連載|新しい価値観が生まれる都、バンガロールへ(後編)
LOUNGE / TRAVEL
2019年3月19日

連載|新しい価値観が生まれる都、バンガロールへ(後編)

カーストを超えるボーダーレス・シティが、
クリエイティビティを刺激

この10年で急速に発展した都市、バンガロール。カーストにとらわれない新しいジャンル、IT産業が創り出す活気と可能性に惹きつけられるように、アイデアと自立心、才能豊かなアントレプレナーたちが集まってくる。マリオット・ホテルはTEDとの共同イベントの地としてこの街を選んだのも、バンガロールが持つ無限の可能性を感じ取ってのことなのだろう。

Text by MAKIGUCHI June

スピーカーとの交流も。「TEDサロン」開催

新しい価値観を生む街、バンガロール。今年9月6日には、マリオット・ホテルとTEDとのパートナーシップによる「TEDサロン」が開かれた。アジア太平洋地域では、2度目の開催となる。(マリオット・ホテルとTEDとのパートナーシップについては前編へ)

会場となった「バンガロール・マリオット・ホテル・ホワイトフィールド」には、現地の起業家やビジネスパーソンをはじめ、マリオット・インターナショナルのロイヤリティプログラム「マリオット リワード」のロイヤリティ会員、国内外のメディア、インフルエンサー、ビジネススクールの学生など200 名を超える聴衆が参加した。

バンガロール

バンガロール

「TEDサロン」では毎回、開催地のトレンドや文化、伝統に見合ったテーマが掲げられるが、今回のテーマは、「Innovation in Women(女性活躍のためのイノベーション)」。インド、スリランカ、ベトナムから、社会に変革をもたらしている3 名の女性TED フェローが来場し、自らの個人的な体験も交えて講演を行った。

インド出身のズバイダ・バイ氏は、世界の女性健康問題に取り組み、特に母体の健康向上に力を入れている「Ayzh」のCEOだ。彼女は、貧しい地域で母体を危険にさらす出産の実態を知り、不衛生な環境で命を落とす女性たちを救い教育していきたいと、シンプルでありながら革新的な“クリーンバース・キット”(安全で清潔な出産用キット)を考案。途上国の貧困女性の安全な出産の促進に貢献している。

バンガロール

バンガロール

「スリランカ・ブルーホエール・プロジェクト」の創始者にして海洋生物学者のアシャ・デ・ボス氏は、クジラの保護活動家であり教育活動家でもある立場から、地球上の海洋の健全性維持に欠かせないクジラの保護と、環境保全の大切さについてユーモアを交えて熱弁。自らの仕事について何度も「男性の仕事では?」と言われたという経験を元に、「ステレオタイプの壁を越え、自分自身であることが大切。パッションがあれば、ジェンダーに関係なく活躍できる」と訴えた。

ベトナムや世界各地で持続可能な農業コミュニティを構築することをミッションとする団体「Fargreen」の共同創設者であり、自身も農業事業家でもあるチャン・チャン氏は、自国で行われている焼き畑農業が生む環境破壊を食い止めようと奔走。

発想の転換から、これまでは焼かれていた藁を使ってキノコを栽培する新しいスタイルの農業を地域に提案し、農家と取り組むサステイナブルな暮らしへの挑戦について語った。

また、通常のTEDカンファレンスでは開催されない、フェローたちと観客たちとの質疑応答セッションも「TEDサロン」の目玉のひとつ。今回も、スピーカーたちの活動に対して、「こんなことは可能か?」「私はこんなことをしているが、一緒に何かできないか」など、客席からも有意義なアイデアが飛び出し、参加者が互いにインスピレーションを刺激し合う素晴らしい機会となった。また講演後は、アフターパーティも開催され、参加者たちの交流も盛んに行われ、夜遅くまで賑わいが続いた。

カーストを超えるボーダーレス・シティが、
クリエイティビティを刺激(2)

“INDIAN DREAM”が叶う街

この10年で急速に発展した都市、バンガロール。その活気と街が持つ可能性に惹きつけられるように、多くの国際的企業が集まってくるが、アイデアと自立心、才能豊かなアントレプレナーたちも同様だ。

“INDIAN DREAM”を求めてこの地にやってくる者も少なくない。それは、この街がITというビジネスにおける新ジャンルで栄えたこととも関係がある。

インド社会は長きにわたり、ヒンドゥー教の身分制度であるカーストの影響を受けてきた。生まれながらに階級が定められ、職業、結婚などをはじめ、生活のなかで厳密な差別が行われてきた。現在では、カーストによる差別は法律で禁止されているものの、自らのカーストにそぐわない仕事をすることは極めて困難だ。才能に関わらず希望する職種に就ける人は限られているということなのだ。

製造業や農業、サービス業など、昔からある産業においては、伝統から抜け出しにくい。そこでカーストの呪縛から抜け出したい人が選んでいるのが、改宗すること。そして、伝統に縛られない新しい職業に就くことなのだ。

バンガロール

バンガロール

カーストがいまだに色濃く社会に影響を与えるインドにおいて、伝統に縛られないジャンルのひとつが、IT業界だ。低いカーストの出身者でも、才能があれば採用されるし、管理職や社長になる人も出てきている。自ら起業することも同様の利点を持つ。

カーストをはじめ、ジェンダー、学歴、そして年齢に関係なく、誰もが平等にチャンスを手にできること。それが、インドにとってどれほど自由で新しい可能性を秘めていることか。それが当然のように存在する街が、人々に希望を与えていることは言うまでもない。

そんなバンガロールの象徴、新しいインド躍進の旗手ともいえる存在が、スハス・ゴピナだ。1986年11月4日、バンガロール生まれの彼は、14歳のとき、本を読みながら独学でウェブサイトを作成。同年、ITベンチャーであるGlobals Inc.,を立ち上げた。その3年後には、17歳で同社CEOに就任。当時、世界最年少のCEOとしてその名を知られることとなった。

「はじめのうち、両親は何をやっているんだろうと懐疑的でした。会社を作ると言った時も、遊びだと思って相手にされませんでした。でも、そのうちアメリカからTV取材のクルーがやって来たことで、僕がやっていることをようやく認めてくれましたよ(笑)」。

インド国内はもちろん、欧州議会やダボス会議など海外でも若きリーダーとして注目を集め続けている彼だが、現在も意欲的に様々なプロジェクトに取り組んでいる。

現在は、インドでは珍しく紅茶ではなくコーヒー文化の濃いバンガロールでカフェ「THIRD WAVE COFFEE ROASTER」も展開。インドで生産された良質なコーヒー豆を国内外に普及させるために尽力している。

バンガロール

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「日本はカフェが多く、コーヒー文化も華やかだと聞いています。ぜひ、日本の方にもインドの豆を味わっていただけるよう、今からビジネスを計画中です」

さらに、「HAPPY EMI」という次世代のファイナンスに関するプラットフォーム運営会社のCEOも兼任。ピープルレス、ペーパーレスで、買い物しているその場で、即座にファイナンスを受けられるオンラインサービスを提供している。

インド躍進の陰には彼のような既成概念に縛られない起業家たちがいるのだ。あらゆるボーダーを軽やかに超えるスハスのような若者は、インドから次々に生まれることになりそうだ。なぜなら、インドは若者人口が著しく多い。2017年の統計によると人口は約13億4千万人で、その半数が25歳以下なのだ。(PopulationPyramid.netより) 

バンガロール

バンガロール

今後も人口は増え続け、あと10年程度で、現在の世界第2位から、中国を抜いて第1位に躍り出ると試算されている。年齢分布がさほど変わらないとすれば、半数以上が潜在的な労働人口となり、それが国の持つ大きな強みとなることは間違いない。

教育水準も上がり、カーストの呪縛から抜け出した若者たちが活躍を続けるインド。世界でますます存在感を強めるこの国の、エネルギーの源泉地となっているバンガロールは、インドのパワーを体感できる場所なのだ。

マリオット・ホテル&TED
マリオット・ホテルとTEDは、2016年からパートナーシップを結び、コラボレーションイベント「TEDサロン」を各地のマリオット・ホテルで開催している。今後も、ボストン、カイロ、アテネなどで開催を予定。世界各国のマリオット・ホテルでは(一部のホテルのみ)、客室にマリオットオリジナルTED コンテンツ「TED Talks」 をストリーミング配信。また、マリオット・ホテルでは、最新のInstagramストーリーシリーズ#MarriottHotelsxTEDFellowsも提供。 随時更新されるコンテンツを楽しむにはInstagramで@marriotthotelsをフォローするだけ。詳細は、http://marriott-hotels.marriott.com/marriott-hotels-tedへ。

           
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