ドンツェ・カドランのエナメル文字盤は、我が社の強みのひとつ|ULYSSE NARDIN
Watch & Jewelry
2016年12月22日

ドンツェ・カドランのエナメル文字盤は、我が社の強みのひとつ|ULYSSE NARDIN

ULYSSE NARDIN|ユリス・ナルダン

ユリス・ナルダンCEO パトリック・ホフマン氏インタビュー。

THE HOUR GLASS JAPAN創業20周年記念限定
「クラシコ マニュファクチュール」の製作に当たって(1)

ユリス・ナルダンが、東京・銀座の高級時計専門店「アワーグラス銀座店」の創業20周年を祝して特別限定モデルを製作した。それは他ならぬザ アワーグラス ジャパン代表 桃井 敦氏のリクエストが成就したモデルである。本稿は、その特別限定モデルが生まれるに至った経緯と、ユリス・ナルダンのこれからをホフマンCEOに問う内容だ。ユリス・ナルダンのブランド哲学とは、いかなるものか? このインタビューを通じて少しでも迫ることができたら幸いである。

Photographs by ENDO HiroshiText by TSUCHIDA Takashi(OPENERS)

ブランドの血潮、本物だけをユーザーに届ける

「これが、その特別限定モデルです」

ホフマンCEOの手の中にあるそれは、アワーグラス銀座店の煌びやかな室内光を優しく照り返し、どこまでも純白で、素朴で、高貴な印象を放っていた。「クラシコ マニュファクチュール 限定モデル」。この世にたった20本しか存在しない、クラシカルウォッチの極みである。

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グラン・フー エナメルダイヤル、シリシウム製ヒゲゼンマイ&脱進機を搭載する該当モデルは、すなわち伝統工芸技術による文字盤とハイテク素材の調速機構を特徴とする“新”と“旧”が融合したアイテムである。その人気モデルをベースに、桃井氏がさらにリクエストを加えたのだが、ここで語句解説を挿入する。

グラン・フーとは、ガラス釉薬を高温度で焼成したエナメル文字盤を指している。かつて高級時計文字盤の代名詞とまで言われたグラン・フー文字盤は、金属文字盤と異なり経年変化による日焼け変色を起こしにくい。その利点が高級とされる所以である。一方のシリシウム製ヒゲゼンマイは、シリコンのシートからイオンエッチングによって正確にゼンマイ形状を切り出せるようになって以降、高額モデルでの採用が進んでいる。金属バネでは不可欠だった潤滑油が不要となり、メンテナンス頻度を下げられる利点がある。そしてユリス・ナルダンは、このシリシウム素材を時計のムーブメントパーツに使用した革新者でもある。

はい、語句説明はここで終わりにして、話を先に進めていこう。桃井社長が具体的にリクエストしたのが、下記4点だ。針の形状、針の色、インデックスの色、そしてクレジットである。

・針の形状 リーフ針からメガネ針へ変更。
・針の色 ブルースチール加工を止め、ブラックに変更。
・インデックスの色 ローマ数字インデックスをブルーからブラックに変更
・クレジット 6時位置の文字盤外周に「Donzé」の銘を初めて表記

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Normal

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Special

クラシカル度合いをさらに強め、黒を貴重にしたモノトーンとすることで、精悍さを高める。それが桃井社長の狙いだろう。元となったモデルも素晴らしい。しかし今回のアワーグラス限定モデルは、ユリス・ナルダンらしさが一段と極まり、それでいて現代的なクールさも備えている。

さらにドンツェ・カドランの銘を入れたことは、時計通のツボを突きまくっているのだ。ドンツェ・カドランとは、世界一エナメル文字盤を得意としてきた文字盤製作工房の名称である。ユリス・ナルダンは以前からこの工房と密なる関係を築いてきたが、2011年に工房をブランドの傘下に収めた。その意味では、改めてドンツェの名を謳う必要はもはやない。しかし、この工房の華々しい功績を知るものにとっては、銘が入ることで喜びは格別なものとなる。

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「店舗限定を製作する場合に問題となり得るのは、ブランドのDNAが薄まってしまうリクエストをされることです。ただ桃井社長はとても経験豊富で、アワーグラスのお客さまも、私達のブランドの経緯をよく理解していただいているようです」(ホフマンCEO)

最近はますます、特別モデルの要望が高まっているそうだ。限られた本数しか存在しない希少性の高さが、ラグジュアリーの証と捉えられるのも無理はない。もちろん、そうした特別モデルばかりに注力するわけにはいかないとしながらも、ホフマンCEOは「できる限り、対応していきたい」と語る。逆に、小ロットの限定モデルをある程度、フットワーク軽く手掛けることができるのは、マニュファクチュールの強みである。そして製作現場との幸せな関係性が築けている証拠とも読める。

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ユリス・ナルダン「クラシコ マニュファクチュール」限定モデル
リファレンス|3203-136LE/EO-J
限定本数|20本(アワーグラス銀座店のみの取り扱い)
パワーリザーブ|約48時間
巻き上げ|自動巻き
ケース|ステンレススティール
ケース径|40mm
防水|30m(日常生活防水)
ケースバック|ネジ留め式オープンケースバック
ストラップ|ブラックアリゲーター
価格|110万円(税別)

Page02. CEOが自ら語る、ユリス・ナルダンの代えがたい魅力

ULYSSE NARDIN|ユリス・ナルダン

ユリス・ナルダンCEO パトリック・ホフマン氏インタビュー。

THE HOUR GLASS JAPAN創業20周年記念限定
「クラシコ マニュファクチュール」の製作に当たって(2)

CEOが自ら語る、ユリス・ナルダンの代えがたい魅力

パトリック・ホフマン氏は2011年にユリス・ナルダンCEOとなった。その後、ブランドをフランスの資本会社ケリンググループの傘下に入れ、企業体としての基盤を固めるとともに、マニュファクチュールとしての体制を盤石なものとした。結果、大手サプライヤーによる影響を受けることなく、今日の揺るぎない地位を取り戻している。

「スイス時計産業が、今後気をつけなければならないのは、ブランドが持つメッセージを薄めてしまわないことです。さまざまな方面に手を伸ばし、メッセージそのものが届きにくくなってしまうことは本末転倒です」(ホフマンCEO)

その点において、ユリス・ナルダンというブランドが放つストーリーは、すべからく本物であり、地に足がついている。たとえば、近日発表されたアメリカズカップの限定モデルも、アルテミス・レーシングとの関係性のもとに生まれたものだ。そしてユリス・ナルダンというブランドが海洋ジャンルとの結び付きを強く持ってきたからにほかならない。

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ダイバー クロノグラフ アルテミス レーシング
リファレンス|353-98LE-3/ARTEMIS
限定|250本
パワーリザーブ|約42 時間
巻き上げ|自動巻
ケース|ブルーラバーコーティングのステンレスチール
ケース径|45.8 mm
ストラップ|ブルーラバー
防水|200m
価格|131万円(税別予価)

「もうひとつ、グラン・フー文字盤に代表される伝統技法にユリス・ナルダンが力を注いでいるのは、それ自体がブランドの歴史の一部であるからです。35年前にクロワゾネの技法を復活させたのはユリス・ナルダンでした。スイスが誇るクラフツマンシップを絶やさないようにするためです」(ホフマンCEO)

その姿勢は、ケリンググループの一員となった現在でも変わることはなかった。むしろサスティナブルな事業育成をキーワードとするケリンググループにとって、ユリス・ナルダンの伝統技法を継承する姿勢は、グループの姿勢と完全に合致していたのだ。

次、これが最後の質問である。ホフマンCEOの考えるブランドのビジョンとは何か?

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「すべては継続していくことが大事だと思っています。ブランドが持つ神髄を伝え、強みが何なのかをメッセージとして発信していく。ドンツェ・カドラン工房による伝統に回帰した文字盤を作り続けることは、ブランドの強みのひとつだと思っています」(ホフマンCEO)

時計とは、機械。人間が肉眼で見ることができ、手作業によって組み立てられる最も細やかな機械……。そう話しはじめたホフマンCEOの表情は、童心に戻っているかのようだった。時計を好きな人間が、ブランドの哲学を愛し、理解して率いている。その幸せな関係性は、CEOの表情からも読み取れるはずである。

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