Photo by Kenshu Shintsubo
2009.10.28
INTERVEW|ATAK渋谷慶一郎 初のピアノソロコンサートツアー
for maria concert version Keiichiro Shibuya playing piano solo tour 2009
11月1日(日)より渋谷慶一郎(ATAK)、全4公演からなる初のピアノソロコンサートツアーがスタートする。初日の京都公演ではビジュアルアーティストの高谷史郎とのコラボレーションもおこなわれる。今回のツアー、そして“for maria”を冠するプロジェクトについて聞いた。
Text by OPENERS
Photo by Kenshu Shintsubo
シンプルでフォーカスがはっきりしているアーティストと仕事がしたい
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──今回のツアーはアルバム制作中にはもう決まっていたんですか?
いや、まったく決まってなかったです。アルバムを制作しているときはとにかく作らなきゃいけないと思っていて、ほかのことは考えていなかったんだけど、それが完成したときに思いついたのがYCAMで10月に発表したインスタレーションバージョンと、これからはじまるツアー、そしてポップミュージック化だったんです。
あたりまえだけど電子音楽をやっていると電子音楽ファンが増えるし、アコースティックをやると今までのファンも聴くけどそれ以外のひとも聴きますよね。ここしばらくある枠内のリアクションに対して飽きてきていて、もうちょっと距離を置いた意見とか反応とかを求めていたんです。結局電子音楽ファンも僕と同時に年をとっているわけで(笑)、若いリスナーがあまり育っていない。だから10代や20代前半くらいまでの若いリスナーの反応をみたいと思ったんです。それが必要だということはマリアともよく話し合っていました。
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──京都の公演ではビジュアルアーティストの高谷史郎さんとコラボレーションされるそうですね。
去年の7月かな? マリアが亡くなった直後にタワーレコード主催のトークイベントがあって、まだそのときはかなり具合が悪い状況だったんですがゲストで出演して、僕のピアノと高谷さんの映像のコラボレーションを1曲だけやったんです。その時点で僕がピアノのアルバムを作ることを知っているひとは本当に少なくて、“どうやって?”というところもまだ決まってなかった時期でした。あの日高谷さんと共演した感じが良かったんです。
ちょっと話はずれますが、“ピアノのアルバムを作ろう”っていうのと“ピアノで活動しよう”っていうのはちょっと別の次元で、このアルバムは“for maria”ってタイトルそのままで、究極的には彼女のためだけに作っている。ピアノでの活動をスタートさせたのは、あの日の共演で自分がピアノで活動するというイメージができた、ということもあったんです。なのであのときは1曲だったけど今度は一晩通してやってみたいなと思ったんです。
──なるほど、ひさしぶりの共演は楽しみですね。
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もともと僕は高谷さんの映像が好きで、それは多分エフェクトっていう印象がないことが大きいんです。エフェクトって結局は化粧でしょ? 音楽でも一番ダメなのはエフェクトに頼った音楽で、なんでもそうですよね、化粧に頼っている女の子とか(笑)、飽きるというか、賞味期限は短いと思うんです。
映像アーティストと言われるひとでも、ほとんどはエフェクトの組み合わせに過ぎないことが多い。僕はそれをどうしても受けつけないし、僕自身音楽をつくるときにエフェクトをまったく使わないから、合う映像ってすごく少ないんです。
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簡単に言うと、VJみたいなことに興味がないんですよ。VJっていうのは90パーセント以上が音楽のビートに合わせて映像を出したりするサービス業になってしまっている。それは表現として成立していないでしょう? あたりまえですが。そういうのと一緒にやるのはすごくむずかしい、というか無理なんです。僕はシンプルでフォーカスがはっきりしているアーティストと仕事がしたいです。
──もうすでに具体的な内容も決まっているんですか?
じつはお互いに忙しくて最近まで話せていなかったんですが、最近やっと話せました(笑)。タワーレコードで1曲やった時は打ち合わせしなくて、弾く曲のMP3を送っただけだったんです。ただ僕はコラボレーションって結局それで成立するものもあると思っているんです。高谷さんはダムタイプではミリsecまで完璧に合わせる方法だし、僕もCDとかDVDの編集のさいはおなじようにやっているけど、そうじゃないやりかたもある。それぞれが自律的に表現し、舞台のうえで同時にちがう時間が進行していくというのは相手によっては可能です。というか今回の場合、完全にピアノソロによる演奏だからそのほうがいいと思います。なのであまり心配はしていません。
──『ATAK015 for maria』の音は綿密に作り上げられていますが、コンサートではどのように再現するんですか?
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今年の「ATAK NIGHT 04」の京都というのは伝説の一夜と言われていて(笑)、京都はツアーのなかでも一番会場が小さくて古いクラブだったんですが、一番いい音だったんです。
というのも、サイズに対してスピーカーの規模と数が充分だったことと、そのとき音響を担当してくださったダムタイプの音響エンジニアの福原吉久さんという方のエンジニアリングが音圧も解像度も高く、すばらしかったんです。僕のライブの最初のいち音を出したときに、スピーカーの前にいたひとが音圧で後ろにふっ飛んだという(笑)。
今回の京都公演ではその福原さんが入って音響を担当してくれるので、非常にクリアで透明度の高い音になると思います。これは想像なんですけど、どこまでが音でどこまでが映像、というか光なのかわからない、という感覚になる気がしています。
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この4公演は自分にとってすごく大きい転換期になる気はしています
──“for maria”を冠した企画の今後の広がりについてお聞かせください。
先日、山口県でおこなわれた「for maria installation version」は、アルバムのサウンドデータすべてを解体しつづけることによって、あたらしい音響と音楽が生成されつづけるという作品なんです。床に埋め込まれた5つのスピーカー、その5チャンネルから『ATAK015 for maria』のある部分をちがうスピードで再生したものであったり、ある部分の繰り返しだったり、変形され繰り返されて重ねられてという音が5つのスピーカーから同時に、吹き抜けの上空に向かって生成されつづけていて、アルバム一枚が解体されてちがうものに生まれ変わるような音の環境ができているんです。
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mariaのことを考えて作るというのは、もちろん作るのも聴くのもいまでもすごく辛いことではあるんです。
でも“なるほど、こういうことか”と思ったのは、「for maria Installation version」や「for maria concert version」というようにプロジェクトが生まれると、その打ち合わせやメールの会話のなかで“for maria”って言うでしょ? “maria”という言葉を口にすることが多くなるんです。そうすると彼女の名前がいまでも生きている、というか現在進行形な感じがして、完全に過去のものとしてつぶやくだけの言葉になっていなくて、結果的にそれは僕にとってすごく大きいことなんです。
そもそもこのアルバムを作ろうと思ったのは、ベートーベンの「for Elise(エリーゼのために)」という曲があるじゃないですか、その“エリーゼ”というのはベートーベンの彼女なのか妹なのか奥さんなのかわからない、でもあの曲の音はみんな知っているでしょう?
そんな風に『ATAK015 for maria』というアルバムがたくさんのひとに聴いてもらえれば“for maria”という言葉自体が生きるから、“maria”という言葉は発音される。
その“maria”っていうのは、なにかはわからないけど、とにかく『for maria』っていうアルバムあるよね、ということでいいと思うんです。
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Photo by Kenshu Shintsubo
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それは自分にとってもそうで、「for maria」というプロジェクトがいくつも自分の周りにあることで、彼女はもういないけど、彼女の破片みたいなものは自分の周りにある、それは一緒に生きているという感じがするんです。
──「for maria concert version Keiichiro Shibuya playing piano solo tour 2009」についてお聞かせください。
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Photo by Kenshu Shintsubo
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僕にとっては大きな区切りになると思います。
ちょっと抽象的な話になるけど、僕のなかにすごく前からあるイメージがあって、それは透明な崖が自分のはるか前方にあり、その突端は直角に曲がっていてそこから先はなにもないんです。
その直角に曲がっているカーブにある音に近づきたいという気持ちはすごくあります。自分が生きているあいだに届くかはわからないけど。それで、今まではその先になにかがあるのかな? という感じだったんですが、最近そのカーブの先にある音のイメージが僕のなかに具体的にあるんです。
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それがみえたのは今回のアルバムが完成したことが大きいと思う。その彼岸の音みたいなものは、直線コースで単にロジカルにあたらしい音の生成方法とか構造とかでたどり着けるなんていう受験勉強みたいな話ではないんです。あたらしいとかおもしろいと自分が感じるものをこれから作るには自分自身のキャパシティがもっと必要だなって感じていて、いろいろやっていったときに、気がついたらそこにたどり着くんじゃないかって気がしてるんです。このアルバムは大きな区切りだし、今回のコンサートも実際に人前で弾くっていうのは全然ちがうことだから、この4公演は自分にとってすごく大きい転換期になる気はしています。
──今後はどのような活動スタイルになっていきそうですか?
アコースティックもコンピューターも両方やっていくと思います。ただ、ピアノを弾くときはピアノだけにしたいっていうのは僕の今の気持ちで、今回のツアーでもラップトップはなしで、目の前の鍵盤だけに集中したい。最近、練習していても集中し過ぎて倒れちゃうことがある(笑)。だから今の僕のキャパシティではピアノとコンピューターを完全にわけたい。ただ最近自分が今後どうなっていくか予想が全然つかなくて(笑)、一週間先の気持ちもわからない。楽しいけど大変、でも昔から大変で楽しいことが好きだからいいのですが。
「目標にする音楽家はいますか?」という質問をときどき受けるのですが、これまで「いないです」って答えてたんです。でも最近思い出したんですが、高校生くらいのときにSteve ReichとBrian Enoを合わせたようなアーティストになれたらいいなって思っていたんです、まぁ贅たくなんだけど(笑)。でも最近は、John Cageのコラボレーターで電子音楽つくったりピアノ弾いたりしていたDavid Tudorというひとがいたんですが、彼とBurt Bacharachを合わせたような人生がいいなと思っています。これも贅たくな話なんですけどね(笑)。
──ありがとうございました。
for maria concert version Keiichiro Shibuya playing piano solo tour 2009
2009年11月1日(日)
開場|18:00 開演|19:00
会場|京都芸術センター
京都市中京区室町通蛸薬師下る山伏山町546-2
前売り|3000円 当日|3500円(全席自由)
http://atak.jp/reservation
ローソンチケット http://l-tike.com Lコード 56178
e+ http://eplus.jp
出演|渋谷慶一郎 (Piano)、高谷史郎 (visuals)
主催|ATAK、dumb type office
共催|京都芸術センター
京都芸術センター
Tel. 075-213-1000
dumb type office
Tel. 075-812-4925
rst@dumbtype.com
ATAK
info@atak.jp
『 ATAK015 for maria 』
http://www.youtube.com/watch?v=dgnCUxpsNKM
for maria istallation version
http://artscape.jp/report/curator/1209904_1995.html