もはやニッポンのピエモンテ? 北の大地の美食界を牽引する期待値MAXのイタリア料理|TRAVEL
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2022年8月8日

もはやニッポンのピエモンテ? 北の大地の美食界を牽引する期待値MAXのイタリア料理|TRAVEL

TRAVEL|星野リゾート リゾナーレトマム

「知る」は、おいしい!リターンズ 星野リゾート リゾナーレトマム編

「トマムにイタリアン食べに行ってくる」なんて言ったら、多くの人は、「はあ?」という顔をするかもしれません。でもね、あるんです。トマムにはわざわざ飛行機に乗っても季節ごとに訪れたいレストランが! その名は、「OTTO SETTE TOMAMU」(オットセッテ トマム)。北海道最大級の滞在型リゾート「星野リゾート トマム/星野リゾート リゾナーレトマム」のメインダイニングです。

Photographs by OHTAKI Kaku|Text by HASEGAWA Aya|Edit by TSUCHIDA Takashi

ノンアルコールペアリングの趣向を凝らしたもてなしに、酒好きたちがまさかのKO!?

星野リゾート トマム/星野リゾート リゾナーレトマム
 
私たちがそのレストランを初めて訪れたのは2019年秋。同年7月にオープンして、まだ、それほど時間が経っていない頃でした。で、武田 学シェフが作り出す、ここでしか食べることの叶わない料理に、すっかり虜となったわけです。トマムに向かう道中、ひと皿ごとに「なんじゃこりゃー」と、驚きと喜びの雄叫びを挙げていた3年前の秋の日を、にまにましながら、思い出していました。今回は満を持しての再訪です。2022年夏、武田さんの料理はますます進化していましたよ!
星野リゾート リゾナーレトマムのサウス棟31階に位置する「OTTO SETTE TOMAMU」は、北海道の旬の食材で仕上げるイタリア料理のレストランです。イタリアのなかでも、トマムと同じ山岳地帯に位置するイタリアのピエモンテ州、そして海に面して海産物が豊富に水揚げされるリグーリア州の郷土料理を意識していると言います。
厨房を仕切るのは、じゃーん! 前述の武田 学シェフです。銀座「レカン」、「フォーシーズンズ丸の内東京」など東京の複数のレストランで研鑽を積み、生まれ故郷の北海道旭川市に戻り、「旭川グランドホテル」に就職。8年間料理長を務めました。そうです、出身はフレンチです。そんな折、同ホテルが、星野リゾート傘下となり、「OTTO SETTE TOMAMU」の開業を機に料理長に就任、現在に至ります。
シンプルだけど温かみのある空間、大きく切られた窓の向こうに広がるトマムの大自然、テーブル上に用意されている花束のように可憐なグリッシーニを見た瞬間、「ああ、帰ってきた!」と心がほぐれました。で、今回は、コースの紹介に入る前に、もうひとりご紹介させてください。サービスマネージャーの福本遥子さんです。今回の夏のコースは、福本さんが開発した、ノンアルコールペアリングとともにいただきました。
武田 学シェフ(左)と、サービスマネージャー福本遥子さん(右)
「はあ? ノンアルコールペアリング⁉」と思ったあなた。ええ、わかりますとも。私も同じ気持ちでしたよ。私も、基本的にはノンアルコールドリンクにまーったく興味がない人でして。緊急事態宣言中の禁酒法時代の切ない気持ちが蘇ります……。
でも、気づかないふりをしていたけれど、質の高いノンアルコールペアリングはとてつもない可能性を秘めていることを知ってはいました。ワインペアリングは、料理に合う既存のワインを探してくるわけで、それはそれですばらしいことなのですが、気合いが入った店のノンアルコールペアリングは、料理に合わせてゼロから創作しちゃいますからね~。この料理のために作られた、唯一無二のドリンクなのです。そりゃ楽しいですって。そんなわけで、今回は福本さんが作ったノンアルコールペアリングをいただくことにしました。もちろんワインもいただきましたけどね。えへ。
ノンアルコールペアリングをスタートするあたり、福本さんは、「料理の素材を洗い出し、ここにどういった要素が加わったら美味しくなるかを考えながら作っていきました」んですって。……期待は高まるばかりです。
では、8月31日まで提供中の夏のコースをご紹介していきましょう。蟹や雲丹といった海産物やアスパラガスなど、北海道の夏の恵みをふんだんに使った、全8品の構成です。
小前菜「イクラと牡丹海老のコルノ」
小前菜「イクラと牡丹海老のコルノ」から、ときめき指数はMAXでした(笑)。鮮度にこだわった、「イクラとサーモン」、「牡丹海老とマグロ」の2種類のコルノが、ジュエリーボックスを彷彿とさせるケースの中に鎮座しています。それも色とりどりの小さなお花たちに囲まれて! きゃあきゃあ言いながらスマホで写真を撮り始めると、スタッフの方が、「お花もすべて食べていただけますよ」と。え、ほんとに? それじゃあ、花をむしゃむしゃ食べる姿の撮影会でも開催しますかね(しました)。
こんなにたくさんの種類のエディフルフラワーを一度にいただいたのは初めてでした。花によって、これほど味が違うなんて! 楽しいなあ。エディフルフラワーの世界、奥が深そうです。エディフルフラワーは、武田さんが懇意にしている農家さんに作ってもらっていて、武田さん曰く「季節にもよりますが、常時5種類ほどは入荷できています」。次に伺った時にはまた別のお花がいただけそうです。
冷前菜「泡で包んだ蟹とフィノッキオの爽やかな香り」
次にやってきたのは、冷前菜「泡で包んだ蟹とフィノッキオの爽やかな香り」。登場した瞬間にノックアウトされました(笑)。フーディーの友人が、「美味しい料理は舌で楽しむ前に、先に目で楽しむもの」と言っていましたがまさにソレです。
大きな甲羅にはふわっとほぐした蟹の身がぎっしり。上には昆布風味の泡がのっています。そう来ましたか! で、手前にはフェンネル(フィノッキオ)にホワイトバルサミコを合わせたピューレがちょこん。フェンネル特有の甘い香りと磯の香りが華麗に融合し、鼻腔をかけぬけます。何よりうれしいのは、蟹のぎっしり感。思わず、幸せを噛み締めます。「喜んでいただけて良かったです。美味しいものを、たっぷり召し上がっていたただくのが私どものコンセプトですから」と武田さん。開店前には、キッチンスタッフだけでなく、フロアスタッフも一緒に、みんなで蟹をほじって準備するのだとか。ありがたや。堪能させていただきますね。
そして、福本さんのノンアルコールペアリングがまた秀逸だったのです。凍らせた昆布出汁に、北海道・余市のワイナリー「ドメーヌ タカヒコ」のぶどうリーフティーをかけたドリンクはうま味の塊(笑)。これ、もはやスープです。「最初はぶどうリーフティーそのものをご提供しようと思ったのですが、それだと料理に負けてしまうんです。それでもぶどうリーフティー自体のうま味を味わっていただきたく、それを強調するように昆布の出汁と合わせました」と、福本さん。昆布の味わい、そして、ぶどうリーフティーが持つ酸味は蟹酢的な役割も果たし、蟹のうま味を遥かなる高みへと押し上げていました。
ノンアルコールペアリング、すごいぞ。敵ながらあっぱれです(そもそも敵じゃない)。
雲丹とトマトのタヤリン
字面を見ただけでスキップしたくなるような「雲丹とトマトのタヤリン」は、「ぜひ温かいうちに食べてくださいね」という言葉と共に供されました。確かに、その言葉がなければ、ずっと愛でていたくなるような美しさです(笑)。
「OTTO SETTE TOMAMU」では、パスタ料理には、ピエモンテ州を代表するパスタ・タヤリンを使っています。北海道産の小麦で作っているそうで、3ミリ程度の細さですが、卵黄をたっぷり使用していることもあり、コシが強く、濃厚なソースに負けていません。甘みの強い小ぶりのフルーツトマトを低温でじっくりと加熱し、旨味を引き出してからトマトソースに仕上げています。これに、滑らかな舌触りと強い甘みをもつ旬の雲丹をたっぷりとトッピングします。トマトと雲丹がこれほどまでに合うとは! 濃厚×濃厚でありながら、瑞々しさも感じます。前回、伺った時、レストランスタッフのひとりが、「武田は雲丹の魔術師。日々、雲丹の可能性を追求しています」と言っていたことをふと思い出しました。全面的に同意します(笑)。
ノンアルコールペアリングは、ローズヒップにバジルの香りと風味を移し、炭酸を加えたドリンクでした。「ローズヒップの酸味に炭酸を加えることで、ソースの味わいを、軽やかに感じられるよう仕上げています。甘味と酸味がトマトのソースとよく合い、バジルの風味が加わることで料理全体の味わいが広がります」と福本さん。なるほど、料理との寄り添い感、すごいなあ。ほのかなバジルが、タヤリンの小麦の香りを盛り立てる絶妙な架け橋になっていました。
温前菜「アスパラガスのグラティナート」に対するノンアルコールペアリングは、甘酒にノンアルビールを加え、さらに柚子のエスプーマをトッピングしたもの(左)。「アスパラガスが主役ではありますが、それぞれの素材が引き立つように考えました。たとえば、バターにはコクがあり、発酵っぽいうま味のある甘酒を合わせています」(福本さん)。そして、魚料理「香草に隠れた鮮魚のヴァポーレ」に対するノンアルコールペアリングが、3種類の柑橘(グレープフルーツ、オレンジ、ライム)をコールドプレスし甘味と酸味を引き出したジュースに、おろしたての生姜を加えたもの(右)。生姜のうまみがスープにじんわり溶け込み、また油の甘みを際立たせる任務を完璧に遂行していました。
コースのメインは、柔らかな仔羊肉(北海道・士別のサフォーク)をローストし、藁の包み焼きにした「仔羊肉の藁包み焼き」です。かつてピエモンテの農家では、食材をこんな風に藁に包み、暖炉に入れて農作業に出かけていたのだとか。その藁包み焼きをアレンジした逸品です。低温でじっくりと火が入ることで、仔羊肉のミルキーな旨味が引き立つんですって。仔羊肉のジューシーな香りはもちろん、藁の香ばしさやローズマリーの爽やかな香りも悶絶もの。猛々しく、そして、精妙に焼き上げられていました。そんな仔羊の旨味を存分に感じられる骨付きの部位も取り分けてくれるのもうれしい限り。ここは、手づかみで、豪快にむしゃぶりつこうじゃありませんか!
ちなみに、ワインペアリングの内容が上記のボトルたち。メインの仔羊肉には、イタリアのワインの王様・バローロ! とびきりの華やかさと、力強い果実味を持つバローロで、仔羊のミルキーな味わいを大らかに包み込んでくれました。ワインペアリングも安定のセレクションです。
プリモドルチェ
祭りはまだまだ終わりません。プリモドルチェ(お口直し)には、リゾートで飼育する乳牛から搾ったトマム牛乳を使用したジェラートが用意されていました。これをいちごのソースやドライフルーツ、アマレットやコーヒーリキュールなどとトッピングして、イタリアの伝統的なデザートであるティラミス、カッサータ、パンナコッタのテイストに仕上げます。どれかひとつを選ぶのも良し、すべていただくのも良し。施設内のファームの製品を積極的にレストランに取り入れたいという思いと、イタリアの伝統的なお菓子を楽しんでほしいという思いが詰まった、素敵なプリモドルチェです。
じつは武田さん、3年ほど某有名パティスリーでお菓子づくりをしていた経験もあるとか。だからどの料理も繊細で、美しいのかと納得です。
メロンのズッパ・イングレーゼ
メインのドルチェは、「メロンのズッパ・イングレーゼ」。イタリアを代表する菓子のひとつ、ズッパ・イングレーゼをアレンジしたものです。リキュールやシロップを染み込ませたスポンジに、泡状に軽やかに仕上げたカスタード、甘口ワイン(ポルト酒)のジュレ、そして、主役の赤肉メロンを合わせたデザートは、武田さんが、「北海道の夏といえば、赤肉メロンです」というように、北海道の夏が炸裂していました。そして、ふと気づいたのです。この高揚感と、体の力がふっと抜けて心がほくれるようなやさしいおいしさ。これが、私が武田さんの料理が好きな理由かもしれないなって。
いやあ、今回もよく食べました。お腹も心もはちきれんばかりですが、すでに「秋のメニューも気になるなあ。今度はいつ行こうかしら」なんて考えている食いしん坊の自分を笑いながら客室へと戻ります。やっぱり楽しいな、「ローカルガストロノミー」って。家族や友人を連れてきて、「ね、美味しいでしょ」って自分の手柄のように自慢したい、そんな欲望ももたげてきました。
さあて、明日は遊ぶぞ~! 「星野リゾート トマム/星野リゾート リゾナーレトマム」施設&アクティビティー編はまた後日(近日公開予定)。

「OTTO SETTE TOMAMU」夏限定のディナーコース概要

  • 期間|2022年8月31日
  • 料金|全8品 1万5730円、ペアリング 8500円、ノンアルコールペアリング 5000円(いずれも税・サービス料込)
  • 開始時刻|18:00~19:30(最終入店)
  • 予約|公式サイト(https://www.snowtomamu.jp/ottosette/)にて前日17:30までに要予約
  • 対象|宿泊、日帰り客ともに利用可(7歳以上)
  • *2~6歳のお子さまは当レストラン利用者限定の無料の託児サービスを利用できます。
問い合わせ先

星野リゾート トマム
Tel.0167-58-1111(9:00〜20:00)
https://www.snowtomamu.jp/