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2008.11.10

透明である未来に向けて──吉岡徳仁インタビュー

毎日デザイン賞、デザイン・マイアミのDesigner of the Yearといった錚々たる賞を総嘗めにし、作品はMoMA、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、ポンピドゥーセンターといった世界の名高いミュージアムのコレクションに──吉岡徳仁は現代のデザイン界でもっともきらめいている星といっていいだろう。だが、その輝かしいイメージとは裏腹に、吉岡徳仁本人はもの静かなひとだ。
代官山の閑静な住宅街にある彼の事務所で行われたインタビューに、彼はいつものようにまるで黒子に徹するかのような黒い服を着て、はにかんだように微笑みながら私たちの前にあらわれた。

インタビュー・文=MOZUKI
写真(ポートレイト)=岡村昌宏


形をもたないもの

──いま21_21 DESIGN SIGHTで、吉岡さんディレクションによる「セカンド・ネイチャー」という展覧会が行われていますが、吉岡さんご自身、「自然」や自然の強さといったものをどのようなときに感じますか?

最近自然の大きさを感じたのは、飛行機の窓から真白い雲の上を見たときです。上空で自然の美しさというものを再認識しました。

21_21 DESIGN SIGHTで 開催中の「セカンド・ネイチャー」展から。
Photo=Nacasa & Partners Inc.
──吉岡さんの作品は、白とか透明性を重要視しているように見受けられます。何か理由があるのでしょうか?

できるだけ未来は透明でありたい、という強い気持ちがあります。形をもたないもののほうがいいとさえ思います。

──形をもたない?

たとえば照明だったら「光」そのもの。もしかしたら椅子も、座ることができれば形がなくてもいいかもしれない。それが究極のデザインなのではないかと思います。つまり「形」ではなく、ひとの感覚に訴えるものこそが重要なのです。透明なイメージをよく用いる理由は、そこにあるかもしれません。

デザインとアートの境界線

──展覧会についてお聞きします。「CLOUDS」と名づけられた会場が非常に印象的でした。天井から吊るされた何百何千の白い糸が集積されて、遠近感覚がなくなるような不思議な空間だったのですが、あれはどんなところから発想したのでしょう?
21_21の建物は安藤忠雄さんが設計したのですが、安藤さんならではのシンプルな美しさを崩したらいけないということ、そして安藤さんの建物でなければできないものをつくりたいと思いました。
空間を壊さずに、感覚を変えるにはどうしたらいいか、と考えたとき、天井をつかったインスタレーションを思いついたのです。

──「CLOUDS」の下に置かれる作品については

結晶という自然の構造体でつくった椅子「ヴィーナス-結晶の椅子-」、そして結晶という自然の絵の具で描いたはじめての平面作品「月光」「運命」「未完成」。どれもすごくエネルギーの強いものです。

──デザインとアートの境界線ということはよくいわれていますが、「ヴィーナス」を見たとき、これは大きな境界を超えてしまったのではないか、という感じを受けました。量産できない、座ることのできない椅子をつくってしまった。デザイナーとしてとても危険な領域に踏み込んでしまったのではないかと思いましたが

「ヴィーナス」は、ちょっと痛いですが、ちゃんと座れるだけの強度はあります。ヴィーナス(女神)が水の中から徐々に姿を現し、私たちが想像できないような美しさと光を放つようなイメージからタイトルをつけました。
椅子であることに特別なこだわりはありませんでしたが、誰にとっても身近な椅子とすることで、世界中のひととコミュニケーションがはかれると考えたのです。

デザイナーとして環境問題に向き合うとき、再生素材でものをつくることだけがエコロジー、という考えではなく、むしろ自然や地球の美しさがどうやってできているのか、そういうことに目を向け、考える事で、自然を大切にする。そういった本質的な部分を、作品を通して提案ができればと。

今回の作品では、自然がつくる造形の美しさを見せたかった。ユニークな素材で何かを創ったというより、世のなかに対してそういうメッセージを投げかけたかったのです。

「ヴィーナス-結晶の椅子-」(左)と「月光」(右)

21世紀のデザイン・テーマ

──それでは、吉岡さんはデザイナーでしょうか、それともアーティストでしょうか?

一般的にいえばもちろんデザイナーですが、職業的な肩書きはあまり気にしていません。中途半端なのかもしれませんが、アーティストでもないデザイナーでもないところをさまよっている感じでしょうか。

でも、つきつめていうと、ひとに与える感覚全般をデザインする仕事をしているといえます。自分のつくった作品でたくさんのひとに喜んでもらうことが一番大事なことなのです。この前、海外のジャーナリストに、「あなたの作品はものすごく変わっているけど、ぜんぜん飽きない」といわれたときは、すごく嬉しかったですね。
──なぜ飽きないのでしょう?

切り口が新しいからだと思います。形の新しさではなく、アイディアの新しさがあるから。だからかもしれませんが、やりつくされている世界、もう新しいものはないだろうと思われている分野で自分の力を試すことが好きです。

──「セカンド・ネイチャー」の次のお仕事についてお聞かせください

来年3月末から東京国立博物館で開催される、カルティエの特別展の総合監修をさせていただきます。
前回エットーレ・ソットサスが監修したカルティエ コレクションの展覧会です。これもいままでの展覧会にはないような表現のしかたをしようと思っています。

──最後に、21世紀のデザインの大きなテーマとは、いったい何だと思いますか?

「自然」です。人間や自然というものにテクノロジーが入ることによって未来が生み出されていくと思っています。解明されていない多くの自然の事象のなかに、自分たち人間の生きていくヒントがあるような気がしています。
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