©テラウチマサト

2011.04.04
銀座リコーフォトギャラリー RING CUBE
写真展「記憶の桜」
写真家 テラウチマサト インタビュー
銀座4丁目交差点を眼下に見るリコーフォトギャラリー「RING CUBE」にて、4月10日(日)まで「記憶の桜」と題した写真展が開催されている。大和田良、五島健司、武井伸吾、丹地保堯、テラウチマサト、楢橋朝子、ハスイモトヒコ、三好耕三、森山大道……つねに注目を集める9人の写真家の作品が一堂に会した会場は、「記憶」をキーワードにしたさまざまな「桜」で埋め尽くされた。そのなかで、日本中の桜を撮りつづけているテラウチマサト氏の桜は、ほかとは少し趣が異なる雰囲気を醸し出している。
Text by YUKA KOBAYASHI
Photo by JAMANDFIX
いまひとつになろうとしている震災後の日本の姿のようだとも思います
──この写真展のタイトルは「桜の記憶」ではなく「記憶の桜」。意味深いですね。
「記憶」と「桜」というふたつの名詞は、非常に相性がいいと感じました。桜といえば、多くのひとが卒業式や入学式を思い浮かべるでしょう。桜そのものが、壮大な記憶を象徴していることからも、このふたつの言葉は合うと思うんです。そして、「花に嵐のたとえもあるぞ さよならだけが人生だ」という有名な訳詩(※1)にあるように、日本人は、桜の華やかさを楽しみながら、どこか物悲しさや切なさを感じる独特な感性をもっています。そこでこの写真展にも、華やかさと重々しい雰囲気をもつ作品が多く出展されるのではないかと想像していました。
──展示作品のなかでも、テラウチさんの雪景色にある桜はちょっと雰囲気がちがいますね。
これは今回最初に選んだ写真です。日本的思考、日本的美術思考を感じる桜が並ぶなら、ひとりくらい異なる印象のものを出してもいいんじゃないかなと思って。重くのしかかる雪を背負っているかのようなこの桜の木は、突然訪れた大雪という自然の驚異に屈することなく一生懸命に咲いていました。これは去年撮ったものですが、まるで、いまひとつになろうとしている震災後の日本の姿のようだとも思います。
──テラウチさんのほかの作品もまた、ちがう意味で異彩を放っていますが。
僕のほかの作品は、“ながらの桜”という感じを出したかった。たとえば、お花見でちょっと飲み過ぎてブルーシートに仰向けになったとき、頭上を見上げて「あぁ桜だぁ」と思うその瞬間や、お猪口に花びらがひらりと落ちるような、ふとした出来事。それは本当に短い一瞬ですが、ささやかな楽しい記憶です。ほかの写真家の作品に比べると、もしかしたら能天気に見えるかもしれない。でもそれもいいかなぁと思って。この写真展は今後海外にも巡回するかもしれないのですが、ひょっとすると、海外のひとが抱く桜のイメージはこちらかもしれないですよね。写真展に訪れた方からは「いちばん華やかで、テラウチさんの作品としては意外だった」と感想をいただきました。いままで日本情緒的な重々しい桜を撮ってきた僕のイメージからしたら、たしかに意外に感じるのかもしれません。
──日本中の桜を撮りつづけていますね。
ええ。“南国の桜に情緒はあるのか”と疑問を抱きながら訪れた沖縄では、亀甲墓(沖縄の代表的な墓の形式)の脇に、色濃い小さな花びらの彼岸桜が咲いているようすが、なんとも日本的情緒を感じさせる情景で驚きました。都内でも廃棄場のなかにある桜やビルに囲まれた一本など、撮りたいと思う桜が何本かあります。人工物と自然美という組み合わせの妙も魅力ですが、街中の、こんな場所でもキレイに咲いているんだぞ、というところをとらえたくて。5年ほど通っている福島県石川町の桜は今年は撮れないかもしれませんが、これから有名になってほしいですね。僕は仕事でこれから売り出すひとのポートレートを撮ることが多いのですが、桜もおなじ。いろいろな土地の桜を撮りそれが話題になり僕の手を離れるころ、僕はまた別の場所で桜を撮りはじめています。
──どんな思いを込めて桜を撮っているのですか?
思いや気持ちというより、僕は「写真的言語」をもちいています。言いたくても言いつくせない、饒舌な言葉をもってしても言葉にできないような情景を表現できるのが写真であり、そのことを「写真的言語」と僕は呼んでいるんです。美しく撮ることをカメラのメーカーさんが努力してくれるなら、写真の可能性を絞り込む術が写真的言語にあると思います。
たとえば、今回の「記憶の桜」というテーマにはふたつの軸があります。ひとつは散りゆく桜の切なさみたいなものを表現する軸、もうひとつの軸は、豊臣秀吉の「醍醐の花見(※2)」のような、豪華絢爛な楽しい桜を表現する軸。僕は後者を選んだ。僕はこの写真展のための作品のセレクトが、ほかの方々よりも遅くなってしまったんですが、ちょうど東北の地震があったころに作業をしていました。この震災が作品選びに影響しているとしたら、目の前の道がなくなった人びとに対して、うつむいてちゃダメだ、その先の道を作ろうと応援する気持ちが込められています。だから震災の支援活動をしながら、今年は情緒的ではなく、華やかで楽しい桜を撮っていきたいと考えています。
──著書で「写真」を「写心」と表現していますね。
芸術家は、「時流」じゃなくて「自流」で生きなければいけないと、以前、荒木経惟氏に教えていただいたことがあります。しかし、自流で生きることが大事とわかっていながら、自流を貫くための覚悟と強い決意がなかった時期があります。そのとき撮っていた桜は、情緒的でしたね。その切なさを撮ることが心地よかったし、“ちょっとカッコイイかも”という気分だった(笑)。情緒的に桜をとらえるほうが、表現しやすいという点もあるのでしょう。
つねに元気でいることは、辛く大変なことです。とくにいまは、こんな非常時になんでこんなハシャいだ写真を撮るのと言われるかもしれない。でもいまの僕は、悲惨な現実に嘆き悲しむ段階を乗り越えて、もうちょっと先を考えるところにきているんです。イチロー選手が毎年200本安打で3割後半の打率を維持しつづけているのとおなじように、僕の作品も打率3割はキープしたい。だから少しずつアベレージを上げ、その繰り返しでステップアップしていきたいと思っています。桜も、一昨年撮ったものより去年のほうが好きだし、去年よりも今年のほうがきっといい出来だと思っています。
※1 『勧酒(かんしゅ)』唐の時代後期の詩人、于 武陵(う ぶりょう)による五言絶句。井伏鱒二の訳詩集『厄除け詩集』内に収録されたこの訳詩がつとに有名。
※2 慶長3年3月に京都の醍醐寺にておこなわれた花見。豊臣秀吉が、豊臣秀頼、北政所、淀殿ら近親の者をはじめ約1300名を従えて盛大に催した。
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テラウチマサト|TERAUCHI Masato
写真家・富山県出身。出版社を経て91年に独立。屋久島など自身のワークスタイルでもある島の写真展は開催のたびに成功を収め、海外からも高い評価を得ている。ポートレートでは6000人以上の著名人を撮影。写真家としての活動以外にも、「PHaT PHOTO」の編集長兼発行人、2006年より開催されている参加型写真展「御苗場(ONAEBA)」のプロデューサーや、独自の写真による映像表現と企業や商品、および、地方自治体の魅力を伝えるブランドプロデューサーとしても活躍中。
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写真展「記憶の桜」
【出展写真家】大和田良、五島健司、武井伸吾、丹地保堯、テラウチマサト、楢橋朝子、ハスイモトヒコ、三好耕三、森山大道(五十音順)
場所|リコーフォトギャラリーRING CUBE
東京都中央区銀座5-7-2 三愛ドリームセンター(受付9階)RING CUBE ギャラリーゾーン
日時|〜4月10日(日)11:00〜20:00 ※火曜日定休 最終日は〜17:00
※入場無料
RING CUBE
Tel.03-3289-1521
http://www.ricoh.co.jp/dc/ringcube