3代目TTのハイパフォーマンスモデル「TTRS」に試乗|Audi
CAR / IMPRESSION
2017年4月18日

3代目TTのハイパフォーマンスモデル「TTRS」に試乗|Audi

Audi TTRS|アウディ TTRS

3代目TTのハイパフォーマンスモデル「TTRS」に試乗

昨年4月の北京モーターショーでヴェールを脱いだ、アウディ「TTRS」。2014年に登場した3代目「TT」をベースに、アウディスポーツが手を加えたハイパフォーマンスバージョンだ。つい先頃、日本でも導入が発表されたばかりのこの新型TTRSに、河村康彦氏がドイツで試乗。国内へのデリバリーよりひと足先にインプレッションを報告する。

Text by KAWAMURA Yasuhiko

稀有な2.5リッター直列5気筒の心臓

アウディ車きってのスポーツ性の持ち主で、このブランド全体のイメージリーダー、それが「R8」であることに、誰も異論はないはずだ。

既存スポーツカーの常識にとらわれることのないスタイリングに、アルミ スペース フレーム構造によるボディ骨格を筆頭とした、さまざまな先進のテクノロジー。さらには、世界トップレベルの際立った走行性能等々 ―― と、このモデルがアウディラインナップの頂点に立つにふさわしい内容を備えた1台であるのは間違いない。

一方で、5.2リッター10気筒というエンジンや、1.9メートルを大きく超えた全幅などのスペックに、「どうにも現実味がない」と感じる人も少なくないはず。そもそも、2,000万円台半ばからというプライスタグを知れば、大方の人のショッピングリストには“かすりもしない”というのが現実だろう。

s_003_Audi-TTRS

s_012_Audi-TTRS

こうして、アウディラインナップのなかにあっては例外的なまでにエクスクルーシブ性が強いR8に比べると、同じスポーツモデルでもグンと色濃い身の丈感を抱くことができるのが「TT」

ここに紹介するのは、2015年のフルモデルチェンジで3代目となった現行型をベースに、ハイパフォーマンスモデルを手がけるアウディ子会社の「アウディスポーツ」社が開発・生産を担当し、最高400psを発する専用の新エンジンの搭載などで「TT史上中で最強・最速」を謳う、「TTRS」だ。

7段DCTとの組み合わせで搭載された2.5リッター ターボの新心臓は、直列5気筒という稀有なデザイン。ちなみに、アウディ車に初めて直列5気筒エンジンが搭載されたのは1976年。以来、ラインナップから一度は姿を消しつつも復活を遂げ、今では独自のサウンドなどもセールスポイントとされるこの心臓こそが、まずはTTRSならではの大きな特徴になっている。

Audi TTRS|アウディ TTRS

3代目TTのハイパフォーマンスモデル「TTRS」に試乗 (2)

スーパーカーもかくやの加速力

全長が4.2メートルに満たないコンパクトなボディに、4WDシステムを採用しつつも1.5トンを割り込んだ重量。そこに、最高400psの出力を発する心臓を組み合わせたのだから、そんなモデルが遅いはずがない。いや、このモデルは“遅い”どころか、多くのスーパーカーを打ち負かしてしまうのではないか? と思えるほどの、とんでもない加速力を身に着けているのだ。

今回、本国ドイツでテストドライブを行ったのは、オープンボディゆえの補強が施された「TTRSロードスター」より90kg軽い、「TTRSクーペ」。このモデルでの0-100km/h加速タイムは、わずかに3.7秒と発表されている。

s_013_Audi-TTRS

s_014_Audi-TTRS

発進加速を示す指標として世界で多用されるこのデータを、ポルシェ「911」シリーズのそれと比べると、同じ3.7秒と数字を掲げるのは最新のツインターボ付き450osエンジンを搭載した「GTS」グレード。ちなみに、前出R8ですらベースグレードでは3.5秒という値なのだから、TTRSの凄まじいばかりの速さが理解をできるはずだ。

実際、フル加速のシーンは脱兎のごとき速さを実現させると同時に、なかなかにエンターテインメント性にも溢れていることが特徴。そう感じさせる主な“役者”は、3,800rpm付近から上で明確に耳に届く、ちょっと不協和音が混じったような独特の5気筒サウンド。これが、強く背中を押し続ける加速力とともに、スポーツ派ドライバーの気持ちを高揚させる“スパイス”の役目を果たしていることは間違いない。

ところで、「排気量が2,480ccで直列5気筒」というスペックは同様ながら、新しいTTRSに搭載されたエンジンは実は従来型のTTRS用とは別モノ。新型用ユニットは、アルミブロックや中空クランクシャフトなどの採用で26kgという大幅軽量化を実現させつつ、大型ターボチャージャーや直噴とポート噴射を併用したデュアルインジェクションの採用、内部抵抗の低減などで、燃費を向上させながら従来型比で60psのパワーアップを実現。

s_018_Audi-TTRS

前述のように、40年という歴史ある5気筒ユニットを、最新の技術を用いてアップデートさせたのが、新型TTRSに搭載される心臓部ということになるわけだ。

Audi TTRS|アウディ TTRS

3代目TTのハイパフォーマンスモデル「TTRS」に試乗 (3)

カジュアルなクーペからスポーツカーへ

“アウトバーンの国”ドイツでのテストドライブゆえ、当然オーバー200km/hゾーンのチェックも行うことになった。そうしたゾーンへと踏み込んでも加速感がなかなか衰えないことに、「さすがは400psエンジン」と、まずはその高い実力に感心。同時に、ホイールベースが約2.5メートルというコンパクトモデルでありつつも、つねに見事な直進性をキープしてくれる点に、アウディが得意とする4WDシステム“クワトロ”を採用する効果も実感した。

ちなみに、このモデルの最高速は250km/hという発表。ただし、これはリミッターで制御された自主規制値で、それを280km/hまで引き上げるオプションも用意されるのは、さすがはアウディスポーツの作品ならでは。

前述の爆発的なパワーやガッシリとしたブレーキのペダルタッチなどにサーキット走行時の適性の高さがイメージできたため、そうしたシチュエーションでのテストも行いたかったものの、残念ながら今回それは実現せず。街乗りシーンを筆頭に、ちょっとかためと感じられた乗り味は、サスペンションを大きな入力が襲うサーキット走行では、よりしっくりと感じられることになるかもしれない。

s_021_Audi-TTRS

s_024_Audi-TTRS

一方、制限速度が100km/hと高いドイツのワインディングロードなどで得られたハンドリングの感覚は、基本的には徹頭徹尾のオン ザ レールという印象。雨が降り出したなか、少々思い切ってアクセルONを行ったりしても、姿勢を乱してスタビリティコントロールが介入するような状況には遭遇しなかった。

こうして、最新のTTRSの内容を見ていくと、狙いどころはもはや、“ピュアなスポーツカー”であることは明らか。実は、1998年に初代モデルがローンチされたTTは、当初は「若いユーザーのための、カジュアルなクーペ」として企画されたもの。それが、純粋なスポーツカーへと“華麗なる転身”を遂げることができるか否かの試金石が、TTRS最大の存在意義であるのかも知れない。

080507_eac_spec
Audi TTRS Coupe|アウディ TTRS クーペ
ボディサイズ|全長 4,191 × 全幅 1,832 × 全高 1,344 mm
トレッド 前/後|1,564 / 1,543 mm
ホイールベース|2,505 mm
重量(EU)|1,440 kg
エンジン|2,480cc 直列5気筒DOHCターボ
ボア×ストローク|82.5 × 92.8 mm
圧縮比|10.0
最高出力|294 kW(400 ps)/ 5,850-7,000 rpm
最大トルク|480 Nm/ 1,700-5,850 rpm
トランスミッション|7段AT(Sトロニック)
駆動方式|4WD
最高速度|250 km/h(オプションで280km/h)
0-100km/h加速|3.7 秒
燃費(欧州値)|8.4 - 8.2 ℓ/100km(11.9-12.2km/ℓ)
CO2排出量|192 - 187 g/km
トランク容量|305 - 712 リッター
価格|962万円
※価格以外は欧州仕様値

           
Photo Gallery