ART|清川あさみインタビュー 『銀河鉄道の夜』へと旅をする 前編
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2015年3月5日

ART|清川あさみインタビュー 『銀河鉄道の夜』へと旅をする 前編

ART|宮沢賢治の永遠の名作を最新作50点で彩る大人のための絵本

清川あさみ 銀河鉄道の夜を越えて── (前編)

これまで独特の世界観と手法から『幸せな王子』『人魚姫』など不朽の名作をモチーフにした絵本を発表してきたアーティスト、清川あさみ。彼女が今回選んだ作品は宮沢賢治の名作『銀河鉄道の夜』。アーティストとして、そして彼女が自分自身として向き合った『銀河鉄道の夜』とは一体どんな世界だったのだろう? 黄金色に輝く空のもと、彼女はその想いを語ってくれた。

文=オウプナーズ写真=鈴木健太

ファンタジーだけどリアル、そういうあいまいさが彼の作品の魅力

──今回シリーズ3作目ですが、なぜ『銀河鉄道の夜』だったんですか?

いまの時代どういったストーリーが求められているのだろう? という観点からいつも作品を選んでいます。『幸せの王子』の慈愛にはじまり『人魚姫』で恋愛、じゃあ次は? ってなったときに、どこが終わりでどこがスタートかわからない、境界線がないような『銀河鉄道の夜』の世界観ってとても“いま”っぽいなと思えたんです。

『銀河鉄道の夜』という死後の世界のストーリーには、誰もが人生のなかでかならず一度は立ち止まって考えさせられるようなテーマがたくさん詰まっていそうだなって感じたんです。

それってすごくいまっぽいと思い『銀河鉄道の夜』に決めたんですが、画を描くには本当はすごくむずかしい作品だと思うんです。だけど私、宮沢賢治さんが好きみたいなんです。

もしかしたら私、少し宮沢賢治さんと理解しあえたかも? って思います(笑)。というのも、今回すごく早く作れたんです。

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最初は『銀河鉄道の夜』なんて無理無理って言ってたんですよ、宇宙なんて描けないって。無理だろうと思いながらも、なんかすーっと降りてきて、迷いなく進んで、そしたらいつの間にか(笑)。

──制作にあたり原作は読み込まれました?

あまり固定観念をもちたくないのでいつもさらっと読むんです。だから今回も2回くらい読んで、それでもう頭のなかで画を作っていきました。知ってしまったり入り込んだりしてしまうと自分がわかった気になっちゃうから。

いつも真っ白でいたいんです、自分が日々の生活のなかで思うことと重なる画にしたいから。だから私の作品はファンタジーであるようで実際見たことがあるような風景が多かったりすると思います。

宮沢賢治ってあらためてすごいなって思うんです。まだひとが宇宙に行っていない時代なのに宇宙の話を書いたことに驚きます。実際これを読んで宇宙に行きたいと思った方もいるらしいんです。

この『銀河鉄道の夜』にはそのぐらい影響力があるんですよね。すごくファンタジーなんだけどリアルだなとも思う、そういうあいまいさが彼の作品の魅力だと思います。

──清川さんはどのシーンがお好きですか?

銀のススキのシーン。このシーンは一番最初に描いたんです。もしも自分がこの死の列車に乗ったら最初に見たい風景だからこれにしました。

──『銀河鉄道の夜』のどんなところを表現しようと思いました?

宮沢賢治の世界観です。彼の世界を現代で表現するならこんな感じ……って考えながら作りました。この情報量の多さや独特の世界観、そしてその斬新さをどうやって表現したらいいのかなって想像しながらとにかく作って、作って、それで気づいたら50枚にもなりました(笑)。

作っても作っても宮沢賢治の世界に追いつかなくて。だけど私の写真を縫う手法、それが今回すごく作品と合っていたなって思いました。

つるつるとした写真のなかに糸という温度が入ることで、普通のビジュアルではあらわせない温度感になっていると思うんです。その微妙な温度感こそ、私の表現したい宮沢賢治の世界のような気がしているんです。

現実とファンタジーのあいだであったり、すごく冷静なのか、それともすごく情熱的なのかというさまざまな思いをあいまいにしていく作業が宮沢賢治はすごくうまいなって思います。

ひとを混乱させるというか、ぐっと心をつかんでおいて結局なにが言いたかったかは読んでるひと次第っていうなげやりな感じもいいなって(笑)。最後がおしつけがましくなくて、「人生ってどんなものかこれ見て考えて!」みたいな感じもする。

それで結局この作品を仕上げることなくこの世からいなくなったりして、かっこ良すぎですよね(笑)。

──インタビュー後編へ

清川あさみ|KIYOKAWA Asami
http://www.asamikiyokawa.com
1979年淡路島生まれ。2001年より数々の糸や布を使ったアート作品、衣装、空間、イラストレーション等ジャンルを超えて幅ひろく作品を発表しつづけ、近年では木村カエラのCDジャケットやPARCOの夏の水着フェア「PARCO SWIM DRESS」のアートワーク等、アートディレクターとしても数多くの作品を手がける。雑誌「すばる」では本年より表紙アートワークを担当し、山崎ナオコーラ、一青窈、蜂飼耳らとのコラボレーションによる作品も発表。また、女性のコンプレックスを華麗な刺繍で表現した「complex」シリーズは、プリントした写真に直接刺繍をほどこす斬新な手法を用い、今夏開催された水戸芸術館や東京都庭園美術館での展覧会で発表をするなどアーティストとしてさらに目ざましい飛躍を遂げている。おもな著書に作品集『futo』(マドラ出版)、『美女採集』(INFAS)、『caico』(求龍堂)、絵本に『幸せな王子』、『人魚姫』(ともに小社刊)などがある

絵本シリーズ第3弾
『銀河鉄道の夜』

原作|宮沢賢治
絵|清川あさみ
価格|1800円
発行|リトルモア

           
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