの分野での経験がはじまる。

「バイヤーをしていたころ、僕は服に金を惜しまない裕福な顧客を満足させるのに苦労した経験があったんだ」

当時をアルマーニは以下のように分析する。

「どの服もみな、あまりに堅苦しく、誰が着てもおなじに見えてしまう。着るひとの個性を際立たせ、一人ひとりの身体にフィットする服はないものかとおもったものだ。だから独立して自分の好きな服をつくるようになったとき、従来の紳士服のスタイルとして厳格に定められていたジャケットの構造をすべて解体しようと決めたんだ。堅苦しい構造のせいで誰が着てもおなじに見えてしまうんだからね。男性の身体に一枚の布をごく自然にかけてみて、いろいろ試した。それまでは欠点とみなされていた部分に注目しながらね。既存の構造を解体し、より自由に動きやすくするという考えだったんだ。男性たちが個性的で自分らしい装いをするためにはそれが不可欠だと僕はおもう」

アンコンストラクテッド・ジャケット――スーツにおける革命

いまさら強調するまでもないことかもしれないけれどアルマーニのジャケットは、アンコンストラクテッド・ジャケット(構築的でないジャケット)などと呼ばれ、やわらかな素材をつかい、構築的な構造物からの自由を特徴としている。これは1980年代に世界的に注目を集めたイタリアのジャケットをしばしば特徴づけるものでもあるけれど、アルマーニは、そのキャリアのスタート地点から、アンコンストラクテッド・ジャケットへの趣向をもっていた。特異な男性的社会から生まれるイギリスの男性服の美学が、合目的性とストイシズム、言葉を変えれば伝統への誠実と、構築性に特徴づけられるとしたら、アルマーニの男性服における革命は、まず、それらにまったく頓着しなかったこと、そして男性服の解体に必要な素材と、それを製品として扱いこなす技術を先んじて確立したことにある。

さらに、80年代以降、いまもファッションブランドに名を残す巨匠というべきデザイナーたちが生み出すモードのなかにあって、過剰な色や装飾を好まず、働くものたちのための、身体の形と動きに軽やかに寄り沿う服のデザイナー、という自分の原点に忠実でありつづけたことが、現在にいたるまでのアルマーニというブランドの背骨だ。その控えめな色は身体の動きにあわせてグラデーションをみせ、ステッチを外側に見せないつくり、あるいはボタンすら時に隠してしまうシンプルな構造は、いまもコレクションにも受け継がれる、一人ひとりの裸の肉体の形を美しく、誇らしいものにみせる、アルマーニのスタイルだ。

GIORGIO ARMANI|ジョルジオ アルマーニ 04

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ABOUT
SUZUKI Fumihiko

東京都生まれ。一橋大学修士、パリ・ソルボンヌ大学フランス文学修士。翻訳家。ヨーロッパ文学、絵画、社会思想史などからダンディズムを多角的に読み解くべく研究中。