祐真朋樹対談 | Vol. 7 スタイリスト・野口強さん
FASHION / MEN
2015年6月30日

祐真朋樹対談 | Vol. 7 スタイリスト・野口強さん

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まだ梅雨のまっただ中。猛暑の夏もこれから、という季節ではありますが、すでに春夏ものには興味がなく、早くも関心は秋冬ものへ。まだまだ遠くに控える肌寒い季節に向けて、1月に開催されたパリのメンズコレクションをスタイリストの野口強さんと振り返りました。

Interview by SUKEZANE TomokiStill Photographs by NISIZAWA Takashi(flat)

ふたりがこの秋、注目しているものは……

祐真朋樹(以下、祐真) さて、もうすぐ店頭に秋物がちらほら並ぶ季節となりましたので、いっしょに1月のパリのメンズコレクションを振り返っていただきたいと思います。宜しくお願いします!

野口 強さん(以下、野口) はい、わかりました。

祐真 もうだいぶ時間が経ったんで、かなり忘れてますよね。でも今年の秋冬の “気分” を聞いておきたいと思います。

野口 え? 気分って?

祐真 ランウェイの記憶は薄れつつあると思うけど、思い出して「やっぱりあれ着たい」と思うものってある?

野口 今回はテーラードが多くなかった?

祐真 そうやな。「トム・ブラウン」とか??

野口 うん。「ディオール」しかり、「ジバンシィ」しかり……。あとは……

祐真 「エルメス」とか「サンローラン」とか?

野口 そうね。サンローランは多かったよね。あと「ジュンヤ ワタナベ マン」もね。

祐真 ああ、たしかにジュンヤワタナベマンもスーティングが多かったね。テーラードジャケット、今度の秋冬は自分でも着ようと思ってますか?

野口 着ようかな、という気分にはなった。

祐真 どのブランドのを見て?

野口 サンローランはちょっとタイトかな。どんなもんかトライはしてみたいけど。でもまあ、ガリガリくん仕様だわな。

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祐真 サンローランのネイビージャケットはどう? 口紅のバッジ付けて、マリンボーダーのタートルを合わせるんだよね。

野口 パンツは股上が深いのよね。インナーはすべてパンツ・インだったね。

祐真 うん。それにヒールのブーツね。これ、ヒールは何センチあるんだろう。

野口 8センチくらいあるんじゃないの?

祐真 いや、もっとありそう。12センチくらいあるんじゃないの??(実際には8.5センチでした)

野口 すごいよね。

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祐真 むかし、ディオールのハイヒール、買ったよね。僕は全然ちゃんと歩けなかった。あんな高いヒール、膝曲げてじゃないと歩けない。

野口 でもこういうの買うひとはいっぱいいると思うね。

祐真 ロングコートに合わせて、だったらいいかもね。あと、ホントにボーダーは多かったね。

野口 うん。テールコートくらいの長さのピーコート? あれにもボーダーを合わせてたよね。プレもボーダーは多かった。

祐真 サンローランか。でも前回とあんまり変わってない印象もあるな。あ、でも今回は真っ黒か。

野口 うん。あと、ジャケットが圧倒的に多かったんじゃないの?

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祐真 そうだね。前回のアメリカンフィーリングはどこにいったんだろうね。

野口 そういう気分じゃなくなったんじゃないの?

祐真 今回はパリっぽかったよね。あと、ボウカラー、どう思う?

野口 サンローランのボウカラーと言えば、ウィメンズを思い出しますけどね。

祐真 グッチもメンズでボウカラーを打ち出してるじゃん?

野口 ああ、そうだね。

祐真 ああいう、ちょっとフェミニンなのはどうですか?

野口 (笑)いや、撮影にはいいかな、と思います。ウチはもうオジサンなんでさすがにちょっとね~。

祐真 でもサンローランはボウカラー、1回だけくぐらせてダラっとさせてたけど、グッチはちゃんと結んでたよね。

野口 サンローランはウィメンズのときも結んではいなかった。

祐真 かっちり結ぶグッチはどうなんだろうね。

野口 かなり難易度が高い。

祐真 難しいけど、写真にするのはおもしろいよね。このサンローランのピンクのコートはどう?

祐真朋樹対談 | Vol. 7 スタイリスト・野口強さん

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野口 これ……撮影にはおもしろいかと思うんだけどね。

祐真 ヘアスタイルは?

野口 かわいい。

祐真 このヘアスタイル、かわいいよね。ポインテッドトウのヒールブーツで。

野口 前回のヘアスタイルは上げてたけど、今回はみんな下ろしてたね。サンローランは、前と比べて大きく変わってはいないんだけど、ちょっとずつマイナーチェンジしてるよね。例えばパンツは股上が深くなって、さらに細くなってる。こういうレースも、ずっとやってるじゃん?

祐真 そうだね~、前からやってるね。メキシカンみたいな靴はなくなったってこと?

野口 ああ、あれ、東京でもみんな結構履いてたよね。よく見かけました。

祐真 あれだけはどうしても踏み込めへんかったわ。

野口 でもヒールの高さ3センチのエディモデルっていうのも出してたでしょ? あれなら履けそう。

祐真 そうだね。そう言えば、ベレー帽ってのも目立ってたね。グッチでも出てきてたし。あと、バッジはどうですか? 

祐真朋樹対談 | Vol. 7 スタイリスト・野口強さん

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野口 これ、全種類入ってくるのかな。

祐真 ちなみに、このサンローランのジャケットはバッジなしでも買えるそうです。で、エディのショーと言えば、フロントローの前の床に座ってしまう “エディ・キッズ” が話題となっていますが。あれって全員ミュージシャンなの??

野口 いや、ミュージシャンもいれば、パリの普通の子もいるみたい。かわいいよね。

祐真 あいつら、格好いいよね。エディが選んでるの? ゼロライン、って言ってるよね。

野口 うん。思わずあっちを見ちゃうよね。

祐真 あれ、ウィメンズのときもいるの?

野口 いるいる。

祐真 あれはおもしろいよな。

野口 あれはエディんとこだけだね。ほかでは見ない。

祐真 これからみんな真似するかな? ……いや、あれは真似できないな。

野口 ショーのあと、せま~いクラブみたいなところでパーティするらしいんだけど、そこに来るのもああいう子たちみたいなのばっかりなんでしょ?

祐真 へ~、行ったの?

野口 行ってない。

祐真 21歳以下限定、とか言い切ってるらしいもんね。俺らは「来るな」って感じだよね(笑)。

Page. 2 ジョナサン・アンダーソンの “あたらしいユニセックス”

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ジョナサン・アンダーソンの “あたらしいユニセックス”

祐真 じゃあ、次に「ロエベ」はどうですか? ランウェイはやってないけど、僕は注目してます。

野口 いいと思います。でも簡単ではないよね。

祐真 実際に着るのはね。表参道のショップがオープンしたとき、ジョナサン・アンダーソンが来日したじゃない? レセプションがあったけど、すっごい混んでたから俺はすぐに出てきちゃったのね。で、あとでインスタグラムをチェックしたら、全身「J.W.アンダーソン」を着た子たちが、ジョナサンと並んで撮った写真をアップしてた。そういうのを見ると、ちょっとシンドイ(苦笑)。

野口 なるほどね。

 LOEWE|ロエベ 2015-16秋冬 メンズコレクションより

祐真 広告の写真を見てると「ああ、おもしろいな」と思うんだけど、実際に着るとね~。

野口 だってあのパンツなんてさぁ、よっぽどバランスよくないとはけないでしょ。

祐真 ジャージパンツだからね。広告を見て飛びつくと痛い目に遭うよね。

野口 でもサングラス、かわいくない?

祐真 かわいい! まだサンプルが入ってないんで写真しかないんだけど、いいよね。鞄はどう?

野口 鞄ですか? 最初のやつがかわいいと思った。

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祐真 あと、このケープ、どうですか?

野口 ケープ男子は日本でも増えてるよね。

祐真 たしかに。うちのアシスタントも着てますね。でも素材が軽いとペラペラしてパーマンみたいやな(笑)。

野口 ははは。のしイカ的な感じになるからね(笑)。

祐真 でもさ、ジョナサン・アンダーソンがやっているこういう仕事ぶりってのは、いいよね。

野口 うん。いまっぽいよね。

祐真 何がいまっぽいんだろ。ユニセックス??

野口 そうかもね。

祐真 エディがやってることとはまたちがうよね。何がちがうんだろ。

野口 全体的なフォルムが全然ちがう。エディとは正反対。対照的だよね。おなじノースリーブでも、ロエベはもっとフェミニン。ユニセックスというよりフェミニンなんだよね。

祐真 そうだね。色もフェミニンだよね。サングラスもユニセックスな感じだけど、いいよね。

野口 好きそう。

祐真 好き好き。いくらするんだろう。

野口 買うよね、君。各色買うでしょ。白と黒は絶対買うでしょ。

祐真 ちょっと四角すぎる気もするけどね。でも欲しい。強さんも黒、どうですか?

野口 展示会でかけてみたけど、大爆笑やったわ(笑)

祐真 あはは(笑)。そう言えばこの前、ジョナサンが来たときにちょっとだけインタビューしたのね。で、彼はロエベの革ジャン着てたわけ。そりゃ着てるよね(笑)。それはいいんだけど、中はTシャツとジーパンだったのよ。靴はナイキだった。で、どこのジーパンはいてんのかな、と気になって、「それ、どこの?」って訊いたら「ユニクロ」って言ってた。

野口 (笑)マジで??  ホンマに??

祐真 うん。ちょっとヴィンテージっぽいな~と思って、リーバイスかな、リーかな、くらいに思って訊いたらまさかのユニクロだった。よろこんで着てたから「好き?」って訊いたら「好き!」って言ってた。

野口 へ~。

祐真 Tシャツもよく買う、って言ってた。

野口 ほ~。

祐真 なんか、一瞬ショック。でも29歳やからな~、そういう価値観なんだろな。

野口 何がいいんだろ。

祐真 「ロンドンのユニクロでTシャツとジーパンは買うよ」って言ってた。

野口 消耗品ってこと?

祐真 そうみたい。

野口 ロエベに戻るけど、雑貨もいいよね。

祐真 そうそう。雑貨もおもしろいから、ショップ全体の印象にもいい効果が出てる。アナグラムは、「M/M PARIS」がやってるんだよね。

野口 アナグラム、いいよね。

祐真 M/M PARISはディオールの仕事もずいぶん前からしてるけど、ディオールではあんまり話題になんなかったね。

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野口 ロエベのアナグラムは秀逸。カッコいい。

祐真 あたらしいよね。

野口 ブランケットとかも欲しい。

祐真 ああ、お家が大きいと欲しくなるよね(笑)。

野口 (笑)無駄に欲しいわ。

祐真 たしかにあのブランケットはいいよ。起毛してあって。ぜひロエベにはランウェイやって欲しい。

野口 絶対おもしろそうだよね。

Page. 3 ケープ、ムートン、アメリカンなチェック、そして男のスカート!?

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ケープ、ムートン、アメリカンなチェック、そして男のスカート!?

祐真 「トム・ブラウン」はどうでした?

野口 好きでした。

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祐真 真っ黒だったね。あれは一応、「お葬式」がテーマだったんでしょ?

野口 そうそう。

祐真 タートルの帽子があんの、知ってる? カネゴンみたいな帽子。

野口 (笑)ありましたね。

祐真 スカートみたいなのもあったでしょ? キルトなのかな? こういうのはどうですか?

野口 (笑)こういうのはちょっと……。

祐真 でもこういう、スカートみたいなのをはいてる男子って、コレクション会場にはよくいるよね?

野口 うん、いるよね。でもスカート1枚ではくというよりは、下にパンツはいてレイヤードで着てるひとが多いんじゃない?

祐真 ああ、いきなり素足じゃなくって、だよね。

野口 いきなり素足にスカートはハードル高いわ。スカートっぽいものでも、「ジバンシィ」だとまたちょっとイメージがちがうよね。

祐真 ああ、もっと男っぽいよね。

野口 ジバンシィはスカートっていうか、何かニットを巻いてる感じ。ジバンシィのほうがストロングスタイルだよね。

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祐真 これは?

野口 ちょっとアフリカンな感じね。

祐真 これ、いいじゃん。

野口 で、このニットを巻くわけだよ。

祐真 ロング腹巻きだね(笑)。僕、この前ぎっくり腰になったから必要かも。

野口 え? ぎっくり腰になったの? ついに!?

祐真 そう。ついに。予期せぬ重さの荷物を持ち上げたときにグキっときた(笑)。最初は「これはぎっくり腰じゃない」と自分に暗示をかけてその場で屈伸運動なんかしてみたんだけど、それがまたよくなかったみたいで(笑)悪化。

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野口 ははは。逆効果。そんな、屈伸なんていいわけないやん。ウチも2回やりました。

祐真 冷えるのがまずいみたいね。最近はなんとなく「あれ? くるかも」というのがわかるようになった。

野口 わかんのよね(笑)。あれは完全に冷えが原因だっていうからね。とくに夏場、エアコンがぎんぎんにかかってる場所とかがやばいよ。

祐真 ジバンシィの服見たらぎっくり腰の話が出てきてん(笑)。まずいまずい。このヘアメークは誰がやってるんだろ。アーティーなショーだね~。僕は見てないんですけどね。

野口 おもしろかったよ。前半はテーラードで、途中プリントが入ってきて、最後はアフリカン系。

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祐真 ヘアスタイルがすごい。

野口 「GIVENCHY PARIS」って書いてあるスウェットも出てきて、これはいまの若い子たちは好きだろうな、と思った。ダメージTとかもあったよ。

祐真 なるほどね。ああいう、ダメージのスウェットっていうのも、いまはありそうでないよね。

野口 むかしは散弾銃で撃ったみたいなのとかもよくあったけどね。

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祐真 じゃ、「ヴァレンティノ」にいきますか。

野口 ケープがかわいかった。

祐真 たしかに。

野口 ウィメンズではよく見るけど、メンズだと少ないよね。フードも付いてるケープ。

祐真 いいよね。

野口 若者にぜひ着て欲しいけど、高いからね~。

祐真 ケープ、着てます?

野口 着てないよ(笑)。俺が着てたら怪しいでしょ。

祐真朋樹対談 | Vol. 7 スタイリスト・野口強さん

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祐真 ムートンも可愛かった。めっちゃ軽いんだよね。ジーパンが4ステッチ。

野口 この色がまた新鮮だよね。

祐真 そうそう。ロエベも出してたね。薄いブルー。新鮮。で、ヴァレンティノのランウェイではモデルがクラッチバッグ持ってたりしましたね。クラッチ、あちこちで出してるけど、周りに上手に使ってるひとっていますか?

野口 いないね(笑)。でも需要がある、ってことだよね。まあ、実際に買って使ってるひとはランウェイのモデルみたいな感じとはまたちがう感じで使ってると思うけど。

祐真 うん。でも僕もときどき欲しいな、って思うんだよね。財布と携帯だけ入るような、収まりのいいサイズのクラッチはないのかね。

野口 なんだかクラッチごとどっかに忘れてくる気がする(笑)。

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祐真 まあな~。で、グローブが短いんだよね。そして色の組合せがいい。バッグもね。たくさん色を使ってるわりにはごちゃごちゃなイメージにならないんだよね。そこが上手い。ほかの鞄はどう?

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野口 リュックとかトートもあったね。

祐真 うん。あの鞄、どれもすごく高いの。

野口 鞄って、自分にとってベストな容量のものじゃないと使えない。デザインとかだけじゃ選べないものだよね。

祐真 こういうのは? 前にぶら下げるやつ。あれは何を入れるんだろうね。

野口 マチもないしね。

祐真 パスポート? 携帯はマチなしじゃ入らないし、名刺入れにしたら大きすぎて間抜けだよね。

野口 何にも入れないんじゃないの? アクセサリーとして使うのかも。

祐真 ヴァレンティノ、いいですね~。

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野口 いいよね~。チェックのスーツも可愛かった。

祐真 あれ、いいね。あれはチェックの感じがアメリカンな感じ。赤黒でね。

野口 あのチェックはちょっと最近なかった。

祐真 靴は素足に履いてるのかな?

野口 素足だね。

祐真 でも、冬に素足で靴は履けないよね。僕はいっつもソックスで悩むんだけど、強さんはソックス、何履いてる?

野口 ソックス? スポーツソックス的なものは「リック・オウエンス」。

祐真 リック・オウエンスのソックスってどんなん?

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野口 かなり履きやすい。冬場はカシミア入りのもあって、めっちゃ暖かい。

祐真 へ~。

野口 普段のソックスは、「ユナイテッド・アローズ」のオリジナルだったりかな。

祐真 なるほどね。ソックスには常に悩んでんのよね。例えば僕は、ほとんどいつも何かをドレスダウンして着てるじゃない? となると、靴下はドレスな感じにするのか、カジュアルな感じにするのか、迷う。

野口 ん~、たしかにね。で、今日は?

祐真 今日の靴はハイカットだから。そう言えばこの前、はじめて表参道ヒルズの「Tabio」に行ったら、ものすごいいろんなのがあってビックリした。

野口 え? はじめて行ったの? そりゃあるよ、あそこはいろいろ。

祐真 ええな、ここ、って思った(笑)。

野口 知ってるよ、みんな(笑)。

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祐真 じゃ、「トム フォード」いきますか。

野口 トム フォードね~。いいけどな~。高い。

祐真 高いよね~。じつにいいけど。

野口 なんか、若返ったよね。

祐真 今季はモッズみたい。だからパンツも細いしね。サイドゴアブーツもね、トゥがちょっと丸いのよね。

野口 ええよね。

祐真 ロンドンコレクションのときは、トム本人が説明してくれるんだよね。あれがさ~、やっぱりいいよね。

野口 むかしのオートクチュールみたいだよね。

祐真 でまた、トムは上手だよね。人前で話すのが。

野口 そうそう、上手。さすが役者を目指しただけのことはある。

祐真 ね~。

野口 この前、マット・ディロンの撮影したのよ。サイズ表みたらスーツのサイズが50って書いてあったんだけど、50は着れないんじゃないの?って思ったんだよね。で、トム フォードで52と54のスーツを借りたわけ。そしたらスーツは54でなんとかOK。でもシャツはネックサイズがないのよ(笑)。胸板がものすごい厚いから、ボタンが留まらへん。いや~、もうどうする?ってことで黒のタートル(笑)。それしか入らへん。顔はむかしのまんまなんだけど、身体がね~。

祐真 マット・ディロン、なつかしいわ~。20年くらい前に僕も撮影しましたよ。

野口 むかし、「コム デ ギャルソン」のショーにも出たじゃない? 今回、コム デ ギャルソンからそのときの写真を貰って渡したら、めっちゃ上がってた(笑)。

祐真 (笑)僕が仕事したのはそのショーの2年後くらいのころだったんだけど、コム デ ギャルソンしか着ない、って言うのよ。でもさ、2年前のコム デ ギャルソンとそのときのコム デ ギャルソンじゃ全然ちがうじゃない? なのに本人がイメージするのは2年前のコム デ ギャルソンなんだよね。

野口 ははは。

祐真 そのシーズンのコム デ ギャルソンを持って行ったら、「あれ、こんなんだったっけかな?」みたいな感じになっちゃって。ルーズなビッグシルエットを打ち出していたシーズンだったんだけど、太ってるからビッグシルエットにならへんかった(笑)。

野口 あはは。いまはクラシックなスーツしか着たくないらしいです。表に出るときはね。

祐真 そうだろね。なつかしいな。黒いタートル、彼は似合うよね。トム フォードのジーンズは、この前のシーズンからメイド・イン・USAになったんだよね。

祐真朋樹対談 | Vol. 7 スタイリスト・野口強さん

野口 日本でも作りたかったみたいだけど、なんかいろいろあって作れなかったと聞いた。

祐真 へ~。ボマーはどう?

野口 あの……自分、ボマーはあんまり好きじゃないのよね(笑)。

祐真 でも着てたじゃん!(笑)。

野口 あ~、ディオールのボマー、着てたね。でも最近は着てません。

祐真 『トップガン』みたくなるのは嫌だよね。トム フォードはちゃんとネクタイして着せてるところがいいよね。スタイリングがどれもおもしろかった。

Page. 4 すべてにおいて完成度が高く、見て楽しめた「ジュンヤ ワタナベ マン」のショー

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すべてにおいて完成度が高く、見て楽しめた「ジュンヤ ワタナベ マン」のショー

祐真 じゃ、パリに戻ろうか。「コム デ ギャルソン・ジュンヤ ワタナベ マン」、良かったよね。

野口 良かった。モデルもインパクトがあって抜群だった。ほぼ全部と言っていいほど、タキシードだったね。

祐真 モデルは、全員フランスに住んでるひとたちなんだって。ジャズミュージシャンだったりとかなのかな。個性的なポージングのおじさんがいたね。

野口 いたいたいた。ジャケットもかなりバリエーションが多かったよね。着丈が短めで。モデルも、指を鳴らすオジサンとか……こいつがカッコ良かった。靴はトリッカーズ。

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祐真 うん、カッコ良かった。これ、帽子も売ってるのかな?

野口 どうだろ。プレスルームにサンプルはなかった。

祐真 赤い絨毯はどう? あと、ラストで流れるフランキー・ヴァリの「君の瞳に恋してる」! あれがまた良かったよね。

野口 キャスティングも、洋服も、音楽も舞台装置も、すべてがはまってたね。

祐真 「君の瞳に恋してる」は、ちょうど行きの飛行機で映画『ジャージー・ボーイズ』を観てたからとくに感動的だった。

野口 なるほどね。

祐真 淳弥さんもあの映画、観たんじゃないかな~。

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野口 今回のジュンヤ ワタナベ マンはかなり好きだった。いい意味でクセもあったし。

祐真 おもしろかったよね。

野口 ディオールもタキシード系だったけど、こっちのほうが着やすそう。ディオールはさっぱりし過ぎというか。こっちのほうがクセがあって着やすいと思う。

祐真 モデルがみんなおもしろかったよね。それぞれ歩き方にクセがあって。いっつも後ろで手を組んで歩いているひととかさ~。指オジサンももちろんいいし。

野口 キャラ濃いわ~。

祐真朋樹対談 | Vol. 7 スタイリスト・野口強さん

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祐真 いろんな人種のひとがいるんだろうけど、歩いてるときのリズム感がなんていうか、黒人のリズム感なんだよね。

野口 うん、普通に歩かない。リズム感いいよね。

祐真 格好いい。なんなんだろう。あんなにクセのあることしてるのに、不自然にならないんだよね。

野口 キャラ立ちしてるからね。テレもないし。

祐真 みんな、自分の役割がわかってるんだよね。ボスみたいなキャラも出てくるしね、3回くらい。シルバーのブレスとか腕時計は私物なのかな。

野口 うん。アクセサリーは私物だって言ってた。

祐真 ネクタイもおもしろかった。パンツ丈の短さはどう?

野口 いいと思います。

Page. 5 さて、この秋、僕たちが実際に買いたい服はどれでしょう!?

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さて、この秋、僕たちが実際に買いたい服はどれでしょう!?

祐真 じゃ、最後に、この秋冬、実際に買いたいと思ってる服って何ですか?

野口 何かな~。「ジバンシィ」のスーツが1着、欲しいかな。

祐真 その切りっぱなしの感じがいいのね? この秋はジャケットに気持ちがいってるんだ。じゃあ、ブルゾンおじさんは休憩?

野口 まあ、すぐにブルゾンおじさんに戻ると思うけど(笑)。

祐真 この「トム フォード」のもいいんじゃないの?

野口 トム フォード、いいね~。スーツもいいけどジャケットもいい。このジャケットの中にボーダーを合わせたらいいんじゃないかな。

祐真 アンディ・ウォーホル風にね。僕はこのムートン、欲しいですけどね。ところでこの「サンローラン」の中途半端なネック丈ってのはどうなんだろうか?

祐真朋樹対談 | Vol. 7 スタイリスト・野口強さん

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野口 ネックは3タイプあったよね。ボートネックと中途半端丈、それとロールネックみたいなのが。

祐真 なんかヤンキーを思い出すのよな~、この丈は。

野口 赤とか(笑)? しかし今回、パンツがますます細くなったじゃない? あれ、下手したら入らないひともいっぱいいるんじゃないの?

祐真 いるいる。だってモデルだって入んないひといるもん。

野口 そういう体型の人は「着るな」ってことだね。

祐真 厳しいね。でもこのルックはすごいいいよね。大好き。ネイビーは今回、エディのサンローランになってはじめて出したらしいよ。かっこいい。

野口 すごいディープなネイビー。

祐真 着る着ないは別として、あと何か印象に残ったもの、あります?

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野口 「ヴァレンティノ」のケープかな。

祐真 ああ、たしかにあれは美しいね。

野口 あと、バージョンちがいでムートンが貼ってあるケープがあったでしょ? あれも好き。でも最初のほうがいいかな。

祐真 最初のほうが軽いものね。でまた、全部ネクタイしてる、ってのもいいよね。

野口 そう。タイドアップ。

祐真 あとさ、カーリーヘアみたいなのもやたら出てこなかった?

野口 多かったね。

祐真 どう? パーマ。

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野口 (笑)めっちゃやばい。おばさんになるでしょ。

祐真 でもアフロのズラとか絶対似合うでしょ?

野口 (笑)アフロはね。でもやばいよ。

祐真 アフロ、やったことないの? 若いころとか。

野口 あんまり大きいのはやったことないけど、1回、洒落でやってみたことはあったよ

祐真 だよね。背高いからさあ、結構いいと思うけどね、アフロ。あと、ヴァレンティノのビッグなクルーネックのニットってのはどう? ずっとやってるアイテムだけど。

野口 ヴァレンティノにかぎらず、日本のブランドもいっぱい出してるよね、ゆったりニット。

祐真 強さんはニットって着ないでしょ?

野口 着ないですね。ゴルフのときくらいかな。

祐真 このニットも、一枚で着ないほうがいいよね。下にシャツ着ると、しまる。

野口 自分はこの秋、何買うの?

祐真 ムートン。トム フォードのかヴァレンティノのか、チャレンジしてみたいとは思ってます。あとは、トム フォードの千鳥のコートが好き。ところで、ベルト、何かいいのなかった?

野口 トム フォードのが俺は好きだった。

祐真 ああ、あれいいよね。なんか最近さあ、ドメスティックのブランドなんかでも、ベルトなしではけるパンツというのがいっぱい出てるじゃない? 紐パンとかさ。

野口 うん。でも俺はベルトしたいかな。

祐真 でしょ!! 俺もそうなんだよ。ベルト派。雑誌で、ベルトしないパンツの特集を組んでたのを見たけど、ああいうのってどうなんだろ。

野口 ループのあるパンツでもベルトしないってこと?

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祐真 そう。

野口 嫌いやな。……にしても、ゲイのデザイナーが作るパンツって美しいよね。

祐真 たしかに。ドメスティックブランドのパンツは、妙なところにシワがいったりするけど、ゲイのデザイナーたちはそういうのは許せないんだと思う。

野口 ノンケには美しいシルエットは無理なのかな。

祐真 そうかもしれない。ゲイはやり過ぎることも多いけどね(笑)。意味不明になることもある、と。あとさ、僕も強さんも長年ショーを見ていますけど、最近はショー自体ではなく、ショーをとりまく状況が変わりましたね。ショーに来たひとを撮るカメラマンとか、ブロガーとかがものすごい数になっているでしょ。よく「撮らせて」って来るけど、どうしてます?

野口 一応、撮らせてますけど。でもその画像が、日本にいるひとからリアルタイムで送られてきたりします(笑)。

祐真 そういうこともあるよね。で、それは仕事に何か影響あります?

野口 全然ない(笑)。

祐真 でもあの世界って、いまじゃ立派に確立されてるよね?

野口 ビジネスになってるね?

祐真 横の繋がりもすごく強いみたいだし。ああいうひとたちは、ショー自体には興味ないんだよね。そういえば、ちょっと前に仕事でシトウレイさんと会ったんだけど、東京は撮影ネタがないからつまらないと言っておられました。

野口 そうだろうね。

祐真 これからあの動きはどうなるんだろう。

野口 さらにエスカレートするんじゃない? 写真集になったりしてるんでしょ? 30年後、40年後に見たらおもしろいと思う。年代別に記録してってね。

祐真 資料になるよねぇ。

野口 やりつづけてもらわないと意味がないけど。

祐真 なんでこんなことになったんだろね。10年前に『情熱大陸』に出たときは、ああいうひとはおらへんかった。

(注:ドキュメンタリー番組『情熱大陸』では、半年に渡って祐真氏を追跡取材。パリやミラノのコレクション会場とその周辺のようすも収録されているが、当時は来場者を撮影する人びとというのは、ごくごくわずかだった。もちろん、ブロガーがファーストローに座るなどということは皆無であった)

野口 ここ5年くらいでしょ?

祐真 こんなことになるとは夢にも思わなかったよね。……と、そうこうしているうちにまたメンズコレクションの季節になりましたね。また次のシーズン、宜しくお願いしま~す。

           
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