前回に引きつづき建築家ファーラム主催でINAX:GIZAにて行なわれた石上純也氏の講演会「自作について」から、こんかいはふたつの建築のプロジェクトとヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展についてのお話をおおくりします。
協力=建築家フォーラム、INAX出版
まとめ、文=加藤孝司
t project
次は住宅のプロジェクトです。僕は現代都市の中で住宅はどのような役割があるのだろうかと考えることがあります。
この住宅のクライアントは単身者です。その人が一日中家にいるということはあまりありません。平日は夜遅くに帰ってきて、朝早く出ていきます。家に戻らない日もあります。生活するために帰ってくるというよりは、むしろ、休むために、もしくは、リフレッシュするために帰ってくるという感じです。このような生活のスタイルは、現代において、特に東京において単身者の生活スタイルということでは、わりと普通なのではないかと思っています。しかし、そのような人たちに適した住宅というのは、今のところとても少ないのではないかと思うのです。そこで、いわゆる専用住宅というのではなく、別荘のような観点で都市住宅をつくることはできないかと考えました。
具体的には敷地の大半の部分を林のようにして、その林に包まれるような小さな家をつくります。そのなかで新しい関係性をつくりだし、何か空間をつくっていけないかと思っていました。
一階の部分はランドスケープと連続するように土や草木が部屋の中まで入ってきていて、庭とインテリアの境界をあいまいに連続させています。二階の部分はベッドルームになっていて、そこから大きなバルコニーが木々の間に浮遊するようにはね出しています。
低層の地域だったので、二階の床レベルで6mほどあるこの家はまわりの住宅より少し高く、二階の床で周りの軒くらいの高さになっています。なので、ベッドルームにのぼると視界がひらけ、突然だだっ広い草原が目の前に現れたかのような開放的な空間になります。バスルームなどは敷地内にはなれとして計画していて、すべての部屋の行き来は、必ず小さな林のなかを通過することになります。
lake project
次は、湖を計画するプロジェクトです。敷地にはもともと、ダムによって造られた人工湖がありました。現在もその水は工業用に使われており、稼働率によって水位が年間五メートルくらい変化します。湖の水位が安定しないせいもあり、周囲の環境はあまりきれいとはいえません。
ぼくの事務所にこのプロジェクトが依頼された段階では、湖のそばに公園と、湖の周りに散策路をつくるという計画だったのですが、先ほども申し上げたとおり、そもそも、湖の周辺環境があまりきれいではなかったので、設計条件を単に満たすようなやり方では効果的なものはつくれないと考えていました。
そのように考えていくうちに、湖そのものをあたらしくつくり変えることで、自然と新しい公園ができ上がってこないかと思うようになりました。
工業的な利用によって、刻々と変化していく人工的な水位の変化というものを、山とか自然のもつ季節の移り変わりなどのような変化になんとなく、人工的なものを馴染ませていくように、空間をつくっていけないかと思ったからです。
ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展について
ヴェネツィア・ビエンナーレは1年ごとにアート展と建築展を交互に行っていく国際展覧会です。今年は建築展なのですが、その日本館の展示を僕の事務所が担当することになります。
一般的に、建築の展覧会というと模型や図面、もしくはインスタレーションというようなかたちで、間接的に建築をあらわすということが多いと思います。もちろん、そのような展示を行うことで伝えられる情報というものもあるとは思うのですが、今回は、もう少し別なところで新しい建築を伝えられないかと思っていました。
会場にある具体性、もしくは、リアリティーをそのまま利用して新しい空間の可能性を探ること。実際の建築とそれに関係するドローイングを同時に展示するということを考えました。インスタレーションではなく、実際の建築物を計画することによって、具体的に新しい建築について考えられないかという感じです。
日本館は吉阪隆正さんによって設計(1956年)されており、ビエンナーレの会場であるジャルディーニ公園の中で唯一、屋外空間を持つパビリオンです。たとえば、ピロティであったり、エントランスに至るアプローチであったり、表庭であったり、裏庭だったり、そういう快適な屋外環境です。その特徴的な屋外空間をどのようにしたら活かせるかということをいろいろ考えていたのです。具体的には、大小の4つの温室を計画します。この4つの温室は建築であると同時に日本館の庭の中に新しく計画された庭です。建築をつくるということとランドスケープをつくるということを同じくらいのレベルで考えられないか。建築を計画するように風景を考えていき、同時に、風景をつくるように建築をつくっていけないか。そのようなことを思っていました。
それぞれの温室は、すごく華奢な柱と薄いガラスでつくられていて、計画される環境に応じて空間のプロポーションや柱の数などが異なります。そのプロポーションや周辺に合わせて、熱帯植物を温室の中に、生け花を生けるように配置していきます。植物の密度は、建築がつくりだす空間と植物がつくりだす空間、そして周囲の風景とが等価になるように、厳密にバランスを調整しながら決められます。また、温室どうしの関係性が既存のランドスケープの中に新しい空間をつくっていきます。空間をつくるとこと風景をつくることを限りなくあいまいにしていくことで、これまでにない建築の可能性を考えようとしています。
また、温室とはいっても設備的なものを利用して大々的に環境を変えていくのではなく、シャボン玉の膜のように薄いガラスに包まれることによって、そこの場所にある環境に少しゆらぎを与えて、ちょっと環境を変えます。そうすることで、植物の多様性は劇的にひろがっていきます。
草花の茎や木の幹のように華奢な柱とシャボン玉のように薄いガラスによって、既存の公園がつくり出す環境と建築が生み出す空間をどこまでも曖昧にしていけないかと思っています。