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![]() ![]() 坂本龍一 2009秋特集|もうこれ以上、サービスできない! スペシャルインタビュー(後編) Text by YOSHIMURA Eiichi
Photo by JAMANDFIX
ドビュッシーの人生の時系列に沿った選曲
──「スコラシリーズ」のドビュッシーは、クラシックではバッハにつづいての登場となります。 そうです。スコラにかんしては、好きな対象のものから、どんどん先にやろうっていう感じ。いつ死ぬかわからないし(笑)。 バッハやジャズもそうですけど、CD一枚にその真髄を入れるというのはとても難しい。そのひとの一生分の音楽を入れることはもちろんできない。選曲もどの演奏家や指揮者のものにするかをふくめてすごくむずかしい。でも、「これが本当にベストだ」というつもりで選んでます。 5年後ぐらいに見直すとまたどうかわからないけど、現時点では最高と思うものを選んでいるつもりです。このスコラのシリーズは、ほかのレコード会社が権利をもっている音源を借りて収録するということがほとんどで、これまでとても交渉が大変で、希望のものを入れるのがむずかしいこともあるんですけど、今回はほぼ希望した音源を借りることができて非常に満足しています。 ──今回の収録の肝となる部分を教えてください。 浅田 彰さんや小沼純一さんの意見も聞きつつ、ぼくの好みで選曲しているんですが、基本的にドビュッシーの人生の時系列に沿って選曲しています。ドビュッシーの音楽的な変化、進化・深化を追えるようにしている。 ドビュッシーは初期にステファヌ・マラルメなどの象徴派の詩人と仲良くして刺激を受けてたくさんの歌曲を書いてるんですね。だからまず初期は歌曲からはじめて、中期の重要な曲と思われるものを入れている。ドビュッシーはピアノ曲でいいものをたくさん書いているんですよ。ちょっとショパンと似ているというか、おそらくショパンに影響を受けたいい曲をたくさん書いている。そのあたりも落とせないし、いちばん重要な管弦楽曲も何曲か入れたい。そして後期。ソナタの名曲が3つあって、本当は全部入れたかったけれど、収録時間の関係でチェロ・ソナタだけ入れられなくて……。それでも、ドビュッシーの人生の変遷のなかで重要と思われる曲を選ぶというのが基準でした。 ──正攻法にドビュッシーの音楽をたどっていった? そう。オーソドックスといえばオーソドックスですが、おなじような重要な音源がふたつあるうち、どちらを選ぶかというときに、やはりぼくの好みが反映されています。名演も無数にあるわけで、ピエール・ブーレーズ指揮のニュー・フィルハーモニア管弦楽団の演奏のものが3つも並んでいますが、そのあたりはもう、完全にぼくの好みですね。 ピアニストのアルトゥーロ・ペネディッテイ・ミケランジェリの演奏も3曲入っていますが、それも同様。でも、今回、おもしろいのはドビュッシー自身がピアノを弾いている録音と、ロール・ピアノという紙のロールに穴を空けて演奏者の演奏を再現するという、いわばいまのMIDIのような演奏情報を記録できるものが当時あったんですが、ドビュッシー自身の演奏を記録したロール・ピアノによる演奏を録音した音源も使っています。 これがおもしろい。1862年の明治維新の前に生まれて1918年に亡くなったドビュッシーは、19世紀末に20世紀の音楽を準備したひと。そのドビュッシー自身が残した演奏を聴くと、本当にびっくりしますよ。ぼくも、いままで自分が知っていたピアノの弾き方、とくに拍(ビート)がほとんどないような自由な表現にびっくりしたんです。すごく自由な弾き方で、当時はみんなこんなに自由に弾いていたのか、あるいはドビュッシーがとくにそうだったのかはよくわからない。 ドビュッシーより13歳年下のラヴェルになると、これは現代の演奏に似てとてもきっちりした機能的なものになっているんです。ひとまわりぐらいの差であんなにもちがうものかっていうのが、はたして時代による差なのか、個性による差なのか、興味が尽きない。 読んで聴く、聴いて知ることの楽しみがあるスコラシリーズ
──スコラシリーズの特徴のひとつにブックレットがありますが、いまのようなお話がさらに詳しく語られていて、それを読みながらドビュッシーの音楽を聴くというのは楽しいですよね。 そう思いますよ。ブックレットでは、このCDでドビュッシーに興味が沸いたら、さらにこういうCDもあるし、こういう本もあるっていうリコメンドをしているので、さらに楽しくなると思います。ドビュッシーって、バイオグラフィを読むと、つきあっていた女性のうちふたりが自殺未遂してるんですよ。離婚も経験して、離婚して何年もたってから慰謝料として何十万フランを払えっていう裁判を起こされて負けて支払ったりもしてる(笑)。 作品から受けるイメージとはちがって、女性問題が大変なひとだった。それが問題となって友達たちが離れていっちゃったり(笑)。音楽や作品のイメージだと、無口で静かな音楽だけに向きあってたような印象を受けるでしょ。全然、そうじゃない。ほかの音楽家のコンサート批評を新聞や雑誌にもいっぱい書いていて、ものすごく辛辣な批判もある。皮肉たっぷりに韜晦(とうかい)した文章もおもしろい。 ──そのようなエピソードを知るほど、人物像がすごくふくらんでいきますね。 そう。あと、自国のフランスに対しても愛憎どちらの気持ちももっていたみたいで、ふだんはやたらにイギリスびいきだったりするんですね。自分の娘にはイギリス人の家庭教師をつけて英語を学ばせたり。でも、死ぬちょっと前に第一次世界大戦が勃発すると、今度は一転して愛国者になっちゃう。 ──教授は、そういうドビュッシーの人間像にも惹かれている? う〜ん、どうだろう(笑)。でも、フランスでは通貨がユーロに移行する前のフランの時代、紙幣にドビュッシーの肖像が入っていたぐらいフランスの国民的な英雄ですから、フランスではその人間像もふくめて身近な存在で愛されているんでしょうね。 ──ありがとうございました。 坂本龍一総合監修音楽全集スコラ第3弾『ドビュッシー』発売(全編)へ スタイリング|櫻井賢之 グルーミング|ノダ ノリタカ(MILD) 衣装協力│グレーポロシャツ3万1500円 (メゾン マルタン マルジェラ /ここのえ Tel. 03-5794-9931)commmons:schola vol.3 Ryuichi Sakamoto Selections:Debussy カーボンオフセットCD ブックレット(120P) 特殊パッケージ仕様(ハード・カバー) RZCM-45963 8925円
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