連載|祐真朋樹・編集大魔王対談
FASHION / FEATURES
2019年12月3日

連載|祐真朋樹・編集大魔王対談

vol.40 アラスディア・ウィリスさん

今回のゲストは、英ライフスタイルマガジン『Wallpaper*(ウォールペーパー)』のパブリッシッング・ディレクターをはじめ、様々なブランドや企業のコンサルタントを経て、2013年「HUNTER(ハンター)」のクリエイティブ・ディレクターに就任したAlasdhair Willis(アラスディア・ウィリス)さん。デザイナーのStella McCartney(ステラ・マッカートニー)さんを妻に持つことでも知られています。ハンターにおける自身の役割をはじめ、ブランドのビジョンや打ち出す世界観についてお話をうかがいました。

Interview by SUKEZANE Tomoki|Photographs by MAEDA Akira|Text by ANDO Sara

過去をリスペクトしながら勇気を持って変化する

祐真朋樹(以下、祐真) 東京へはよくいらしているんですか?

アラスディア・ウィリスさん(以下、アラスディア) そこまでの頻度ではないかもしれませんが、わりとよく来ているほうだと思います。年に1回ぐらいでしょうか。今回、妻のステラと家族全員で来ようと話していたのですが、叶わなかったので、次回はそうするつもりです。

祐真 今回はお一人なんですね。

アラスディア そうなんです。2、3週間ほど前にステラが単独で来ていました。東京は素晴らしい街ですね。

祐真 好きな店など、東京で必ず行く場所があれば教えてください。

アラスディア 私は日本庭園が大好きなんです。今回は、いろいろな庭園を見て回ることを楽しんでいます。お店に関しては、先日オープンしたばかりの渋谷スクランブルスクエアに行きました。

祐真 フューチャリスティックですよね。

アラスディア 新しいコンセプトのお店がたくさん入っていて、とても興味深かったです。たくさん人がいて、賑わっていました。活気があるのはいいことですね。
祐真 あの辺りは夜になると映画の『ブレードランナー』のような光景になります。

アラスディア その通りですね。交通量も多いですし。スクランブルスクエアの屋上から街を見下ろしていたら、たくさんのビルが建設途中でした。

祐真 渋谷はものすごい勢いで変化していますが、どうご覧になっていますか?

アラスディア そうですね、渋谷だけでなく東京には常に変化を感じますし、たくさんのインスピレーションを得ています。私にとって、東京は成長と変化が激しい街です。来年はオリンピックもありますし、エネルギーレベルも高まっているように感じます。

祐真 エキサイティングですよね。

アラスディア 2012年のロンドンオリンピックが開催される直前の時と同じような感覚を覚えますね。地域の再開発が熱心に進められましたし、みんなのエネルギーが高まっていくのを当時も感じました。でも東京の場合は、それ以前に変化が多い街だと思います。ロンドンよりも定期的に変わりつづける街だと思いますし、ロンドンはあまり変化を感じにくい街という印象を受けますね。たとえば、ノッティングヒルなんてずっと同じですよね。

祐真 確かに、変わりませんね。

アラスディア そう、同じなんですよ。新しい開発があっても変わらなかったりして。

祐真 ショーディッチなんかもそうですよね。

アラスディア ショーディッチも15年ぐらい変わっていないですね。東京は再生や再開発がもっと活発に行われるのかもしれません。

祐真 変わることは重要ですよね。

アラスディア 私もそう思います。ワクワクします。まぁ、私はここで生活しているわけではないからかもしれませんが。

祐真 ハンターはどうですか?変化していますか?
アラスディア はい。ハンターは160年の歴史を持つ、とても古いブランドです。私がハンターに関わるようになった5、6年前ぐらいからかなり変わってきました。でも、それはブランドの伝統を尊重しながらの変化です。ハンターはお客様に対してとても強い感情的な繋がりを大切にしてきました。ブランドが前進していく中で、お客様とのエモーショナルなものを維持していくことが重要です。過去をリスペクトしながら、勇気を持って新しいことを押し進めて行かなければならないと思っています。私にとって、歴史の長い、ヘリテージのあるブランドに関わるということは、何を手元に残して、何を手放すのかということなんです。

祐真 大変な作業だと思います。

アラスディア そうですね。歴史やヘリテージがあれば、そこに必ず価値があるという思い込みも存在しますから。ですが、そこに付随している価値は、場合によっては正しい価値ではないかもしれない。それがあるために前進するための枷になっているかもしれません。ですから、勇気と洞察力を持って、新しい価値を生み出すために前に向かっていかなければならないのです。

祐真 その思い切った決断をする時は、何が基準になるのですか?

アラスディア いろんなものがあります。ハンターでの私の出発点は、私たちのお客様の生活に意味のある形で、どのような役割を果たすことができるか、ということでした。お客様の生活の中に、ハンターの価値を持って生み出された製品をどのように位置づけることができるか――それはただ単にプロダクトを作るということだけでなく、私たちが大切にする様々な価値を、きちんと熟考してお客様に提供するということになります。

祐真 マーケットの状況や、ブランドの売り上げなどいろいろとあると思いますが、そういったものとはまた別にご自身の私生活の中での気づきなどが、今おっしゃったような“ハンターの価値”に影響することはあるのでしょうか?

アラスディア 私が生きる上で大切にしている価値、もちろんその価値観を持って子ども達を育てているわけですが、できるだけ同じことをビジネスの中においてももたらそうとしています。会社として、企業の社会的責任に焦点を当てています。サステナビリティ(=持続性)においても同様です。私たちは持続性という意味で、特に3つの領域を重視しています。一つ目に社会的な責任、私たちが一緒に仕事をする人たちです。そして製品の持続性という意味で、250以上がビーガン製品となっています。最後に環境の持続性という点で、地球環境に配慮した生産方法を構築しています。このように、我々が行うすべての活動はこの3つのカテゴリーの価値観に合っているか確認しながら行わなければならないのです。これらの価値は私自身が強く信じているもので、世界中の何億人もの方達にも共感していただけているものであるからこそ、事業的にも意味のあることだということがおわかりいただけるはずだと信じています。
祐真 なるほど。もしかしてご自身はビーガンですか?

アラスディア ベジタリアンです。卵とチーズは食べますが、お肉とお魚は食べません。日本でベジタリアンとして生きるのは大変ですね。

祐真 そうですね。ところで、ブーツ型の熱気球を飛行させたプロジェクトがありましたが、すごく楽しいアイデアだと思いました。アラスディアさんが考えたんですか?

アラスディア はい。私がハンターに携わることになった時、グラストンベリー・フェスティバル(※イギリスで1970年から行われている大規模野外ロックフェスティバル)の上空に気球を飛ばして、そこからハンターのブーツをまき、地上にいる来場者にプレゼントしたいと思ったんです。残念ながら、危険だとのことで認められませんでしたが(笑)。

祐真 楽しそうだけど、確かに(笑)。アイデアはいいですね。

アラスディア そういうわけで、ずっと気球を作りたいと思っていたのが、ようやく昨年叶ったんです。アメリカのユタ州に位置するボンネビル・ソルトフラッツやハリウッドで気球を飛ばしました。今後ナイアガラの滝や、富士山の空にも飛ばす予定です。

祐真 素晴らしいです。気球を作るのは大変そうですが、設計士やアーティストに依頼したんですか?

アラスディア アイデアは私が考えて、気球専門家のところへ行きました。とても大掛かりで大変な作業でした。来年東京に持ってくる予定ですので、ぜひ一緒に乗りませんか?

祐真 楽しみです。フジロックフェスティバルのタイミングだと盛り上がりそうですね。
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