INTERVIEW|写真家・瀬尾浩司が語るストーリーを宿すクルマとカメラの魅力
DESIGN / FEATURES
2015年7月14日

INTERVIEW|写真家・瀬尾浩司が語るストーリーを宿すクルマとカメラの魅力

INTERVIEW|スーパーカーと「FUJIFILM X-T10」を操る喜び

写真家・瀬尾浩司が語る
ストーリーを宿すクルマとカメラの魅力(1)

写真という記録を残すカメラと、移動手段としてなくてはならないクルマ。どちらも実用性的な工業製品であるいっぽうで、趣味性や嗜好性が高く、デザインが所有欲をかき立てるという点で共通する。多方面で活躍する写真家であり、幼少期のスーパーカーブームがクルマを好きになるきっかけになったという写真家・瀬尾浩司さんが、“もつ喜び”を刺激するカメラとクルマに根底にある共通点と魅力を語る。

Photograph by SEO HiroshiText by SAKURAI Kenichi

作り手側の情熱のようなものが伝わる製品

往年のフィルムカメラの意匠を復刻させたデジタルカメラが登場し、とりわけレンズ交換式のデジタル一眼カメラを取り巻くひとつの大きな潮流になっている。とくにもち運びしやすいサイズ感をもつミラーレス一眼で、そうしたトレンドが顕著。ファッションに敏感な女性ユーザーからの支持も熱い。懐かしくもあたらしいと感じられるこれらのデザインモチーフは、主に1970年頃のフィルムカメラであることが多い。

スーパーカー × FUJIFILM X-T10

スーパーカー × FUJIFILM X-T10

いっぽう、いまや350km/hの最高速度が現実となったスポーツカーのデザインはどうか。空気の流れを科学した風洞実験室を使用するエアロダイナミクスの最適化や最先端素材をもちいた軽量化技術など、世界最高峰の自動車レース「フォーミュラ1」からのフィードバックという恩恵もあり、そのスタイリングはより洗練されてきた。しかし、こちらも1970年代に巻き起こるスーパーカーブームを牽引した、欧州のスーパーカーがもつ低い車高とワイドなボディが原点になっているといっても良い。

今回は、富士フイルムの「FUJIFILM X-T10」を使用して、数かずのアーティストのCDジャケットをはじめ、福山雅治、三浦春馬、AKB48などの写真集のほか、TAKEO KIKUCHIやユナイテッドアローズなど日本のファッションシーンをリードするブランドや雑誌、広告などで活躍する写真家・瀬尾浩司さんが往年のスーパーカーを撮影。その作品を交え、撮る楽しさともつ喜びを語ってもらった。

こだわりのデザインや操作性に共通する世界観

スーパーカー × FUJIFILM X-T10

「写真をはじめた頃に使っていた1970年代のフィルムカメラ、おなじ系譜のテイストをもつカメラ(X-T10)のデザインと、スポーツカーといわれてクルマ好きが連想しやすい1970年代のスーパーカーは、作り手側の情熱のようなものが使う側にもしっかり伝わるという点で、どこか共通している印象を受けます」

誰もが憧れるデザインとパフォーマンスをもったスーパーカーは、当時の各メーカーが威信をかけて最高峰の製品を作り出そうとした、そんな情熱に溢れている。1970年代、自動車の量産技術は確立していたが、ことスーパーカーに関しては、その性能とデザインのこだわりゆえに手作りの部分が想像以上に多い。丁寧に作られているのはもちろんのこと、いまのクルマ以上に各社の主張が反映された工業製品だ。

「機械としての機能だけではなく、カメラだったらおもわず手にとってファインダーを覗いてシャッターを切りたくなるデザインや作り込み。クルマであれば、見た瞬間に運転席に座って走らせたくなるデザインやこだわりの操作性。その世界観が似ていると感じます。今回は、“もしも自分がこのクルマに乗って出かけるのなら、どこに置いてどうやって使うのか”をテーマに(撮影)したいとおもいます」

スーパーカー × FUJIFILM X-T10

Page02.製品の背景にあるヒストリーも重要

INTERVIEW|スーパーカーとカメラを操る喜びを訊く

写真家・瀬尾浩司が語る
ストーリーを宿すクルマとカメラの魅力(2)

製品の背景にあるヒストリーも重要

瀬尾さんは、さっそく「トヨタ2000GT」に向かった。流線型のボディはほとんどが手作りで、それはリアルウッドを採用したインテリアも同様だ。

スーパーカー × FUJIFILM X-T10

1967年から1970年までで生産台数はわずかに337台。そのうち237台が日本国内で販売された。主な輸出先となった北米には、熱狂的なトヨタ2000GTのマニアも存在する。コークスクリューと呼ばれる難コースをもつラグナセカ サーキットを舞台に毎年おこなわれるモントレー ヒストリック オートモービル レースでは、トヨタ2000GTの誕生40周年イベントも開催されたほど、その人気は絶大である。

「クルマもカメラもそうなんですが、デザインや性能とおなじようにそのモノがもつヒストリーにも魅力を感じます。このカメラでいえば、フィルムカメラが主力だった時代に写真をはじめたので、そのフイルムメーカーが作ったカメラとは一体どういうモノなのだろうということにとても興味がありました」

長年、瀬尾さんが師事した師匠は富士フイルム製のフィルムを使用していたという。瀬尾さん自身もフィルムを使ってきたキャリアは長い。それぞれのフィルムがもつ独特な色合いや表現力などを、どう最新のデジタルカメラに活かしたのか、何を大事にしたのか、そして“なんでも出来る”というデジタルカメラがもつ汎用性とどう折り合いを付けたのかにも注目したという。

スーパーカー × FUJIFILM X-T10

スーパーカー × FUJIFILM X-T10

「クルマでいえば、誰でも簡単に乗りこなせるというのは実用製品として必要な要素ですが、こだわってもつモノとして考えれば、何かに特化したその製品ならではの、その製品にしかない主張や特徴はあっていいとおもうんです。趣味として使うのであればなおさらで、一層そうした作り手の色を出して欲しいし、(色を)出した製品に魅力を感じ、使ってみたくなります」

フィルムを知り尽くしたメーカーの矜持

スーパーカー × FUJIFILM X-T10

今回、瀬尾さんにデザイン面の魅力を語り、実際に撮影してもらった「FUJIFILM X-T10」は、昨年発売された「FUJIFILM X-T1」よりも小型のボディを採用し、軽量化を果たした。いっぽうで天面にシャッタースピードや露出補正、ドライブモードを変更できる3つのダイヤルを備え、手に馴染む形状のグリップも装備。使いやすい位置に配置したコマンドダイヤルは2つ、ファンクションボタンも直感的に使える場所に置かれている。“クラシックカメラ”を印象づけるダイヤル中心のわかりやすく見やすい操作性は「X-T1」とおなじだ。

画質面では、APS-Cサイズ、有効画素数1630万画素のセンサー「X-Trans CMOS II」と、画像処理エンジン「EXR プロセッサーII」の組み合わせがハイクオリティの画質をもたらす。

矜持と技術力を感じさせる独自のカラーモード「フィルムシミュレーション」を搭載し、落ち着いた表現と深みのある色再現をおこなう「クラシッククローム」をはじめとして、合計11種類のモードが選べる。

スーパーカー × FUJIFILM X-T10

フィルムを知り尽くした、表現力と再現力にこだわり抜いたデジタルカメラ「X-T10」には、80年にわたってフィルムを手がけてきた、富士フイルムならではの色づくりへの情熱とポリシーが投影されている。

Page03.ひと目で見てわかるメーターの存在

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写真家・瀬尾浩司が語る
ストーリーを宿すクルマとカメラの魅力(3)

ひと目で見てわかるメーターの存在

次の被写体は、1970年代を駆け抜けたイタリアンデザインの金字塔「ミウラ P400」(1968年式)と、日本におけるスーパーカーブームの火付け役ともいえる「カウンタック LP400(1974年式)」という2台のランボルギーニ。前者は曲線を多用した流麗なフォルム、もういっぽうは、いかにも風を切り裂いて高速の壁を越える走りを連想させるウェッジシェイプ。おなじV12エンジンを搭載したフラッグシップながら、この両者の間には1960年代と1970年代の開発年次による違いが、エクステリアだけでなくコクピットにもあらわれる。

スーパーカー × FUJIFILM X-T10

スーパーカー × FUJIFILM X-T10

「例えばスピードメーターやタコメーターの形状。見えていることの面白さというのもあって。そこにモノの楽しさも感じるんですね。ただ見えているのではなく、そこに至るまでの(時間の)“流れ”も面白い。例えば、スピードメーターがいま150km/hを指しているとして、どうやって、そしてどう動いてそこに至ったのか。その動いている感じが面白く、同時に気持ち良かったりするんです」

二つのランボルギーニを撮りながら、そう語る瀬尾さん。カメラのほうに話を向けると「X-T10」のダイヤルの話になった。

「ダイヤル操作もおなじで、クリック感はもちろん気持ち良いんですが、ダイヤルを回して任意の値にセットするときの動きや過程も楽しいですね。自分でシャッタースピードを変えて撮ると、(写真が)ブレるとかクルマの走りだったらスピード感が増すとか。自分のダイヤル操作や調整で写真が変わるのはリアルだし、操作している実感が伴い、楽しみが広がります」

スーパーカー × FUJIFILM X-T10

スーパーカー × FUJIFILM X-T10

2台のランボルギーニがもつ300km/hを超えるスケールを刻んだスピードメーターや硬派なステアリング、シフトノブ、そしてそこに切られたシフトゲージは、ドライバーに適切な操作を要求すると同時に、ひと目で車両の走行状況を伝える大きな役割も果たす。ドライバーの操作は、クルマとの一種のコミュニケーション。運転者の動きが車両の動きとなってダイレクトに伝わるそのフィールは、走り込むに従って、“人馬一体”ともいうべき特別な感覚をもたらす。

スーパーカー × FUJIFILM X-T10

「いまの時代は、表示をデジタルで数値を示すのが当たり前ですが、(今回撮影したカメラのダイヤルやクルマのメーター類のように)目で見えるという安心感は格別ですね。電源を入れていなくても、手元(にあるカメラ)を見れば、すぐに設定がわかって、撮りたくなったら迷わずシャッターが切れる。これも見えているからこその面白さであり、メリットだとおもいます。デジタルカメラでは、電源を入れた後にファインダーやモニターで設定を確認しなければならないことも多いですから」

機械のもつ存在感が手にもつ楽しさに繋がる

最後に被写体となったのは「BMW M1」(1979年式)である。エンジンは最高出力277psを誇るBMW製の3.5L直列6気筒だ。すでにBMWの高性能モデルに搭載されているパワーユニットではあったが、あらたにドライサンプ方式を採用し、M1への搭載では重心を下げたことでミッドシップスポーツカーらしい、BMWならではのドライブフィールが味わえた。

スーパーカー × FUJIFILM X-T10

スーパーカー × FUJIFILM X-T10

スーパーカー × FUJIFILM X-T10

「いまはエコの時代なので、大きな声でパワーのあるエンジンが好きだとかは言いづらいとおもいますが、やはりエンジンのもつ存在感は格別だとおもいます。(スピードのもつ)楽しさがそこにあるという感じがしますし、そうした(エンジンのもつ)主張は好きですね」

スーパーカー × FUJIFILM X-T10

スーパーカー × FUJIFILM X-T10

ボディデザインは、自動車デザイン界の巨匠、ジョルジェット・ジウジアーロ率いるイタルデザインが担当。シャシーは、レーシングカーのシャシーを製造していた元ランボルギーニの開発者、ジャンパオロ・ダラーラの手によるものだった。M1は、ドイツの自動車開発の技術力やドイツ製品の信頼性と、イタリアのスーパーカーへのセンスや情熱が融合した、いわばドイツとイタリアの合作である。1970年代のスーパーカーでありながら、コクピットに目をやれば、操作性に優れたシンプルで実用的、機能的なデザインが与えられているのに気づくのはそのためである。

スーパーカー × FUJIFILM X-T10

スーパーカー × FUJIFILM X-T10

「X-T10」は、最新のメカニズムを内包しながらも、バルナック・ライカにも通じる硬派なデザインも魅力だ。それにくわえ、金属質感や手に馴染むバランスのよいサイズ、アルミ削り出し工法による上質な手触りと操作感を味わわせてくれるダイヤルなどは、いかにも日本メーカーの製品らしいこだわりが見られる。こちらはトータルバランスの優れたドイツデザインに畏敬を示しつつ、日本メーカーならでのディテールの作り込みが高い品質をもたらしている。

Page04.日本メーカーならではのクオリティとこだわり

INTERVIEW|スーパーカーとカメラを操る喜びを訊く

写真家・瀬尾浩司が語る
ストーリーを宿すクルマとカメラの魅力(4)

日本メーカーならではのクオリティとこだわり

「外観はクラシカルですが、中身は最新。日本のメーカーが手塩にかけてつくったという(機械としての)信頼性も同時に感じることが出来ます。ファームアップをしっかりやって、常に最新の機能が楽しめるという点もデジタルカメラのメリットだとおもうんですが、それにはメーカーの姿勢や努力も必要です。その点で『X-T10』には、日本の企業の信頼性と安定感、そして細部にまで至るこだわりが感じられます」

スーパーカー × FUJIFILM X-T10

1970年代のプロダクトにインスパイアされたデザインをもつ「X-T10」と、1970年代を駆け抜けたスーパーカー。この両者を瀬尾さんはファインダーに収めた。

「このクルマに乗ったとき、クルマのどこに『X-T10』を置けば気持ちのいい空間になるのか。あるいは楽しくなるのか、それを考えて作品にしました。実際にクルマのなかにを置いてみると、馴染み感ともいうべき親和性や、どこか懐かしいデザインであることに改めて気づきました。デザインはクラシカルなのに中身は最新スペック。そして使い込めばそれに応えてくれるフィルムカメラのような性能や操作感。そこがこのカメラの魅力ではないでしょうか。クルマ好きのひとりとして、ときおり無性に旧いクルマに乗りたくなるんですが、メンテナンスや信頼性を考えるとやはり二の足を踏みます。“すぐ壊れるよ”なんて脅されますし(笑)。(カメラのように)外観が昔の感じで中身が最新(というクルマ)だったらいいのに。でもクルマではなかなか実現できないですよね」

スーパーカー × FUJIFILM X-T10

スーパーカー × FUJIFILM X-T10

幼少期のスーパーカーブームをリアルタイムで過ごした瀬尾さん。1970年代のスーパーカーを前に、「X-T10」をもちながらスーパーカーのイベント会場で記念撮影をした話や、テレビに登場したクルマの話を笑顔でしていた姿がとても印象的だった。それはまるでプロの写真家である前に、ひとりの少年にもどったような楽しい時間であったに違いない。

瀬尾浩司|SEO Hiroshi
広島県出身。2000年よりフリーランスの写真家として活動。数かずのアーティストのCDジャケット、福山雅治、つるの剛士、佐藤健、三浦春馬、AKB48などの写真集のほか、TAKEO KIKUCHIやユナイテッドアローズ、BEAMSなどのファッション、雑誌、広告、さらには電波媒体でも活躍。さまざまな分野で作品を発表しつづけている
http://www.seohiroshi.com/

           
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